魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.腕取れたけど冷静なの?
 A.昔から【魔法】の負荷で身体弾けさせるような奴なので今更腕取れたくらいでは騒がない。【圧縮】の中で治療済み。

 Q.これ他の生徒のトラウマにならない?
 A.トラウマになっててもおかしくない。半端に切り離された腕が残ったせいで余計にダメージがデカくなってる。

 Q.トガちゃん置いて帰られた?
 A.黒霧の【ワープゲート】でマグネやスピナー同様に回収されました。






41.敗戦処理

 

 

 

 6人*1が合流し隊列を組んだ直後のこと。

 

 道なりに戻ってしまうとプッシーキャッツが交戦している広場に出てしまう上に、敵の目につきやすいと判断した彼らは森の中を真っ直ぐに突き進む選択をした。

 

 

 それ故に気づくのが遅れた。

 

 

 

「……!? おい、森岸がいないぞ!」

「何!?」

 

 

 最後方。この6人の中でも特に対応力に秀でた森岸の姿がいつの間にか忽然と消え失せていた。

 

 まさか敵の奇襲を受けたか? と嫌な想像が脳裏を過ぎるが、障子がこれを否定。森岸は障子と合流した時から【スピオキルト】を重ねがけしていていたという。

 その状態の森岸は爆豪の榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)でさえ軽傷で済んでしまう程の防御力がある。そんな森岸を音もなく仕留められるのか、と。

 

 

 

 

「残念ながらここに一人いたんだよなあ!」

 

 

 不可能を成し遂げたのはMr.コンプレスだった。

 

 最早爆豪勝己の誘拐は不可能だと判断した彼は手当り次第に、とりあえず一番狙いやすい最後尾にいた森岸に目をつけたのだ。

 

 恐るべきは森岸の反応速度。Mr.コンプレスの手が森岸を捕まえる寸前、彼は反射的に拳を突き出していた。

 

 これに驚いたのはMr.コンプレス。まさかカウンターを仕掛けてくるとは思わず【圧縮】の範囲が僅かにブレた。

 それにより本来は五体満足で捕縛する予定だった森岸の右腕が前腕の半ばほどから切り離されてしまい、その場にどしゃりと落ちた。

 

 マズイ、生徒の中には索敵能力持ちがいたはず。こう思ったMr.コンプレスは不本意ながら誰にも気づかれぬまま立ち去る事を選んだ。エンターテイナーを自称する身としては大変に不本意だった。

 

 そして緑谷達はMr.コンプレスが冷や汗まみれになりながら撤退した事にも気づくことなく、数分を無駄にしてしまった。

 

 

 事態を把握した時には既に遅かった。

 

 

 

 生徒41名の40名が無傷で帰還。またイレイザーヘッドやブラドキング、プッシーキャッツ6名のプロヒーローも無事。

 

 敵側からは『血狂い』マスキュラーと脱獄死刑囚ムーンフィッシュ、そしてガスを撒いていたマスタードの3名を捕縛。

 プッシーキャッツと交戦していたマグネとスピナー、そして単独行動をしていたトガヒミコは黒霧の【ワープゲート】によって逃走され、また現場には脳無のものと思われる焼死体が転がっていた。

 

 

 それら全ての代償を背負うように、森岸詠士だけが行方不明となっていた。

 

 

 

 

 

「恥を承知で宣おう……『敵活性化の恐れ』という我々の認識が甘かった」

 

「奴らは既に戦争を始めていたんだ。ヒーロー社会を壊す戦争をさ」

 

 

 長い騒乱の夜の翌日。雄英高校では教師達による会議が開かれていた。議題は当然昨晩の事件について。

 

 彼らの認識は半分正しく、半分間違っていた。敵の活性化を恐れるのは正しかった。間違っていたのは既に敵が動き始めていたという点。

 

 USJでの襲撃の際に取った『敵に屈さない姿勢』はもう使えない。未来ある生徒が拉致されるという雄英最大の失態を犯してしまったのだから。

 既にメディア達は雄英への非難で持ち切り。体育祭優勝者ということもあり、元々注目されていた人物の拉致は更に人々の目を引き付けていた。

 

 

「信頼云々ってことでこの際言わせてもらうがよ……今回で決定的になったぜ」

「マイク?」

 

 

 今後我々はどう動くか。そう話し合おうとして、プレゼントマイクが苛立ちを乗せて呟いた。

 

 一際剣呑な雰囲気を纏うマイクに全員の注目が集まり、マイクは忌々しそうにこう続けた。

 

 

「居るだろ。内通者」

「やめてよマイク」

「いいややめねえ! この際徹底的に……!」

「落ち着け。お前は自分が確実にシロだと証明できるのか? ここの者をシロだと断言できるのか?」

 

