Q.おや、エリちゃんの様子が……?
A.森岸とエリちゃんの性別を逆にしてみよう。歳上の大きいお姉さんが優しく撫でてくれながら身体中の痛いところ全部治してくれて傷跡全部消してくれた……何とは言わんがひん曲がる。
Q.やけにエリちゃんに優しいのは何故?
A.小さい女の子への対応がデフォであんな感じなだけ。小さい男の子相手だとまた別の対応になる。
Q.【インテ】の反動って治せないの?
A.少なくとも【ホイミ】系統ではあんまり効果がない。糖分の摂取等で早く治るくらい。
練習開始から一週間。【インテ】による学習効率強化もあって全体的にメキメキと成長しており、バンド隊ダンス隊共に充足感を滲ませながら疲れた、と口にしていた。
連日の厳しい練習も続けば慣れるが疲れは溜まる。一階の共有スペースにて寛ぐ者達は椅子の背もたれやソファに身体を預けてクッタリとしており、普段よりも幾分か静かになっている。
それでも元気な者は元気。上鳴にダメ出しをしている爆豪やダンスの映像を見返している芦戸等、殺る気……もといやる気がありあまっている様子。
「耳郎さんご指導も本職さながらですわ。素人の上鳴さんが一週間でコード進行を安定して弾けるようになるなんて」
「詠士の【魔法】込みだけどね。後は本人の頑張りもあるし」
キッチンでは八百万と耳郎が談笑しており、唯一バンド隊の中で素人だった上鳴の成長を喜んでいた。
フワリと良い紅茶の香りが漂い始め、耳郎が思わず香りについて言及すると八百万はパッと表情を明るくさせて語り出した。
「わかりますの!? お母様から仕送りで戴いた幻の紅茶、ゴールドティップスインペリアルですの! 皆さん召し上がって下さいまし!」
「……そっか!」
「よくわかんないけどいつもありがとー!!」
「よくわかんないけどブルジョワー!!」
相変わらずこういう所はお嬢様なんだなあと実感させられるA組。残念ながらそこまで違いがわかるほど舌が肥えてはいないけれど、何かいいものらしいということはわかる。
アバウトというか大雑把というか、とりあえず褒めてはいるらしい感想を口にしながら八百万が淹れた紅茶をゆっくりと楽しんだ。
全員にティーカップが行き渡った……かと思ったが一つだけ余っている。はて、これは誰の分だろうかと麗日が首を傾げていると一人だけソファに座ったままの緑谷が目に入った。
いらないの? と声をかけながら近寄ってみると……
「アイテムつきオールマイトアイテムつきオールマイト……僕としたことがそんなレアマイトを知らないなんて不覚も不覚……グッズは? 画像……ない……動画で残ってはいないか……?」
「ヒッ!?」
一体何があったのか目をかっ開いたままブツブツと何事かを呟きながらスマホの画面を凝視していた。これには麗日も思わず悲鳴を漏らす。
自分が妖怪でも見るような目で見られているとは露知らず、サポートアイテムを装備したオールマイトなるものを探していた緑谷だったが、スクロールするつもりが妙な動画をタップしてしまったらしい。
切り替わった画面に映し出されたのは周辺に紅茶を零しまくっているティーカップ。それを背景に演技がかった男の声が流れていた。
「……紅茶の動画? タイムリーやね」
「わ、ありがと」
声をかけられて正気に戻ったらしい緑谷。その間にも動画は続いている。
『
『そしてこのお茶は高級紅茶ロイヤルフラッシュ……つまりどういうことかおわかりか?』
『違いのわかるジェントルかっこいいって事!?』
『次に出す動画。諸君だけでなく社会全体に警鐘を鳴らすことになる。心して待っていただきたい!』
そこまで語ると動画は終了した。時間にして一分もない短い動画。しかし評価の割合はお世辞にも良いとは言えなかった。何せ高評価は0、低評価は785と炎上と言っても差し支えない程だ。
有名な人? と麗日が尋ねると緑谷は首を横に振った。
「僕も何となくしか知らないけど……迷惑行為で一部じゃ有名な敵だよ」
「え」
「何だかんだ動画まで出して捕まってないのは凄いんだけど……次は何する気なんだろ……」
訝しむような目で画面の向こう側を睨みながら緑谷はそんな事を口にした。
◇
ジェントル・クリミナル。犯罪行為を動画に仕立てあげては投稿サイトにアップする敵。
