Q.【黒影】白塗料で弱体化しないの?
A.光ではないので弱体化しない。ただ感触的にテンションが下がった。
Q.青山お腹大丈夫?
A.森岸に回復して貰いながら使い続けた結果身体が順応したのか腹痛の頻度はかなり減った。それでも時々下すことはある。
──八百万と常闇のどちらを優先する?
第二試合が始まる前、八百万達と別れてスタート地点に着いた拳藤達はそんな事を話していた。
体育祭では両者とも最終種目まで残っていた程の猛者であり、個性自体も本人も優秀と来た。貶すつもりはないが、正直葉隠や青山はあの二人に比べれば脅威としては一段劣る。
プランは主に二つ。プランAでは常闇が【
そしてプランB。黒色が失敗したとすれば相手は必ず光を使っている。ならば自ずと相手の居場所も判明している。
向こうからすれば裏の裏で単騎突撃してきた黒色を仕留める絶好のチャンス。八百万達を存分に引き付けてもらい拳藤達が包囲して畳み掛ける……という二段構えのオペレーションだ。
それが上手く進んだとして、だ。残る三人のうち二人は範囲攻撃こそ得意なものの、確実に一人を倒せるような個性ではない。
故に、最後の詰めとなる真っ向勝負に出られるのは拳藤のみ。そうなると常闇と八百万のどちらかを選ばなければならない。
『それなら私は八百万に一票だな』
『その理由は?』
『んー……ぶっちゃけ一対一なら常闇の方が強いとは思うんだけどさ』
──実質無限に手札がある八百万に時間を与えたくない。
拳藤の意見に反対する者は一人もいなかった。確かに戦闘能力という意味では常闇が上回るだろうが、それは人数差でどうとでもなる。
しかし八百万はそうはいかない。人数差があろうが戦闘能力で勝っていようが関係ない。八百万の強みは『常にその場に適した手札を用意できる』ことだ。
人数差があるのなら人数差を埋める手段を、戦闘能力で負けているのなら能力差を覆せる何かを。極端な話八百万以外のA組を捕まえられても八百万一人いれば逆転できる"何か"を準備されてしまうかもしれない。
八百万への認識を共有した拳藤達は意見を揃えた。最も警戒すべきは八百万で、常闇とはなるべく正面から戦わない、と。
「黒色捕まっちゃったしなあ。ちょっと早かったかもしれないけど準備する時間は与えたくないし……」
既に拳藤も吹出も
彼女の個性は【キノコ】。体から胞子を飛ばし、瞬時にどんな場所にでも──人体にすらもキノコを生やすことができる能力。
何を生やしても2、3時間もすれば消えてしまう為見境なくぶちまけるという悪癖があったが、この状況に限ってはむしろその方が正しい。相手を引きつける必要があるのだから派手に動かなければならない。
霧吹き兼胞子飛ばしの機能があるサポートアイテムをシュッ、シュッ、と乱射しながら小森は進む。
「誰が来るかなあ?」
このまま私を放っておくと【キノコ】にフィールドを侵食されるぞ、と脅すように自身のテリトリーを広げていく。
さあ、私はここにいるぞ。いつでも来いと、口調の軽さに反して小森は警戒を強めていた。
そして来た。
「……アハッ、大当たり!」
◇
青山の悲鳴のような報告に全員の目が同じ方へと向けられた。
やけに湿った空気が流れてきたと思ってみれば、視線の先にあったのはとてつもない速度で増殖していく大量のキノコ。
生憎詳しい種類などは分からないが、放置していいものでもなさそうだ。ともすれば吸い込んだだけでまずい事になるキノコも混ざっているかもしれないのだ。
「黒色が投獄されたことを知ってヤケになったのかな……?」
「それはない。仮にそうだったとしても拳藤がそれを許すはずがない」
「それより離れるか何かした方がいいんじゃない? このままだと僕達もキノコの空間に呑まれちゃう☆」
「…………そうですね」
