「実技総合成績出ました」
その一言と共にスクリーンに映し出されたのは無数の受験生の名前と数字。先の実技試験にて仮想ヴィランのロボットを行動不能にした事による点数ともう一つ、"レスキュー"の項目が設けられている。
そう。説明会にもなかった評価項目。それこそが
昨今のヒーローが最も注目を浴びるのはヴィラン退治の瞬間。それこそ
公共の場で特別に個性の使用を認められている、即ちある種の特権を持つ彼らは災害現場等においても活動する必要がある。
例え数百数千ものヴィランを打ち倒せようとも、災害現場で人を救う事はできませんでは話にならない。
それ故の救助活動ポイント。それも数をこなせばいいというものではなく、一つ一つの行動を審査された上で付与されるのだ。
これらの事情を踏まえた上で実技試験の成績を見てみると、変わった結果となった人物が二名存在している。
「救助活動ポイント0で1位とはなあ!」
「後半になると疲弊して鈍る奴が多かったのに、最初から最後までへばることなく迎撃し続けていたな」
「ありゃそうとうタフだな。個性の練度も高い」
「対照的にヴィランポイント0で
「アレに立ち向かう受験生は時々見かけるが……まさかぶっ飛ばしちゃうとはね」
「久しぶりに見たな! 思わずYEAH──!って声上げちまった!」
片や仮想ヴィランとの戦闘のみで77点。片や仮想ヴィランに一撃を入れただけで救助活動ポイント60点。こんなにも分かりやすく正反対な受験生もそうそういないだろう。
圧倒的な戦闘力を賞賛される1位に対し、8位の受験生には色々と疑問が尽きない。最後の一撃までの態度や個性の反動、そして反動に納得してしまうだけの超パワー。
実技試験が終わった後、あまりの痛みに倒れ伏したまましばらく動けずにいた姿をよく覚えている。
すると連鎖的にもう一人、話題に上がる受験生が出てくる。
「……で、その反動を治した
「何したんだコイツ?」
「分からん。リカバリーガールが来た時には既に治療が終わっていたらしい」
「個性は……【魔法】? もうちょっと情報ないのか?」
ヴィランポイント37点、救助活動ポイント38点。合計75点の記録を出した受験生、森岸詠士だ。
ある意味、今回の実技試験において最も物議を醸した人物でもある。
その理由は救助活動ポイントの審査。手段は不明だが重傷といっていい様相だった8位の受験生、緑谷出久の負傷をその場で完全に治療してしまった。
おまけに試験終了後には他の受験生も治療し始める始末。これら全てを評価すると歴代受験生の中でもブッチギリの超高得点になってしまう。
これの何がマズイのかというと、今回の事例を認めてしまえば『戦闘力はなくても治癒能力さえあれば雄英に合格できる』という認識になりかねないのだ。
だからといってそれを評価に含まないとなれば、今度は
まだポイントを獲得できていない少年に助けられたことに負い目を感じ、点数を分けてあげて欲しいと頼み込んできたのだ。その健気さに心打たれた審査員によって与えられた45点の救助活動ポイントも帳消しにしなければならなくなる。
そこで間をとって『緑谷出久への治療行為までを救助活動ポイントの評価対象とする』という結論に落ち着いた。
これは森岸詠士が試験終了後の治療行為による救助活動ポイントを含めずとも合格ラインにいるから、という理由によるもの。
「……万が一、彼が納得してくれなかった場合は私が責任を取るのさ。首席合格という功績をこちらの都合で剥奪したことになるのだからね」
「校長……」
「彼の合格通知は私が担当しよう。私には一から十まで説明する義務がある」
たった一人の採点にここまで頭を悩ませる日が来るとは思いもしなかった。一度実技試験のシステムを見直す必要があるかもしれない、と誰もが覚悟を決めて成績の確認に戻った。
◇
『──以上。こちらの都合で君の成績を調整したこと、首席合格を奪ったこと……改めて深くお詫び申し上げます』
「…………お、おぅ」
そんなこと言われましても……知らんがな以上の返答を持ち合わせていないんですが。
俺何だと思われてるの? 別に気にしてませんよ? こう言っちゃなんだが、実技試験で首席合格だったからどうこうとかないでしょ?
