魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.【ピオラ】ってどういう仕様なの?
 A.詳細を明言すると書きにくくなるので、ざっくり言えば『スピードが上がる』だけ。一挙手一投足の速度が全て上がる為、傍から見ると二倍速とか三倍速で動いてるように見える。

 Q.オールマイトは無事でしたよね?
 A.あっちは【バイキルト】だけだからスピードの上昇量はそんなでもない。

 Q.もしかして相澤先生って凄かった?
 A.内心滅茶苦茶ヒヤヒヤしてた。軽自動車しか運転したことない人がいきなりレーシングカーの運転をさせられたような気分だったとか。






24.サポートできる個性

 

 

 

 職場体験二日目。

 初日は新幹線での移動や説明の時間もあり、慣れてもらう時間として消化した事務所がほとんどだった。

 

 二日目からは事務所毎の特色が出てくる。敵退治を重点的に行っていればパトロールを、人命救助を重点的に行っていれば講習を……といった風に学ぶ内容が異なっている。

 

 では事務所すら持たず、サイドキックも抱えていないミルコの場合はどうなるのかというと。

 

 

「まあチンピラ如きじゃ相手にならねェわな。んじゃ次探すぞ」

「いやその前に警察に引渡しましょうよ。これ放置したらダメでしょ」

「誰が"これ"だクソガキ……」

 

 

 実戦経験あるのみ! と街に繰り出しては路地裏でチンピラを返り討ちにさせていた。ちなみに今森岸が押さえている男は両手足ポキポキ済である。

 

 

 

 ミルコは言うまでもなくトッププロヒーローであり、その見た目の良さからも敵とも呼べないチンピラのような連中に絡まれることが少なくない。

 加えて森岸は今年の雄英体育祭1年の部優勝者。路地裏で屯しているような者からすれば妬み嫉みの対象でしかない。

 

 そんな二人は敢えて路地裏に飛び込み、売られた喧嘩を片っ端から買っていった。というかミルコが買って森岸にパスした。

 

 『え? これ本当にやっていいやつ?』と不安を感じながらも、何かあれば全部ミルコのせいにしようとこちらも中々図太いもので。ナイフ等の凶器を取り出した連中なんかは容赦なく手足を折られていた。

 

 無論ミルコとて考えなしにこんな事をさせているわけではなく、しかし目的の人物と出くわすことなく二時間が経過していた。

 

 

「……やっぱ保須まで行かねェといねェか?」

「あ、やっぱりヒーロー殺し探してたんですね」

「そりゃそうだろ。何の為にわざわざ東京で合流したと思ってんだ」

 

 

 その目的の人物とはヒーロー殺し。つい最近も世間をざわめかせていた悪名轟くネームド敵だ。

 

 職場体験の学生がいるのに? とも思うだろうが、むしろその逆。これはミルコなりに考えた上でのことだった。

 

 

 昨日、ミルコは森岸と何度も組手を行っていた。

 

 森岸に回復の手段があることもあり、どちらかが大怪我をする度にストップをかけるという取り決めをした上で数時間戦い続けた。

 

 そう、森岸は回復手段があるとはいえ、ミルコを相手取った上で数時間戦い続けることができていた。

 

 それだけの実力があればヒーロー殺しを前にして何もできず殺されるということにはまずならないだろう、と。ともすれば森岸一人でもヒーロー殺しに勝ってしまうのではとさえ思っている。

 

 

「雄英を敵が襲撃したって話があったが……敵の主力連中は教師が仕留めたんだろ?」

「はい。オールマイトとイレイザーヘッドが……逃げられてしまいましたが」

「だったら尚更だな。今のうちに本物の敵……命のやり取りってもんを実戦で体験しておくべきだ。特にお前みたいな奴はな」

 

 

 ならばトッププロヒーローが助けに入れる職場体験の今こそ、そうしたネームド敵と戦う経験を最も安全に積める瞬間じゃないかとミルコは判断したのだ。

 

 

 それともう一つ。ミルコが理解したという森岸の評価に対する違和感を伝えたいから、というのもある。

 

 言語化することに成功はしたけれど、それをそのまま伝えて実感してくれるのかどうか確信が持てなかった。

 ならばまず自覚させよう。自分で体験させて揺るがない根拠を与えてやろうと思っていた。

 

 それがまさかの空振り続き。このまま何事もなく終わってはミルコとしても困ってしまう。

 

 

「……しゃーないか。一回戻るぞ」

「ホテルにですか?」

「いや訓練施設だ。お前の疑念、蹴っ飛ばしてやっから覚悟しとけ」

「へ?」

 

 

 仕方がない。上手く伝わらなければその時はその時だ。ミルコは一旦ヒーロー殺しの捜索を止め、再び昨日の訓練施設へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 職場体験中二度目の訓練施設。場所は昨日と同じで、景色も設備も何一つ変わっていない。

