Q.何でA組そんなハードワークできるの?
A.半分は慣れ。もう半分は覚悟や執念といった各個人の感情が理由。ついでに全員滅茶苦茶負けず嫌いだから放置すると無限に張り合うようになってる。
Q.もし森岸詠士がB組だったら同じようにしてた?
A.多分しない。A組と違って敵被害がほぼないので拷問みたいなトレーニングに参加する覚悟が足りない。
Q.訓練中の一番ヤバイ怪我をした人は誰?
A.耳郎。心音を強化する為に色々試していたら勢い余って心臓が破裂しかけた。近くに森岸がいなかったら割とヤバかった。流石に滅茶苦茶怒られたし本人ももう絶対二度としないと深く反省&後悔。ちなみにちゃんと心音自体は強くなった。
Q.相澤先生の胃は無事ですか?
A.治してもらえるから胃"は"無事。
開始のアナウンスで両チームが一斉に動き出す。
緑谷達はやはりというか、教師陣やA組達が予想した通りのフォーメーション。緑谷が先行して斥候と切り込みを兼任し、少し離れた所を芦戸と峰田、尾白と麗日の二人組が追いかけている。
というのも緑谷達のチームはこれまでのチームとの違いとして索敵、及び斥候に適性のある者がいない。
身軽な緑谷と尾白の本来の強みは戦闘能力であり、斥候として動かすよりも温存を選びなるべく戦闘能力を活かしたい。
麗日と芦戸はどちらかと言えば戦闘におけるサポーター。個性も【無重力】に【酸】と索敵にも斥候にも向いているとは言い難い。
【もぎもぎ】で壁や天井も移動可能な峰田なら、と思うだろうがそれも難しい。そうすると峰田の移動の痕跡が残る上に残った【もぎもぎ】を利用されて味方に被害が出る可能性もある。
「……そうなると、やっぱり緑谷が最も安牌になるか」
「尾白でも可能だろうが……緑谷がいるなら緑谷だろう」
多少体力を使わせるが斥候や索敵要員を選ばないわけにもいかない。そこで選ばれたのが緑谷だ。
個性制御が上達した事で身体能力を安定して強化できるようになり、周囲に足場となる物こそ必要になるが爆豪のような立体的な動きもできるようになっている。
加えて万が一奇襲を受けた場合、緑谷ならばそのまま返り討ちにする事だってできる。尾白では無理……とまでは言わないが、あの超パワーを思えばどうしても緑谷に軍配が上がるだろう。
対するB組はチームを二分割。緑谷を物間と心操で足止めするつもりらしく、他の三名で残りのメンバーを狙うようだ。
第四試合での反省点を活かすような配置。足止めしたい主力にはヒットアンドアウェイではなく二人がかりで撹乱を繰り返す事にしたらしい。
「柳と小大、庄田は遠距離からチクチク攻めるつもりのようだな」
「主力とそれ以外を切り離して本領を発揮させない方針か。悪くないな」
モニターの中では【ポルターガイスト】と【サイズ】に【ツインインパクト】を合わせた瓦礫による遠距離攻撃が麗日達を襲っている。
柳の【ポルターガイスト】は人一人分程の重量を動かす事ができる能力。そこに小大の触れたものの大きさを変えてしまう【サイズ】で小さくした瓦礫を操作。本来よりも多くの物を操って麗日達へと差し向ける。
当てずっぽうに放った瓦礫を適当なタイミングで【サイズ】を解除。一つ一つを大きくして威力や当たる確率を上げる。
その後は更に【ツインインパクト】……一度打撃を与えた箇所に数倍の威力になる打撃をもう一度任意のタイミングで発生させられる個性で軌道を急激に変化させるなどして攻め立てる。
自分達の位置は悟らせず一方的に攻撃を続けられる凶悪な組み合わせ。これにはブラドキングもご満悦。
しかし相手が悪い。芦戸は【酸】で飛来物を一瞬で溶かし、峰田は的確に【もぎもぎ】を投げて無力化。それらをすり抜けても尾白が全てを弾き飛ばしてしまう。
合流した四人を攻め切れる程の攻撃力も手数もなく、このまま続けても千日手でしかない。ブラドキングは顔を顰めた。
