魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.いつどの【魔法】使ってたの?
 A.遠距離一斉攻撃に合わせて使った。攻撃音と被せたから森岸が何か言っててもミリオには聞こえてなかった。防御力を上げる【スクルト】を2回使ってる。

 Q.森岸弾かなくてよかったの?
 A.普通に相澤先生の頭から抜けてた。それはそれでいいやと思ったので止める気なし。

 Q.耳郎腹パンされてたけど森岸怒ってないの?
 A.訓練での怪我は別に怒らない。けど心配はする。ただし敵テメーはダメだ。

 Q.何で耳郎じゃなくて麗日なのかな?
 A.さあ? 全寮制になる前は森岸と下着姿で一緒に寝たりしてたから見慣れてるんじゃない? 最近の夏暑いからね。仕方ないね。




60.そ……ッッ そうきたかぁ〜〜〜ッッッ

 

 

(いやいや、いくら何でもタフ過ぎるんだよね! 誰の個性かな!?)

 

 

 ビッグ3通形ミリオ対A組19名。互いの困惑から始まった戦いは開始から3分。A組の攻撃は全てミリオの身体をすり抜け、ミリオの攻撃は多少効きはするもののノックアウトまでいかないためお互いに千日手になっていた。

 

 1人や2人くらいなら『まあそういうこともあるか』で済ませられた。しかし10人以上、それも加減無しで殴っておいて誰一人としてノックアウトできないのは異常という他なかった。

 

 これは自惚れでもなんでもない、純然たる事実。増強系個性ではないけれど鍛え上げた肉体から繰り出される拳は並大抵で耐えられるものではない。

 

 明らかに誰かの個性(・・・・・)。問題は誰の個性なのか。どういう個性なのか。

 

 尾白が言っていた事は正しい。馬鹿正直に個性の詳細を明かす敵などどこにもいないのだから、個性の考察もまたヒーローには必要な技能である。

 

 だが必ずしもそうとは限らない。オールマイトやエンデヴァーがそうであるようにその先の理想、即ち個性を使わせる前に倒す(・・・・・・・・・・・)のがベストだ。

 ミリオもそれに倣い、A組に何もさせないまま倒すつもりでいた。

 

 

 故に、この状況はミリオにとってあまりにも想定外。瞬殺どころか一人もダウンさせられていない時点で作戦も段取りもあったものではない。

 

 逆にこの状況を想定できていたのは相澤。森岸の【魔法】でそう簡単には負けない事が分かっていた。ましてや今の森岸は一度に複数人に【魔法】をかけることができる。

 

 

(一年生だと思って侮っていると下克上されるが……さあ、どうする?)

(もしかしてイレイザーヘッドからの試練だったりするのかな!? この展開は俺も困るけどイレイザーヘッドも困るのでは!?)

 

 

 ええ、そういう事です。ぶっちゃけ半分くらいは『あ、やべ』的な感じなんですけどもそういう事です。

 

 これはA組にとっての試練であり、同時にミリオへの試練でもある。

 

 如何に全員を強化できるとしても攻撃が当たらない相手と戦った場合、相手の攻撃は当たらなくともこちらの攻撃も通じない場合。それをどう切り抜けるのか、と相澤は興味深そうに見ていたわけだ。いい趣味してんな。

 

 ミリオは不敵な笑みで応える。この程度で挫けるのならばとうの昔に折れている。19名との戦いの中、彼は全員を観ていた。

 

 

「でも……残念ながら見つけたんだよね!」

「やべ、バレた」

「君でしょ! この妙な打たれ強さ!」

 

 

 遠距離攻撃をするわけでもなく、ただこちらを観察していた森岸。他と違って未だに手の内を見せていない人物。

 

 個性にもよるが他人に影響を与える効果は個性の持ち主が気を失えば途切れる場合がほとんど。あの防御力を消さないことには誰も倒せないと判断し、ミリオは一直線に森岸へと駆け出しながら地面へと沈んでいく。

 

 

「! 落ち──」

「後ろだよね!」

「──るとそう来ますよね!」

「!!」

 

 

