Q.相澤先生がマイクにクレープ押し付けたの見られてたら一部界隈の方々がざわめきませんか?
A.ミッドナイトは鼻からアオハルを噴き出してた。一部の方々はタイピングや筆が大層捗った模様。
Q.助けられたラグドールさんの反応は?
A.【パルプンテ】の恐怖と申し訳なさが勝ってて少し遠慮がちな距離。なんなら森岸本人にもちょっとビビってる。
Q.じゃあピクシーボブはなんなんだ。
A.ほぼ条件反射でやった。反省はしている。だが後悔はしてなすいませんでした。もうしません。だからその【イヤホンジャック】を収めてください。
ヒーロービルボードチャートJP。色々と項目はあれどざっくり言えば『優秀なヒーローランキング』という表現が最もしっくりくる。
当然ランキングということは順位が高い方が誇らしいのだが、このヒーロー飽和社会上も下もキリがない。
例えば上。平和の象徴が頂点に立った後、一度でも順位を落とした瞬間を誰も見たことがない。No.2も同様、長い間一位と二位が不動であり続けていた。
トップ10周辺もそう大差ない。名が上がるのは大抵"いつもの顔ぶれ"と呼ばれる者ばかり。何の目新しさもない。
では下はどうだろう。たとえ999位だろうと三桁位ならば上澄みと呼べる程。下に行けば行くほど一纏めの有象無象でしかない。
所謂"マイナー"ヒーローとして名が上がるならまだ運がいい方だろう。本当にマイナー……目立たないヒーローはそもそもヒーローとすら認識されていないことだってある。
『神野以降初めてのビルボードチャート! その意味の大きさは誰もが知るところであります!』
ビルボードチャート発表の舞台の袖。名だたるトッププロが集まった中、ホークスは無感動に報道陣を眺めていた。
普通ならばここに立っていられる事を光栄に思い、少しでも誰かの為に頑張れるようにと意気込みを新たにすべきなのだろう。
しかしホークスに言わせればその考え自体が間違いだ。そもそもここに立てるヒーローが普通なわけがないのだから。
『No.10! 前回9位からワンランクダウン!! ドラグーンヒーロー・リューキュウ!!』
「今期は私正直見合ってないかなあ……」
『No.9!! こちらもダウン! しかし未だ衰え知らず!! 具足ヒーロー・ヨロイムシャ!!』
「ふん……上位三名を除けば斯様な番付など全て時運による誤差……」
『No.8! 大躍進!! 成長止まらぬ期待の男!! シンリンカムイ!!』
「光栄……」
自分を含めて若い芽も出ているとアピールしたいのだろう。明らかに前者二人よりも語気を強めて彼の名を口にしていた。
ホークスはヒーロー公安委員会の直属ということもあり、このビルボードチャートについても何となく狙いを察している。
まずこれまでのビルボードチャート発表ではそもそもヒーローが登壇すること自体なかった。ただ名前を読み上げられて『ほら! こんなにも凄いヒーローがいるから安心ですよ!』と主張する為の舞台でしかなかった。
それが今回に限ってはトップ10のヒーロー全員に声をかけている。それだけ公安委員会にとって平和の象徴の引退は大きいのだろう。
『No.7! ザ・正統派の男は堅実に順位をキープ! シールドヒーロー・クラスト!』
「オールマイト……!」
『No.6! 勝気なバニーはランクアップ! ラビットヒーロー・ミルコ!!』
「チーム組んだんだってな。歳下におんぶにだっこにならねえといいな!」
『No.5! ミステリアスな忍びは解決数も支持率もうなぎ上り! 忍者ヒーロー・エッジショット!!』
「黙らっしゃい。公の場だぞ」
それからもう一つ。きっと彼ら公安委員会にとって目の上のたんこぶと言ってもいい存在がいる。
かつては優秀なら道具として使い潰す寸前まで酷使していた
『No.4! 復帰から留まることのない躍進!! ライフルヒーロー・
「どーも」
ホークスからすれば自業自得としか言いようがない。彼女、レディ・ナガンを歯車か何かと勘違いしたどうしようもない前会長の事など、同情の余地もなかった。
幸い自力で鎖を引きちぎってくれたからよかったものを、下手をすれば彼女の銃口が自分達に向けられていた可能性すら考慮できなかったのだろうか。ヒーローを目指した人間がどういう理由であれ殺人を肯定し続けるはずかないだろうに。
公安委員会にとって彼女はとてつもない破壊力を秘めた爆弾でしかない。彼女の気分次第でいつ公安委員会の裏側を暴露されるか分からない。
本当なら多少汚い手を使ってでもビルボードチャートの圏外に追いやり、レディ・ナガンというヒーローを埋もれさせたかったのだろう。
しかしナガンは自力で全てを跳ね除けた。休業から復帰した後、ナガンは凄まじい勢いで功績をあげ続けた。