……あったとしても余程デカい影響でもない限り気にしないからいいんだけどなあ。これ手紙かメールで気にしてませんよーって送った方がいいか?
なんてどうでもいい事を考えていると、隣から肩を叩かれた。何ぞやと視線を向ければ響香ちゃん。
「2位って凄いじゃん! あんなに自信なさそうだったのに!」
「あー……うん」
「……不満なの?」
「不満というかなんというか……」
ああ、2位だったこと自体は素直に嬉しい。嬉しいんだけどなんていうか……想定外の形での2位だから手放しで喜べないというか。
俺の憧れたヒーロー像はヴィラン退治を主とした典型的な戦闘力重視。それこそヒーロービルボードチャートのトップランカー達のようなヒーローだ。
「なのに『バッファーとしてサイドキックやらない?』どころか『お前ヒーラー適正あるよ!うちにこない?』とか言われるのはちょっと……」
「うーん……分かるような分からないような……」
「……響香風に言うとアコギ弾きたいって言ってんのに『エレキはどう?』どころか『ベースやらない?』って誘われた感じ」
「ああ……それは何か違うわ」
伝わるんかい。伝わったんならいいけども。
まあどういう形であれ合格を勝ち取ったのは確かだ。約12,000人のライバルを蹴落として2位に輝いた。これだけでも充分喜ばしい。
勿論響香も合格。これで俺か響香のどっちかだけ受かってたら気まずいなんてものじゃなかったが、幸いそんなことにはならなかった。
さあ、四月から憧れの雄英生としての生活が始まるぜ!
「「「個性把握テストォ!!?」」」
何か思ってたんとちゃう。
あの実技試験の時に怪我してた女子が「入学式は!? ガイダンスは!?」と自称担任の相澤消太先生(仮)に詰め寄っているが、その返答は「ヒーローになるならそんな悠長な行事出てる暇はないよ」とにべも無い。
朝家を出る時にあんなにはしゃいでいた制服も今は体操服に着替えており、視線だけを響香に向けて見れば『ヤバくね?』と目だけで訴えてくる。俺もそう思う。
それから色々と語っていたが、要はこれから『個性を使用していい体力テスト』をするらしい。い、いいんですか……?
「爆豪。お前中学の時ボール投げいくつだった」
「? 67メートル」
「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」
「んじゃ、まあ……」
デモンストレーションとばかりに爆発頭の男子にボールが手渡された。でも実際どうなんだろうな? 個性によっては全然記録が変わらない人だっているんじゃな───
「死ねェ!!!」
………………死ね? 死ねって言った?
つか何の個性だアイツ。よく分からんけど手元で爆発が起きてたぞ。それでよく狙った方向にぶっ飛ばせたな? 実は不良に見せかけただけの天才クンだったりする??
その記録はなんと705.2メートル。中学の時で67って言ってたから10倍以上の記録だ。なるほど? そりゃ先生も文部科学省の愚痴が出るわな。これだけの変化は無視して良いものじゃなさすぎる。
「700ってマジかよ!」
「何だこれ! スゲー
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
「…………面白そう、か」
あ、やべ。何か先生の地雷踏んだっぽいぞ。
「ヒーローになる為の三年間……そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
「よし、トータル成績最下位のものは見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
は?
「「「はあああああ!!?」」」
ウッソだろおい!?
いや待て。俺の個性なら少なくとも全部最下位になる事はまずないはず! 体力テストだろ? だったら最低限【バイキルト】と【ピオラ】があればなんとかなる! ……はず。
問題は響香なんだけど……うわあもう顔真っ青じゃん。響香の個性どこで何にどう使えばいいか想像もつかないもんな。
「……バフ、いる?」
「…………いや、いい。バレたらそれこそ除籍されるかもだし」
「おおう……否定できねぇ……」
何で初日から除籍の危機に遭わなきゃいけないんだ。おのれ雄英め、それがお前達のやり方か。*1
ええいちくしょうめ。やってやらァ!
