魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.森岸の【魔法】で出し物したらどうなるの?
 A.そのまま【魔法】体験コーナーになってた。パンチングマシーンとか100メートル走をさせて超人の視点を体感できる。

 Q.森岸の案が通って女装したらどうなってた?
 A.体格は誤魔化せてないけど所作が完璧なタイプの女装になる。多分ヤオモモ仕込み。

 Q.森岸は何の楽器が上手いの?
 A.一番はトランペット。耳郎父から「及第点だな!」と厳しいお言葉を頂いている。





77.ワンモア

 

 

 

 文化祭についての話が行われたその日、相澤引率の下森岸と緑谷と通形はとある病院へと足を運んでいた。

 

 

「ここかあ……ここにエリちゃんが?」

「う……何か緊張してきた……」

「そんなんじゃエリちゃんに会っても困らせちゃうぜ! 笑っておけ!」

「それはいいが声は抑えろお前ら。ここは病院だぞ」

 

 

 その理由は怪我によるものではなく、面会。死穢八斎會から保護されたエリちゃんと会うためである。

 

 

 森岸の【ベホマ】で回復された後、念の為検査しておきましょうということでエリちゃんは病院へと搬送された。

 

 幸い【ベホマ】による怪我の治療は完璧で後遺症はなく、痛々しい傷痕も全て綺麗さっぱりなくなっていた。

 

 問題はここから。

 

 エリちゃんは個性【巻き戻し】によって非常に危うい状態にあった。

 

 というのもエリちゃんはかつての緑谷のように個性の制御に慣れておらず、一度発動してしまうと自分の意思で止めることもできない。そして【巻き戻し】を受け過ぎると巻き戻り過ぎて消滅(・・)してしまうのだ。

 

 額の右側にある角が【巻き戻し】のエネルギー貯蓄に応じて伸びるらしく、保護された当時は一目で分かるほど角が伸びており、いつ暴発してもおかしくないと思われていた。

 

 

 【ベホマ】を受けるまでは。

 

 

「どういう理屈か知らんが……お前の【ベホマ】を受けた後、エリちゃんの角もいつの間にか縮んでいた」

「……何でですかね?」

「君も分からないのかい?」

「流石に前例がないんでちょっと……」

 

 

 色々と仮説は立てられたものの、細かい理屈は分かっていないがとにかく【ベホマ】……というか回復魔法を使うとエリちゃんの角が縮む事だけは判明していた。

 

 それ故にエリちゃんの個性が暴走した場合は相澤の【抹消】か森岸の回復魔法が頼みの綱となる。

 

 

 と、ここまで長々と綴ったが、今回彼らが来た理由は【巻き戻し】が関係する事ではない。

 

 エリちゃんはこれまで死穢八斎會で散々に酷い事をされてきたせいか、他人を怖がるようになってしまいちょっとした要望さえ口にできなくなっていた。

 

 我儘を言うと誰かが傷つけられると刷り込まれてしまっており、ギリギリまで口を噤んでしまうという。

 

 そんなエリちゃんが初めて口にした要望こそが『森岸達に会いたい』というものだった。

 

 

 

「あ……」

「やあエリちゃん。魔法使いのお兄さんが来ましたよ」

「会いに来れなくてごめんね」

「これリンゴ! 好きって言ってたからね! 看護師さんに剥いてもらおっか!」

 

 

 あの日優しい手で抱き留めてくれたデク。救ける為に戦ってくれたルミリオン。身体を治してくれたレックス……先の見えない痛みと苦しみの中で生きてきたエリちゃんにとって彼ら三人はまさにヒーローと言うべき存在になっていた。

 

 俯きがちで暗くなっていた表情は三人を見つけた途端、僅かに明るくなった気がした。

 

 

「れっくすさんと、るみりおんさん。でく、さん?」

「そう。ヒーロー名って言ってね。ヒーローとして頑張る時に使う名前」

「覚えやすい方とか呼びやすい方でいいよ!」

「ひーろーめい……デクさん」

 

 

 まずは改めて自己紹介。事件後ということもあってドタバタしていた為、落ち着いて一人ずつ名前とヒーロー名を名乗った。

 

 幼い子特有のやや舌っ足らずな遠慮がちなトーンで三人の名前を復唱した後、エリちゃんは小さな頭をぺこりと下げた。

 

 

「たすけてくれて、ありが、とう……ございま、す?」

「ああ、お礼が言いたかったのか! どういたしまして!」

「わっ……」

「通形先輩ちょっと声大きいですって」

「あ、ごめんね」

 

 

 エリちゃんが望んだのは三人に会うこと。そして直接自分の口からお礼を言うことだった。

 

 しかしそこにあるのは『ありがとう』という意味よりも『ごめんなさい』という感情だ。

 

 このくらいの年齢であればもう少し我儘になっているはずなのに、我儘どころかほんの少しの頼みごとさえ口にするのを躊躇っている。

 