八百万が出した結論は『誘われている』だった。
味方が連れて行かれたとか分断された状況ならば覚悟を決めてあのキノコ塗れの中に突入もしただろう。しかし今の八百万達にはわざわざ相手のテリトリー内に踏み入る理由がなかった。
ひとまず八百万は視界と呼吸の保護を考えてサーモグラフィーゴーグルとガスマスクを創り、念の為自分達にもキノコが生えないよう滅菌エタノールを用意。
その間にもキノコの侵食は広がっており、足場も視界も最悪になりつつある。
(……読めてきました。おそらく拳藤さんのオペレーションでは黒色さんに私達を引き付けさせてからの分断、及び各個撃破でしょう)
しかし八百万は至って冷静に拳藤の狙いを考察していた。
確証はないが向こうにとって黒色が落とされたのは想定外。最初に【黒影】に溶け込んでいたのを見るに何もできずにやられたりはしないだろうと思っていたのかもしれない。
それがまさかの第一試合の焼き直し。八百万達を甘く見積もって何もできないまま人数差がついてしまった。
このままタイムアップを迎えると困るのはB組。こちらは全員確保できずとも人数差で勝利判定に持っていくことができる。
あのキノコ空間は黒色が逃げ込む為の場所だったのだろう。それが肝心の黒色が捕まってしまった為前提から崩れた。
本来であれば自分達のテリトリーに誘い込むエサとして誰かを連れていくつもりだったのだろう。それで青山が狙われていたのかもしれない。
当然そうなればこちらとしては青山を助ける為に追いかけるしかなく、誘い込まれた先であのキノコを展開して連携をぐちゃぐちゃにする予定だったと思われる。
「問題は常闇さんか私達のどちらを狙われていたのか……」
「? どういう事だ」
一度考えを整理するついでに八百万は自身の推理を共有した。そして向こうが狙っていたのが自分か常闇のどちらかであることも。
「何で常闇かヤオモモなの?」
「常闇さんの【黒影】は光がなければ撃退すら難しい個性……拳藤さんでも正面から戦って勝てるとは思っておられないでしょう」
「八百万は言うまでもない。万能たる【創造】がある限り向こうは安心できん」
黒色を投獄して残りは拳藤、小森、吹出の三人。小森は見ての通りの個性だとして、戦闘を請け負うのは拳藤だと思われる。
つまり小森と吹出は足止め、もしくは分断担当。それから拳藤が各個撃破しに来ると予想したのだが……問題は彼女達にとって優先して倒したいのは常闇と八百万のどちらなのか。
戦う相手として見た場合とても悩ましい。
何せ片や明確な弱点こそあるものの、それがなければほぼ無敵と言っていい個性の常闇。片や状況に応じて最適な手札をいくらでも用意できる個性の八百万。正直なところどちらも脅威としては甲乙つけがたい。
「……ならばいっそ虎穴に飛び込んでみるか?」
「コケツ?」
「あのキノコの中に飛び込むと?」
「ああ。そうすれば向こうもすぐに動き出す」
どうすべきか、と悩んでいると常闇はそう提案した。そしてもう一つ、常闇なりに考えたとある作戦を伝えた。
「……いいんじゃない?」
「そう長くは保たないけど、少し騙せたらそれでいいもんね」
「やってみる価値はありますわ」
作戦は決まった。ならば後は上手くいくように人事を尽くして祈るだけ。
それぞれ滅菌エタノールや装備を纏うと分かれて行動を開始した。
「いたぞ! 青山! 葉隠!」
「ウィ☆」
「アハッ、大当たり!」
黒色には見せる前に終わった常闇の新技【黒の堕天使】を使用。
常に浮遊状態である【黒影】に常闇を抱えさせる事で空を飛び、追加したコスチュームのマントで【黒影】を包むことで栄養となる影を補充し続ける。
光に次いで弱点となっていた機動力を補う為の新技。あのはやすぎるNo.2に追いつく為に手に入れたスピード。煌めくコスチュームの青山と手袋とブーツしか見えない葉隠を抱えながら飛行する常闇を前に小森は妖しく笑った。
