魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.【超再生】あるなら【ベホイミ】いらなくない?
 A.ぶっちゃけいらない。ただ致命傷からの復帰が早くなるくらいの効果にしかならない。

 Q.他の【魔法】は使えなかったの?
 A.【ホイミ】と【リホイミ】なら使えた。けど使う前にやられた。

 Q.森岸と脳無のMPってどのくらい違うの?
 A.恐竜とアリくらい違う。脳無は【ベホマ】一回分にもならないくらい。森岸はハンカチで汗を拭うくらいの感覚で【ベホマ】使っても全然余裕があるくらいには違う。





89.腕の行方

 

 

 

「ああああ……フードちゃんがぁ……」

 

 

 モニターの向こう側へと縋り付くように泣き叫ぶ。撃退されるかもしれないとまでは思っていたが、まさか【超再生】も間に合わぬ火力で焼き殺されるとは。

 

 リポーターは興奮を抑えきれないといった様子でエンデヴァーの勝利を褒め讃える。何も知らぬ愚衆が後に続き、心配することなど無いとばかりにエンデヴァーの名を呼び続ける。

 

 そんな事はどうでもいい。ヒーローなど、自分を認めなかった者などどうなったって構いやしない。

 

 ただただエンデヴァーの炎に焼かれた脳無を哀れみ、勿体ないという思いだけが占めていた。

 

 

「うう……ハイエンド(・・・・・)脳無の性能テストのはずが……何故貴様がそこにいた! 轟燈矢(・・・)!!」

 

 

 エンデヴァーだけなら勝てた。なのに、なのに! あの男が何故そこにいた!

 

 

 忘れるはずもない。死柄木弔がダメになった時のサブプランとして確保していた瀕死の少年。エンデヴァーの息子ということもあり相応に期待していた。

 

 結果から言うと使い物にならなかった。

 

 オール・フォー・ワンが求めた器としての素養、生まれながらに秘めていた歪み。目を覚ました時には何一つ覚えてはいなかった。

 

 ならばエンデヴァーから受け継いだ個性因子を利用してやろうと思ったのも束の間、記憶はなくとも本能が働いたのか炎を撒き散らして逃げてしまった。

 

 それだけなら別によかった。首を縦に振らない者などいくらでもいたし、今更一人消えたところで何も痛くは無い。

 

 

 それに、あの時の轟燈矢に時間は残されていなかった。

 

 

 当たり前だろう。下顎の骨が失われる程に焼かれ、中途半端に火葬された死体のような状態で強引に延命させていただけだ。

 

 それが目を覚まし、自分達の手から離れてしまえばどこかで野垂れ死ぬと分かっていたから見逃した。惜しくはあっても所詮はサブプランであり素材でしかない。

 

 

 だというのに、生きていた。かつて己が見放した火葬死体が蘇り、己の最高傑作を凌駕していた。

 

 腹立たしくはある。殺せるものなら殺してやりたいとすら思っている。

 しかしそれ以上に脳内を占めているのが『何故』という言葉。何をすれば死人も同然の人間があれだけの火力を放ってピンピンしていられるのか。

 

 

「…………まさか【魔法】?」

 

 

 今の自分が出せる答えは一つしかなかった。

 

 だからこそ信じたくなかった。

 

 

「何が違う……少なくともフードちゃんに移植できた【魔法】は変質しておらんかったというのに!」

 

 

 森岸詠士の腕から取り出し複製した【魔法】とオリジナルの【魔法】の違いを認められない。

 

 【魔法】の因子は凄まじく優秀だ。あらゆる個性因子と融合できる汎用性があり、どんな弱個性と混ぜてもとりあえず使えるレベルまで引き上げることができた。

 

 唯一の欠点はその汎用性の高さ。あらゆる個性と融合できるという長所は裏を返せば『すぐに混ざってしまうほど不安定』ということになる。

 

 それをやっと、やっと純粋な【魔法】の因子を与えることができたというのに、その能力はあまりにも粗末だった。

 

 十回使うとガス欠になり何を溜め込む必要があるのか再度使用可能になるのに十日間(・・・)程の時間を要する。

 なのにそこまでして使ったところで回復手段としては中途半端。【超再生】を発動するキッカケにするのが関の山である。

 

 やはりまだ研究が足りない、分からないことが多い。無理やりに思考を打ち切って次のことを考える。

 

 

「回収は……無理か。あそこまで跡形もなく焼かれては仮に回収しても再利用はできん」

 

 

 手始めに待機させていた回収役を退かせた。通信の向こう側から嘲笑うような声音で『だろうな』とだけ聞こえた。

 

 普段なら顔を顰めて罵倒のひとつでも飛び出しただろうが、おそらく今回の脳無でこちらに【魔法】があることもバレた可能性が高い。急がなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 やあ。エンデヴァーに『ちょっとツラ貸せや』って呼び出された森岸だよ。俺なんかしたかな。怖いんだけど。

 

 というかエンデヴァーってあれじゃなかったか。つい先日に脳無の襲撃を受けて大騒ぎになってたと思うんだが。まさか世間に公表できない大怪我でも負っていたのか?