 根底にあるのはオーバーホールに植え付けられた恐怖。自分の我儘で人が死ぬところを何度も何度も見せられてきたが故の根深いもの。

 

 何となくそれを感じ取った三人は気づいた事を気づかせないように振る舞いつつ、悲しそうにしていた。

 

 

「うん、どういたしまして。エリちゃんが無事でよかったって、皆も思ってるよ」

「ん……」

「そうだよ。僕も、ヒーローの皆も君の笑顔が見たくてやったんだ」

「……ん、ぅ……」

 

 

 そっと手の熱が伝わるよう、優しくエリちゃんの頭を撫でる森岸。あの時緑谷と会った時から撫でられるのが好きになったのか、目を閉じて心地よさそうに頭を擦り付けている。

 

 森岸の言葉に同調して緑谷が続くと、エリちゃんはパチリと目を開けもどかしそうに自分の頬を引っ張り出した。

 

 

「ちょっ……痛くない? どうしたの?」

「……ごめんなさい。笑顔ってどうやればいいのか……」

「……!」

 

 

 グズるように出てきた言葉に緑谷もミリオも思わず硬直させられた。一人あの場で知っていた森岸だけは痛ましそうに見つめ、再びそっと頭を撫でた。

 

 恐怖と絶望に塗れた日々が続いた事による心因性の後遺症。こればかりは森岸の【魔法】でもどうにもならず、二人の視線に黙って首を横に振った。

 

 何をしてあげたらいいのか分からない。森岸とミリオが静かに見つめていると、緑谷がハッとした表情で騒がしく立ち上がった。

 

 

「相澤先生……エリちゃん、一日だけでも外出できませんか……?」

「無理ではないはずだが……というかこの子の引き取り先を今……」

「じゃあ──」

 

 

 

「文化祭! エリちゃんも来れませんか!?」

 

「……なるほど」

 

 

 緑谷が思いついたのは文化祭にエリちゃんを連れていくことだった。

 

 敵活性化もあって今年の文化祭はごく一部の関係者を除き、学内でのみ開催される。となれば外部から接触される可能性も低く、迷子になっても雄英敷地内であれば即座に対応ができる。

 

 相澤もそれは盲点だったのか、感心したように声を漏らしていた。

 

 文化祭という単語を初めて聞いてキョトンとするエリちゃんにミリオが説明する。学校で行うお祭りで、学校中の人が学校中の人に楽しんでもらえるようにするイベントだと。

 

 

「出し物をしたり食べ物を出したり……あ! リンゴ! リンゴアメとか出るかも!」

「リンゴアメ……?」

「リンゴをあろうことか更に甘くしちゃったスイーツさ!」

「さらに……」

 

 

 それを聞いたエリちゃんは余程リンゴが好きなのか、目を輝かせてほんの少しヨダレすら落ちそうになっていた。

 

 本人も乗り気である事が分かった相澤は校長に掛け合ってみると言い、部屋を離れて電話をかけ始めた。

 

 

「……私、考えてたの。救けてくれた時の……救けてくれた人のこと……ルミリオンさんたちのこと、もっと知りたいなって考えてたの」

「嫌ってほど教えるよ!! 校長にいい返事がもらえるよう、俺達も働きかけよう!!」

「ですね。俺の【魔法】も必要なら協力しますんで」

 

 

 エリちゃんの文化祭参加が現実となるよう、それぞれのできることを考えながらその日の面会は終わった。

 

 別れ際に寂しそうに森岸の手を掴んでいたエリちゃんだったが、またすぐ会えるよと頭を撫でられ本当に渋々といったようで手を離していた。

 

 

「すんごく好かれてたね」

「治してくれた人というのが大きいらしい。時々腕を見て傷がない事を喜ぶような素振りを見せていたそうだ」

「やっぱ今からオーバーホールもう二、三回殴りに行ったらダメですかね?」

「やめときな!? 気持ちはわかるけど!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。インターンの補習も終わって帰ってきたら文化祭の話し合いが進んでいた。あ、補習は今日で終わりました。

 

 何にするかは聞いているが、まさか生演奏とダンスとは。そういうのを考えなかったわけじゃないけど嫌がる人もいると思っていたからちょっと意外だ。

 

 で、どこまで話が決まってるのか聞いてみると俺と響香、爆豪は演奏係で決定しているらしい。それとヤオモモがキーボードを担当すると。

 

 

「ベースが響香で、俺はギター?」

「そ。トランペットも考えたんだけど、ちょっとやらせたいことあるし」

「やらせたいこと?」

 

 

 何させる気だオメー。もうちょっと内緒、じゃないよ。可愛いなおい。

 

 それで、後は何が決まってないんだ?

