Q.敵連合今何してんの?
A.特に何もしてない。ヒーローに見つかったら普通に敵扱いされて捕まる……が、敵連合のメンバーを把握しているヒーローが限られているのでしばらくは平穏に過ごせる……はず。
Q.あの二人の件、男子にはバレてないの?
A.ある程度察してそうなのは爆豪と瀬呂と障子と峰田の4人。他は全然気づいていない。
Q.ミッドナイト生きてる?
A.(無言で目を伏せたまま指で×を作る相澤とマイク)
元々雄英高校の防犯システムは凄まじく厳重だった。
しかしその対象はどちらかと言えば行儀の悪いマスコミを想定したものであり、戦闘能力を有した敵に関しては教師……プロヒーローが直々に出るようになっていた。
敵連合の一件からはそれを驕りだと判断した根津校長の判断により警備システムは更に厳重化。敷地内に小型の監視ロボットを大量に巡回させ、AIを搭載し異変はすぐさま教師達に通達されるように。
相澤に届いた情報はそのうちの一つによるもの。モニターに目を向けてみるとそこではA組の生徒が二人、緑谷出久と爆豪勝己がグラウンドβにて戦闘を行っていた。
「森岸は残……いや、いい。二人とももう戻って寝とけ。これは教師の仕事だ」
「え。でもあれ絶対怪我して帰って来ますよ」
「どんな事情があったにせよあれは私闘だ。余程の大怪我でもしない限りお前もリカバリーガールも頼らせん」
百歩譲って侵入してきた敵と戦っているならまだ許せた。しかしあれは見る限りどう考えてもただのケンカ。相澤が譲歩する理由がない。
仮免試験もあったのだから早く寝ろ、と眉間に皺を寄せながら二人を帰らせようとして、ドアの前に誰かが立っている事に気づいた。
ゆっくりと開いてみるとそこに居たのはやや萎んでいるが未だに筋骨隆々の肉体を持つ元No.1ヒーロー・オールマイトだった。
「……何ですオールマイト」
「二人のケンカの事だろう?」
「ええ。また緑谷と爆豪です。演習場で揉めていると……」
「あの二人については入学前から知っていて思うところがある。私に任せてはくれないだろうか……?」
何か思い当たる節があったのか、オールマイトは強い意志を持った目で相澤を見ている。任せて欲しいとは言うが、おそらくここで相澤が却下しても勝手に着いてくるだろう。
まあオールマイトなら大丈夫か……と言うには少し心許ないけれど、どちらにせよあのケンカの激しさを見るに戻ってきたら手当は必須。自分の説教はその時でいいだろうと相澤はオールマイトに任せることにした。
「だからお前達の出る幕はない。いいな?」
「……みたいですね」
「ウチも眠くなってきたし……丁度いいかも。おやすみなさい」
「はいおやすみ。全くあの二人は……」
今度こそ森岸と耳郎を部屋へと帰し、相澤は緑谷と爆豪が戻ってくるのを待つ事にした。
◇
爆豪勝己にとって緑谷出久とは幼馴染……だった。
同じ夢を掲げた友人は何の力もない無個性で、自分の後ろを追いかけているだけの出来損ないへと認識が変わっていった。
全てが狂ったのは雄英入試から。無個性だった緑谷は急に個性を発現させ、合格を勝ち取った。
それから個性把握テスト、屋内対人戦闘訓練を経て緑谷は少しずつ、確実に成長していった。ずっと石ころだと思っていた存在に負けることさえあった。
疑問は常にあった。嫌悪や拒絶からではない、冷静な部分が緑谷の
──人から授かった個性なんだ。
──いつかちゃんと自分のものにして、
──僕の力で君を超えるよ。
初めての戦闘訓練があった日、彼は爆豪に対しそう話していた。
緑谷出久から始まった疑問はオールマイトを、神野の一件を経て一つの
緑谷出久の個性は、オールマイトから貰った個性であると。
ヒントはいくらでもあった。緑谷が変化し始めたのはとある事件の後……オールマイトと接触してからだった。
そして明らかに不自然なタイミングで発現した"身体が耐えられない程の超パワー"の個性。まるでオールマイトを思わせるような一撃を放てるようになっていた。
どれも確たる証拠とは言えない。だが状況証拠があまりにも揃い過ぎている。個性発現のタイミングだけではない、入学以降もやたらと緑谷を気にかけるオールマイトの態度もそうだ。