 だがそのパターンは既に見ている。姿を眩ませた時も後衛の後ろに現れていた。ならばまた(・・)の可能性を考える。

 

 怯むことなく振り返りながら拳を引き絞る森岸にギョッとしながらもミリオの動きは止まらない。森岸の拳が出るより早く指を眼孔に突き入れ──通り抜ける。

 

 例え当たらないと分かっていても、目に向かって飛んでくるものがあれば人は思わず目を瞑る。それを利用し目潰しのフリをして強引に相手の隙を生み出す技だ。

 

 

「ブラインドタッチ目潰───!?」

「オラァッ!!」

 

 

 が、ここでも予想外の事が起こった。

 

 あてるつもりはなかったとはいえ、なんと森岸は目を瞑らなかった(・・・・・・・・)。目を潰される事を覚悟の上で殴り返してきた。

 

 カウンターを狩るつもりでいたミリオの拳と森岸の拳が衝突する。鍛え上げた拳も【魔法】の前には押し負けるらしく、ミリオが弾き飛ばされた。

 

 

「痛ったァ!?」

「ミリオに一発入れた……!?」

「うっそぉ!?」

「───そこまで。もういいだろう」

 

 

 そこで相澤からストップがかかり19対1の戦いは幕を下ろした。

 

 

 

 どうにも不完全燃焼の18名だったが、あれ以上続けても森岸以外では埒が明かないのは事実である為に何も言えなかった。

 

 それでもインターンについての話をしてくれと言われている以上、黙っている訳にもいかずミリオは少し困った様子で話し始めた。

 

 

「やー……この結果は想定外。どう話そうか困ってるんだよね」

「何だったんスか今の時間……」

「まあまあとりあえず……俺の個性、強かった?」

 

 

 そう尋ねるミリオに対し、A組の答えは『強かった』で満場一致。すり抜ける能力にワープと近接戦闘主体ならば誰もが欲しがる個性だろう。

 

 「私知ってるよ!」とアピールするねじれを宥めつつ、ミリオが述べた個性の名は【透過】。発動した瞬間に全身があらゆるものをすり抜けるようになる。

 

 

「君たちがワープと言うあの移動も推察の通り応用技さ!」

「どういう原理でワープを……?」

「まず今言った通り、俺は個性を使うと何でも通り抜けるから落ちて行っちゃうんだよね!」

 

 

 曰く、個性を発動すると地面をもすり抜けてしまう為下へ下へと無限に落ちていってしまう。

 そこで落下中に個性を解除した時、質量のあるものと重なり合う事ができないので弾かれてしまう(・・・・・・・)のだと。

 

 あのワープに見えた移動は地中に落ちたところで個性を解除し、弾き出されている姿がワープのように見えているだけ。身体の向きやポーズで位置を調整しているだけだそうだ。

 

 その挙動はさながらゲームのバグ。本来入り込めない場所に入り込んでシステムの挙動を悪用しているような使い方。

 

 しかし表現に反してその性能は強力。相手の攻撃は全て通り抜けて自由かつ瞬間的な移動を可能とする正に強個性と呼ぶべきもの。

 

 

「いいや。強い個性にした(・・・・・・・)んだよね」

 

 

 A組の賞賛を受けたミリオは謙遜ではなく、現実を語るようにこう語る。

 

 個性発動中は肺が酸素を取り込めない。何故なら空気も身体を【透過】するから。

 目や耳も同じ。光も空気の振動も網膜を、鼓膜をすり抜けていく。個性発動中は何も感じ取ることはできなくなる。

 

 あらゆるものがすり抜けるとはそういうこと。何も感じ取れず、誰かに助けてもらうこともできず、たった一人質量を持ったまま落下の感覚だけが残っている。

 

 

 例えば壁を通り抜けたい場合、以下の通りになる。

 

 全身を【透過】させたければまず地面に立つための片足を残し、それ以外の部位をすり抜けさせる。この間目や耳、鼻といった感覚器官を使うことはできない。

 

 そうしてもう片足が通り抜けたらこちらも地面に残る為に【透過】を解除し、残していた片足を【透過】させて全身を壁から引き抜く。

 

