Q.何で逃げないの?
A.万が一黒幕が出てきたら荼毘とトガだけで守れる自信がなかったから引き止めてた。
Q.実際逃げられなかったの?
A.あのバーからの脱出自体は可能。その後ヘドロワープで連れ戻されるので結局逃げられない。
Q.トガちゃんは新ヒロインですか!?
A.違います。
Q.そこをなんとか!
A.なりません。
「怪しいとは思ってたが……マジでスパイだったのかよ」
「あっ……」
森岸の引き止めに成功した二人の背後から声をかけたのは死柄木弔。
他の敵連合メンバーと話したいことがあると
しまった、と二人は警戒態勢を取るけれど死柄木は何をするでもなくため息を吐いた。
「どうせ盗み聞きしてたんだろ。何もしやしねえよ」
「…………すまん」
「ごめんなさい……」
「ハッ、ヒーローが敵に謝んなよ。言い訳なんざする気もねえ」
苦笑しつつ死柄木は他のメンバーについての事を話し始めた。
荼毘とトガはさておき、彼らは敵連合を信じて集まってくれた者達だ。ならば最低でも彼らに対しては誠実に応えたいから、と死柄木弔は敵連合を降りる事を伝えていた。
当然彼らからは怒り混じりの疑問を投げかけられた。お前が始めた敵連合だろうと、リーダーはお前なんじゃないのかと。
死柄木弔は己の過去を思い出した事と、それによって出した結論……敵を続けるだけの理由を失ってしまった事を語った。
「……良い奴らだよな。集めといて辞めるって言ってんのに、泣いて理解を示してくれたぜ」
「…………」
「ああいう奴らこそ何で敵やってんだろうなあ……捕まって欲しくねえから、逃げてもらった」
「そうか」
それを聞いた彼らは怒りを収め、死柄木弔に同情した。自分達だって苦しい過去があっただろうに、それらを差し置いて辛かったね、苦しかったねと寄り添ってくれた。
元々死柄木は彼らに逃げてもらうつもりでいたのだが、彼らの優しさに触れた事でますます彼らを道連れにしたくなくなった。
現在は死柄木の指示を受けた黒霧によってどこか遠くの場所に彼らをワープさせているらしく、それが終わり次第黒霧共々出頭するつもりでいるという。
「黒霧もか?」
「……アイツも逃げろって言ったんだけどな……『死柄木弔がそうするのならば私もお供します』だとよ」
「……いい仲間に恵まれてたんだな」
「まったくだ。もっと早くに気づきたかったね」
ギリギリ、というにはラインを超え過ぎた。今更立ち止まっても敵連合が社会に与えた痛みと恐怖が消えることは無い。
それでもこうして立ち止まってみて、死柄木は自覚できた。何もかもを失った先で、また何かを手に入れることだってできるのだと。
もうそこに憎悪はない。あるのは自嘲と罪悪感、それからほんの少しの希望だけだった。
「だからまあ……やるならさっさとしろよヒーロー。もう来てるんだろ?」
「……ああ。オールマイトにホークス、それからおと……エンデヴァーも来てるってよ」
「思ったより来てるな? トップ3って……どれだけ警戒されてんだ俺は」
「妥当では?」
「クソ、否定できねえ……」
世間の騒ぎとは裏腹に、あまりにも静かで穏便な決着。それから数分後に到着したヒーローと警察によって死柄木弔は確保され、敵連合の戦いは幕を下ろす。
はずだった。
「お゙えっ!?」
「っ、死柄木!?」
「なっ……何だ!?」
オールマイトを筆頭に何人かのヒーローが到着し、警察にも包囲され完全に決着がついたはずなのに。突如死柄木弔の口から黒い汚泥ようなものが溢れ出した。
それだけに留まらずもう一人、誘拐の被害者であった森岸詠士の口からも同様の事象が発生していた。
「黒霧……じゃ、ない! 何だこりゃ!?」
「なんっ……だ、コレ……!? 身体が呑まれて……」
「森岸少年! っ、何も無いところにも……!?」
更に複数、人ではなく何もない空間から黒い液体が溢れる。
何が、という疑問さえ許さぬようにその中から脳無が姿を現した。
ほんの数秒もない混乱と逡巡が命運を分けた。
死柄木弔と森岸詠士の身体は完全に黒へと呑まれ、その場から跡形もなく消え去っていた。その代わりとでも言うように無数の脳無が溢れ出し、焦点の定まらない目でヒーロー達を見つめていた。
「まさか……オール・フォー・ワン……!?」
◇
オールマイト達が死柄木弔の元へ辿り着く二分ほど前。
同じくトッププロヒーローであるホークスやベストジーニストといった錚々たる顔ぶれが行動を開始していた。
開戦の狼煙を上げたのはMt.レディ。【巨大化】した彼女の踏みつけによって隠されていた脳無工場を破壊し、後に続いたヒーロー達によって保管されていた脳無達を次々と捕縛していった。
