魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.股間の防具とかなかったの?
 A.あっても痛いものは痛い。二回目に関しては一回目で壊れた後だからもっと痛かった。

 Q.潰れてたの?
 A.一回目は潰れてなかった。二回目はお亡くなりになられた。ちなみにどっちでも竿はご臨終していた。

 Q.やり過ぎでは……?
 A.そこに治せる奴がいるじゃろ?






64.インターンってこんなんでしたっけ?

 

 

 

 あ……ありのまま今日起こった事を話すぜ!

 

 俺はヒーローインターンに行ったと思っていたら親子喧嘩を見せられていた……

 

 な……何を言ってるのか分からねえと思うが俺も何が起こっていたのか分からなかった……腹筋がどうにかなりそうだった……

 

 ドッキリだとかコントだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと面白いものを見せつけられたぜ……

 

 いや親子喧嘩してる所は真面目な顔してられたんだけどさ。エンデヴァーが息子にムスコ潰される瞬間はどうしても笑いが込み上げてくるって。エンデヴァーからあんな切ない高音の悲鳴があがるなんて思わないじゃん。

 

 

 あの後燈矢は言うだけ言ってやりたい放題してスッキリしたのか、今日のところは帰ると言ってホークスと共に去っていった。

 

 エンデヴァーとしては家に帰ってきて欲しかったみたいだがあまりの激痛に途切れ途切れの呻き声を漏らす事しかできず、慌てて俺が回復させた。

 

 しかし幻肢痛的なヤツなのか息子に潰されたムスコは治っても鈍く重い痛みが残ったようで、今日のインターンはそこで終わりになった。

 

 それと流石に死んだはずの長男が生きてました、なんて話を放置するわけにもいかず、轟家で家族会議などをしなければならずこの先のインターンは取りやめ。エンデヴァーの代わりにバーニンが謝罪していた。

 

 

 良くも悪くも刺激たっぷりのヒーローインターンは早くも終わりを迎え、色んな意味で疲れきって帰寮した所なんですが。

 

 

 

「詳しく……」

 

「説明しろ」

 

「今、俺は冷静さを欠こうとしている」

 

「話す、話すから! その漆黒の意思でも宿ってそうなガンギマリ顔で近寄って来るな!?」

 

 

 

 轟焦凍の存在が頭から完全に抜け落ちていた。情報伝達早すぎやしねえかエンデヴァー。それともホークスか?

 

 どちらにせよ轟に燈矢が生きていたことと、俺がそれを知っていながら轟に伝えなかった事もバレている。知らぬ存ぜぬが通るような雰囲気ではなさそうだ。

 

 

 ……とは言ったものの、つい最近までその辺の事情何一つ知らなかったんだよな俺。

 

 インターンの時になって初めて轟家の事情に興味を持ったし、それまでは燈矢の事も轟の兄くらいにしか思ってなかった。

 

 燈矢も轟も家族の事をまったく話題にしないし、こっちから聞くのも変だろうと敢えて触れずにいたら思ってたんと違うヤベー話が飛び出して来て驚いたんだぞ。

 

 轟がエンデヴァーの事を憎悪するまでいってた何て全く知らなかった。あの時の燈矢が本当はヤバい状況だったなんて思いもよらなかった。何で黙ってたも何もそっちも知ってるもんだとばかり……ってのが俺の言い分。

 

 

「……悪い。そういやお前には話してなかったな」

「いやそんな話されるようなきっかけもなかったし。逆に誰に話すんだよこんな事」

「体育祭の時に緑谷には話したぞ?」

「話したの?」

 

 

 マジか。滅茶苦茶反応に困ったんじゃないかそれ。どう返しても正解にならないじゃんか。

 

 轟視点の轟家もまあまあ地獄。兄が山火事で死んで父親の訓練はますます苛烈になって、トドメに母親が精神的に限界を迎えて煮え湯を浴びせたって……普通なら轟の心の方も限界が来てそうなんだけどなあ……よくもまあここまで真っ当でいられるな。

 

 そしたら今度は死んだはずの兄が生きててその事を同級生が知ってました! になるのか。そら冷静ではいられないわな。

 

 

「燈矢兄はどうするって言ってたんだ?」

「さあ……? そもそも俺が聞いてた話じゃ『もう家に戻っても意味がない』って……ああ、そういう事か?」

「? どういう……?」

 

 

 ついでに一つ謎が解けた。燈矢は轟家の惨状を把握してなかったからあんな事言ってたのか。それで現状を知っていてもたってもいられずエンデヴァー(父親)を殴りに来た……と。

 

 ホークスの『だから言ったのに……』って呟きはそれか。ようやく話が繋がった。

 

 

