「こんにちは!」
「あら、キリト君。調子はどう?」
キリトはエイナに現状のダンジョン攻略進行を報告をするためにギルドに訪れていた。
「実は…」
この間からサポーターを雇ったことをエイナに報告した。
それで、ソーマ・ファミリアのことリリのことを聞いてみた。
「リリルカさんのことは情報ないけど、ソーマ・ファミリアについては知っているわ。」
なんでも、ダンジョンの冒険を主とするファミリアでお酒の製造を少しおこなっているそうだ。
そこまではおかしいところはないんだが…
「でも、冒険者の雰囲気が異様なのよ。何か必死にお金を稼いでいるみたいな…」
「お金…」
お金。
リリもお金を欲しがっていた。
ソーマ・ファミリアでは毎回何かしらノルマを課せられているのか?
「キリト様?」
「んっ!リリ?いつからそこに?」
「たった今です。ところで、そろそろ向かいませんか?」
「そうだな。それじゃあエイナさん、また今度。」
★☆★☆★☆
リリと一緒に攻略してから3日ほど経過している。
すでに第9階層に差し掛かっており、キラーアントなどのモンスターを相手にはだいぶ慣れてきていた。
本日11体目のキラーアントを倒すと、
「キリト様、確かにお強いですがさすがにその剣に頼りすぎでは?」
「えっ?そうかな?俺としてはそんなつもりはなかったんだけど。」
「リリが、今回レベル1でこの辺りの階層相当の片手剣を持ってきたのでこれを使ってみてください。」
キリトは腑に落ちない感じだったが、リリに言われるままに手に持った剣を背中に収めて別の剣を受け取る。
その剣の軽さに驚いた。
「か、軽すぎないか?」
「ちなみに、多分切れ味も比べ物にならないとおもいますよ。悪い意味で。」
タイミングよく前方にキラーアントが現れた。
キリトはそのモンスターに狙いをつけて、斬りかかる。
すると、
「なっ!?こいつこんなに硬いのか?」
今まで切れていた甲殻もこの剣で斬るのは骨が折れそうだ。
この得物で戦うにはまず硬い甲殻の間にある柔らかい部分を狙うしかないのだろう。
しかし、それは《黒紫の剣》でも同じことをしていたし然程影響はない。
「せいっ!」
『ギィィィィィぃぃぃぃぃ!!!』
剣がうまく間に刺さり、首を跳ねる。
そして、キラーアントは
灰になり魔石が残る。
「おお!さすがですねキリト様。その剣でそこまであっさり倒すなんて。」
「こいつとはもう結構な数の戦闘やったからね。」
「それにしてもですよ!普通はキラーアントの甲殻の隙間をあんなに綺麗に狙うなんLv.1ではそうそういないです。」
(…これなら大丈夫そうですね。)
「あれ?君は…」
「あなたは…」
そこにいたのは剣姫、アイズ・ヴァレンシュタイン。
隣にはエルフの魔導師がいた。
「もうここまで来たんだね。」
「あなたに置いていかれるわけにはいかないからね。それで、あなたがそこまでボロボロになってるんだ。よほどすごいやつと戦ったんだろう?」
「うん…階層主を倒した。」
「しかもソロでな。まったくヒヤヒヤさせる。」
「ソロで?!」
アイズの隣にいたエルフから教えてもらった事実に衝撃をうけた。
階層主とは文字どおりその階層の主で、他のモンスターはいない代わりにそのモンスターの強さはしっかりステイタス、レベルを上げていてもそれだけでは撃破できない。
その名に恥じない強さを持つ階層主をよもやソロで撃破するとは噂どおりその強さは本物なのだろう。
彼女に追いつける日は来るのだろうか?
★☆★☆★☆
アイズたちと別れた後、リリはキリトに気になっていたことを聞く。
「キリト様って…その…剣姫と知り合いだったんですか?」
「え?ああ、以前にちょっとね。」
「へぇ、そうなんですか。あ、ちょっとキリト様にお願いが…」
「なに?」
リリがこうしてお願いを言うのは初めてだ。
一体なにをお願いされるのだろうと思っていると、
「明日1日お休みをいただけないかと…」
「なんだ、そんなことか。気にしないで休みたい時は言ってね。俺なんかそうやって言ってもらわないと休まないからむしろ助かるよ。」
キリトは笑いながら言う。
そんなことを言ってくるリリは再度思うのだ。
変なの、と。
どうも彼は他の冒険者とは違うのかもしれない。それくらいは理解できてきた。
しかし、彼との冒険もそろそろ終わりを迎える。
今はこのぬるま湯少しでも浸かっていたい。
そんな感情が生まれている自分に嫌気がさす。
自分がそんなことを思っていいはずがない。それだけ、自分は汚れている。
彼を見ていると余計感じる。彼は今の自分にはまぶしすぎるのだ。
「どうしたんだ、リリ?」
「なんでもないですよ。なんでも…ないです。」
(…)
そんなリリの態度にキリトはただ心配そうに見つめることしかできなかった。
★☆★☆★☆
1日開いて、次の日。
いつものように待ち合わせの場所に向かうと、リリの姿が見えなかった。
代わりに以前
「あんたはこのあいだの…」
「お前か?ちっこいサポーターを連れているのは?」
「だったらなんだよ。」
「なら、気付いているだろうヤツの本性に。」
「なんのことかな?」
「とぼけやがって。まぁいい。それより、俺たちであいつをはめる。お前も手を貸せ。冒険者ならサポーター風情にいい気にさせておけないだろう?」