 

 広い空間で二人。ミルコと森岸は向かい合って立っていた。

 

 

「昨日の組手、覚えてんだろ?」

「はい。まあまあ酷い目に遭わされました」

「そりゃこっちのセリフだバカタレ」

 

 

 それでまた組手をするのか、と問えばミルコは首を横に振った。それから少しキョロキョロとした後、ある場所で足を止めた。

 

 昨日【魔法】のデモンストレーションを行う際、ミルコが最初に立っていた場所だ。

 

 

「こっから……えーと【ピオラ】? ってやつを試して、しくじってたろ」

「壁に激突してましたね」

「言わんでいい。あの時はそのまま前に走り出して……三歩目だからこの辺か。ここからもう制御が利かなくなった」

 

 

 そこから数メートル程歩いた先。およそ三歩とは思えぬ距離をミルコは駆け抜けていた。

 

 いつもとはまるで異なる速度。気がついたら目の前に壁があり、慌てて壁を蹴ったのを覚えている。

 そこからはもう、目の前に現れた地面なのか壁なのかも分からないものを必死に蹴るしかなく、やがて対応しきれなくなって壁に激突したのだ。

 

 あの時は恥ずかしさから誤魔化してしまったけれど、冷静になった今ならわかる。あの速度を与えられて対応できる者の方が異常なのだと。

 

 

「ここまで……三歩目までをやってみろ」

「はい?」

「個性使って私と同じルート、三歩目までを真似してみろ。そっからは私がいいと言うまで好きに走り回れ」

「……? わかりました」

 

 

 ミルコは自分でも難しいと分かっていることを森岸にやれと命じた。理不尽と言われてもその通りでしかない事をやらせようとしている。

 

 しかし森岸は特に気にした素振りもない。やれと言うのならやるか、という程度。

 

 まずはミルコの身体能力に追いつかせる為の強化を行った。【バイキルト】一回と【ピオラ】二回。ここまでやってようやくミルコと同じか少し上。

 そこから更にもう一段【ピオラ】を重ね、昨日ミルコが対応できなかった速度まで到達する。

 

 

「じゃあ、行きます」

「おう」

 

 

 昨日のミルコ同様、地面を薄く踏み砕きながら加速した。二歩、三歩目までを完璧になぞり、当然森岸の視界には壁が迫り来る。

 

 

 そしてあっさりと壁を蹴って上へと跳躍した。

 

 

「……続けろ!」

「はい!」

 

 

 ミルコの言葉に応えるように天井を蹴り、真っ直ぐに地面へと着地。一瞬の硬直もなくそこから駆け出し、広い空間をまるでピンボールのように駆け回った。

 

 そこに不安定さは欠片もなく、激突するような素振りもない。おそらくこのままミルコが何も言わなければ力尽きるまでかけまわり続けられるだろう。

 

 やはり自分の感覚は間違っていなかった。そう確信したミルコは声を張り上げて森岸を止めた。

 

 

「よし! もういいぞ!」

「あ、はい」

「うおわっ!? 急にこっち来んな!? つかどんなブレーキ力してんだお前!」

「ええ……? 普通に止まっただけですよ……?」

 

 

 目の前でビタッ! と止まったものだからひっくり返りそうになった。何その停止方法。

 

 咳払いを一つし、ミルコは森岸に問いかける。

 

 

「ったく……で、どうだった?」

「どう、とは?」

「今のスピードだよ。私みたいにしくじる可能性はあったか?」

「…………特には」

「だろうな」

 

 

 やはりそうだとミルコは確信した。森岸は自身の身体能力がどれだけ急激に変化しようとも制御を失敗することはない、と。

 

 

 これはミルコも知る由もない話だが、USJでは相澤も同じことを成し遂げてはいた。

 しかし彼の場合は【インテ】を、情報処理能力を強化する【魔法】も同時にかけた上で成立していたものだ。

 

 森岸は違う。彼だけは【インテ】がなくとも身体能力の変化を完全に把握し、強化された自分がどの程度動けるのかを完璧に理解している。

 

 

「トッププロの私ができねェ事をお前はあっさりとやってのけた。なんならお前はそっからもっと強くなれんだろ?」

「……!」

「お前が今まで何と比較されてきたのか知らねえが、少なくともこのミルコさんより速い奴をサポート向きだなんて言う奴は早々いないだろ」

 

 

 包み隠さず言ってしまえば、これはトッププロが学生に身体能力で負けを認めたという事になる。それもその身一つで戦ってきたミルコが、だ。

 

 

 確かに森岸の個性はサポート役として優秀なものだ。既存の戦力をより強固にできると言われればサポート役と言われるのも納得だろう。

 オールマイトやエンデヴァーがより磐石となる光景を現実にできるとなればそちらを選んで欲しいと思うのは当然の話。

 