くすんだ白髪にそれらしく整えられた立派な髭、目の周りを雑に塗ったアイシャドウが特徴的な自称紳士だ。
つい先日にもひとつの犯罪行為を撮影しており、まるで面白おかしい喜劇のように編集してアップしていた。
「ジェントル大変……もう一週間もティーブレイクを挟んでないわ……平気なの……?」
「ああ」
そしてもう一人。120センチにも届かない少女の如く小柄な身体の女性、ラブラバ。彼女を助手として何度も犯罪を行ってきた。
しかし彼らに言わせればそれは制裁なのだと言う。
例えば先日犯したコンビニ強盗。全国展開している業界No.1のコンビニ。そのコンビニは消費期限ギリギリのプリンをラベル偽装し販売していたという疑惑が浮上した。
にも関わらず本社はシラを切り、事を有耶無耶にして終えようとしていた……ようにジェントルの目に映った。
それを紳士的ではないとみなした彼は一方的に、かつ身勝手に制裁を与えて自身を現代の義賊だと称しているのだ。
あまりにも独り善がりで身勝手な思想を行動に移す傍迷惑な敵。それがジェントル・クリミナルであり、ラブラバはその信奉者である。
「昨今、ヒーローへの不安不満が充満している。偏に彼らが不甲斐ないからだ」
そんなジェントルはこう語る。
予測できる事態に備えるのは当然。ヒーローに足りないのは不測の事態への備えだと。
「要するに危機意識の低さ。この時期に
「……!」
故に、ジェントルは警鐘を鳴らしてやろうと考えた。
一度襲撃に遭いセキュリティを強化した学校……ヒーローの今を象徴する雄英高校に侵入してやることで世間に問いかけてやるつもりでいる。
「でもでもジェントル。前途ある子供達まで巻き込むことになるのははたしてどうなのかしら!!」
「ハハハ! ラブラバ!! これは警鐘なのだよ!! 私の侵入によって卵達もまた強く育つのだ!!」
「真に憂いてるが故なのね!! かっこいいわジェントル!!」
と、まあこの通り。余計なお世話なんてものではない死ぬほど迷惑な敵である。これまでの動画も今のやり取りも茶番臭しかしないのに迷惑度だけは凄まじい。
既にルートも計画も立っている。ヒーロー事務所も交通量も少ない通りから脇道へと入り、自然公園を抜けてとある一軒家へと入る。
「この一軒家が喫茶店だ」
「いつものようにお外で嗜まないの!? リスキーよ!」
「しかしだラブラバ。ここで飲まなければいけないのだよ」
雄英への侵入という大仕事を前に店に入るなどリスクでしかない。それを押してまで入る理由とは何なのか。
「何故ならこの店……幻の紅茶ゴールドティップスインペリアルを提供している!」
「……!」
「今回の大仕事に見合うとは思わんかね?」
「素敵……!」
それはジェントルの流儀。仕事前に飲む紅茶だ。
大仕事の前にはそれ相応の格のある紅茶を飲むべきだという流儀の為、これ以上ない最高級の紅茶を飲む必要があるからだ。
まるで遠足の日程を話したがる子供のようにジェントルは計画を語る。地図をなぞっていき、最後に森を越えると辿り着く場所こそが雄英高校。文化祭が開かれる日だ。
そこまでなら凡百の敵であっても辿り着くことは叶う。問題はその先だ。
当日の警備には索敵に長けたハウンドドッグというヒーローがいることが予測され、敷地内に入るまでに臭いで見つかってしまう。
加えて敷地内。雄英バリアと呼ばれるセンサー感知式セキュリティが広大な敷地全てに張り巡らされてあり、特別な通行許可証がなければ侵入は不可能となっている。
「そこで私の出番ねジェントル!」
「うむ!」
そのセンサー対策を請け負うのがラブラバ。独学でハッキングの技能を持つ彼女が雄英の内部ネットワークに侵入してセンサーを無効化する手筈だ。
ハウンドドッグは臭いさえ誤魔化してしまえばどうとでもなる。森に入る前に土や葉を体に擦りつけてしまえば多少はバレずに済む。
杜撰でありながら妙に考えられた侵入計画。これで完璧……とは言い難かった。
「問題は……オールマイトだな」
「そうね……」
少し前に引退を発表したオールマイト。彼の存在がジェントル達に冷や汗を流させている。
というのもオールマイト、引退こそしたものの健康面も残り火も元気ピンピン。二人は知る由もない事だがこれまで無数にあった古傷や後遺症も全てマルっと綺麗に完治している。