 

 ボルテージが上がりそうになるマイクをスナイプが窘める。マイクとて理解はしているのだろうが、敵に好き勝手されている現状に我慢ならないのだろう。

 

 しかし内通者の存在を疑いたくなるのも無理はない。今回の合宿先については教師陣とプッシーキャッツしか把握していなかった。外部に漏れるとすれば教師陣……もしくは生徒(・・)くらいしか有り得ない。

 

 いずれにせよ今この場ではどうしようもない話。考えるべきはもっと現実的な、これからの対応についてだ。

 

 

「とりあえず学校として行わなければならないのは生徒の安全保証さ。内通者の件も踏まえ……かねてより考えていた事があるんだ」

 

 

 立ち止まる訳にはいかない。少しでもいまできる事をしなければ。雄英は敵への、生徒達への対応をより慎重に行うように変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 合宿襲撃による生徒達の被害は森岸を除けばゼロ。あれだけの事が起きていながら誰一人として怪我人はいなかった。

 

 ……否、厳密には"怪我人はいなくなっていた"というのが正しいだろう。

 

 まず有毒ガスによって意識を失いかけていた生徒だけでも10名近くおり、中にはそのまま気絶してしまっていた者もいた。

 

 続いて敵と戦闘していた爆豪と轟、それから緑谷。ムーンフィッシュとマスキュラーというネームド敵……それもトップクラスに凶悪な人物と交戦し、前者二人はいくつかの切り傷を。緑谷は反動もあって両腕をズタボロにしていた。

 

 それら全てを解決していたのが森岸。【魔法】によって有毒ガスの解毒や治療、また負傷者の治療を行っていた。

 

 

 彼の行いを知っているが故に、生徒達は酷くショックを受けていた。

 

 多くの人を助けていたのに、公的には今回の事件で唯一の被害者になった。皆を助けていたのに誰も彼を助けてあげられなかった。

 

 この事実が心に重くのしかかり、悔しさに歯噛みする者や酷く落ち込む者等反応は様々。

 

 中でも特にショックが強かったのは彼の幼馴染……耳郎響香だった。

 

 

 

 

「……詠士」

 

 

 ベッドの上で一人、膝を抱えて彼女はポツリと彼の名を呼んだ。けれど返事をしてくれる彼の姿はどこにもなく、何度連絡をしようとも返信が来ることもない。

 

 分かってはいる。森岸の【魔法】ならそう簡単にはやられない事を。どういう状況でもアレさえ……【パルプンテ】さえあれば敵連合さえどうにかしてしまえると。

 

 だからと言って不安にならないというわけではない。心配しないはずがない。どれだけ自分に言い聞かせるように彼の無事を祈っても、常に頭の片隅に最悪の結末がチラついてしまうのだ。

 

 

 彼女の様子を気にかけてくれている者もいる。スマホの通知画面には同級生から心配のメッセージが送られており、同じ屋根の下では彼女の両親が気にかけてくれている。

 

 でもダメなのだ。今、誰に何と声をかけられても前を向けない、顔をあげられない。

 

 いつも隣にいた彼がいない。

 

 

「嫌だよ……ウチ…………」

 

 

 彼がいなければ一人で歩いていけないとは言わない。けれど、もう二度と二人で歩けないなんて考えたくもない。

 

 嗚咽混じりの独り言を止めてくれる【魔法】はどこにもいない。ただ重く冷たい現実があるだけ。

 

 それでも彼女にできることは何もない。全てはヒーローに、大人に任せることしかできない。彼女はまだ子供なのだから。

 

 暗い部屋の中、すすり泣く声だけが静かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「いいか!? 絶対解除すんなよ! 絶対だぞ!? 今解いたら絶対暴れやがるからな!?」

「コンプレス貴方ねえ……何で一番ヤバいの持って帰って来ちゃったのよ……」

「しょうがないだろ!? 一番攫いやすいのコイツしかいなかったんだからよ!」

 

 

 その頃、とあるバー。敵連合のアジト。

 

 世間を震え上がらせる大事件を起こした彼らはというと、ビー玉サイズに【圧縮】された森岸を遠巻きにしながら大いに揉めていた。

 

 

 

 襲撃を終えて戻ってきた彼らは真っ先に現状整理を行った。誰が生き残って誰が捕まったのか、何かしらの成果を残すことができたのか。

 

 まず捕まったのはムーンフィッシュにマスキュラー、そしてマスタードの3名。加えて脳無一体がいつの間にか討伐されていた。

 

 対して戦果はというと、生徒一人の拉致。それだけ。

 

 

「あんだけやってコイツ一人かあ……」

「いいじゃねえか! 最低限の目的は達成できたんだしよ! 何やってんだこのグズ共!」

「まあいいじゃない。それで……森岸詠士? だったかしらその子」

 