 

 

「ボーカルが……」

「へ? 歌は耳郎ちゃんじゃないの?」

「ぅえ?」

「え、響香じゃなかったの? 完全にそのつもりでいたんだけど」

「ウチは詠士にしてもらおうかと……」

 

 

 あ、それでトランペットじゃなかったのな。そら歌わせるつもりなら管楽器担当にはさせられんわな。

 

 歌に関しては明確に響香のが上手いから響香がした方がいいんじゃ……と、思っていたら他にも三人ほど立候補があった。峰田と青山と切島だ。

 

 

「ボーカルならオイラがやる! モテる!」

「ミラーボール兼ボーカルはそうこの僕☆」

「オウ! 楽器はできねえけど歌なら自信あんぜ!」

「じゃあはい、マイク」

 

 

 そんな言うなら、とヤオモモにマイクを創ってもらって歌わせてみることに。そんな軽く創れるもんなのかそれ。マイクスタンドまで丁寧に用意してるし。

 

 まず切島。ジャンル違いで却下に。上手いっちゃ上手いんだがそれ演歌じゃん。

 次に峰田。身体が小さいことを気にして迫力を出そうと無理にがなり過ぎてる。喉痛めるからやめとけ。

 最後に青山。うん……まあ、はい。ファルセットってかただの裏声。

 

 

「じゃあ森岸」

「やっぱ俺もしなきゃ駄目?」

「耳郎ちゃんが推薦するんだから気になる!」

 

 

 そっかあ。じゃあ……少し前にやってたオールマイトのドキュメンタリー映画の主題歌でやってみるか。アレ好きなんだよね。

 

 

 

 

 

「…………アリでは?」

「クソ、普通に上手い……!」

「考えてみりゃあ耳郎とセッションできる奴は普通に歌えるよなあ……」

「感情乗せるの上手いな」

「声変わりしてから低音上手くなってんじゃん。やっぱり詠士でいいでしょ」

 

 

 あら高評価。でも待ってくれ。まだ響香が歌ってないから。まだ決めるのは尚早だから。

 

 というわけで響香にマイクをパス。恐れ慄くがいい、響香の歌は凄いぞ。

 

 

「そうだよ! 前に部屋で教えてくれた時歌もすっごくカッコよかったんだから!」

「ちょっと……あんまりハードルあげないでよ。やりにくいって」

「音で殺るんでしょ? いいからいいから」

 

 

 俺と葉隠で強引にマイクを押し付けると腹を括ったのか、少し顔を赤くしながらも歌い始めた。

 

 

 

 

 

「……耳が幸せ!!」

「ハスキーセクシーボイス!!」

「耳郎ちゃんで決定だー!!」

「う、嘘ぉ……」

 

 

 ほれ見た事か。歌はやっぱ響香よ。

 

 

「でもよぉ……俺ァ森岸の方も良いと思うんだが……」

「……うん?」

「ちょっと分かる。俺も悩む」

 

 

 あのちょっと? 切島も尾白も何をいってらっしゃるので?

 

 いや待ってくれよ。何で同意見の奴が数人いるんだよ。響香のが上手かったじゃんか。

 

 

「ステージの時間って何分あるんだっけ?」

「最大で20分は取れるはず」

「……おい待て。まさか……」

 

 

 

「2曲、やろう!」

 

 

 ははーん、さては拒否権ないなこれ? 響香も縋り付くようにこっちを見るでない。頷いてしまいそうになるからやめなさい。

 

 

 ……いや、待てよ?

 

 エリちゃん来るって言ってたし、それなら俺も目立つところにいたいな。演奏係でも目立つだろうけどダンスメンバーに埋もれそうだし。

 

 そう考えると2曲目でボーカルやるのもそんなに悪くはなさそうだな。それなら……

 

 

「……いいよ、やろう。2曲」

「! ホント!?」

「おう。あ、でも練習時間とか大丈夫そう? 単純に倍になるけど」

「そこはほら、頑張るって事で!」

 

 

 いいのかそれで。

 

 

 少々ハードモードだが響香と俺で2曲やる事が決定した。それもボーカルオーディションで歌った2曲で。

 

 後は楽器。今出てるのは響香のベースと俺のギター、爆豪のドラムにヤオモモのシンセサイザー。できればギターがもう一本欲しいな。

 

 と思ったら上鳴が立候補した。色んな趣味に手を出していたがどうやらギターもちょっとだけやった事があるらしい。

 

 ギターについては俺が教えられる。ヤオモモのシンセサイザーは響香に任せよう。

 

 

 それからバンド、演出、ダンスと役割分担の会議は進んで深夜一時。ようやく全ての役割が決まった。

 

 

「全役割決定だ!!」

「明日から忙しくなるぜ!!」

 

 

 それはそれとして早よ寝かせてやれ。飯田の顔凄いことになってんじゃん。

 

 

 

 






上鳴「……思ったんだけどさあ」
森岸「何?」
上鳴「お前小さい頃からトレーニングに【魔法】開発に歌と楽器の習い事って……滅茶苦茶キツくなかった?」
森岸「そこはほら【ホイミ】があったし」
耳郎「一回どこまでやれるのか確かめたら三日くらいぶっ通しで動いてもピンピンしてたよ」
上鳴「こっわ。え、いつの話?」
森岸「小2のころ」
上鳴「やっっっっば」



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