Q.ナガンさん何で緑谷に?
A.体育祭で超パワーを見て「これ下手すると次世代オールマイトとか言って担ぎあげられそうだな」と思い、色々含めて忠告したくて指名した。
Q.公安はナガン放置してんの?
A.『じゃあヒーロー辞める』と言われたらどうしようもなかった。あの個性で敵堕ちでもされたら被害がヤバいとの事。
Q.森岸君コミュ力高いね?
A.実は男女を問わず性癖の話題まで持っていけるくらいにはコミュ力高い。ちょっと前にお嬢様であることを忘れてうっかりヤオモモにもその話題を振っていらん知識を植え付けてしまった模様。
職場体験とは職場体験をすることである。
ただ鍛えるだけなら雄英で訓練を受けたり自主トレをしていればそれで十分事足りる。
それだけでは補えない部分、いわゆる経験値と呼ばれるものが得られないからこそ雄英の外に出て現場の空気を知る為に行われている。
多少の危険を伴おうとも、それが次代のヒーローを育てることに繋がるのであれば躊躇う理由にはならない。例え傍から見れば未成年淫行にしか見えない組み合わせでホテルに泊まろうが止めはしない。多分。
荷物を置いた森岸とミルコが向かった先は公共の訓練施設。プロ免許を持ったヒーロー、或いはそのヒーローの監督の下でのみ使える個性の練習場。*1
もうこの時点で『職場体験……ですよね? ただ腕試ししたかったから呼んだとかじゃないですよね?』と尋ねたくなるところだが、流石にそうではなかったらしい。ほっ。
では何をしようとしていたのかというと。
「うわー……これ大丈夫かな。後で修理代請求されたりしません?」
「……知るか」
「うわ、こんな所まで血が飛んできてる。滅茶苦茶痛かったんじゃないです?」
「……うっせ」
「……いい加減機嫌直してくださいって。俺だってあんなに速くなると思わなかったんですから」
……あの、本当に何してたんです?
少し時は遡り数分前。訓練施設に入るなり、ミルコは森岸にこう告げた。
「お前の個性でどの程度変わるか確かめさせろ」
「……ん? どっちにですか?」
「私にだ、私に。そっちの方が分かりやすい」
【魔法】による強化がどれ程のものか。トッププロが口を揃えてサイドキックに欲しがる個性を体感させろとミルコは言う。
となれば単純な効果の【バイキルト】や【ピオラ】がいいだろう。森岸はそう思いミルコに【ピオラ】から使用した。
すると何を思ったのか、次の瞬間目の前にいたミルコが掻き消えるような速度で動いた。あまりの速度に僅かな残像すら残し、床には亀裂が走っている。
次いで土煙が巻き上げられ、ただでさえ見えないミルコが更に見えなくなった。一体何が、と思ったその時。
「ぐべっ!?」
「…………へ?」
少し離れた壁の方から悲鳴が上がった。そちらに視線を向けてみると、頭から壁に突き刺さったミルコの身体がプランと垂れ下がっているではないか。
「え、ちょ、何で!?」
「……」
「み、ミルコさーん!?」
慌てて引っこ抜いてみればまあまあ大惨事。顔から突っ込んだらしく鼻は折れてるわ血は出てるわで嫌でも慌てさせられた。
すぐさま【ベホイム】を使い回復させると、意識を取り戻したらしいミルコは物凄い勢いで森岸から飛び退いた。
……大体想像がついているだろうが、【ピオラ】による強化が想定以上の速度を与えてしまったらしく、自分でさえどこを走っているのか分からなくなって衝突したらしい。何してんの?
これから職場体験にあたって先輩として色々教えてやるつもりだっただけに、とんでもない醜態を晒したことに耐えられなかったのか顔を逸らしたまましばらく無言だった。
そして今に至る。
回復は済んでいるので今度は施設の方が気になった森岸の質問に萎びたような声が返ってくるばかり。職場体験ですよねこれ?