「……やはりこちらの動き次第か」
「心操と物間、緑谷……アイツらの対応によっては一気に形勢が傾く」
このまま続けていればいつかはB組の位置を捕捉するかもしれないが、それよりももっと早い解決方法。それは分断された、あるいは分かれた者達が駆けつけること。
緑谷が戻れば【ポルターガイスト】に対応しながらB組の位置を探る余裕が生まれる。逆に心操と物間が戻れば防御に手一杯なA組に更なる攻勢を仕掛けられる。
後は時間の問題。攻撃と防御のどちらが先に限界を迎えるかという話だが……その場合先に限界を迎える可能性が高いのはB組だろう。
先程物間達が気づいた通り、A組は狂気的なまでのハードワークによってとんでもなく育っている。我慢比べとなれば先に音を上げるのはB組だ。
それ故、B組が勝つにはまず緑谷をどうにかしなければならない。緑谷が健在のまま合流すればB組の位置が緑谷にバレてしまい、単独で暴れられる可能性だってある。
「! 緑谷が動いた!」
「あれは…………」
「あの黒いのは何だ……?」
◇
正直に言うと、少しだけ不安があった。
夢で【ワン・フォー・オール】初代と話をしてからの暴発。初めての出来事に困惑と恐怖が過ぎったものの、その一回以降授業中に暴発したりする事はなかった。
それでも今までになかった事があったというだけで不安は脳裏にこびりつく。試合を見ている間も作戦会議をしている時もどこかに暴発の事がチラついていた。
「……あれ? 見つかっちゃったか」
「……!」
だけど今は対抗戦中。余計なことに思考を割いてる余裕はない。
麗日さんの悲鳴──……を、真似た心操君の声に思わず足を止めた。勢いよく振り返る視界の中、ほんの一瞬だけ映りこんだ人影に目をとめた。
「まあいい……爆豪君の活躍を見た後で君を警戒しないわけがない。君みたいに動けて強い人間……そうだろう?」
「…………」
「その一方で僕はこうも考えた。"さっきの彼の強さは他の三人によって引き出された"と……先に潰すべきは他のメンバーだと!」
煽るような語り口調。これは【洗脳】をコピーしてる可能性が高い……いや、そもそも会話に付き合う必要もない。わざわざ得意でもない心理戦に乗る必要なんてない。
最善はここで物間君を倒して【洗脳】の可能性を少しでも減らすこと。耳を貸すな目を逸らすな。今目の前にいる相手を倒すことだけを考えろ。何ひとつ情報を与えちゃいけない。
「仲間の方を見向きもせずに向かってくるなんて……随分と薄情だな!」
「───!」
「まあそうだろうね。それだけの力があれば仲間なんていなくても自分一人いれば勝てるんだもんねぇ!」
だから早く物間君を捕まえ───
「え?」
ズキン、と何かが動いたような感覚。続いてバキリ、と何かが……発目さんに作ってもらったガントレットが砕ける音が聞こえた。
感覚と音の発生源は僕の手首、いや、腕? まるでタガが外れたように黒い何かが僕の腕から噴き出した。
「うゔゔゔゔうううっ!!?」
「まーた
違う! こんなの、僕も知らない! 何だよ、何なんだよこれ!? さっきまで何ともなかったのに!!
「逃げて!」
「っ──!?」
咄嗟に出た悲鳴のような言葉に異常事態である事を理解してくれたのか、物間君の表情が変わった。
次の瞬間、僕から噴き出した黒い縄のような物が解き放たれた。僕から切り離されたわけではない、まるで瀬呂君の【テープ】のように僕の身体に根を張ったような形で伸びていた。
黒い何かは無作為に放たれ、そこら中の壁やパイプへと着弾。これ自体に破壊力はないのか破壊したり変形させたりといった様子は見られな──違う。これは……
「わっ!?」
すると黒い何かは僕の身体を引っ張った。ますます瀬呂君の【テープ】っぽい! てかこれヤバ──
「心操君!」
──ウソだろ!? こんな近くにいたのか!? じゃなくて、危ない!