「うええ……これ本当に生きてんのぉ……? こんな楽な仕事でいいんですかねジーニストさん」
「難易度と重要性は切り離して考えろ新人」
「そーそー。逆にどんだけ簡単でもとちっちゃいけない仕事だってあるしね」
「うっ……肝に銘じマス……」
ベストジーニストの個性、繊維を操る【ファイバーマスター】によって培養槽から引き摺り出される脳無。それをホークスの【剛翼】が運搬し、次々と
あれだけの事をしておきながら片や出頭、片や先手必勝によりアッサリと片がつくかと思われたその時。
「随分と早い対応だね、ヒーロー……」
破壊された工場の残骸、暗がりの中から誰かの声が聞こえた。
一斉にヒーローと警察の目が向けられるものの、夜闇もあってその姿を視認することはできない。
こんな場所にいるのだからまず間違いなく敵。それもおそらく連合の関係者。ギャングオルカやプッシーキャッツからその人物へと警告が向けられる。
しかしその人物は警告にも気にした様子はなく、言葉を続けていた。
「こんな身体になってから……ストックも随分と減ってしまってね……」
そうしてそれが一歩踏み出そうとした瞬間、ベストジーニストが動いた。
彼の【ファイバーマスター】によって衣服そのものが人物を拘束する。目にも止まらぬ早業と判断の早さ。民間人では? という疑念の余地もなくその人物を捕えようとして───
「今、僕は機嫌が悪いんだよ」
「僕ともあろうものが怯えさせられ、逃走を選ばされた」
「少し加減が利かなくてね……己の運のなさを呪うといい」
──音が消えた。
ベストジーニスト、ギャングオルカ、プッシーキャッツ、ホークス……名だたるヒーロー達がたった一撃で工場の残骸ごと吹き飛ばされた。
地面を大きく抉り飛ばしたまま、宙に浮いた魔王は不機嫌そうに話す。
「……鬱陶しい虫がいるな」
彼の手に握られているのはピンクとダークブルーの二色で構成された弾丸らしきもの。
彼を、オール・フォー・ワンを狙って放たれた弾丸を手で掴んでみせたのだ。
狙撃手はレディ・ナガン。右腕の肘をライフルの銃身に変形させ、特徴的なツートンカラーの髪を弾丸やスコープにする事ができる【ライフル】という個性。
正に天性の狙撃手とでも言うべき彼女の一射は造作もなく手のひらで受け止められて終わっていた。
アレは警戒にすら値しない。オール・フォー・ワンはレディ・ナガンをそう評すると、何もない空間をじっと見つめ──溢れ出る汚泥を歓迎した。
「さて……
「ゲッホっ……くっせェ……!」
「おえっ……!」
森岸詠士。ラグドール襲撃の……【サーチ】強奪の邪魔をしてくれた有象無象の子供。
それともう一人。最早使い物にならないであろう、余計な物を得てしまった死柄木弔。
今、オール・フォー・ワンの矛先はこの二人に向けられている。
片や悪の支配者に恐怖を与えプライドを傷つけた。片や役に立たない有象無象へと成り下がってしまった。この二人はオール・フォー・ワンの怒りをかっていた。
生かしておく理由もない。オール・フォー・ワンは破壊をもたらす手をゆっくりと二人に伸ばした。
「やれやれ……またやり直しか。手間をかけさせるなよ」
「っ……先生……!」
「もう君にそう呼ばれる筋合いはないね。消えるといい、死柄木弔」
そうして再び、破壊が撒き散らされる───寸前。森岸の手がオール・フォー・ワンの腕を掴んでいた。
「──【ヘナトス】」
「ん……? 一体何を……」
「【ルカニ】、【ボミエ】、【フール】───」
「っ……!? ぐ……これ、は……!?」
耳馴染みのない、意味不明の単語。それが一つ読み上げられる度にオール・フォー・ワンから力が抜けていく。
パワーを、防御力を、機動力を、思考力を。恐怖の魔王だったオール・フォー・ワンから全てが抜け落ちていく。
「っ、やめろ!!」
「おっとっと……危ない危ない……」
「僕に……僕に何をしたァ!?」
だが、肝心の個性は抜け落ちていない。長い時をかけて奪い集めた無数の個性がオール・フォー・ワンを魔王たらしめる。
数え切れない程の個性を組み合わせ、発動し、怒りのままに破壊を撒き散らす。
「やかましいんだよ魔王気取りがァッ!!」
その全てを、純然たるパワーが捩じ伏せた。
「ガアッ……!? ァ、ガ……!」
「……反動覚悟の5重【バイキルト】……大体
「なんっ……何なんだお前はァ!?」
複数個性による超出力の衝撃波が、ただのパンチ一発に押し負けた。それどころかオール・フォー・ワンにとてつもないダメージを届かせていた。
そのタネはなんでもない、自身の身を顧みない強化による超パワー。【ベホマ】の習得によって跳ね上がった強化倍率と即時回復により実現した即興の超高火力の一撃だ。
