Q.森岸なら【リレミト】で一発では?
A.諸々細かい設定はさておき、魔獣の森で使ったらどこに出るか分からないからやめた方がいい。
Q.実際に森岸がいたらどのくらい早くなる?
A.全力でやればバスと同じくらいに着く。
Q.A組ってどのくらい森岸頼ってるの?
A.本作だとリカバリーガールの代わりに森岸が治しているせいで治癒の基準が森岸になってる……というくらい。上鳴や峰田あたりから『アイツがいたらもう少し楽なのになあ』的な愚痴がポロッと出る程度。
魔獣の森にA組が放り出されてから約8時間後。抜けるような青空は夕焼け色へと染まり、カラスの鳴き声が響き渡る頃になっていた。
「やーっと来たにゃん」
『マタタビ荘』と名付けられた合宿所。ピクシーボブの視線の先では満身創痍かつ疲労困憊のA組達が、やっとの思いで森を超えてきた姿だった。
マンダレイによれば3時間で着くとの事だったが、当の本人は悪びれもせず「アレは私達ならって意味なんだ」と笑っている。
しかしピクシーボブとしては8時間でもちょっと驚いている。正直なところ、もっと時間がかかるとばかり思っていた。
魔獣の森と名付けていただけに、あの森にはピクシーボブの個性で作られた土製の魔獣がいた。もう少し攻略に手間がかかると踏んでいたのだが、爆豪や轟を始めとした数人の躊躇のない攻撃に壊されることが多かった。
「いいねえ……特にそこの4人とそっちの2人。攻撃の迷いのなさはどこから来たのかにゃん?」
ピクシーボブが名指ししたのは職場体験で保須に来ていた飯田、轟、緑谷の3人。シンプル戦闘力特化の爆豪。それと八百万、耳郎の女子2人。
他の生徒に比べて硬直する時間が、足を止める瞬間が少なかった。おそらく同じA組であれば尚更分かりやすくその差を理解できている。
「3年後が楽しみ! ツバつけとこー!!」
「うわっ!?」
「比喩だろうがそりゃ! マジでツバつける阿呆がいるか!」
優秀だね! で終わればいいのに何してんだこの雌猫。フリとはいえ文字通りツバかけるんじゃねえ。
騒がしくなってきた合宿所に気づいたのか、建物の中から相澤がのっそりと出てきた。ボロボロのA組を見て「森岸回収しておいて正解だったな」との事。
それから変な挙動をしているピクシーボブに目をパチクリとさせ、マンダレイに尋ねた。
「マンダレイ……あの人あんなでしたっけ」
「あ、イレイザー。戻ってたんだ? 彼女は……ほら、焦ってるの。適齢期的なアレで」
そしてA組もようやく思い出す。8時間に渡る森林行軍で忘れかけていた、一人だけ魔獣の森をスキップしていた同級生の存在を。
「そういや森岸どこだ?」
「そうじゃん! アイツだけ先にバスで来てるんだった!」
「ああ、森岸ならお前達の言う通り先に来ているぞ。一足先に強化訓練を受けている」
上鳴や峰田がアイツだけズルい! と声をあげるが、緑谷や耳郎あたりは何となく意図を理解していた。そりゃ森岸がいたら試練にならないよなあ……と。
他の生徒も何となく分かってはいるらしく、それでも森岸がいたらもうちょい楽だったのにと思わずにはいられないようだ。
だが彼らの認識は少しだけ間違っている。何も森岸は一人だけ楽をできたわけではないのだ。
「……森岸は張り切り過ぎてな。今は少し休息を取らせている」
「何があった!?」
「え、あの森岸が?」
「殺しても死にそうにない森岸が!?」
「お前らアイツをなんだと思ってるんだ」
曰く、森岸は昼前にはこの合宿所に到着しており、A組が来るまでの間はピクシーボブ以外のプッシーキャッツ3人と相澤の手解きを受けていたらしい。
それから昼食を摂った後、この合宿の主目的となる訓練を行っていたのだが……その途中で森岸がぶっ倒れたというのだ。
「本人によると『魔力が尽きた』とかなんとか……何か知ってる奴はいるか?」
「うげ、マジか……」
「? 知ってるのか耳郎」
相澤がそう言うと耳郎だけが顔を顰めた。周囲の目も耳郎に向かい、相澤から何か知っているのなら教えろと尋ねられる。
「いや……もうだいぶ前……それこそ中学上がったばっかりの頃なんですけど……」
「ああ」
森岸の個性も例に漏れず、何の消耗もなく扱えるものではない。
彼の場合は【魔力】と仮称している目に見えないエネルギーを使うのだが、その魔力の貯蔵量と回復量が凄まじいのだ。