そして何より、あの日から緑谷はオールマイトへの憧れを口にする時、ただ無邪気に憧れるだけではなく責務を持ったような表情をするようになった。
「雄英入ってから散々だ……半分野郎に魔法野郎……そして何よりデク! どいつもこいつも俺に勝ちやがって……なあ!!」
「ぐっ……!?」
「一番強えはずだった俺が負けて! クソザコだったテメェがアイツらと張り合って!! 何で! 何でずっと後ろにいた奴の背中を追うようになっちまった!!」
このケンカの発端は爆豪の八つ当たり。長い時をかけて肥大化した自尊心とプライドが粉々に砕かれ、限界を迎えた所に
自分だって憧れていたのに、あの背中を追っていたのに。どうしてこのクソザコが選ばれたんだと。自分は間違っていたのかと抑えきれない感情が噴き出した。
自分が強者であることを疑わずに生きてきたからこそ、初めての劣等感は爆豪を強く蝕んだ。爆豪という人間の根幹を丸ごと否定されてしまった。
仕方のないことだろう。だって【魔法】があれば有象無象の
これは嫉妬であり逆恨みであり八つ当たり。誰が悪いのかと言えばこれまでの自分を省みることをしなかった爆豪が悪い。それだけの事。
たとえ自覚していたとしても抑え込むなどできやしない。だってこんな感情を知らなかった、今まで抱え込んだことがないから抑え方も発散の仕方も知らないのだ。
「気色悪かったんだ! 何考えてるか分からねえ! どんだけぶっ叩いても張り付いて来やがって! 何もねえ野郎だったくせに! 俯瞰したような目で見てきやがって!!」
「っ……!?」
「まるで全部見下ろしてるような、本気で俺を追い抜いて行くつもりのその態度が!! 目障りなんだよ!!」
「そんな風に……思ってたのか……」
ここまでが爆豪の言い分。拗れた関係の原因。彼にとって緑谷出久とは無個性で何の力もない、何をされても自分の後ろを追いかけて来る理解し難い存在だ。
そして爆豪がそうしたように、緑谷とて何も思っていないなんてことはない。
「そりゃ普通は……バカにされ続けたら関わりたくなくなると思うよ……」
「…………」
「でも、今言ったように何もなかったからこそ……嫌な所と同じくらい、君の凄さが鮮烈だったんだよ」
爆豪は緑谷を畏怖し、拒絶した。しかし緑谷は爆豪を尊敬し、憧れていた。
緑谷の全身に【フルカウル】が迸る。森岸の回復を前提としたハードワークの積み重ねと感情の昂りが、緑谷を一歩だけ先の領域へと連れていった。
「僕にないものを沢山持ってた君は、オールマイトより身近な"凄い人"だったんだ!!」
「っ、さっきより速──!」
「だから、ずっと……君を追いかけていたんだ!!」
全身常時身体許容上限14%の【ワン・フォー・オール】によるシュートスタイルがほんの一瞬、爆豪を明確に上回った。
上段からの蹴りが反応が遅れたことにより未完成となったガードの上から爆豪を吹き飛ばした。
「こんなもんかよ!」
「あ゙あ゙!?」
開いた距離を積めるように突進、からの跳躍。しかし空中ならば分があるのは爆豪。手のひらの【爆破】の反動で加速し、緑谷を迎撃せんと同じく飛び出した。
それが緑谷の狙いだった。
馬鹿正直な突撃とキックを見せたことで爆豪には緑谷のキックが強く刷り込まれている。現に本来ならば両手で扱っているはずの【爆破】を片手しか使っておらず、左腕は頭の横で盾のように構えられていた。
体勢的にも横薙ぎになるキックを防ぐのならば正しい判断だろう。だからこそ──
「使わないとは、言ってない!!」
「っ───!」
脚ではなく、腕。真っ直ぐに打ち抜く為の拳を握りしめていた。
左腕では防げない。右腕は加速の為の【爆破】に使ってすぐには動かせない。不完全なガードすら挟まれることなく、緑谷の拳が爆豪の顔へと突き刺さった。
「敗けるかあああっ!!」
が、倒れない。拳を受けて尚爆豪は咆えてみせた。
己を殴りつけた腕を掴み、お返しとばかりに蹴りを腹に叩き込むともう片腕を空へと向けて【爆破】し加速。速度を乗せて緑谷を地面へと叩きつけながら【爆破】を叩き込んだ。
黒煙と静寂が立ち込める中、立っていたのは爆豪。手足を完全に制圧され、捩じ伏せられた緑谷の上に爆豪は立っていた。
「そこまでにしよう、二人とも……」
そしてもう一人。静かに二人を見守っていた憧れがいた。