「心操君……逃げて……! 力が、抑えられない……! 溢れる……!」
まるで抑え込めない!【ワン・フォー・オール】を継承したばかりの頃に似てる……! 力の全容すら掴めない!
ギリギリの所で保っていたがそれも長くは続かない。むしろ反発するように更に多くの黒い何かが伸びていく。マズイ、被害が拡大する!
「落ち着け緑谷!
「────!」
そうだ……心操君の【洗脳】ならどうにか……! 何でもいい、とにかく返事をしなきゃ!
そうして何を言ったのかも分からないまま次の瞬間、僕の意識は再び
(ここは……夢で見た……!?)
【ワン・フォー・オール】初代の記憶を見た、会話をした場所。あの時と同じだ。僕の体は目から上と右手だけが確かに存在していて、それ以外は黒いモヤのようになっている。
周囲も同じ。景色など見えやしない黒いモヤに包まれた謎の空間。それ以外は何も見えやしな……い?
違う、誰かいる。僕以外の誰かが。初代のように誰かが黒いモヤの中に立っているのが分かる。
『いや……早いと言えば早いし遅いと言えば遅いんだがよ……』
(───! 喋った! それも僕に向かって!)
やっぱりオールマイトから聞いた話とは明らかに違う。オールマイトやオールマイトの先代の人とは違う現象が起こっている。
オールマイトは『【ワン・フォー・オール】に染み付いた面影であり、そこに意思は介在せず双方干渉できる類のものではない』と語っていた。
でも違った。目の前の人──ゴーグルを額につけたスキンヘッドの筋骨隆々な男性は明らかに僕に話しかけている……僕に干渉してきている。
『20%あたりでこうなると思ってたさー……まさか30%になってから起こるとは……』
(一体何の……?)
『とにかく! その力はもう、雑念マシマシで使っていいものじゃなくなってる!』
朝にも一瞬だけ見えた人達の顔の一人……つまりこの人は歴代継承者───が【ワン・フォー・オール】の中で生きている?
スキンヘッドの男性の身体の一部がモヤとなって崩れる。どうやら時間が限られているらしい。
『お前が今出した力は
(────!!)
まさか……【ワン・フォー・オール】は歴代継承者の個性を内包している!? だとしたら八つの……いや、初代とオールマイトを除いて更に六つの個性を宿しているというのか!?
僕が理解したことを理解したのか、スキンヘッドの男性は頷きながらソレを見せた。
『これは【黒鞭】……お前が"捕える"とか"掴む"ことをイメージした事で出てきたのさ』
(【黒鞭】……物間君を捕まえようとして)
スキンヘッドの男性は自慢するように、しかし警告するように話を続けた。
ただ継承されただけではない。【黒鞭】もまた【ワン・フォー・オール】に蓄積された力が上乗せされているらしく、彼が使っていた時よりも大幅に強化されてしまっているのだと。
『本当はもう少し早く出るはずだったんだが……どうもあの【魔法】とやらのせいかタイミングが狂ってしまったさ』
(【魔法】が!?)
待って何それ!? 森岸君の【魔法】がどうしてそんな事に!?
しかし口がないのだから尋ねることもできない。視線で訴えかけるが時間制限の為か説明するつもりは無い様子。
『いいか? 怒りのままに力を振るえば力は応える……肝心なのは心を制する事さ』
(怒り……そうか、僕はあの時物間君に怒って……)
『怒るのは良い。怒りは力の源さ。なればこそ最も慎重にコントロールしてかねばならん』
『いいか坊主、お前にはこれから六つの個性が発現するさ』
『心を制して
『頑張れ坊主!
……完遂? 何を──
疑問が追いつかない。答えが返ってこない。そうこうしているうちに僕の意識は現実世界へと引き戻されていった。
耳郎(絶対
爆豪(アレ絶対OFAが原因だよな……)
オールマイト(何あれ知らない!?)
森岸「お、新技か?」