魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.耳郎は具体的にどう強化されたの?
 A.音波の威力と射程上昇に聴力上昇、ついでにちょっぴり身体能力が向上した。

 Q.森岸は緑谷の個性をどう思ってる?
 A.自分と似たようなタイプだったのかと思ってる。エネルギーを操作して強化してただけで別の使い方をするとアレになるんだろうな、という感じ。





99.波乱の第五試合・後編

 

 

 

 あ、という声が漏れたような気がした。

 

 本当のところは分からない。そんな気がしただけで実際は空気が吐き出されただけなのかもしれないし、実際に声に出ていたのかもしれない。

 

 でもそんな事はどうでもよかった。

 

 皆は驚いた顔をしていたけど、それ以上は特に何も思っていないようだった。

 

 入学当初の拙さを知っているからこそだろう。元が低かっただけにメキメキと成長していく緑谷に慣れた皆はあの異常な光景に何の疑問も抱かない。

 

 目だけで爆豪を見るとウチと同じような表情。目を見開いて冷や汗をかいており、信じられない……いや、信じたくないものを見たという様子だ。

 

 ウチも知らなければ、たまたま耳に入ってしまった【ワン・フォー・オール】の情報がなければ……皆と同じような反応をしていただろう。

 

 

(緑谷が気にしていた暴発が関係しているはず……だよね?)

 

 

 明らかにこれまでとは違う、緑谷の腕から噴き出した黒い縄のような何か。危惧していた違和感が弾けてしまったのだろう。

 

 普通ならこれまで見せてきたオールマイトのような超パワー……のような、というかまるっきりそのものだったわけだけども。その超パワーとは毛色が違うものが出てきたら何か変だと思うはずだ。

 

 疑わない理由があるとしたら……まあ、詠士だろう。当の本人も反応は他の皆と変わらな……あ、こっち向いた。見てるのバレた。

 

 

「どした?」

「……いや、何でもない」

 

 

 うん、詠士はちっとも悪くないんだけども。何ならこの先【ワン・フォー・オール】に巻き込まれたら被害者側のポジションになるはずなんだけども。

 

 ……一つの個性で馬鹿みたいにできることが多い詠士がいるせいで誰も変だと思ってなさそうなんだよね。

 

 ウチの目と耳が確かなら相澤先生達も特に疑問には思っていないみたい。土壇場で変なものに目覚めたくらいにしか思ってない。

 

 アレを異常だと認識しているのはウチと爆豪とオールマイトだけ。下手に騒ぐと疑問に思う人が出てきて怪しまれるし……どうしたらいいのアレ。

 

 

(というかあの反応的に他の先生方にも話してないってこと!? せめて何かあったらすぐに止めれる【抹消】の相澤先生には教えておこうよ!?)

 

 

 何となくわかってたけども。オールマイトが実はヒーロー業以外は想像の数十倍ポンコツなのはこの数ヶ月でしっかり理解させられたけど。

 

 重要な情報だと言うなら尚更ちゃんと管理して欲しい。伝える相手と場所を選んでくれ。少なくともこれは防げ……はしなくとも対応できた事故だろうに。

 

 頭の中で感情のままに捲し立てていると、何があったのか緑谷から伸びていた黒い何かはシュルシュルと戻っていき、やがて何事も無かったなかったかのような静寂に包まれていた。

 

 ……これ終わったら一回オールマイトに文句言いに行こう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 時間にすればほんの数秒もない。緑谷の体から黒い何かが噴き出し、心操が咄嗟に【洗脳】で止めてから緑谷が目を覚ますまではそう長くはなかった。

 

 パチリと目を開けた緑谷の目の前にいたのは心配そうにこちらを見つめている心操、そして彼の後ろからこちらに向かっているらしい麗日。

 

 

「……大丈夫か?」

「あ……うん……」

 

 

 【洗脳】を使っていない純然たる心配から出た言葉。緑谷はそれを知ってか知らずかあっさりと、しかし戸惑いを隠せないように頷いた。

 

 二人は知る由もないことだが、今のやり取りを目で、耳で確かめた教師達もようやくアレが異常事態だったことを認識していた。

 

 特に被害を出すこともなく、緑谷にも後遺症らしきものは見られない。ならば止める理由もない。

 

 

 

「まだ終わってないんだけど!?」

「っ!」

 

 

 いつの間に回り込んでいたのか、背後から物間の小憎たらしい声が聞こえた。

 

