魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.これステインさんに勝ち目ある?
 A.そこになかったらないですね。

 Q.緑谷と轟の出番ある?
 A.そこになかったらないですね。

 Q.もっとこう……手心とかないんか?
 A.ああ。森岸(アイツ)が持ってっちまったからな。







26.ひと蹴りいこうぜ!

 

 

 

 正しき社会への供物を捧げる。英雄の肩書きに相応しくない偽物を粛清する。社会をあるべき姿へと戻す。

 その為に17名ものヒーローを殺害し、23名のヒーローを再起不能へと追いやってきた。

 

 今日もまた一人のヒーローが彼の手にかかろうとしていた。

 

 

「騒々しい……阿呆が出たか? 後で始末してやる……今は……為すべきことを為す」

「っ……! 身体が動かね……クソ野郎が……死ね……!」

「……ヒーローを名乗るなら、死に際の台詞くら───!?」

 

 

 スラリと引き抜かれた刃物が振るわれる直前。完全に意識の外側から飛来した【兎】の脚がステインを蹴り飛ばした。

 

 純然たる暴力。防御も回避も間に合うはずもなく、パワーもスピードも十全に乗せられた一撃は薄暗い路地からステインを蹴り出すのに十分だった。

 

 

「ぐ、がっ……!?」

「おーおー、タフな野郎だ。まともに入ったってのによ!」

「ぐ……ミルコか……!」

 

 

 たった一撃、というにはあまりに重い。脇腹へと突き刺さった蹴りのダメージは見た目よりも深刻だろう。下手をすれば内臓が破裂していてもおかしくなかった。

 

 壁際に押さえつけられていたヒーロー、ネイティヴが地面へと崩れ落ちる。立ち上がることもできないほど痛めつけられたのかと思えば、その身体には外傷らしい外傷は見当たらない。

 

 ステインがミルコを睨んでいると、後から遅れて二人のコスチュームを着た子供──森岸と飯田が到着する。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……ちょっと斬られただけで……毒とかじゃない、多分個性だ……!」

「【ホイミ】……ダメか。どれなら効くんだ?」

 

「スーツを着た子供……?」

「雄英の職場体験だ。テメェの相手にゃ丁度いいだろ?」

 

 

 嘲るようにミルコは答える。先の一撃はステインに無視できない痛みを残していると分かった上での事だ。

 

 舐められている。それも分かりやすく。

 

 ただプライドを傷つけられただけならまだよかった。だがそれはダメだ。たとえどのような理由があろうとも、子供を戦わせる者が真の英雄であるはずがない。

 

 短刀がミシリ、と音を立てる。静かに燃える思想犯の目が射殺さんばかりにミルコを睨みつけた。

 

 

「……付き合う理由がないな。それに……お前も粛清対象だ……!」

「テメェの事情なんざ聞くつもりもねえよ。何より──」

 

 

 

 

 

「余所見してんじゃねェよ老害!」

 

 

 

「っ───!(速い……! 個性……いや、違う!? 何という速度!)」

「コイツらを無視してできるもんならやってみろ、ってこった」

 

 

 後ろに控えていた森岸が割り込んだ。警戒していなかったわけではない。視界に入れていたはずの子供がいつの間にか目の前まで迫っていたのだ。

 

 反射的にパンチを腕で受け止めるものの、見た目にそぐわぬパワーに押し切られる。咄嗟とはいえガードの上から殴り飛ばされ、ステインは驚愕に目を見開いた。

 

 驚いている暇はない。ブーツを削られながらもどうにか踏みとどまるが、もう一人が既に動き出しているのが見えていた。

 

 

「おおおおっ!!」

「ぐ……! 何だこのパワーは……!?」

 

 

 【エンジン】の加速が乗せられた白いアーマーの蹴り。先の一撃と同じく防御が意味をなさない威力が振り抜かれた。

 

 明らかにプロヒーロー並み、いやそれ以上。雑な部分はあれどパワーは既にステインの手に負えない領域にまで届いている。

 

 軋む腕を強引に振り回し、どうにか飯田を振り払う。なるほどミルコが嘲笑うわけだ。子供だからと決めつけて力量を見誤っていた。その結果がこの痛みだ。

 

 無駄を削ぎ落とした顔が喜色に歪む。気が触れた、というわけではない。その目は何かに興味を持った人間のように濁ったまま輝いていた。

 

 

いい(・・)な……お前達は、いい……!」

「何だこいつキッショ。殴られて蹴られて喜んでやがる」

「多分そういうことではないと思うぞ!」

 

 

 口角が三日月のように吊り上がっていく。数秒前の怒りさえ忘れ、生かす価値のある人間との邂逅を喜んでいる。

 