彼の魔力量を25メートルプールいっぱいの水とした時、普段【魔法】で使う量は一日を通してもせいぜいバケツ4、5杯分。そしてバケツ1杯分を使った頃にはバケツ3杯分くらいの水が補充されているような回復量なのだ。
幼い頃はそうもいかなかったらしく、子供にありがちな『くんれんごっこ』をしては体調を崩していたけれど。今の森岸が魔力切れになるなんてことはまず有り得ない。
最後に見たのだって中学生になったばかりの頃で、その一件の後は一度も見たことがないという。
「その……何したんですか?」
「……森岸曰く『【魔法】を改良する』と言っていたが」
「あれ改良とかどうこうできるもんなのか?」
「ラグドール……プッシーキャッツの方によると可能らしいが……」
ひとまずはA組の対応だ。バスの荷物運びと夕食、それから入浴の後に今日は就寝して終了。本格的な合宿は明日からとなる。
相澤は指示を出すと建物の中へ、森岸が休んでいる部屋へと戻って行った。
◇
やあ。深海魚くらい顔色が悪い森岸だよ。世界が鈍色に見えるね。クソが。
魔力切れなんて何時ぶりだよマジで。あの公安の犬ならぬ鳥と色々あった時か? あ、嫌なもん思い出した。死柄木の時の既視感はそれか。
今ならあれだけ使ってもこんなひっでぇ顔にはならないはずだけど、当時の俺じゃキツかったしなあ。久しぶりの魔力切れだけどこんなにキツかったっけ?
「あ、森岸。大丈夫か?」
「おー……上鳴か。お久」
「うわっ、こんなに元気のない森岸初めて見た……」
「お前ちゃんと人間だったんだな」
お前ら俺をなんだと思ってるんだ。ちょっと上鳴の全力放電に耐えられて、なんなら爆豪のハウザーまともに食らっても立ち上がれるくらいに頑丈なだけじゃないか。
ちなみに今の俺は立って歩けるくらいには元気。魔力切れ直後は全身に力入んないからこれでもだいぶ回復してる方。
「相澤先生から風呂入ってこいって言われたんだが……お前らはもう入ったのか?」
「いや今からだな」
「お前こそ飯はいいのか?」
飯は食ったから大丈夫。魔力回復の為にまあまあ詰め込んだよ。
じゃあ風呂からは一緒か。ようやく足並みが揃った。何か最近俺だけ別メニューとか多かった気がするし。
あ、流石に介助とかはしなくて大丈夫だから。ちょっと全身怠いってだけだし。
「よいしょ……っと」
「うお……すっげぇ筋肉。失礼ですが前職はボディビルダーか何かで?」
「語録やめろ」
「伝わんのかよ」
そりゃ健全な男子高校生ですし。というか普通に感心すんなジロジロ見んな。
「どうやってそんな筋肉つけたんだよ」
「【魔法】ありきの超ハードワーク。小3くらいからやってたよ」
「はええな!? そりゃこうなるかあ……」
今思い出してもだいぶ阿呆だとは思う。【魔法】使ってるとはいえ毎日フルマラソンとかしてたし。
というか、そうは言うけどお前らも普通に鍛えてるじゃん。峰田ですら腹筋割れてるし。ここに来れる奴なんて鍛えてるの前提みたいなもんだろ。
「そういや森岸は何してたんだ? 俺ら先に訓練してたとしか聞いてなくてさ」
「あー……口頭で説明しても分かりにくいと思うから明日を待て」
「えー」
多分人によって訓練内容違うだろうしな。俺の訓練についてもかなり悩んだ末にって感じだった。
魔力切れ起こしたのはほぼ自業自得だ。【魔法】を弄る時は普段【魔法】を使う時の数倍のペースで魔力を消耗するのを忘れていた俺が悪い。
何せ弄ってる間は常に魔力垂れ流しになる。上鳴で言うところの放電状態みたいなもん。そりゃすぐ限界が来る。
でもそうだな。訓練自体は普段の数倍ハードになるって事だけは言っておこう。
◇
「魔力切れ……久しぶりに聞いたなあ」
温泉に浸かりながらポツリとそんな事を呟いた。
「森岸くんの事?」
「そ。昔は頻繁に起こってたんだけどね」
麗日に聞かれてかつての情景が浮かんでくる。
小学生の頃、一番最初に仲良くなった友達が詠士だった。理由なんて大したものじゃなくて、ただ最初の席が隣だったというだけ。
思えばあの頃から詠士は詠士だった。負けず嫌いで頭のいいバカって感じで、なのに変なところで自信がない。
そんなんだから個性の自慢合戦が始まる度に【魔法】を使って、使いすぎて魔力切れを起こしてグッタリしていた。
「森岸さんの小学生時代……気になりますわね」