もし警備に彼がいた場合、交戦すればまず勝ち目がない。
加えてほとんど都市伝説のようなものだが、オールマイトにはマイト
「もしネットの噂が真実ならば……彼が警備にいる時点で私達に成功はない……」
「流石に嘘よジェントル! あのパワーと変な索敵能力を両立する個性なんて想像もつかないわ!」
「そうだといいんだけどね……やっぱ怖いなあオールマイト……」
正直に言うと、怖い。敵にとってオールマイトとは平和の象徴ではなく恐怖の象徴なのだ。
だってそうだろう? 目にも止まらぬ速度で現れてはワンパンかツーパンくらいでノックアウトされ、並の小細工はパワーで捩じ伏せられる。こんなんと誰が戦いたいと思うのか。
それが索敵能力まで持ってる可能性があるとなればそりゃあ誰だってしり込みする。怖いもん。
だが、ジェントルは今更止まるわけにもいかない。
「ラブラバ! 私は今回の案件に……自慢の髭と魂を懸けている!!」
「ジェントル……」
「世の為人の為私の夢の為……そして君の想いに応える為に!!」
「ジェントル!!」
感極まったラブラバがジェントルに飛びつく。涙を流し愛を叫びながら縋り付く。
鬱屈した日々に終わりを告げてくれた初めてのファンの為にも、止まるわけにはいかない。
何としてでも必ず成功させてやる。あまりにも迷惑な義賊気取りはそう決意しながら決行の時を待っている。
そして時は進み──……文化祭前夜。
23時半。やれるだけの事をやってきたA組は明日への興奮からか寝付けない者や道具の点検をしている者が一階に集まっていた。
特に興奮しているのはバンド隊やダンス隊のメンバー。寝れないことに開き直ってはしゃぎまわる上鳴と峰田を芦戸が窘めたりしている。
「何だかんだ二曲分……形になったなあ……」
「覚えることいっぱいあったね」
一方でこれまでを噛み締めているのは森岸と耳郎。A組の皆からの推薦で始まったボーカル担当ということもあり、期待に応えるべく練習していた。
その分疲れもあるのか森岸にいつものような覇気はなく、耳郎もどこかふにゃふにゃとした話し方になっている。
「皆盛り上がってくれるだろうか……」
「んー……そういうのはもう考えない方がいいぞ」
「そーそー。恥ずかしがったりおっかなびっくりやんのが一番良くない。舞台にあがったらもうあとは楽しむだけ」
それでも心構えは変わらない。思わず漏れたらしい飯田の不安をスッパリと切り捨てるようにそう語った。
それを聞き感心しながら道具の点検をしていた緑谷と青山。いい事言うなあと思いながら一つ一つ手に取って見ていると、ロープを手に取った緑谷がある事に気づいた。
「あ、ロープ解れてる……」
「ワオ☆ずっと練習で酷使してたもんね」
青山の役割はダンサー兼ミラーボール。何を言ってるか分からないかもしれないがこれは事実である。
青山は序盤でダンサーから【ネビルレーザー】を使って短く光を連射し、ミラーボールのような演出を行う役割を担っている。
その際、大掛かりな装置ではなくロープで吊り上げるという人力で動かす形になるのだが、その練習で傷んでしまったらしい。
今すぐ破断することはないだろうが、パフォーマンス中に事故が起きてしまえば盛り上がるどころではなくなってしまう。万全を期して新しい物を用意するべきだろう。
「八百万に創ってもらえば?」
「ヤオモモもう寝てるよ! 便利道具扱いしないの!」
「俺のことは充電器扱いするじゃん……!」
「僕、明日朝イチで買ってくるよ。朝練もあるし、ついでに買いたいものもあるし」
ということで朝から緑谷がホームセンターに買い出しに行くことに。
A組の出番は10時でホームセンターは8時開店。往復30分とかなりギリギリだが行けなくはない時間だ。
「じゃあ明日の朝【ピオラ】かけてやるよ。それなら余裕で間に合うだろ」
「その方がいいかな。お願い」
「おう」
「そんじゃ……また明日やると思うけど、夜更かし組!!一足お先に……」
「絶対成功させるぞ!!」
「「「オ──ッ!!」」」
上鳴「」
峰田「上鳴が真っ白になってる!?」
爆豪「けっ、雑魚が」
森岸「スパルタでやり過ぎたかな?」
耳郎「ウェイ通り越して黙っちゃった」
砂藤「プリン食わせたら治らねえ?」