 シンプルな移動一つとってもこの手間の多さ。調整を間違えれば地面に落ちていってしまうし、弾き出されて全く別のところに移動してしまう可能性あるだってある。

 

 

「急いでる時程ミスるな俺だったら……」

「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねえ……」

「そう、案の定俺は遅れた! ビリッケツまであっという間に落っこちた! ついでに服も落ちた! この個性で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!」

 

 

 それでも【透過】という個性を強くできたのは予測(・・)によるものだとミリオは話す。

 

 周囲よりも早く、時には欺いて。何よりも予測が必要だった。よーいドンで始めれば遅れるのは明白。ならばフライングするしかない。

 

 ではその予測はどうすれば身につくのか。それは経験(・・)。積み重ねた経験則の中から情報を引き出し、思考のテンプレートを用意しておく。

 

 

「インターンは恐ろしいよ、時には人の死にも立ち合う……! けれど恐い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の"経験"!」

 

「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので! 恐くてもやるべきだと思うよ一年生!!」

 

 

 そう言ってミリオは話を締め括った。やけにプロっぽい堂に入った話し方に思わず拍手を返してしまうほどの説得力だった。

 

 

 それにA組には少し思い当たる節がある。

 職場体験は名前の通りあくまでも体験……お試しの為か"お客さん"という扱いだった。ほとんどの生徒は危ないことをさせてもらえず、雰囲気や空気感を"体験"しただけだった。

 

 インターンにはその先の"経験"がある。手取り足取りではなく自分の足で歩いて自分の手で戦う。一人のサイドキックとして責任を持って動くということだ。

 

 

 だからこそミリオはどうしても確認したいことがあった。

 

 

「……それでイレイザーヘッド。彼の個性何なんです?」

「森岸の事か?」

「そうです! 彼、俺のブラインドタッチ目潰しで目かっ開いたままで怖かったんですよね!」

 

 

 プロと比べるとそう多くはないミリオの戦歴だが、その中にはブラインドタッチ目潰しをされて怯まない相手はいなかった。たとえ怯まずとも避けるなり防御なりの行動を取ろうとしていた。

 

 それに比べて森岸はどうだろうか。怯むどころか目を閉じようともせず殴り返してきた。いくら防御力を上げられるからといって人体の急所である眼球を狙われれば一溜りもないはずだろう。

 

 ミリオの疑問に対し、相澤は淡々と答えた。

 

 

「アイツの個性は【魔法】……防御力だけでなくパワーもスピードも強化できる万能個性だ」

「……マジです?」

「マジだ。森岸がいれば一年生でもああなる」

 

 

 あれは言わばミリオの対極に位置する個性。自分以外の何者も触れることのできなくなる無敵の個性と、自分を含めた大勢を引き上げる個性。

 

 無敵の個人と最強の組織。ある種の矛盾とも言える戦いだった。

 

 

「頼んでおいてなんだが……いい刺激になっただろ?」

「……! ハハハ! そりゃあもう!」

 

 

 驕っていたつもりはなくとも、無意識にA組を侮っていたことは紛れもない事実。誰にも触れられない無敵だと思い上がりそうになっていた鼻っ柱を叩き折られ、ミリオは面白そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見るからに不衛生だな……ここが本拠地か?」

『そんなわけあるかい。信用のない相手を本拠地に招くほど馬鹿ではないぞ。ここは面接会場ってところじゃな』

「勘弁してくれよ……病気になりそうだ」

『ほっほっほ! まだ自分がまともだと思っとるあたり、君も十分病気じゃよ!』

 

 

 

 

 

「それで? 話を聞かせてもらおうかドクター(・・・・)

『そう焦るなオーバーホール(・・・・・・・)。ワシと先生の傑作……脳無(・・)についての話じゃ』

 

 

 

 







通形「何で目閉じなかったの?」
森岸「潰されても治るんで」
通形「えっ」
森岸「えっ」
通形「……痛いよ?」
森岸「アレ痛いッスよねホント」
通形「えっ」
森岸「えっ」
相澤「お前ちょっとこっち来い」
森岸「げっ」
通形「え?…………いや……えっ?」



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