その結果がこれ。誤魔化しようのない程の人気と実力を示され、圏外どころかトップ10に名を連ねるまでに至った。
お陰で公安委員会の上層部はいつも青い顔をしている。何人かは口臭が胃薬の匂いになっていたりドブのようなコーヒーすら美味いと宣っている。
今は自分の上司なのだからもう少し手加減してあげて欲しいというのが本音なのだが、彼女が何かしたわけでもないのでどうしようもない。上司には精々過去の自分を呪ってもらおう。
さて、そろそろ自分の番か……とホークスはスンッ……という顔で自分の名が呼ばれる時を待った。
『それでいくとこの男! 諸事情あって欠席のNo.3! 支持率は今期No.1! ファイバーヒーロー・ベストジーニスト!』
『No.2! マイペースに! しかし猛々しく!破竹の勢いで二番手へ! ウイングヒーロー・ホークス!! 顔が赤いのは一体何が!?』
「スルーしてください。マジで」
さっきから誰かツッコんでくれないかという空気が蔓延していたホークスの顔面。誰に引っぱたかれたのか痛々しい赤に変わったそれを見て司会はギョッとしていた。
尚、自分が
想定外のトラブルともいえない困惑が司会を襲ったが、最後の一人でトチるわけにもいかない。どうにか気を取り直しながら己の役目を全うすべく口を開いた。
『そ、そして!! 暫定の一位から今日改めて! 正真正銘No.1の座へ!!』
『長かった!! フレイムヒーロー・エンデヴァー!!』
オールマイトに焦がれ、己の子すら焚べようとした新たなるNo.1。エンデヴァーの炎が揺らめいていた。
「今回この様な場を設けたのは、節目であると判断したからであります」
新しい公安委員会会長は随分とお硬い人のようだ。随分とまあ丁寧に語るものだ。
確かに式典と言えば式典だが、元は単なるビルボードチャート発表のお祭りみたいなものだっただろうに。オールマイトが消えたらそんな余裕も失せたか?
チラと後輩に視線をやると少し嫌そうな顔をして目を逸らした。自覚はあるらしいな。
その会長さんも後ろに私がいる事が怖くて仕方ないんだろう。何とかして隠そうとしているが警戒しているのがバレバレだ。確かに私がその気になればアンタの頭は水風船みたいに割れるだろうけどさ。
そういうのがしたくないから公安直属を辞めたってのが分からないのかね。それとも復讐の可能性にビクビク震えるしかできないだけなのか。
『──それではお一人ずつコメントを!』
おっと、いつの間に。聞いてなかったものだから司会が言うまで気づいていなかった。
10位のリューキュウから順番に来るようだ。コメントって言われても言うことなんか何もないんだが。
そのリューキュウは謙遜混じりに『これからも精進します』的な言葉で真っ当にコメントしていた……と思ったらクラストが割り込んだ。熱苦しいな本当に。
それからヨロイムシャにシンリンカムイ、もう一度クラストと来てミルコ。まあそんなものか、という真面目なコメントを述べていく。あ、なんか後輩の奴つまんなそうなフリしてんな。顔芸みたいなしかめっ面やめろ鬱陶しい。
エッジショットが終わって次は私の番。司会がマイクをこちらに向けてきた。
『レディ・ナガンさん! コメントをお願いします!』
「いつも言ってることと変わらないよ。私は子供達の明るい未来の為にやるだけさ」
生憎私はちょっとやさぐれてるんだ。古巣が必要以上にビビってんのも
アンタらにはアンタらなりの正義があるんだろうが受け付けられないもんは仕方ないだろう? さっさと終わって帰りたいくらいなんだこっちは。
『ありがとうございました! それではホークスさんに──キャッ!?』
「なんですか皆さん、揃いも揃って……何を安牌切ってンですか!」
……と思ったらやりやがったな後輩。あーあ、会場お通夜みたいな雰囲気になってんじゃねえか。リューキュウもエッジショットも顔顰めてるし。
バサリと翼をはためかせて飛び上がると、後輩は舐め腐ったような声音で語り出した。
「えーと? 支持率だけでいうとベストジーニストさんが一位、二位が俺三位がナガンさん四位エッジショットさん……で、五位がエンデヴァーさん以下略」
「…………」
「支持率って、俺は今一番大事な数字だと思ってるんですけど? やる事変えなくていいんですか?」
言いたいことはわかる。要はオールマイトがいなくなったのにオールマイトがいた時と変わらないままでいいのかって聞きたいんだろう。
それでいうとそもそもオールマイトの存在自体がおかしかったと思うのは間違いだろうか。むしろあの人がヒーローやってた時代の方が異常だったんじゃないか?