「ただのヒーロー志望学生だよ。それと……」
「……!」
「全てを返して貰うぞ! オール・フォー・ワン!!」
「俺なんぞに構ってる暇はねえだろ? なあ……自称魔王サマ」
「オォォルマイトォォオオッ!!!」
遠く離れた敵連合拠点から10秒。己の足一つで駆けつけた最強のヒーローがオール・フォー・ワンと衝突した。
◇
オールマイトが勝ちました。
戦闘描写はって? そんなもの……うちにはないよ……。
というのもあの死柄木の先生……オール・フォー・ワンだっけ? 俺の一撃が思ったより効いてたらしく、オールマイトと拮抗する事さえできなくなっているっぽかった。
まあ死ぬほど弱化くれてやってたし、オールマイトが元気な上に俺の【魔法】で滅茶苦茶強化されてたからね。負ける理由がなかった。
最初のうちは遠距離攻撃で俺と死柄木を狙って庇わせるって作戦を取ってたんだけど、俺が死柄木抱えて離脱したらすぐに形勢が逆転した。
【スピオキルト】2回分の強化が入ったオールマイトにはオール・フォー・ワンの攻撃が全くと言っていいほど通じなくなり、逆にオールマイトの攻撃すべてがオール・フォー・ワンの脅威になっていた。
途中で【衝撃反転】とかいう俺の【アタカンタ】みたいな能力を使って反撃を試みていたようだが、そもそもオール・フォー・ワンがオールマイトの攻撃を受け止めきれないからカウンターが失敗していた。
最後なんか破れかぶれになったのか、色々くっつけましたみたいな腕でオールマイトに殴りかかって行った。まあ殴り返してそのまま競り勝って終わってた。
「認めない……認めてなるものか……この僕が、こんな……っ!」
「……いいや、もう終わりだ。終わったんだ……オール・フォー・ワン」
そのオール・フォー・ワンは今、オールマイトの足元で仰向けにぶっ倒れている。
もう殴られてないのは股間周りくらいじゃね? ってくらいボッコボコにされたオール・フォー・ワンは、立ち上がろうとしては力が入らず崩れ落ちている。
いやむしろ【ヘナトス】と【ボミエ】だけでも立ってられないのに、そこに【ズッシード】……被重力増加までやったんだから動けるだけでもおかしいんだよ。やっぱ化け物だなコイツ。
「あーあ……先生もそのザマじゃあ、最初っから無理な話だったってか」
「……死柄木弔」
そうそう、死柄木なんだが……オール・フォー・ワンが殺そうとしてきたものだから滅茶苦茶ショックを受けてた。何だかんだ言ってアイツに最初に手を差し伸べたのはオール・フォー・ワンだったらしいからなあ……。
今は空元気でそれらしく振舞っているけど、どっかで絶対限界が来る。俺の【魔法】じゃ体の傷は治せても心までは治せない。時間が解決することを祈るしかない。
「……敵連合リーダー、死柄木弔。君を、捕まえさせてもらう」
「ああ……好きにしろよ」
こうして長い長い夜はアッサリと夜明けを迎えた。
・ルカニ
Ⅲから登場する単体への守備力低下効果がある魔法。
これの有無でボス戦の難易度が大きく変わると言っていいくらいには有用。しかし習得するのは支援職の僧侶ではなく攻撃役の魔法使いである場合が多い。
本作では防御力低下という効果。具体的に説明はできないがとりあえず『被ダメが増える』と思っていただければ。
・ボミエ
本編ではⅨが初登場と新参者の魔法。その効果は単体のすばやさ低下。
ぶっちゃけ使い所がほぼない魔法。これ使うなら味方のすばやさ上げた方が早いのでかなり影が薄い。
本作では【ピオラ】の逆。行動のスピードが低下するのに思考速度や感覚はそのままなので人によっては滅茶苦茶気持ち悪くなる。
・フール
あまりにも名前がそのまま過ぎる魔法。名前の通り賢さを下げる効果。
本編ナンバリングでの登場はなく、スピンオフ含めたシリーズ作品全体で3作品しか出演してない。つまり使い所もまったくないんだろうな。
本作では思考力の低下。バカになる……というよりは集中力や冷静さを失わせるという効果になっている。
・ズッシード
現時点ではXのみ登場の魔法。その効果は対象一人の重さを1.5倍にするというもの。
Xの戦闘システムは他のナンバリング作品と異なるものになっており、その中の一つに魔物を押すことで動きを止めて行動をさせないというものがある。その際に『重さ』というステータスが参照される為、このズッシードが使われることになる。パラディンのヘヴィチャージに完全に食われてほぼいらない子になっちゃったけどね。
オールマイト「……何か君、滅茶苦茶弱くなった?」
AFO「お前がおかしいんだよ!? ふざけやがって!」
森岸「ザマァwwwww」