ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

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先月からバイトを始めました。
理由はSAOの円盤を買おうかと思いまして!
早く買いたい!♪( ´▽`)


第21話

『オオオオオオオン!!!』

 

 

「こんなものでいいか?」

 

 

青いフード被るこの者。

この者がなにをしていたかというと、ミノタウロスというモンスターの調教(テイム)をしていたところだ。

それもどうやら終えたらしい。

テイムには様々な方法がある。

例えば、シリカのようなテイマーはモンスターにエサを与えたり、話しかけたり、音楽などをかけるなどで手懐けるような方法がある。

だが、これらの方法はかなり特殊の部類に入り、一般的なテイムはモンスターに攻撃を加え、どちらが上かを分からせる。

それによって主従の関係を分からせる方法が主となっている。

彼もまたその方法に則り、このミノタウロスを屈服させ、さらには自身が持ち出した大剣を授けて鍛えたのだ。

そのせいか、通常黒い体表をしているが怒りで紅く変貌しており、自慢の二つの角も片方欠けている。

その見た目のせいかどうかは定かではないが、通常のミノタウロスよりはるかに強力に見える。

 

 

「鍛えれるだけ鍛えた。後は、あいつ次第だな。さぁ、行け!」

 

 

その者が命令すると、ミノタウロスが上の階層へと移動し始めていった。

 

 

「期待しているよ。キリト。」

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

「はぁ…」

 

 

結果だけ言うと、キリトはあのあとアイズに一発も攻撃を当てることが出来なかった。

やはり、ステータスの差はそれだけ大きいといううことだ。

意表をついたとはいえ、あれだけ態勢を崩して一発も入れられないなんてな。

 

 

「キリトさん?」

 

 

「ごめん。ちょっと考え事してて。それよりさ、なんかモンスターの数が少ないか?」

 

 

「それはリリも感じてました。なにかダンジョンであったんですかね?」

 

 

不気味な静けさを漂わせているダンジョンを慎重に進んで行く。

しかし、モンスターどころか同業者である冒険者にも会わない。

下の階層に行けば行くほど会う確率が減るのは当然だが明らかにおかしい。

キリトは不安からかリリに一度地上に戻ろうと提案しようとしたその瞬間。

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!』

 

 

突如耳に届いた雄叫び。

それはどこか聞き覚えがあるものだった。

 

 

「なんですか?今の鳴き声?」

 

 

「俺は知っている気がする。そう、あれは確か…」

 

 

キリトがなにか思い出そうとするがなかなかでてこない。

するとキリトたちの後方からなにか足音が聞こえる。

二人はゆっくりと後ろを振り向くとそこに立っていたのは、

 

 

「ミノタウロス…」

 

 

かつてキリトが襲われたモンスター。

レベル2にカテゴライズされるミノタウロス。

あの時は手も足も出なかった。

 

 

「キリトさん逃げましょう!今のリリ達には太刀打ちできません!」

 

 

「いや…」

 

 

「キリトさん?」

 

 

リリがミノタウロスからの逃走を提案する。

しかし、キリトは動かない。

なぜなら、キリトはほんの数時間前のことを思い出していたからだ。

 

★☆★☆★☆★

 

 

「こんにちは。」

 

 

「あら、キリトさん!お待ちしておりました!今、お弁当もってきますね!」

 

 

ダンジョンに向かう前にここ《豊穣の女主人》でシルからお弁当をもらうことがこ毎日の習慣になりつつある。

シル厨房の中に入っていくと、反対にリューが現れた。

軽い挨拶を交わすと、リューはかつて自分が冒険者であることを教えてもらった。

そして彼女はこうも言った。

 

 

「あなたはそろそろパーティーを組むべきだ。」

 

 

「パーティーならすでに組んでいますが…」

 

 

「彼女は確かサポーターでは?」

 

 

リリのことに関しては以前ここに立ち寄った時に説明をした。

彼女がサポーターであることがなにかいけないのだろうか?

 

 

「サポーターが付いてくれるのはよいことです。しかし、それだけではなく共に背中を預けて戦う仲間を集めなくてはこの先ダンジョンを攻略をしていくことは難しいでしょう。」

 

 

そういう彼女の言葉にキリトも薄々感づいてはいた。

このところモンスターの数が多くなっている。

さらに下の階層に行けば、一体だけなら問題無い場合でも処理しきれない数に襲われたら…。

早急にパーティーの強化が必要だとは思うが、この人だ!という人物にはなかなか出会えないものだ。

だが、まだメンバーを集めなくてもなんとかなっている。

ギリギリまでは考えておこうとキリトは思っていた。

それよりも、

 

 

「パーティーメンバーについてはおいおい考えるとして、今の問題はランクアップです。ランクアップとはどうすればできるんですか?ただ、ダンジョンでモンスターを倒し続ければいいんですか?」

 

 

そのキリトの答えにリューはすかさず答える。

 

 

「ただモンスターを倒すだけではレベルは上がりません。ランクアップを果たすには強いモンスターを打ち倒すなどの偉業を為さなければなりません。いわゆる、冒険をしなくてはなりません。」

 

 

冒険。

キリトのアドバイザーであるエイナは言った。

冒険者は冒険してはならない。

だが、それは死なないための教えだ。

ランクアップするためには冒険をしなくてはならない。

あたりまえであることを今まで忘れていた。

そうだ、自分は冒険者だった。

 

 

「ランクアップするためには冒険しなくてはならない。ですが、ただ無理をすればいいといううものではありません。それは無謀というのです。今は新たな仲間を得ることを最優先にしてください。」

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

ごめんなさい、リューさん。

心のなかでキリトが謝り、背中から剣を抜く。

 

 