全国どこにでも駆けつけては敵を瞬殺し、あらゆる災害から笑顔で人を助け出す。普通ならまず生まれるはずのない最高のヒーローだからなあの人。
他所の国のトップ見りゃわかるだろ。アメリカのトップでもオールマイトレベルで飛び回る事ができないんだぞ。オールマイトの方がイレギュラーだろどう見ても。
それを口にしたら後輩の煽りも全部台無しになるだろうから言わないけども。どうせまた変なこと企んでるんだろお前。
「俺は以上です。さぁお次どうぞ? 支持率俺以下のNo.1」
「…………」
というかアイツよくもまあエンデヴァー相手にあそこまで煽れたな。下手すると焼かれるぞ。
「……若輩にこうも煽られた以上、多くは語らん」
「俺を見ていてくれ」
……驚いた。エンデヴァー、随分と変わったみたいだな。これなら少しは期待できそうだ。
以上でビルボードチャートの発表は終了。後輩のアドリブもあったしエンデヴァーによるNo.1としての意気込みも拾えてマスコミ共は大収穫だろう。
さて、後は帰るだけ……と思っていたんだが聞かなきゃならない事があるのを思い出した。
「おい後輩、会長」
「何です?」
「…………何でしょうか」
「
「どこでそれを……」
「とぼけんなよ。公安が操作した痕跡くらい私でも分かる」
昔っから公安がよくやっていた手口だ。浮上されると面倒なことになるヒーローのビルボードチャートの順位を改変し、騒がれにくくするというもの。
その対象は裏で悪事を働いていた、もしくは公安委員会やこの時代に不都合な何かがあるヒーローのみ。普通にヒーローをやっていればまず対象にはされない。
だが私は見てしまった。ビルボードチャートが操作されるまでの極僅かな期間、いるはずのないまだヒーローデビューすらしていないあの子の順位を。
「……神野でオール・フォー・ワンに一撃入れていたのと、怪我人の回復をした結果です。公安は何もしちゃいませんよ」
「それとヒーロー殺しの件もあるでしょうね」
「そこはどうでもいい。何位だったのかって聞いてんだよ」
「………………334位です」
300代前半か……まあ許容範囲内、か?
多くの人は300位くらいまでしか見ることはないし、一般人に公開する前の話だから見ていた者も本当に僅かだろう。
「……あの子はまだ子供だ。私達大人の汚ねえ世界に連れ込むにゃまだ早い」
「……そのための措置です」
あの子は確かに強い。誰が見ても破格と思えるだけの個性を持っている。
だがあの子はまだ子供なんだ。大人じゃない。私達大人が守ってやらなきゃならない子供なんだ。
だが、それを理由に引き込もうとするのなら……かつて前会長が私に命じたように、公安があの子に手を伸ばそうと言うのなら──
「──その時はこのレディ・ナガンがお前達に牙を剥くと思え」
「…………!」
警告を残して今度こそ会場を後にした。
あーあ、全寮制になってなかったら一回あの子の所に行って【ベホイミ】貰ったのにな。
あ、そうだ。帰る途中でトガの奴に土産を買っていってやらないとな。留守番させたから多分拗ねてる。
ナガン「つか何であの子のまで律儀に集計してんだよ」
ホークス「頭から抜けてたらしいですよ。連日やる事が多すぎて思考停止で集計してたらレックスの分も出来上がってたみたいで」
ナガン「本当に何してんだ公安」
会長「返す言葉もありません……」
燈矢「うわーお父さん滅茶苦茶『俺不服なんですけど』って顔してる。お零れNo.1だもんなあ」
トガ「は? ナガンさんが2位でしょう!? あの軽薄鳥男なんかより下なわけない!!」
燈矢「うわ声でか」
トガ「ナガンさんは私のお母さんになってくれるかもしれなかったヒーローなんですよ!!!!」
燈矢「何言ってんの? 本当に何言ってんの??」