「燈矢は轟とか家族とかが嫌になって帰らないって言ってたわけじゃなかったんだ」

「……本当か?」

「ああ。あの感じだと多分気まずいから会いたくなかったとかのが近いかもな」

 

 

 あとここで話聞かなくても明日とかにエンデヴァーから招集かかると思う。ヒーローとしてじゃなくて轟家の父親として。

 

 

 

 ……そういえば別れ際にエンデヴァーが『いつかちゃんとしたお礼がしたい』って言ってたな。まあ家族会議やらは無関係だしもっと後の話だろう。多分、きっと、おそらく、メイビー。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 同日朝。インターンの為に動いていたのは森岸だけではなかった。

 

 謹慎明け直後の問題児。オールマイトの弟子にして【ワン・フォー・オール】の後継者、緑谷出久もまたプロの門戸を叩いていた。

 

 

「ここがサーの事務所だよね」

「お、おォ……」

「おいおい固まるなよ! 良くないぜ!」

 

 

 そしてもう1人。カチコチに緊張している緑谷を励ましているのは雄英ビッグ3が1人、通形ミリオだ。

 

 

 

 謹慎が解かれたその日、緑谷はオールマイトにインターン先にサー・ナイトアイ事務所の紹介を頼んだものの、断られてしまっていた。

 

 しかしそれはあくまでもオールマイトからは(・・・)紹介できないという話。オールマイト以外の人間から紹介してもらえばいい。

 

 そこで白羽の矢が立ったのがミリオだった。

 

 ミリオは現在サー・ナイトアイの下でヒーローインターンを行っており、既に一年が経過している。それだけの期間インターンに参加していればサイドキック入りも確定したようなもの。

 

 そんなミリオにオールマイトはこう尋ねた。『緑谷少年はナイトアイの下で働けると思うかい?』と。

 

 ミリオはしばし考えるような素振りを見せた後、緑谷に『どういうヒーローになりたい?』と問いかけた。

 

 

「……どんなに困ってる人も笑顔で──……誰にも心配させることのないくらい、必ず勝って必ず助ける……最高のヒーロー……です」

 

 

 漠然としていた憧れは経験を経て形を成しつつあった。個性を、ヒーローの世界を知れば知るほどにその道がどれほど難しいものかを理解してきた。

 

 だからこそ強くなりたい。強くならなければならない。緑谷は真っ直ぐにミリオを見つめてそう語った。

 

 

「めちゃくちゃな目標だね……断る理由ないしいいよ」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 

 

 そうして今、緑谷はミリオの紹介でサー・ナイトアイの事務所前まで来ている。

 

 緑谷の中にあるサー・ナイトアイというヒーローは自分にも他人にも厳しいストイックな人物。モニター越しですら鋭い眼差しにゾワッとさせられるほどだと。

 

 故に緑谷の緊張も一入だったのだが、ミリオは理解を示した上で忠告を口にした。

 

 

「それもだけどね……サーにはメディアと違うもう一つの顔がある」

「……!?」

「君が門前払いされたくないのなら、これからサーと会って話し終わるまでに必ず一回サーを笑わせるんだ」

「へ?」

 

 

 曰く、サー・ナイトアイはああ見えてユーモアを最も尊重しているとの事。元気とユーモアのない社会に未来はないという思想からくるものらしい。

 

 それとおそらくだがオールマイト。常に笑みを絶やさない平和の象徴を間近で見てきたからこそのユーモアかもしれない。

 

 

「さて、あのドアの先だ。強くなりたいなら己で拓け!」

「っ……はいっ!」

 

 

 

 覚悟を示す時が来た。緑谷は一度深呼吸をすると、緊張した面持ちで勢いよくドアを開き───

 

 

 

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

「まったく……大きな声、出るじゃないか」

「やめてー!! 許してくだヒャヒャヒャ!!」

「一体何が!!?」

 

 

 

 ──ドアを閉めたくなった。何これ?

 

 ヒーロー事務所に入ったはずなのに真っ先に目に入ったのは腕を上げた状態で拘束されてくすぐりを受けている女性サイドキック。そういうプレイなん?