◇
おはようございます。お許しを頂いてホッとしている森岸です。
昨日の夜に相澤先生に相談しに行ったら何か緑谷と爆豪がケンカしていたらしく、よりにもよって俺と響香がいる時に連絡が来てたものだから気になって気になって仕方がなかった。
結局あれはどうなったんだろうかと朝起きてから確認しに行くと、相澤先生に会う前に何故か掃除機をかけている緑谷と爆豪に遭遇した。
……うん、まあ、はい。大体察した。そういう処罰を受けたんですね分かります。
「ケンカして謹慎!?」
「馬鹿じゃん!」
「何してんのお前ら」
「「ぐぬぬ……」」
いやぐぬぬじゃなくて。何があったんだ本当に。
謹慎期間は緑谷が四日で爆豪が五日。先にしかけたのが爆豪だったのかな? というかよく除籍にならなかったな。何か情状酌量の余地的なものがあったのだろうか。
「じゃあ掃除よろしくー」
「ぐぬぬ……!」
おっと、それよりもう時間だ。可哀想だがやっちまったもんは仕方ない。俺達は始業式に行ってくるから掃除頑張ってな。
入学式の時は個性把握テストやるからと完全スルーだったが、始業式は普通に参加するらしい。皆も割と警戒していたらしく、相澤先生何かするのかなと話していた。
始業式はグラウンドでやるとのことで今は移動中。超マンモス校だけあってこうした全校生徒の移動は壮観な光景だ。
その分足を止めると後ろが滅茶苦茶詰まる。だから喋るにしても歩きながらじゃないとすんごい迷惑になるんだけども。
「聞いたよA組ィ! 二名! そちらから謹慎処分が二名も出たんだってェ!?」
「うわでた食らえ【ヘナトス】」
「何してくれてるのかな!? あ、思ったよりこれキツ……!」
だからB組……というか物間。挑発しかけるなら後にしてくれ。あと謹慎については何も言えない。
「ごめんねA組。こいつ仮免受かって変なテンションになってるんだ」
「お、そっちも全員合格した?」
「うん!……ってか"も"ってことはそっちも全員合格したんだ。良かったね!」
マジか。ということは今年の雄英一年、全員仮免一発合格したのか。これは凄いことなんじゃなかろうか。
昨日試験の後相澤先生にも聞いたが一次試験の雄英潰しは例年の慣習のようなものになっていたらしく、マークのキツさからどうしても2、3人は脱落する人が出るんだとか。
「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスミタイ。楽シミしテマス!」
「へえ! そりゃ腕が鳴るぜ!」
「ウチらそれ知らない……相澤先生そういうの全然教えてくれないからなあ」
それはそう。本当にそう。もうちょっと生徒達に情報を開示して欲しい。せめて心構えをする時間くらいください。
「……後ろ詰まってるんだけど」
「! すみません! さあさあ皆私語は慎むんだ! 迷惑がかかっているぞ!」
やべ、後ろから普通科来てた。心操お久。最後に会ったの林間学校前か? 全寮制になってからは仮免試験に向けての圧縮訓練で忙しかったしなあ。
お、でもトレーニングは続けてたっぽい。明らかに最後に見た時よりもゴツくなってる。また今度一緒にトレーニングしようぜ。回復してやるから。
「やあ! 皆大好き小型哺乳類の校長さ! 最近は私自慢の毛質が低下しちゃってね。ケアにも一苦労なのさ。これは人間にも──」
……こういう始業式とかの先生のスピーチって一回どうでもいい話題挟むの何なんだろうね。今更アイスブレイクとかいらないだろうし、そもそも始業式に必要ないでしょ。
あと何か上鳴の奴ずっと尾白の【尻尾】モサモサしてない? 暇かもしれないけど何してんだお前。
「──2、3年生の多くが取り組んでいる
「……ん?」
ヒーローインターン? 何それ?
相澤「(色々言いたいことはあるけど爆豪が精神的に不安定だったのは理解できるし緑谷としても逃げる訳にもいかなかったんだろう。だからといって仮免取得した日にケンカするか? 普通。除籍……にするには仮免もあるし危ういしで放逐する方がまずい。かといって何の処罰もしないのもよくないし……)お前ら謹慎な」
緑谷「はい……」
爆豪「ぐ……」
オールマイト(だいぶ飲み込んでくれたっぽい……今度何か差し入れとか持ってきてあげようかな……)