 動揺も困惑もしている。だが緑谷は転がるように避けるとその先で表情を切り替えて再び対抗戦に意識を戻した。

 

 

「心操君!」

「あ、ああ!」

「──させない!」

 

 

 このまま詰め切れるか、というところで麗日が合流。触れられた時点で負けに等しい麗日の参戦に物間の顔が大きく歪む。

 

 不安定な足場をものともせずに距離を詰める麗日。そのままバトルヒーロー・ガンヘッド直伝の【G.M.A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)】を使おうとして──視界の端に映りこんだ【ポルターガイスト】による瓦礫攻撃からの回避を選んだ。

 

 

「二人とも大丈夫? さっきの何?」

「ナイス【ポルターガイスト】!」

「黒いのが目立ったせいで合流されてしまった!」

「ん!」

 

 

 どうやら先程の緑谷の暴走を見て二人の事を心配した柳達が合流を選んだらしい。何が起こっていたのか知らない柳はひとまず緑谷と麗日を引き剥がす為に攻撃していた。

 

 続いて庄田と小大も合流。あの黒い何かが暴れた以上、A組のチームもすぐに合流できてしまう。ならば各個撃破される前にと先んじて合流に動いたのだが──

 

 

「いたァア! オラアア!!」

「ん」

 

 

 ──それはA組も同じ考えだった。

 

 飛び出した峰田と芦戸の【もぎもぎ】と【酸】による攻撃をそこらの鉄板を放り投げて防御する。しかし防御に一瞬を割いた事で尾白まで合流する時間を稼がれた。

 

 両チームの全員、十人が同じ場所に集った。ならば最早策など無いも同然。個性飛び交う乱戦へと移行した。

 

 

「デクくん大丈夫!?」

「うん……っ、危ない!」

「わっ!?」

 

 

 何があったのか聞きたい。しかしそんな余裕はない。どれほどのトレーニングを積んだのか、まるでイレイザーヘッドを思わせる軌道で伸びてきた捕縛布を緑谷が掴み取った。

 

 

「チッ……!」

「わっ、だっ!」

「えっ……」

 

 

 引き合いになると負ける。そう判断した心操は即座に捕縛布を引き戻そうと思い切り引っ張ると、拍子抜けするほどアッサリと緑谷の体勢を崩せた。

 

 力負けしている事など言われずとも分かっていた。だからこそこの結果は想定外。絶好のチャンスを前に思わず一瞬呆けてしまった。

 

 それは近くにいた麗日も同じ。まさか緑谷が力負けするなどとは思っていなかった。ギョッとしながら緑谷に声をかけると、申し訳なさを滲ませながらも冷静な声音で返事がくる。

 

 

「また皆を危ない目に遭わせるかもしれなくて、躊躇しただけ。できれば個性はなるべく控えたい!」

「じゃあ一旦退……かせてくれなさそう」

「うん……心操君が目の前にいる今がチャンスだ!」

 

 

 乱戦となった今、最も脅威になりうるのは心操だ。連携にしろ手助けにせよ必須となる会話をただそこにいるだけで躊躇わせる【洗脳】をここで落とさなければならない。

 

 

「僕の事忘れてないかなぁ!?」

「───!」

 

 

 そしてもう一人。一枚しかないジョーカーを二枚に増やせる存在。【コピー】の物間もまたここで倒さなければ。

 

 やけに自信満々に現れた物間を前に緑谷は何かに思い至ったのか酷く動揺していた。その隙を逃すことなく物間は【コピー】した個性を使用し──

 

 

「──がッ!?」

「行って!」

 

 

 真正面から麗日の【G.M.A】によって捩じ伏せられた。

 

 ガンヘッドによって最速かつ合理的に制圧できるように考案された格闘術は物間に抵抗する余地を与えない。加えて【無重力】を使われたことで麗日を振り切れたところで満足に戦える状態ではなくなっていた。

 

 この状況で物間を失うのはマズイ。彼を助けようと心操が捕縛布を使おうと手をかけ──目の前に緑谷が飛び込んできていた。

 

 

「───っ!?」

「……っ!」

 

 

 麗日の【無重力】による接近。重力の枷から解き放たれた緑谷がただの跳躍で目の前まで迫っていた。

 

 それを見ていた麗日はすぐに【無重力】を解除。慣性のままに心操と衝突し、彼の顔からサポートアイテムが外れ転がっていく。

 

 マスクの下から出てきたのは口角を吊り上げた好戦的な笑み。自分自身の声で心操は笑う。

 

 

「体育祭じゃなにもできなかったけど……あの時の俺とは違うぞ緑谷!」

「───!」

 

 

 取っ組み合いになるまでの僅かな一瞬を見逃さず、捕縛布を動かしていた。

 

 頭上へと伸びていた捕縛布を引っ張ると、轟音を響かせて頭上のパイプを落としてくる。完全に意表を突かれた攻撃。個性が不安定な今、回避が間に合わない。

 

 

(───いや、違う!)