次の瞬間、巨大な何かが背後を突き抜けて行った。
「!? これは……何だ!?」
「文字……いやオノマトペ?」
それはフィールドを横断するような巨大なオノマトペ。"ズドン"や"ゴンッ"といった打撃音を表現する擬音がキノコに呑まれた周囲ごと突き抜けていく。
ほんの一瞬にして数メートルサイズの壁が作り出される。青山が【ネビルレーザー】を放ってみるが傷一つつきそうにない。
小森はしてやったりと笑う。これで八百万を単独にできた。一対一の真っ向勝負であれば拳藤が勝てると思ってのことだった。
「常闇と青山、葉隠がいるってことは八百万は一人ノコ。後は拳藤が戻ってくるまで──……」
「やはりそう来るか……やっておいて正解だった」
「…………へ?」
そう思っていたのは常闇達も同じだった。
何を、と小森が尋ねる前に常闇は見せつけるように
「───あっ!?」
「【ネビルレーザー】の光で位置はバレていたのだろう? おそらく拳藤は既に八百万の近くに潜んでいる」
「君達が釣り出そうとしたように僕達も釣り出したって事☆」
彼らが選んだのは常闇と八百万のどちらが狙われていても問題ないよう二人ずつに分かれるという選択肢。そしてそれを悟られないよう、こちらに葉隠もいるように見せかけていた。
仕組みはシンプル。細いワイヤーで形を作って吊っていただけ。【黒の堕天使】で飛んでいる事もあり誤魔化すにはそれで十分だった。
「各個撃破させてもらう。騙して悪いがな」
「ノコぉ……」
青山を抱えた今の常闇は移動する大砲も同然。如何にフィールドごと制圧できる個性であろうと攻撃力ではまず勝ち目などない。
吹出も位置が割れていないだけで時間の問題。胞子対策まで万全にされては小森にはどうしようもなかった。
「これはキツいなあ……っ……!」
一方、分断された八百万……と葉隠を相手取った拳藤。
小森が言った通り一対一ならば八百万を押し切れるだけのパワー差があった。
拳藤の【大拳】は手を巨大化させるシンプルな能力。攻撃をあてるインパクトのタイミングのみ巨大化させるなどして小回りを利かせたりする事ができる。
八百万が何を創ろうとも"創る"というプロセスを挟む以上、どうしたって出遅れる。だからこそ拳藤は勝ち目があると踏んでいたのだが───
(葉隠が持っていたのはスタンガンか何か! まさかここにきて葉隠を警戒しなきゃならなくなるなんて……!)
「さーて私はどこでしょーか!」
「こんなに分からないとは思わなかったなあ! ああもう本当にどうしよう!?」
──葉隠の存在が明暗を分けた。
単純に相手が倍に増えただけでもキツいというのに、その相手は意識の隙間を縫うように近づいてくる。ただでさえ八百万の対応に忙しいところに情報を増やされたものだからどうしたって動きが鈍る。
あと一歩を詰め切れない、次の一手に踏み切れない。手を巨大化させた瞬間に踏み込まれ、手を縮めた時には引き下がられる。
葉隠が訓練の果てに開花させたもう一つの素質。隠密で培った観察眼によるヒットアンドアウェイ。そこに八百万が創ったスタンガンが加わったことでこれ以上なく厄介な存在になっていた。
「──できましたわ!」
「しまっ……!?」
そうして稼がれた時間の果てに八百万の【創造】が間に合ってしまう。大きいものほど創り出すのに時間がかかるというデメリットを葉隠が完全に埋めてしまった。
八百万が創り出したのは巨大な砲台。鈍く輝く漆黒の筒が睨みつけるように拳藤へと向けられ───
「囮なんだけど、ねっ!」
「ぎっ……!? ぁ……!」
完全に葉隠から意識が逸れた瞬間、拳藤はプツリと意識を刈り取られた。
小森「わぁ……! ぁ……!」
吹出「わぁ……! ぁ……!」
拳藤「何やこの厨パァ!」