二話同時更新してます。最新話から来られた方は一話前から読んでいただくようよろしくお願いします。
漠然と不平不満を抱えていた他科からただ楽しもうとしていた生徒達まで。会場に集まった全員が盛り上がっていた。
所詮は学生クオリティと侮っていた者も今となっては熱に浮かされたように歓声を上げていた。
「うおおおお! メッッッチャ良かった!」
「アンコール! アンコール!」
昂りを黙って収められるはずもなく、次第に観客達からはアンコールの声が上がる。
誰から始まったのかも分からないアンコールと手拍子にA組達は不敵に笑っていた。
──いつ終わりだと言った? と。
ボーカルが変わる。先程までのハスキーボイスの耳郎から隣にいた森岸へ。まさかのボーカルチェンジに観客はざわめき──声を聞いた瞬間に歓声へと変わった。
女子特有の柔らかさのあるハスキーボイスとは違う、感情の乗った芯のある歌声。まるっきりガラッと雰囲気の異なる二曲目が始まった。
いつか僕らの上をスレスレに
通り過ぎていったあの飛行機を
不思議なくらいに憶えてる
意味もないのに なぜか
ダンス隊も違う。一曲目のように全員で息を合わせているのではなく、一人ずつ前に出ては個性を活かしたパフォーマンスを見せていく。
不甲斐なくて泣いた日の夜に
ただ強くなりたいと願ってた
そのために必要な勇気を
探し求めていた
尾白が【尻尾】を使って跳ね、空中で薙ぎ払うように振り抜く。【バイキルト】によって強化されたパワーにより、振り抜かれた風圧が観客達を撫でていく。
砂藤が【シュガードープ】で膨れた筋肉を誇示するようにポーズを取り、オリジナルの包装が施された飴を客席へとばらまいた。
残酷な運命が定まってるとして
それがいつの日か僕の前に現れるとして
ただ一瞬 この一瞬 息ができるなら
どうでもいいと思えた その心を
芦戸の超微弱に薄められた【酸】が振りまかれる。そして飛び散った水滴を青山の【ネビルレーザー】が更に散らし、キラキラと輝くように空へと消えていく。
ダンスだけではない、観客を魅せる為の個性の使い方。一人が前に出る度にワクワクが生まれる。次は何をしてくれるのか、何を見せてくれるのか。楽しみで仕方ないという風に目を輝かせている。
「今だ
「あいよォ!」
「ああ」
そしてサビに入る瞬間、一曲目同様に切島が瀬呂と轟に合図を出す。しかし同じではない。
一曲目の時の氷のアーチに更に巻き付けていた【テープ】を切り離し、そこに今度は炎を放った。
もう一度遠くへ行け遠くへ行けと
僕の中で誰かが歌う
どうしようもないほど熱烈に
「うお、スゲェ!?」
「何だ今の!? 炎が一瞬走ったぞ!」
盛り上がった瞬間に氷のアーチに巻きついていた【テープ】を轟の炎が焼いていく。高火力で放たれた炎は【テープ】をなぞるように走り、瞬く間に消え去った。
同時にダンス隊からも一人、峰田が前に出ると【モギモギ】を数個手に取りジャグリングを始めた。3つ、4つではない。もっと沢山。2桁にも届く数の【モギモギ】を巧みに操り、梁の間に張られた【テープ】へと投げつけた。
いつだって目を腫らした君が二度と
悲しまないように笑える
そんなヒーローになるための歌
さらば掲げろピースサイン
転がっていくストーリーを
駆け抜けるようにサビが終わる。王道のヒーローストーリーのような歌詞が観客達へと突き刺さる。他でもない雄英だからこそ、より深く。
その時、ギターを掻き鳴らす森岸とベースを請け負う耳郎の目が合った。言葉はない。ただニヤリと吊り上げた口角だけが互いの意思を伝え合っていた。
守りたいだなんて言えるほど
君が弱くはないのわかってた
それ以上に僕は弱くてさ
君が大事だったんだ
「独りで生きていくんだ」なんてさ
口をついて叫んだあの日から
変わっていく僕を笑えばいい
独りが怖い僕を
続いて梅雨ちゃんと葉隠。揃って前に出ると葉隠は梅雨ちゃんの背中に飛びつき、梅雨ちゃんが【カエル】の脚力で跳躍する。
そこから更に葉隠が梅雨ちゃんの背中からジャンプ。その瞬間を狙って青山の【ネビルレーザー】が葉隠へと放たれ──葉隠の手が光線を弾いてミラーボールのように輝く。
「うおっ!? また人間花火!?」