 だからといって森岸の戦闘能力を無視していいのかと言われると違ってくる。

 

 今してみせたように、森岸は強化次第でトッププロにも引けを取らない戦力になることができる。少なくともミルコのスピードを超えた上でミルコよりも上手く扱えていた。

 

 

「少し考えてみりゃわかる事だった。お前の個性は他人にも使えるだけの増強型(・・・・・・・・・・・・・)でしかない」

「あ……」

「お前はサポート向き個性なんかじゃねえよ。たまたまサポートもできる個性(・・・・・・・・・・)だったってだけの話だ」

「…………そっか、そういう事だったのか……」

 

 

 サポート向け、という評価は森岸にとって一種の呪いだったのかもしれない。自分ですら気づいていなかった事実を突きつけられ、森岸から何かがストンと落ちたような気がした。

 

 

 そもそもの話、サポート向きの個性という悩みは雄英では……というかヒーロー科がある学校では決して珍しいものではない。

 それこそA組で例を挙げるのなら、葉隠のように単体では戦闘にも人命救助にも活かしにくい個性を持っている生徒なんていくらでもいる。

 

 その点で言えば森岸は少し特殊。自分一人で使っても強いし誰かに使っても強いという評価になる。

 

 子供の頃にサイドキック向きと評価されるのは当然だろう。その頃の森岸に【魔法】を使うくらいならばそこらのプロヒーローを強化した方が余程強いのだから。

 

 

「でも、今は違う……」

「ま、そういうこったな。誇れよ。お前はちゃんと強いんだからな」

「っ……はい!」

 

 

 今なら胸を張って言える。誰よりも自分が、自分こそが強くなれる【魔法】なのだと。他の誰でもない自分の為の個性なのだと。

 

 

 

「ミルコさん」

「お?」

「ありがとうございます。それと……一戦、お願いしても?」

「っハハハ!! いいぜ! 職場体験は明日からだな! 今日もみっちり相手してやらァ!!」

 

 

 それからまた数時間。施設内では戦闘音が響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 遠くで化け物が色々と自覚し始めていた頃。

 

 山梨県のとある建物。およそヒーロー事務所とは思えない廃墟の如き様相をした場所。

 

 そこでオールマイトの先生、グラントリノと呼ばれたヒーローが緑谷出久を試していた。

 

 加齢もあって背丈も縮み、今や120センチしかない小柄な老人に躊躇が生まれていた緑谷だったが、初日の突発的な組手の後にはそんな遠慮も消え失せていた。

 

 狭い室内を弾丸のように跳ね回り、緑谷の対応力を超えた速度でのヒットアンドアウェイはオールマイトを鍛えた人物という肩書きに疑問を抱かせないほどだった。

 

 

 職場体験二日目は【ワン・フォー・オール:フルカウル】を馴染ませる為にとひたすらに組手を繰り返し続けていたのだが……ふとグラントリノは緑谷にこう尋ねていた。

 

 

「……昨日から思ってたがお前、誰に教わった?」

「うぐっ……」

「あの正義バカ、オールマイトがそんなに理論だてて教えられっか。昔っからグッだのバッだのと擬音塗れの説明をする奴だぞ」

「……」

 

 

 ぶっちゃけ心当たりしかない。だって【ワン・フォー・オール】を受け取った後に言われた言葉を思い出すと……ね?

 

 

 ──ケツの穴グッと引き締めて心の中でこう叫べ!!

 

 

 うん、改めて見るとまあ酷い。これ要約すると『強めに力んだら撃てるよ!』になるもん。

 

 そんな説明しかできない人物が100から落とすんじゃなくて0から上げていけだの、腕だけじゃなく全身に使えだのと言えるわけがない。うーん、残念でもないし当然。

 

 

「その……担任の先生と森岸くん、同級生に……」

「……まさか俊典(トシ)の奴子供にまで指導力で負けるとは」

「あ、あはは……」

 

 

 ごめんなさいオールマイト、庇えません……とは緑谷の談。それはそう。本当にそう。

 

 しかしグラントリノは別のことが引っかかったのか、ふと緑谷の返事を思い返し再び尋ねた。

 

 

「……待て、森岸って言ったか? あの体育祭優勝の小僧か?」

「え? あ、はい。森岸詠士くんです」

「詠士……あの小僧が……ふむぅ……」

「何か……?」

 

 

 いや、なんでもない。グラントリノはそう返すと昼食の準備をしようと無理やり話を切り上げた。明らかに何かある人の態度ではあったが、そこまで明確に打ち切られては聞くこともできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあの時の小僧か……? だとしたら目をつけられている可能性が……いやしかし……」

 

 

 

 

 






八木「私が与えて」
相澤「俺が鍛えて」
森岸「俺も鍛えました。あと治しもしました」


緑谷「てな感じで……」
グラントリノ「……一回シメに行くか?」


八木「悪寒がっ……!?」



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