 しかし今のステインに余裕はない。ただでさえミルコがいるのだ、子どもだからと侮る理由も消え失せた。

 

 

「2対1……甘くはない、か」

「こっからが本番だー、ってか? 負け寸前の雑魚の常套句かよ」

「あまり煽るな森岸君!」

 

 

 故に、ステインは殺す気で動き出す。

 

 

 ヌルリ、と。忍び寄る影のように間合いが詰められる。狙いは森岸。刃こぼれの目立つ刀を滑らせるように差し込んだ。

 

 

「っ!?」

「ほう……これを避けるか!」

「速い……!」

 

 

 刃が皮膚を裂く寸前で森岸が飛び退く。【ピオラ】によるスピード強化と【バイキルト】によるパワー強化がなければ回避を起こすことすらできなかった。

 

 飯田に至ってはまるで時が飛んだようにも見えていた。気がついた時には既に真横に前傾姿勢のステインがいて、同じく飛び退いたけれど短刀の先が僅かに腿を掠めた。

 

 次が来る。森岸と飯田が次の攻撃に備えようとしている頃、ステインは短刀に付着した血をレロ、と舐めとっていた。

 

 

「っ……!? なんだ、身体が……動か、ない……!」

「飯田!? クソ、そういう個性かよ!」

「ハァ……あれだけ露骨にやればわかるか……」

 

 

 途端、飯田の身体が崩れ落ちる。まさか短刀に毒が!? と一瞬浮かんだ可能性をすぐに消した。

 あんなにもあからさまな動作が個性の発動条件でないはずがない。ブラフというにはあまりに隙を晒してしまう。

 

 

 ステインの個性【凝血】は血を舐める事で対象の体の自由を奪うというもの。血液型による時間差はあれど、一対一であれば僅かな出血さえあればそれだけで一方的に勝ってしまう能力だ。

 

 しかし森岸らに全容は掴めていない。少なくとも『血を舐められると動けなくなる』としか分からない。

 

 

 ならば手札を片っ端から試す。

 

 

「【キアリー】!! 違う! なら【キアリク】ならどうだ!?」

「っ、それだ!」

「何……!?」

 

 

 解毒魔法【キアリー】と麻痺治療魔法【キアリク】。それで駄目なら次の【魔法】を試すつもりでいたが、幸い二つ目で正解を引けたようだ。

 

 ステインからしてみれば不幸にも程がある上、虎の子とも言える【凝血】がほぼ無力化されたことをまざまざと見せつけられたようなもの。

 数的不利に加えて相性不利まで被ったことを理解させられ、盲信者の足が止まった。

 

 飯田はその隙を見逃さなかった。

 

 

「ここだ! 【レシプロバースト】ォ!!」

「は───がっ!?」

 

 

 【エンジン】への負荷を考慮しない超加速。最初の一撃よりも速く鋭い、そして重い蹴りがステインの土手っ腹に突き刺さった。

 

 元よりアーマーの硬さに加え、事前に森岸から与えられた【バイキルト】の効果もあり、その真一文字の蹴りはステインに二度目の痛打を与えた。

 

 

「ぐおっ……!」

「ナイス飯田ァ! 畳み掛けるぜ!」

 

 

 蹴り飛ばされたステインを森岸が追いかける。並外れた身体能力を更に強化させた機動力はステインにさえ対処を許さない。

 

 左右の壁を蹴りながら加速し、あっという間にステインの背後へと周りこんでしまう。

 

 回転しながら着地し、飛んでくるステインの背中へ真一文字の蹴りを放つ。

 飯田の蹴りが速度による重みであるのならこちらは純粋なフィジカルによる重み。鈍く身体の芯へ響く痛みは意識を手放す限界ギリギリのところへとステインを追い詰める。

 

 

「っぐ……! まだ、終われるものか……!」

「いいや終わらせてもらう! インゲニウムの……兄の代わりに! 俺がお前を終わらせる!」

 

 

 満身創痍になって尚吠えるヒーロー殺し。血に塗れた手は垂れず、血に染めた足を折ることもなく。ただ真っ直ぐにヒーローを睨みつけていた。

 

 そして彼の視界を白いアーマーが埋め尽くし──

 

 

 

「【レシプロエクステンド】ォッ!!」

 

 

 

 ───インゲニウムの一撃によって沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 倒した……のか? 死んでないよな? 最後のやつ頭に当てていいやつなのかってくらい威力あったけど大丈夫なの?