「……まあいい。あれは忘れろ、いいな?」
「忘れるも何も事故みたいなもんじゃないですか……」
「わ・す・れ・ろ! そんで、他に何ができる?」
強引に空気を変える為か、それとも照れ隠しか。ミルコは森岸にそう尋ねた。
しかし森岸はすぐには答えられない。何せ【魔法】の全容を語るにはあまりにも時間がかかってしまう。できることよりもできない事を言った方が早いかもしれないくらいだ。
ならばとミルコは質問を変えた。
「……じゃあ、今【魔法】何個あんだ? それなら答えられるだろ?」
「今使えるのは……同じ効果で出力が違うだけのものも数えると、だいたい50個くらいですかね」
「50!? そんな量の【魔法】の効果とか全部覚えてんのか……?」
「そりゃ自分の個性ですから」
想像よりもずっと多い数字にミルコは愕然としていた。今体験した【ピオラ】でさえアレなのに、アレと同等かそれ以上の【魔法】があと49もあるのか? と。
ミルコは森岸が個性を使っているのを見たのは雄英体育祭のみ。あれだけの戦いを経て尚、森岸の全貌は計り知れないのだ。
それに森岸は『今使えるのは』と言った。つまり成長過程でまた新たに【魔法】が増える可能性だってある。ただでさえ多い手札が更に増えていくことになる。
二分ほどミルコは黙り込んでしまった。やっぱりサイドキック向きだなと言われてしまうのだろうか、なんて不安に思っているとミルコは手をポンと叩いてスッキリした表情をしていた。
「……ああ、よーくわかった。私が何て言おうとしてたのか今ハッキリした」
「え」
「でもただ言ってやっても実感ねェだろうし、明日言ってやる。今日はこのまま稽古つけてやるよ」
「いいんですか?」
「何もせず消化不良ってのも嫌だろ? それに、回復できるんならいくらでも
この後滅茶苦茶セッ組手した。【アタカンタ】と【アストロン】でカウンターしてキレられた。理不尽。
◇
一方その頃、保須市。
名の知れたヒーロー、インゲニウムが襲撃されたということもあって街は厳戒態勢。いつもなら路地一つ除けば誰かしら喧嘩やら揉め事やらが起こっているのだが、こんな状態ではいつも通りになるはずもなく。
まさか自分の所に来てくれるなんて思ってもみなかったノーマルヒーロー・マニュアルは苦笑いを浮かべながら少し申し訳なさそうに飯田を気遣った。
「まあ、こんだけ街中が警戒モードだと敵も出てこれないよね」
「ですね。それに皆ピリピリしているようでした」
対する飯田はさほど気にしていない様子。事件が起こらないことを喜ばないヒーローなんていないのだから当然だ。
しかしその態度はますますマニュアルを不安にさせる。理由など考えるまでもない。インゲニウムが襲われた街にその弟が来て何も思わないはずがない。
マニュアルは意を決して、恐る恐るといった風に尋ねた。
「聞にくいんだけどさ……君、ヒーロー殺し追ってるんだろ」
「それは……」
「ウチに来る理由が他に思い当たらなくてね……や、別に来てくれた事は嬉しいんだぜ!?」
マニュアルは自分が優れたヒーローだなんて思っていない。それでも人助けを仕事に選ぶくらいには善人である。
だからこそ若者が道を踏み外しそうになっている事が見逃せない。
ヒーローでありたいのならば私怨で動いてはならないと、そう伝える。
ヒーローに逮捕や刑罰を行使できる権限はなく、規制が進んでいく中で特別に個性の使用が許されている。だからこそヒーロー活動を私刑に利用してはならないのだと。
「あ! いや! ヒーロー殺しに罪がないとかじゃなくてね!? 君真面目そうだからさ! 視野がこう、ガーッとなっちゃってそうで……」
「は、はい……ご忠告感謝します」
もし飯田が思い詰めていたのであれば胸中で反発していたかもしれない。マニュアルの言葉に耳を貸さず、己の感情しか見えてなかったかもしれない。
確かに尊敬している兄を襲われたことは悲しいしヒーロー殺しへの怒りはある。
でもそうはならなかった。ちょっと、いやだいぶ物理法則に喧嘩を売っている同級生のお陰で致命的な後遺症も消え去った。ついでに公安からの口止めまで抱える羽目になった。
何が言いたいのかというと、今ここにいる飯田は
(確かに……確かに! ヒーロー殺しを捕まえたいと思わなかったわけでもないが……どちらかと言えば兄が守っていた街で職場体験をしたかっただけなんです……!!)