「キリトさん?!」

 

 

「リリ、君は早く逃げるんだ。」

 

 

「そんな?!キリトさんも早く逃げましょう!今の私たちじゃ勝てません!」

 

 

普通ならキリトに勝ち目はない。

ここでの撤退は当然の選択だ。

だが、

 

 

「おそらく、俺だけなら逃げ切れる。だが、リリの敏捷では必ず追いつかれる。」

 

 

「だったら…!」

 

 

だったら、という言葉の続きをキリトはリリの口に手を当て遮った。

 

 

「俺があいつと戦って時間を稼ぐ。その間にリリは助けを呼ぶんだ。」

 

 

「無茶です!そんなのもつはずがありません!」

 

 

ミノタウロスはキリト達に狙いを絞って接近してくる。

それも思ったとおり、かなりの速さだ。

 

 

「ふぅー…頼んだよリリ。」

 

 

親指を立てた左手をリリに向ける。

一瞬だったがそれがリリにとって、とてもとても長く感じられた。

キリトは走り出す。

ミノタウロスに対峙するために。

 

 

「キリトさーん!!!」

 

 

リリがもう一度キリトの名を呼ぶ。

だが、キリトは立ち止まらない。

大切な人を守るために。

そして、強くなるために。

今日この日に、キリトは初めて冒険をするのだ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

リリはダンジョンを走っていた。

一刻も早くキリトを助けてもらわなくてはならないからだ。

やはり冒険者の数はいつもより少なく、また見つけたとしてもミノタウロスという名を聞くと途端に上の階層のへと逃げていった。

当然といえば当然だ。

誰がレベル1でレベル2にカテゴライズされているミノタウロスと戦いたがるだろうか?

しかし、諦めるわけにはいかない。

大切な人を、自分を地獄からひきずりだしてくれた人をなんとしても助けなくては。

どれくらい時間がたっただろうか?

5分か10分か?

もはや時間の感覚が曖昧になり、焦りと不安でおかしくなりそうになった時、ある集団を見つけた。

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

あの集団は《ロキ・ファミリア》のものだ。

そういえば、キリトがもうすぐロキ・ファミリアは遠征に出ると言っていた。

もう、彼らに頼むしか他にない。

リリは急いで彼らに近づき、事情を話した。

そこの集団には同じ小人(パルゥム)男にエルフの魔導師の女性。

さらには、アマゾネスの双子の姉妹に獣人で狼男の青年。

加えて、

 

 

「キリトが…⁈」

 

 

「おい、アイズ!」

 

 

そうだ。あの剣姫、アイズがいた。

アイズはリリの話を聞くと一目散に駆けていった。

それを後を追うように他の人も走り出した。

これだけの上級冒険者がいれば充分だ。

問題はキリトが持ちこたえているかだが。

ただ、彼が無事であることを祈るしかない自分の無力さに泣きたくなる。

しかし、泣いてる暇はない。

リリも彼らの後を必死に追うために走り出した。

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

リリが離れた後、キリトはミノタウロスとの戦闘をしていた。

その戦いは予想以上にキツイというものではなかった。

それは、アイズとの戦闘訓練が大きく影響していた。

だが、唯一絶対的に負けているものがあった。

それは、

 

 

「ぐっ!」

 

 

何度目か分からない鍔迫り合いが始まる。

モンスターが持つ武器は普通ダンジョンで手に入る自然普通(ネイチャーウェポン)である。

だが、このミノタウロスはなぜが人が作製した大剣を使っていた。

その技術はモンスターとは思えないほどの大剣さばきだ。

だが、それもまだ対処できる。

問題はパワーだ。

アイズはスピードこそ出していたものの、パワーはキリトに合わせていたのだろう。

以前のシルバーバック戦のような圧倒的な差は感じないが、それでもこのように力比べになった時に拮抗できないことでうまく剣技を繰り出す隙を作り出せない。

 

 

「この!」

 

 

キリトは鍔迫り合いを諦め、刃を滑らせるようにしてミノタウロスの力を受け流す。

そして、そのまま懐に入る。

が、ミノタウロスもすぐに身体を引き始める。

キリトもなんとか攻撃を当てようと剣を伸ばすが、剣先しか当たらない。

あの時、剣技を当てたにも関わらず全く切れなかったがこの《黒い剣》なら攻撃が通ることは先ほどから理解している。

けれど、ミノタウロスもそれに気づいてか剣での攻撃に対して全力で防ごうとしてくるようになっていた。

おかげで、決定的な一撃は与えられない。

キリトが長期戦を覚悟したその時に既に目の前には奴の拳があった。

 

 

「しまっ!」

 

 

ゴッ!

というような鈍い音が響く。

今まで、剣での攻撃しかしてこなかったミノタウロスがいきなり腕で殴ってきたのだ。

後方に吹っ飛ばされ、唯一防具としてつけていたアーマーが破壊されていた。

それだけでなく、今ので肋骨を何本か折れたみたいだ。

視界が霞む。

強烈な痛みにあまり慣れていないキリトは気を抜くとあっという間に意識を持っていかれそうだ。

剣を杖のようして立ちか上がる。

形勢が今ので一気に傾いた。

警戒していなかったわけではない。

だが、今までのモンスターとの違いに気を取られていたのが大きなミスだ。

ミノタウロスがゆっくりと獲物を確実に仕留めるために近づいてくる。

それに対してキリトもゆっくりと剣を構える。

まだ、やられるわけにはいかない。

まだ、何も成していない。

そう思うと、不思議と痛みは感じなくなっていた。

痛覚を感じないほどアドレナリンでも出てるのだろうか。

久方ぶりに死を感じている。

そうだ忘れていた。

これは殺し合いだったなと。


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