 下乳のあたりから鼠径部寸前までが露出したコスチュームということもあってあまりにもインモラルな光景である。人によっては大声でお礼の言葉を叫ぶだろう。

 

 笑い過ぎて苦しいのか涙目になりながらも笑い続けるサイドキックの女性、バブルガール。それを呆れたような声で咎めている人物こそこの事務所の主であるサー・ナイトアイだ。

 

 

「────」

「うっ……おォ……!?」

 

 

 典型的でジャパニーズサラリーマンスタイルの目がこちらに向く。眼鏡の奥の鋭い眼光が緑谷を射抜き、ただの一瞥とは思えぬ迫力に気圧されてしまう。

 

 だが、その程度で立ち止まれない。緑谷は強くなりたくて自分のワガママで導いてもらったんだと己に言い聞かせる。

 ここからは緑谷自身の手で切り拓かなければならない。誰の手も借りず、自分の手でユーモアを示さなければ。

 

 

 

「緑谷出久です!!」

 

 

 

 クワッッ、と渾身のオールマイトの顔真似を披露した。違うそうじゃな……いのか? 何が正解なんだこれ。

 

 何をどうすればそうなるのか、いつものナード顔がアメリカンな作画のオールマイトフェイスに。最早そういう個性なんじゃないだろうかと思わされる程の変化とクオリティである。

 

 これにはミリオも呆然。笑わせろと忠告はしていたけれどまさかそんな隠し芸を持っていたなんて思わなかった模様。それはそう。

 

 オールマイトに憧れるあまり長年鏡の前で練習を続け、とうとう顔のパーツごと変化しているんじゃないかというクオリティまでたどり着いた顔芸。果たしてサー・ナイトアイの反応は……

 

 

 

「オールマイトを馬鹿にしているのか?」

 

 

 

 が、駄目っ……! サー・ナイトアイ、キレた!

 

 ウケるウケない以前の問題。まさかのナイトアイブチ切れである。

 

 ミリオはもう情報処理が追いついていない。バブルガールのくすぐり拷問はまだ理解が及んだけれど、後輩の顔芸からもう限界が近かった。

 ぶっちゃけこれはウケただろ! と思っていたらナイトアイがブチ切れてもうわけが分からない。スベるならともかくキレるとは一体どういう事だろうか。

 

 ナイトアイは額に青筋を浮べながら緑谷に近づき、緑谷の顔を掴むとこう告げた。

 

 

「オールマイトにこんなシワはない!!」

「!?」

 

 

 続けて捲し立てる。

 

 

「目元のシワは通常フェイスにて約0.6センチ。シルバーエイジからは約0.8センチ。今時ノンライセンス商品でも何時代のオールマイトか識別できるよう作られる」

「ちょっ……待っ……!!」

 

 

 そう。彼はオールマイトの元サイドキックにして重度のオールマイトファン。お堅いデスクに見える事務所もよく見てみれば至る所にオールマイト関連のグッズが所狭しと並んでいる。

 

 本棚にはオールマイト関連の書籍が、ラックには映像作品が。壁には非売品のタペストリーすら飾ってある。

 

 そんなナイトアイの前でのオールマイトの真似など火に油どころか消防車のホースでガソリンをぶち込むようなもの。そりゃあ怒りもする。

 

 

 だがそれは緑谷のオールマイトフェイスが不完全ならばの話だ。

 

 

「"ビネガースーサイド事件"……ご存知ないですか……?」

「…………!」

 

 

 ビネガースーサイド事件。水質を変えられる個性を持った中学生が川で溺れ、それをオールマイトが救助した件の事を指す。

 

 溺れた中学生はパニックから個性を暴走させてしまい川の水をお酢へと変化させていた。そんな中に飛び込んだものだからオールマイトは目をやられてしまう。

 

 

「救出直後のインタビューで見せた目をすぼめた笑顔、僕はそこをチョイスしたつもりだったんです!」

「……もちろん知っている。私が組む以前の事件。テレビ番組『あの頃を振り返る』スペシャルでも少し触れていた」

「敵もいないし他の活躍に比べて地味なんで、ファンサイトでも滅多に挙がらないんですけど好きでして……」

 

 

 正直オールマイトファンであるミリオでもなんのこっちゃ? という話。というか聞き間違いでなければ後輩はコンマ数センチ単位でオールマイトの顔を真似できるって言わなかった?

 

 剣呑な雰囲気はどこへやら。ブチ切れていたはずのナイトアイは緑谷と濃いめのオタトークに花を咲かせており、笑わせるより数段難易度の高い事をやり遂げていた。

 

 

「ミリオくん……あの子……何?」

 

 

 その間に息も絶え絶えなバブルガールを救出していたミリオはこう答えた。

 

 

「後輩ですよね。サーと同じ熱量で語れるっぽいオールマイトファンの」

「そんな子いたんだ……あ、腹筋つる……!」

 

 

 あの、インターンそっちのけでオールマイトトークするのはどうなんです? とまでは言えなかった。

 

 

 

 






轟「燈矢兄は親父に何したんだ?」
森岸「……股間を」
轟「?」
森岸「(タマ)を奪りにきたというか玉を潰しにいったというか……」
轟「お、おう……」
森岸「エンデヴァーがあんな情けない悲鳴上げて蹲るの初めて見たぞ。動画撮っとけばよかった」
轟(ちょっと見たかったなそれ)



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