 

 何にせよトッププロからの呼び出しともなれば応えないわけにもいかず。険しい顔をした相澤先生と共にエンデヴァー事務所へ……じゃないの? 警察? 何で?

 

 

「いいから行くぞ。時間が惜しい」

「はあ……?」

 

 

 相澤先生も顔怖いし、警察に連れてかれる……し……? もしかして俺、本当に知らん所で犯罪になるような事してたりする? このあと滅茶苦茶怒られたりする?

 

 ビクビクしながら相澤先生について行くと、到着したのは警察署の中にある会議室。そこで待っていたのはエンデヴァーとホークス、燈矢に……グラントリノ、だっけ? 後は塚内って刑事さんと何人かの警察官だった。どういうメンバーだこれ。

 

 これから取り調べというには人が多すぎるし、空気が死ぬほど重い。険しい顔の人もいれば悲痛そうな顔をしてる人もいる。本当に何事?

 

 

「サー・ナイトアイとプッシーキャッツも来たがっていたが……生憎欠席だ。それじゃあ始めよう」

 

 

 そろそろ頭の中が疑問符で埋め尽くされそうになったところでようやく説明が始まった。

 

 というか待って? ここにナイトアイとプッシーキャッツも来る予定だったの?

 

 

 

「端的に言うぞ。森岸、お前の【魔法】が脳無に使われていた」

 

 

 

 

 

 …………はい?

 

 

「え、それはどういう……」

「……先日、エンデヴァーが脳無と戦ったニュースは聞いているだろう」

 

 

 福岡県でホークスと燈矢と共にいた所を襲撃されて返り討ちにした、という話は聞いている。それ以上の情報は特に出回ってなかった。

 

 相澤先生によるとその時の脳無が【ベホイミ】を使用していたのだとか。

 

 

「それに死穢八斎會の地下空間で俺達が交戦した脳無……そちらも多少変質はしていたが【魔法】の個性因子が確認された」

「あの時のって……氷飛ばしてきた奴ですか?」

 

 

 無言で首肯が返ってくる。マジか。

 

 俺の【魔法】が脳無に……って、何で? あの敵、オール・フォー・ワンに奪られた? いやそれはない。だって神野の後も普通に個性使えたし。

 

 じゃあどうやって? というか脳無に個性を付与するって方法も分からねえし、何をすれば個性を奪られるのかも分からん。心当たりの心当たりすらどれか分からん。何で…………あ。

 

 

「まさかあの時の腕……?」

「腕?」

 

 

 そういやあったわ。心当たり。

 

 よく分からんが個性因子とやらが取れればいいのなら血液とか細胞とかがいるはずだろう。俺が向こうに持っていかれたものがあるとすれば合宿で襲撃された時にちぎられた腕がある。

 

 もし片腕からでも【魔法】の個性因子を採取する事ができるのならあれが一番可能性が高い。

 

 それを相澤先生……というかこの場にいる方々に話してみるとキョトンとした顔をしている。何故?

 

 

 

「…………待て、お前腕を切られていたのか?」

「へ?」

 

 

 え、そっから?

 

 

 どうも俺が攫われたらしき現場には大量の血溜まりがあっただけで、切り離された俺のウデなんかどこにも落ちていなかったらしい。

 

 じゃあ確定した。やはり敵は俺の腕を回収していたのだろう。少なくとも敵連合の奴らは俺の腕を持っているようには見えなかった。

 

 何人かは『いや腕あるじゃん』という顔をしているが、これは後で生やしただけだ。【ベホマ】を編み出していたからすぐに治せただけです。

 

 

「何で言わな……いや、悪い」

「いえ、俺も何も聞かなかったのが悪いんで」

 

 

 そうか、他の人は俺が腕を切られたことを知らなかったのか。そういえば言ってなかった。治ってたしいいかと思ってスルーしてた。

 

 すると今度はエンデヴァーがこう尋ねてきた。

 

 

「少し聞きたい。先日の脳無は一度【ベホイミ】とやらを使った後、それっきり使わなかったが……何か制約あるのか?」

「? いえ、そんなものありませんよ。一度で足りなかったら二回三回と増やせますし」

「そうなの? あの脳無は何かこう、温存してたって感じがしてたけど」

 

 

 温存? はて。俺の【魔法】を丸々パクられたのならそんな事考えるまでもないと思うんだが。いやそもそも何で【ベホイミ】しか使わなかったんだろうか。

 