──以下ダイジェストでお送りします。
第1種目:50m走
『4秒02』
「はっや!」
「え? 普通に走ってあれなん?」
「アイツ個性使ったか?」
「アレ? 前はもうちょっと速くなかった?」
「流石に最初から【ピオラ】二重はキツイし……」
第2種目:握力
「104kg……まあそんなもんか」
「いや十分スゲーよ!?」
「でもほらあっち」
「540kg!? アンタゴリラか! いやタコ!?」
「タコって……エロいよね」
「…………?」
「な?」
「評価が相対的だからだろ! お前もスゲーって!」
第3種目:立ち幅跳び
「くっそそんなに変わんねェ!」
「結構伸びたと思うよ?」
第4種目:反復横跳び
「ふんふんふんふんふんふん!」
「おお……速いけど地味だ……」
第5種目:ボール投げ
「46メートル」
……ずっと触れないようにしていたが、そろそろ無理があるな。
最初に先生が言っていた通り、この個性把握テストはトータル成績最下位が除籍処分となる。
しかしこれは逆に言えば『最下位でなければ除籍にはならない』ということでもある。つまり一人でも下がいればそれだけで安心できるわけで。
現状その最下位にいるのがアイツ、緑谷出久。実技試験の時にデカブツをぶっ飛ばしていた奴だ。
あの超パワーがあれば俺の記録なんざ鼻で笑っちまえそうなんだが……どうもそんなに使い勝手がいい個性でもなさそうだ。
思えば実技試験の時、あの一撃を撃った後は反動で腕がボロボロになっていた。そりゃポンポン使ったりはできないか。
それでもそろそろやばいと思ったのか、その個性を使おうとしていたようだが──不発。
「個性を【消した】」
「消したって……あのゴーグル……! そうか……! "抹消ヒーロー・イレイザーヘッド"!!」
相澤先生──改めイレイザーヘッドによるものらしい。曰く『見ただけで人の個性を抹消する個性』の持ち主だとか。何それこわ。
そのイレイザーヘッドによれば緑谷はまだ個性の制御ができていない状態。だからといってあの超パワーを暴発させ、誰かに助けてもらう前提で動くつもりか? と続けた。
……俺にも若干釘刺してるな。直接じゃないけど『手を出すなよ』って言われた気がする。
「……個性は戻した。ボール投げは2回だ、とっとと済ませな」
そして緑谷出久の2投目。しかしこの数分で何が変わるというわけでもないし、可哀想だがここが限界だろう。
ここで個性制御の糸口を掴む奇跡が起こるか、或いは少しでも反動ダメージを最小限に抑えるか……どっちの方がまだ有り得るだろうか。
初日から除籍処分を受ける同級生を見る羽目になるのはちょっと嫌だな。何とかならないだろうか。いっそ【バイキルト】を──あ、ダメですかそうですか。今めっちゃ睨まれた。
SMASH!!
「うおっ!?」
「っ、マジか……」
──705.3メートル。
って、結局暴発──じゃない? 腕、じゃない。指一本の犠牲で済ませたのか!
……ん?だとすると、緑谷は指一本であの威力が出せるトンデモパワーの持ち主ってことじゃないか? アイツの個性何なんだよマジで。
「まだ……動けます……!」
「コイツ……!」
相澤先生も凄い顔してるじゃん。いや、アレはどっちかと言うと『おもしれー奴見つけた』的なリアクションだな。こわ。
「どーいうことだコラ! ワケを言えデクテメェ!!」
「うわああ!!?」
って、今度は何!? お前か爆豪! 先生の前で何しようとして、あ、捕まった。あれただの包帯かマフラーだと思ってたけど違うのか。
「時間がもったいない。次準備しろ」
「あ、ウッス」
そういや出席番号順的に次俺だったわ。はいはい。
「ちなみに除籍はウソな」
「はああああああ!!?」
あのちょっと先生???
耳郎「セーフ……!」←18位
森岸「よかったな」←4位
耳郎「嫌味か貴様ッッッ」
緑谷「」←21位
麗日「も……燃え尽きとる……」←11位
飯田「無理もない……」←5位