「ヤオモモも? それじゃ寝る前にちょっと話そうか」
「あ、私も聞きたい! 何かコイバナの気配がする!」
コイバナ……恋バナかあ……どうだろう? 何か今更照れたりも何もないからよく分からなくなっちゃってるんだよね。
多分一緒にいる時間が長過ぎて感覚が麻痺してるんだとは思うけど。詠士とそういう関係になったからって何か変わるわけでもないだろうし。
まあ聞きたいなら話してあげてもいいか。詠士に何か言われたら……大丈夫か。何も言わないでしょ。多分。
「で、何が聞きたいの?」
「そりゃあ勿論、耳郎とのアレやコレやを!」
「どれだよ」
上がって来たら早速囲まれた。早いって。芦戸はなんでそんなにがっついてるのさ。
えーと……ウチとのアレコレ? そんなこと言われても……それはもう小学校から今に至るまで全部話せって言われてるようなもんだし。
それじゃあとりあえず3年生のあの時の話しようか。
「詠士が本格的にヒーロー目指し始めた時の話なんだけど……」
「うんうん!」
本人も何度か話していたけれど改めて。
その日は将来の夢について発表しようという授業があった。
こんな時代だしほぼ全員がデカデカと『ヒーローになる!』と書いていたし、ウチも詠士もそう書いていた。
一人一人発表が終わった後に先生からコメントを貰っていて、ハキハキと喋れて偉い! とか夢が大きくていいね! とかそんな感じ。
で、その時の詠士が発表したヒーロー像ってのが『全部助けるヒーロー』だった。
……今はどうかは分かんないよ? ただ当時のアイツは市民もヒーローも俺が助けてやる! 的な目標を掲げてた。それも大真面目に。
皆はちょっと笑ってた。いやいや何それ、って。そりゃそうだよね。荒唐無稽なんてもんじゃないし。
それを先生がちょっと可哀想だと思ったのか知らないけど、擁護するように言っちゃったんだ。
「『森岸くんなら優秀なサイドキックになれるよ』って」
「あー……言ってたね。森岸くんも」
そう。多分先生も悪口のつもりじゃなかったと思う。むしろ詠士の言う『ヒーローも助けられるヒーローになる!』あたりを汲み取ったんだと思う。
でも詠士にはそうは聞こえなかったらしくて。ただでさえ普段から将来は自分の所のサイドキックに来いよ! って皆から言われてたものだから余計意固地になっちゃって。
その日から詠士は体を鍛え始めた。本当はダメなんだけど個性まで使って。
「小学三年生がさ、個性ありとはいえ毎日フルマラソンしてたんだ」
「……マジで?」
「マジ。放課後に県外まで走ってたんだって」
最初から飛ばしすぎでしょ、とは思ったけど本人はむしろやる気満々だから止められなくて。それどころか日を追う毎にトレーニング強度が増していった。
確か小学校卒業の時点で一日100キロとか走るようになってたはず。それも【魔法】の強化限界ギリギリまで使って。
そんなんだから放課後に誰かと遊ぶ時間なんかなくて、唯一遊んでいたのは家が近かったウチだけ。
「おお! おお!」
「ちょ、芦戸うるさい」
急に興奮するな。まったく。
何だかんだ最初に仲良くなって、家も近かったから家族ぐるみで仲良くなっててさ。家でも学校でもウチと詠士はセット扱いされてたの。
そしたらウチと詠士も『そういうものなのか』って思うようになっちゃった。
どこかに旅行に行く時でも『詠士も行くの?』って聞いてたし、楽器を習う時も『詠士は何にする?』って当たり前のように聞いていた。それを変だと思ったこともなかった。
中学に上がってようやく『何か普通はこうじゃないっぽい』って気づいたけど、その頃にはウチらの普通はそうなってた。
「そんなんだからさ、高校受験する時に詠士から『一緒に雄英行こうぜ』って言われて凄く困った。いや行きたいけど……って」
「「「…………」」」
「……どしたの?」
皆真顔なんだけど。何か変なこと言った?
「いや……軽い気持ちで踏み込んですいませんでした……」
「ケロ。もう恋とかそんな感じじゃなさそうね」
「え、えっと……わ、わー! わああ!」
「お茶子ちゃんがバグっちゃった!?」
「何か凄い話を聞いてしまった気がしますわ……」
本当にどうしたの???
芦戸「付き合ってないの?」
耳郎「付き合ってないね」
葉隠「付き合う予定とかないの?」
耳郎「付き合う予定とかないね」
芦戸&葉隠「「アレで?」」
耳郎「どれで?」