 

 少なくともヒーロー社会に一つ、確実に亀裂を入れることはできた。できれば爆豪勝己を攫い、敵に勧誘までできれば文句なしだったのだがこの際贅沢は言うまい。

 

 じゃあ代わりに連れてくる事ができたこの森岸とかいう奴は敵に勧誘できそうなのかというと、そういう風には見えない。体育祭を見ればそのくらいは分かる。

 

 

 だが気が気じゃないのが荼毘とトガ。お互いのことを把握していないけれどヒーロー側からのスパイという共通項がある二人はまず森岸の怪我を心配していた。

 

 だって【圧縮】する時に腕が切り離されたというのだ。下手をすると失血死してる可能性あるすらある。

 

 

「……腕取れちまったんだろ? 出して止血くらいしてやった方がいいんじゃないか?」

「そ、そうですね。人質にするなら生きてなきゃいけませんから……」

「んー……荼毘とトガちゃんの心配ももっともなんだけど、多分大丈夫だよ」

 

 

 不自然にならないよう、努めて平坦な声でコンプレスにそう尋ねると考えるような素振りを見せて問題ないと言った。

 

 曰く【圧縮】してはいるものの森岸を拘束しているわけではない為、このビー玉サイズの空間の中で勝手に自決なりなんなりしてるだろうとの事。

 むしろ『人質になるくらいなら』と死なれた方が困ると言えば困るのだが、そういう雰囲気でもないという。

 

 まあ気になるなら【圧縮】を解こうか? とコンプレスが言うと、マグネがストップをかけた。

 

 

「……ねえ、その子の個性って【魔法】よね?」

「? ああ。体育祭じゃそう言われてたぜ。何でも強化したり回復したり何でもアリみてェな個性だったが……」

 

 

 それを聞いてスピナーもある事に気がついた。

 

 

 

 

「これ、中で【魔法】で強化しまくってるんじゃね? 解放した瞬間暴れださないか?」

 

 

 

 

 その時、ここにいる全員が体育祭の時の映像を思い出していた。

 

 上鳴の凄まじい放電を真っ向から受け止めて尚平然としている防御力。轟の氷結を力づくで解決してしまう超強力なパワー。そして何より、あの爆豪の超特大爆破を片手で跳ね返す特殊能力。

 

 

 あれ? コイツ滅茶苦茶強くね?

 

 

 しかも体育祭の解説が正しければあれだけの強化は重複するという。つまりあの体育祭の光景すら全力ではない可能性が高い。

 

 で、そんな奴に準備時間をたっぷり与えた上で【圧縮】から解放したらどうなるだろうか。

 

 

 

 ──私が来たァ!

 

 

 

 ……うん、まあそうなる。間違いなく甚大な被害が出る。だってこの場に森岸と真正面から戦って勝てる奴一人もいないんだもん。

 

 

「……俺、もしかしてとんでもない爆弾持ってきちゃった?」

「お前絶対それ解くなよ!? 絶対だぞ! 解いてやろうぜ!」

「どうすんのよその子!? どっかで解かなきゃいけないのに解いた瞬間終わるわよ!?」

 

 

 まあ阿鼻叫喚。開けたら死ぬと分かってるびっくり箱だもんね。仕方ないね。

 

 どうすんだよ、これ俺が悪いのかよ、と敵とは思えない様子でギャーギャー騒いでいると、奥から足音が聞こえてきた。

 

 

「何騒いでんだお前ら……」

「あ、死柄木! 聞いてくれよコンプレスがさあ……!」

「……?」

 

 

 姿を現したのは死柄木弔。どうにも最近覇気が感じられない彼らが気怠げに尋ねると、スピナーが泣きつくように話し始めた。

 

 

「……つまりこの中に森岸詠士が入ってる、と」

「あ、ああ……それも多分、準備万端で……」

 

 

 例えるならクラウチングスタート。いつでもいけますみたいな森岸が入っているビー玉サイズのそれを見つめる死柄木弔。

 

 数秒、それを見つめていたかと思うと死柄木弔はこんな事を言い出した。

 

 

「コンプレス」

「……おう」

「解いてやれ」

「…………いいのか?」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

「少し一対一で話がしたい」

 

 

 

 

 

*1
気絶中の円場を含めると7人






教師陣「俺達のせいで生徒が……」
耳郎「詠士……」


トゥワイス「これまずくない? 何とかなるさ!」
スピナー「アカン死ぬぅ!」
マグネ「何やってんのよ!?」
荼毘(これ俺も敵扱いされて殴られそうだなあ……)
トガ(土下座すればワンチャン……)
コンプレス「ねえこれ俺が悪いの!?」

森岸「解放されたら覚えとけよ敵共」



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