と、この通りである。口に出せって? 信じて貰えそうにないから困ってるんです。
それに考えすぎと言われればそれまでかもしれないが、そこからうっかりインゲニウムが無事である事が漏れる可能性だってある。そうなると芋づる式に同級生にも言及が向かうだろう。
もう言わんでもわかるやろ。詰みやで飯田君。
真面目であるが故に隠し事をしているという事実が心にクるのだ。皆に心配をかけていることも罪悪感となって胃をチクチクと刺激しているのだ。
少なくとも今回の職場体験中、この感覚と付き合っていかなければならないのだろうな……とどこか遠くを見つめる飯田にマニュアルは尚更慌てふためいていた。
◇
USJでの完膚なきまでの敗北。そこらのチンピラとはいえ頭数を揃え、対オールマイトの脳無さえ持ち出したというのにあのザマ。
あの程度で終われるはずもない。子供の癇癪じみた始まりであっても、怒りや憎しみに薪が焚べられ続けているのならば立ち止まれるはずもない。
「なるほどなァ……お前達が雄英襲撃犯……その一団に俺も加われと」
「ああ、頼むよ悪党の大先輩……」
血のように紅い巻物と全身に刃物を携帯した男。血の匂いを纏い舌なめずりをする男の名はステイン。敵名、ヒーロー殺し。
相対するは死柄木弔。敵連合を名乗る組織の旗頭だ。
きっかけは死柄木弔の『先生』による指示。
死柄木弔の成長を促す為にと黒霧に指示が出され、保須市にいたステインに接触。敵連合に加わってはくれないかとスカウトをかけた。
いくつかの建物を経由し、拠点がバレないようにと用心を重ねた上で死柄木弔と引き合わせたのが今なのだが……そこに友好的な雰囲気など欠片もない。
「……目的は、なんだ」
「とりあえずオールマイトをブッ殺したい。気に入らないものは全部壊したいなァ……」
交渉なんてするつもりもない。互いに利害の一致さえあればやることは同じなのだからそれでいいだろうと、死柄木弔は不躾な視線を投げかけた。
しかしステインの視線は鋭いまま。それどころか死柄木弔の言葉を聞いて更に眼光を鋭くさせる。
そして吐き捨てるようにこう返した。
「興味を持った俺が浅はかだった……お前は……ハァ……俺が最も嫌悪する人種だ」
「……はあ?」
「子供の癇癪に付き合えと? ハ……ハァ……信念なき殺意に何の意義がある」
付き合いきれない。そう言いたそうにステインは刃物の柄に手を添え、スラリと引き抜く。明らかに一触即発の空気だ。
これに黒霧は焦る。見てわかる。この男は死柄木弔よりも強い、戦えば殺されると。
観察しているであろう先生へと、モニター越しに止めなくていいのかと聞くも『これでいい』と返ってくるだけ。
悪意と殺意の衝突はその一瞬後に始まり、そして終わった。
「……殺されんか?」
「その時は僕が出るさ。死柄木弔の代わりはいないが、ヒーロー殺しの代わりはいくらでもいるからね」
「にしても、事を急ぎ過ぎとると思うがのう……脳無を費やしてまでする必要があったか?」
「いや、何か……ちょっと嫌な予感がしてね……」
「嫌な予感?」
「……何かこう、見落としているような気がするというだけだよ。念には念を入れて、というやつさ」
森岸「また拗ねないでくださいよ」
兎山「うっせ」
森岸「ちょっと【アタカンタ】で渾身の一撃跳ね返しただけじゃないですか」
兎山「……」
森岸「それともいきなり【ピオラ】かけてまた壁に激突させた事怒ってます?」
兎山「だあああ! 全部事細かに語るな!」