「あの透明な子そんな事もできたのか!」
葉隠の個性は光を屈折させることによる【透明化】。つまり青山の【ネビルレーザー】による光線を屈折させる事だって可能。それを利用した葉隠式の人間花火だ。
落ちてくる葉隠を梅雨ちゃんの舌がキャッチ。引き戻して着地した後に二人で手を繋ぎながらポーズを取るとダンス隊へと戻っていく。
蹴飛ばして噛み付いて息もできなくて
騒ぐ頭と腹の奥がぐしゃぐしゃになったって
衒いも外連も消えてしまうくらいに
今は触っていたいんだ 君の心に
「もっぺんいくぞコラァアア!!」
二番目のサビに入る瞬間、再び爆豪の【爆破】と共にギアが上がっていく。観客達のボルテージが加速していく。
僕たちはきっといつか遠く離れた
太陽にすら手が届いて
夜明け前を手に入れて笑おう
サビで出たのは飯田。麗日にタッチしてもらい重力の枷から解き放たれ、【エンジン】を吹かしてステージをも飛び出す。
加速した先にあるのは一曲目から残っている氷のアーチ。上下すら反転した体勢で氷の
それを受け止めるのは障子。【複製腕】を広げて飯田の手を取り、グルンと一回転し全ての手でピースサインを掲げて見せた。
そうやって青く燃える色に染まり
おぼろげな街の向こうへ
手をつないで走っていけるはずだ
君と未来を盗み描く
捻りのないストーリーを
(クッッッソ楽しい! 滅茶苦茶気持ちいい!)
サビを歌い切りながら森岸はそんな事を考えていた。
始まりは成り行き。仲良くなった女子の親が教えてくれるというから、何となく面白そうだからで始めた。
もしあの日の自分に何か言えるのならば、それでいいと思い切り背中を叩いてやりたい。何も考えずに踏み出した一歩のお陰で自分はここにいるぞと伝えてやりたい。そう思っている。
カサブタだらけ荒くれた日々が
削り削られ擦り切れた今が
君の言葉で蘇る 鮮やかにも 現れていく
蛹のままで眠る魂を
食べかけのまま捨てたあの夢を
もう一度取り戻せ
きっと耳郎は知らないであろう、森岸だけが覚えている思い出。忘れられるはずもない。だって何度も何度も見てきた。見せてもらった森岸だけの思い出。
ただのクソガキだった自分に新しい世界を教えてくれた事を。"好き"を語るあんなにも眩しい笑顔を忘れるなんてできやしない。
(そうだよ! だから俺も"好き"に嘘はつけなかった! 夢を諦められなかった!)
原点なんて言うほどのことじゃない。ただカッコよくて憧れた。自分もああなりたいと焦がれた。それを手放さなかったのは教えてもらったから。
もし森岸にオリジンがあるとするのならば、それは彼女。ただ怪我を治す事しかできない個性でもヒーローになりたいと願った自分に薪を焚べてくれたあの時こそがオリジン。
もう一度遠くへ行け遠くへ行けと
僕の中で誰かが歌う
どうしようもないほど熱烈に
「麗日さん!」
「うん! 楽しみたい方ー! ハイタッチしてねー!」
ラスサビで緑谷と麗日が飛び出す。【無重力】で浮いた麗日を同じく重力から解き放たれた緑谷の跳躍でステージという枠から飛び出した。
手を挙げた生徒達と麗日の手がパチンと叩きあっていく。次の瞬間、麗日の【無重力】が発動し観客達がフワリと浮き始める。
そうして飯田のように入口側の壁まで辿り着くと、同じように壁を蹴ってステージへと戻る。その間に緑谷は上へと向かい瀬呂の【テープ】で浮いた観客達の簡易命綱をつけていく。
いつだって目を腫らした君が二度と
悲しまないように笑える
そんなヒーローになるための歌
麗日も緑谷も、演出にいた者達も全員がステージへと降り立つ。この曲にした時から最後は決めていた。
さらば掲げろピースサイン
転がっていくストーリーを
君と未来を盗み描く捻りのないストーリーを
「ありがとうございましたァ!!」
A組21名の"ピースサイン"と共に曲が締め括られる。
こうしてA組の発表は終わりを迎えた。
爆豪「ピースでフィニッシュだあ……?」
上鳴「ほら嫌そうじゃん。無理だろ」
爆豪「……しゃあねえな」
切島「マジで!?」
森岸「これオールマイトのドキュメンタリー映画の主題歌なんだよ。で、オールマイトもピースサインやってたんだわ」
上鳴「ああ……そういう……?」