だまって聞いていれば好き勝手言う奴らにキリトの怒りがふつふつ湧いてくる。
「俺には関係ない。俺とお前達を一緒にするなよ。」
「ふん、調子乗りやがって。俺たちに協力しなかったことをすぐに後悔するからな。」
奴らはそういってこの場から離れていった。
それよりも、リリをはめると言っていた。
もしかしたら、ダンジョン内でなにか仕掛けてくる気なのかもしれない。
今日のダンジョン探索は十分に気を引き締めていいたほうがいいだろう。
「遅れてすみませんキリト様。」
キリトがそう考えていると、奴らと入れ替わるようにリリはすぐに現れた。
「いや、俺も今来たところだから。さ、今日も元気に行こうぜ!」
「…今日でさよならですキリト様。」
☆★☆★☆★
「今日は10階層に行きませんか?」
この間まで7〜9階層の間で戦闘を行っていた。
しかし、それより下に行かなかったのは11階層からまた敵の種類及びダンジョンの性質がまたかわるからだ。
白い霧に覆われており視界が悪くなるのだ。
さらに、豚の怪物のようなオークと呼ばれる今までより大きなモンスターがエンカウントするのだ。
「構わないけど、いきなりどうして?」
「キリト様の実力なら問題ないと判断いたしました。それに、より下の階層でなら魔石の大きさも変わりますし。」
「そっか。わかったならそうしよう。」
そして、10階層の入り口まで問題なくたどり着く。
やはりそこには霧がかかっており、見えづらい。
油断するとリリともはぐれてしまいそうだ。
「リリ、俺から離れるなよ。はぐれたら大変だからな。」
「ええ。わかってます…。」
バリーン。
そんな音がキリトは聞こえた。
まるでなにかガラス製の容器が割れたようなそんな音。
「リリなにか落とした?」
「いえ、リリはなにも知らないです。それよりオークがこちらに向かってきてます。」
「みたいだな。」
モンスターを確認したキリトは剣に手をかけようとした。
だが、無情にも剣を手に取ることはできなかった。
「ごめんなさい、キリト様。」
「なっ?!がっ!」
なぜなら、リリの手の剣から火が発生しそれを受けて壁に吹っ飛ばされたからだ。
魔剣。剣に魔力を宿しそれを振るうだけで魔法が発動する代物。
ただいくつかデメリットもあり、何度か使用すると剣が折れてしまうだ。
それゆえかなり高価なものとなっている。
威力は本来の魔法より劣ると言われているが、それでも至近距離で受けたキリトは身体をうまくうごかせない。
その間にリリはキリトの剣を鞘ごと取っていく。
「リリ…どうして?」
「すみません。私にはどうしてもお金が必要なんです。この剣を売れば相当な額になるでしょう。だから…」
そういうリリの顔は悲しそうだった。
そんな顔をキリトもまた悲しい表情で見つめる。
「先ほどの音の正体は、モンスターが寄ってくる成分を含む液体です。じきにここに多くのモンスターがやってくるでしょう。以前使っていただいた剣は置いていきます。この剣を使って生き残ってくださることを祈ります。」
そう言い残してリリは走り去っていく。
まずい、このままリリを一人で行かすのは危険だ。
先ほどの冒険者たちが待ち伏せしているかもしれない。
こんなことなら、来る途中で忠告しておくんだった。
キリトは重い身体をなんとか起こして、リリが置いていってくれたこの少し頼りない剣を手に取る。
そして、すでに囲まれているオークに向けて剣を構える。
「お前たちの相手をしている暇はない。そこをどいてもらうぜ。」
狙うは一撃で仕留めることができる弱点魔石だ。
現状魔石を回収する余裕はない。
なら、それを破壊することでモンスターを早急に倒すことが最優先だ。
エイナの情報だと、二足歩行をするモンスターの多くは胸のところに埋まっていることが多いらしい。
キリトはオークが持つダンジョンから生成される
そこで剣をオークの胸につき刺そうとするが、うまく刺さらない。
刺さっても若干場所がずれるのだ。
キラーアントでの戦闘ではまだギリギリ使えたがこいつ相手だと少しきつい。
しかも、敵はまだぞろぞろ現れる。
このままだとリリの前に自分がくたばってしまう。
「なにやってるのよ。」
すると、突然聞こえてきた声のあとにオークの一体が灰となって消えた。
それに気をとられたキリトは背後からのオークの接近に気がつかなった。
「しまっ…!」
「おっと!あぶないよ!」
そのオークの攻撃を受け止めたのは黒い髪に赤いバンダナをしている少女。
そして、いつのまにかとなりに近づいてきていた青い髪に目元がすこし鋭いこの少女。
「シノン…それにユウキ…。なんで…ここに?」
「そんなことは今はどうでもいいでしょ?急いでるならさっさと行きなさい。」
「ここは僕たちに任せて!」
シノン、ユウキの順に背中を押されキリトは頷く。
「ありがとう二人とも。今度ゆっくり話そうぜ!」
キリトはこの場を二人に任せて走り出す。
そこで、もう一人誰かとすれ違う。
首を動かして確認すると、金髪の女の子だった。
見間違うはずがない。彼女だ。
「…行って。」
「ああ!」
キリトは必死に走りだす。
もう誰も死なせないために。