 

 

「お疲れさん」

「あ……ミルコ、さん……」

「おうミルコさんだ。ちゃんと見てたぞ。よくやったな」

「……はい!」

 

 

 そっかミルコさんいたんだったわ。ヒーロー殺しに集中し過ぎてて忘れてた。

 

 それにしても強かった。おそらく途中から本気を出したんだと思うが、まさか意識の隙間を突くような移動方法があるとは。あれ何とか真似できないかな?

 

 飯田は腿の辺りを斬られたくらいで、あとは【レシプロバースト】使ったからエンスト状態ってだけ。殺される寸前だったヒーローのネイティヴさんも軽傷だった。

 

 まさか職場体験中にネームド敵と戦って勝っちまうとはなあ……終わったら響香に話すことが増えた。

 

 

「飯田、立てるか?」

「あ、ああ……」

 

 

 はて。立役者であるはずの飯田の調子が何か変だな。どっか痛むのか?

 

 

「あ……いや……兄の敵討ち、なんて考えがなかったわけじゃないんだが……俺は今、不思議なことにヒーロー殺しへの怒りも何もなくて……驚いている」

「……治ってるからでは?」

「……それもあるとは思う」

 

 

 本当にごめんね? 少なくともヒーロー殺しが捕まるまでは色々黙ってて…………って、あれ?

 

 

 飯田のお兄さんが無事だったニュースはヒーロー殺しが捕まるまで伏せられる予定で、その間はコードネームの『インゲニウム』を飯田に預けるって話……だったよな。

 

 じゃあ、今ヒーロー殺し捕まえたからもうお兄さんの無事を公表しても良くて。そうなると飯田が預かっている『インゲニウム』の名前を返さなきゃいけないわけで。

 

 

「……お前、今のうちに新しいコードネーム考えといた方がいいぞ」

「え? 何故……いやそうか! ヒーロー殺しが捕まったのなら……くっ、どうする僕!?」

「何でもいいからいくぞ! こんな大金星、知ってもらわなきゃ損じゃねェか!」

「あ、はい!」

 

 

 いつの間にかヒーロー殺し拘束し終えてるし……ミルコさんこういうとこちゃんとしてるな。見習わないと。

 

 

 そういや他の事件は大丈夫なんかな? ヒーロー殺し見つけて追っかけてたけど、その途中でなんか騒ぎが起きてたっぽかったけど。

 

 飯田に視線だけで尋ねてみるが首を横に振られた。あの時はマニュアルさんと現場に向かおうとしてる所だったらしい。

 

 

「じゃあそれ警察に引き渡して向こうに行きましょうか」

「おう! こちとら見てるだけでお預けだったからなァ……! 疼いて疼いて仕方ねェ!」

「疼……!? まるで爆豪君みたいな方だな!」

 

 

 それはそう。あ、今のうちに【ベホイミ】配っときますね。これ怪我の治療は勿論、疲労の回復にも効果あるから。

 

 よし、それじゃあ第二ラウンドといきますか。

 

 

 

 

 

 

 

「……って、もう終わってんのかよ!?」

「あらー……エンデヴァー来てたのね」

 

「お前らも来てたんだな」

「轟君! と、緑谷君もか!」

「いやあの僕は……」

「座ってろっつったのに出てきやがったんだよ! こんのバカタレ!」

「すいませんっ!?」

 

 

 もう終わってた。しかも脳無が犯人だった。

 

 ……これもしかして敵連合が関わってたのか?

 

 

 

 

 






・キアリー

 毒状態を治す魔法。Ⅱが初登場。
 他には『どくけしそう』を使うか教会でお金を払って治してもらうという方法がある。最近ではどこかしらで『どくけしそう』を拾っている事が多いので味方が食らう毒自体の影が薄くなっていたり。
 本作ではそのまま解毒魔法。これだけでも医療現場に来て欲しいからとプロ免許貰えるレベルで有用。


・キアリク

 麻痺状態を治療する魔法。作品によっては眠り状態からも回復させる効果がついているものがある。
 毒と違って麻痺の場合は戦闘終了or歩いているだけで治るので活躍の機会は少ない。しかし過去作ではパーティ全員が麻痺すると全滅扱いになっていたこともあり、何かあった時の生命線にもなった。
 本作では麻痺(身体に直接作用する行動阻害全般)の治療効果。病気や怪我による身体の麻痺すら治す。ぶっちゃけるとキアリーとキアリクとホイミの3つだけでも公安が全力で引き入れようとする理由になる。




死柄木「」
黒霧「…ステインも脳無も捕まってしまいましたね」
死柄木「」
黒霧「それも早々と終わったせいであまり被害も出ていませんし……とりあえず撤退しましょうか」
死柄木「クソわよ」
黒霧「死柄木弔!? 気を確かに!」




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