 もし【魔法】を俺と変わらない性能で扱えるのなら出し惜しみする理由なんてないはずだ。ましてやエンデヴァーとホークスを同時に仕留められるかもしれないとあれば尚のこと躊躇う理由がない。

 

 なのに燈矢が確認できた【魔法】は【ベホイミ】だけ。【バイキルト】や【ピオラ】なんかは見てないところで使ってたのかもしれないが、それでも【アタカンタ】や【ヘナトス】なんかは使えるタイミングがあれば使うはずだ。

 

 となれば。

 

 

「……向こうの使う【魔法】は俺の劣化版(デッドコピー)ってことですか」

「おそらくはな。そも、お前の【魔法】を完全に再現できているのであれば脳無一体で終わるはずがない」

「この坊主の本領は多人数戦だしな。どんな個性だろうが強化しちまえばそれなりの戦力になる」

 

 

 敵は【魔法】を完全には制御できていないのかもしれない。

 

 俺が敵としてこの個性を振るうのなら、いくらでも悪辣なやり方が思いつく。例えばそこらのチンピラに限界ギリギリまで強化を施して無駄に暴れさせたり、頭数を揃えて数の暴力を差し向けたりする。

 

 それができないということはそういう事だろう。下手すると【バイキルト】や【ピオラ】も再現できていないんじゃないだろうか。

 

 ああ、それと魔力にも何か問題があるのかもしれない。

 

 

「魔力?」

「ざっくり言うと【魔法】を使う時に消費する不思議パワーです」

 

 

 俺の【魔法】は兎にも角にも魔力がいるし、魔力を扱う技術もいる。

 

 【ホイミ】から【バイキルト】を生み出せたのは魔力を操作して引き起こす現象を変化させられるようになったから。知能がない脳無には凄まじい難易度だろう。

 

 エンデヴァーと燈矢によると先日の脳無には知能があったらしいが、だからといってできるわけでもない。アレらはガキの俺が半ギレになりながら狂気じみた執着の果てに辿り着いた能力だ。

 

 

 そうなると気になるのは死穢八斎會で遭遇したという脳無。氷の塊を飛ばすようになるって……どんな変質を遂げたらそうなる。

 

 聞けばあの日別行動をしていたグラントリノも遭遇していたらしく、そちらは水だったり火球だったり……挙句の果てには小規模の爆発を引き起こしたりしていたとか。

 

 

「聞き取れた単語だが……【ヒャド】に【メラ】と

【ザバ】に【イオ】と法則性も何もあったものではなかったそうだ。心当たりは?」

「な──……いと思ったんですけどちょっとありますね」

「あるのか?」

 

 

 単語というか、引き起こした現象の方にですけども。単語の方は俺も知りません。名付けるとしたら俺もそう名付けてたかなあってくらいで。

 

 氷に火球、水に爆発。うん、どれも見覚え……はないけど多分ある。

 

 相澤先生にコソッと話してみると物凄く嫌そうな顔をされてしまった。そりゃそうだよね。

 

 

「……何にせよ、お前は明確な被害者だ。詫びのしようもない」

「え、いやそれは」

「本当のことだよ森岸君。その時俺達はその場にはいなかったけど……君は守られるべき子供なんだ。それを守りきれなかった大人が悪いんだよ」

 

 

 ……先生達の目線だとそうだろう。守るべき生徒が腕を切られて誘拐され、その時に切られた腕を回収されて個性を好き勝手に扱われている。そりゃ彼らからすれば罪悪感で死ねるだろう。

 

 だからといって責める気にもなれない。だって悪いのは敵であって先生達じゃないし。人を攫って勝手に個性を移植している奴が悪い。

 

 ホークスはああ言ったけれど、守られるべき子供が守って貰えなかったからって命をかけて戦っていた大人を批判できるかというとそんなはずも無い。

 

 

「なのでまあ……全部敵に押し付けちゃいましょうよ。お前らのせいで散々な目にあったじゃねえか、って」

「……しかし」

「それにこれ以上何かあるとエンデヴァーみたいに大金押し付けてきそうでちょっと……」

「は? なんだそれ。聞いてねえぞお父さん」

「いやそれは」

 

 

 あとこの数の大人に囲まれて謝罪されるのに慣れてないからこっちが申し訳なくなる。だから悪いけどネタにさせてもらいますねエンデヴァー。

 

 しかし【魔法】を使う脳無かあ……【魔法】対策になる【魔法】でも作っとくか?

 

 

 

 






燈矢「もしもしお母さん? ちょっとお父さんが勝手に森岸に大金渡してたみたいなんだけど。うん」
炎司「待ってくれ燈矢! 誤解だ!」
冷『……あなた?』
炎司「」


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