 

 

 避ける必要はない。あの程度なら耐えられる(・・・・・・・・・・・)。そう判断した緑谷は足を止めずそのまま心操へと距離を詰めた。

 

 これすら無視されるとは思っていなかった心操は目を剥いて驚くが間に合わない。暴走を懸念した為出力を抑えた【フルカウル】の拳が心操の胸板へと突き刺さった。

 

 

「クッ……ソっ……!?」

「──!」

 

 

 それから一拍遅れてパイプが落下。直撃せず掠めるように落ちてきたが金属でできた超重量はそれすら痛い。

 

 だが緑谷は顔をしかめるだけで悲鳴のひとつも漏らすことなく心操への追撃を選んだ。

 

 

「……ちょっとは効いてくれよマジで」

 

 

 どこかうんざりしたように呟く心操は笑っていた。

 

 もう一発。緑谷の拳を叩き込まれた心操の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

「速い……強い……! 策を講じる暇すらない!」

 

 

 その頃乱戦側。乱戦となってからはA組優勢で進んでいた。

 

 遠距離攻撃を掻き消される上に防御しなければまずい【酸】の芦戸、あたればその時点で脱落も同然の【もぎもぎ】を投げる峰田、そしてこの場で最も戦い慣れている尾白。この三人を前に、庄田は近接戦闘が苦手な二人を守りながら戦っていた。

 

 更に峰田の【もぎもぎ】は峰田本人にだけはくっつかずに弾く性質を持つ。無作為に投げられていた【もぎもぎ】はトラップであると同時に峰田専用のトランポリンでもある。

 

 

「ハッハー!【跳峰田】!! 避けるなよーう!」

「最悪!」

 

 

 撹乱の峰田、遠距離の芦戸、近接の尾白。ここにきて完全なる役割分担をこなす三人にB組はジリジリと追い詰められていく。

 

 せめて一人、一人落とせたら──……という思考が雑念になったのか、とうとう庄田が押し切られる。

 

 

「【尾空旋舞】!!」

「ぐおっ……!?」

「庄田!? ぎゃっ!」

「あたったァ!」

 

 

 グルン、と横回転から繰り出された【尻尾】による強烈な一撃が庄田の胴体を叩き、振り抜かれた。遠心力の乗ったハンマーのような一振りは庄田の体をボールのように吹き飛ばし、抵抗するだけの力を奪っていた。

 

 それに気を取られた柳。意識が逸れた瞬間に跳ね回っていた峰田に突進され、くぐもった悲鳴を上げて転がされる。

 

 いくら小さな体躯であろうと速度が乗ればそれなりの威力となる。鈍く重い痛みに膝を折ってしまい、それが最後だった。

 

 

「ッシャァ!! 柳確保!」

「っ……ぐ」

 

 

 【もぎもぎ】をくっつけられ立ち上がる事さえできなくされてしまい完全に脱落。【ポルターガイスト】で妨害できなくもないが痛みに乱されそれも難しい。

 

 せめて見届けようと視界を涙で滲ませながら顔を上げると、丁度芦戸が小大に強烈なアッパーを叩き込んでいる瞬間が目に入った。

 

 

「やった!」

「ああもうっ……本っ当にウラメシい……」

 

 

 最後の最後まで実力で負けていた。それを理解させられた柳の呟きはB組の総意だったかもしれない。

 

 B組全員戦闘不能、もしくは制圧完了。これにて第五試合もまた5-0……A組の完勝となった。

 

 

 

 






瀬呂「あ、アレ絶対痛い」
切島「尾白のアレ滅茶苦茶痛いんだよな」
上鳴「俺ゲロ吐きそうになったもん」

障子「芦戸のアッパーは……痛いぞ」
葉隠「あれ顎砕けてない? 大丈夫?」
青山「森岸君が治してくれるから大丈夫☆」


庄田「」
小大「」
尾白「やり過ぎたかな?」
芦戸「いやこんなもんじゃない?」
峰田(めっちゃ痛そう……)


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