ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

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彼の仮の名前がいいの出なかったな~…


第4話

「どんどん注文してくださいね!キリトさん♪」

 

 

「はは…了解です。」

 

 

ダンジョンから帰ると、神様はどうやらバイト先で飲み会があるらしく出掛けていったので一週間振りにシルさんが働く酒場『豊穣の女主人』にやって来た。

 

 

この酒場は名前の通り店のスタッフはみんな女性だ。

ネコ耳を生やした獣人キャットピープルの少女や高貴なエルフなど様々な亜人(デミ・ヒューマン)の美女美少女で構成されている。

ちなみにドワーフの女将はのぞいてだが。

 

 

以前シルさんにこのお店について少しだけ話を聞いたところ、女将であるミアさんは昔冒険者だったらしいが、今は【ファミリア】からは半脱退状態らしく、神様の許しをもらって建てたらしい。

従業員は女性のみ受け付けと徹底しており、何でも訳ありな人を気前よく雇っているらしい。

 

ならシルさんも?

と、疑問に思ったのが顔に出たのか、「私は働く環境が良さそうだったので」と先に答えてくれた。

 

 

「このお店、冒険者さん達には人気あるんですよ。お給金もいいですし。」

 

 

「わかります。毎日人がいないときなんてないですもんね。それにみんなかわいいですから。」

 

 

「ふふ…キリトさん?あんまり他の子に色目使ってはダメですよ。」

 

 

俺がいつ色目を使ったのかと問いたいところだが、生憎彼女の笑みが怖くて苦笑いしかできなかった。

 

 

そんなシルさんとのやり取りをしていると、どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。

予約していたのか俺の位置とちょうど対角線上の空いた一角に案内される。

その一団は種族が全く統一されておらず、しかし全員が全員、生半可じゃない実力を感じさせた。

 

 

(あっ…)

 

 

その中にいたのは先日出会った彼女。

アイズ・ヴァレンシュタイン。

つまり、この団体は【ロキ・ファミリア】であるということだ。

それに周囲の客もざわめきを広げていく。

 

 

「ここって【ロキ・ファミリア】の方も利用するんですね。」

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入れられてしまって。」

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!」

 

 

そのロキ様が乾杯の音頭をとったことで、団員達が騒ぎ出した。

【ロキ・ファミリア】が宴会一色の雰囲気になると、他の客も気にせず自分たちの酒をあおり始める。

ロキファミリアが酒を飲みはじめて盛り上がりが最高までに高まった時にある獣人の狼男が上機嫌に話始めた。

 

 

「そういやアイズ!お前あの時の話を聞かせてやれよ!」

 

 

「あの話…?」

 

 

「あれだよ。帰る途中で何匹が逃したミノタウロス!最後の一匹をお前が5階層で始末しただろ!?」

 

 

その話が耳に届いた時、俺は平静さを保つことが難しかった。

 

「ミノタウロスって17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、集団であっという間に逃走したやつ?」

 

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよ!俺達が呆気にとられて追いかけたやつ!こっちは遠征の帰りの途中で疲れてんのに面倒だったよな~」

 

 

今の話だと深層まで遠征していったロキ・ファミリアが帰路のの際に遭遇したのがミノタウロスで、仕留め損ねが5層までやってきたらしい。

そしてそこにいたのが…

 

 

「それでよ、いたんだよ。いかにも駆け出しで女みてぇな細っちい野郎が!」

 

 

俺のことだ。

 

 

「いやぁ、腹を抱えちまったよ!そいつ初期の装備でミノタウロスに切りかかってよぉ、そしたら突き刺さるどころかぽっきり剣先から折れちまって、あんときの奴の顔はウケたぜ!」

 

 

悔しかった。

何も言い返せない。

力がない自分に。

 

 

「ふむ?それで、その冒険者はどうしたん?」

 

 

「アイズが間一髪でミノタウロスをやったんだよ、なっ?」

 

 

「…」

 

 

俺は彼女が一言も話さないので目だけ動かして彼女を見ると、僅かに眉をひそめていた。

 

 

「それでそいつ、あろうことかアイズに話しかけて強くなるにはどうしたらだの聞いてやがったな~。まったく身のほどしれって感じだよなぁ?レベルが違いすぎるっての。」

 

 

獣人の青年はさも当たり前のように話す。

確かに、ファミリアが違うのだしレベルも向こうが遥かに高い。

だが、そこまで言われる筋合いはないと感じた。

 

 

強くなる。

一日でも早く。

彼女に追い付き、追い抜く。

 

 

「キリトさん?」

 

 

「ごめんなさい、シルさん。今日は帰ります。お代はここに置いていきますから。」

 

 

「えっ…?えっ、ちょっとキリトさん?」

 

 

俺は後ろからの声を聞かずに、店を出た。

 

 

これからだ。

もっと早く、速く。

 

 

☆★☆★

 

 

キリトが店を出た後も彼らの話は続いていた。

 

 

「しかしまぁ、久々に駆け出しのやつみたが弱いのなんのって。情けねぇたらないぜ。」

 

周りのメンバーもこれには同意できずに微妙な顔をしていた。

 

「弱いだけの雑魚が下の階層に降りてくるなよな。大人しく1層の雑魚と雑魚同士なかよくやってればいいのによぉ。」

 

 

アイズは先ほどよりも余計に眉をひそめていた。

そして、彼女の表情を察知したエルフが彼を責める。

 

 

「いい加減にしろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んだ少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利はない。」

 

 

ベートと呼ばれた獣人はなおも悪びれた態度はなく暴言を吐く。

 

 

「流石エルフ様、綺麗事並べてお偉いこって。でもよ、そんな救えねぇやつを擁護してなんになるってんだ?それはてめぇの失敗を誤魔化すための自己満だろ?雑魚に雑魚といって何が悪いんだよ?」

 

「君だって、はじめは弱かっただろう?」

 

 

「あぁん?誰だよてめえ?」

 

 

彼らの会話に突然入ってきたこの男。

顔や種族、体格などは青いローブとフードでわからない。

 

 

「彼の友人さ、昔のね。彼は僕の剣の師匠でもある。」

 

 

「なんだただの雑魚かよ。雑魚に用はねぇ、失せろよ。」

 

 

彼はその言葉に「ふん」と鼻で笑うと、ベートは勘にさわったのか、

 

 

「てめぇ、今鼻で笑いやがったな?」

 

 

「ごめんごめん。でも、そうだね…少なくとも君よりは強いかな?」

 

 

「調子に乗りやがって!」

 

 

彼の言葉にキレて飛び掛かるベート。

並の冒険者なら目で追うことすら困難なスピードだ。

ロキ・ファミリアの団員もベートの力を知っている。

そう、だからあり得ないと思ったのだ。

ベートが地面に倒れていたことに。

 

 

「なっ…なんだよ、てめぇ一体なにもんだ?」

 

 

彼はあのベートの突進をいとも容易く地面に叩き伏せたのだ。

Lv.5である彼がやられたのだ周りもざわつき始めた。

彼は何者なのかと。

 

 

「あなたは一体何者なのですか?」

 

 

先ほどのエルフが彼に訪ねる。

彼はベートから離れてゆっくりとした歩調で出口に向かいながら質問に答えた。

 

 

「僕のことは()《ブルー》とでも呼んでよ。それと、これだけは言っておくよ。」

 

 

ブルーと名乗った彼はドアに手をかけながら話した。

 

 

「彼を、《黒の剣士》を甘く見ない方がいいよ。彼ならすぐに上がってくるよ。それもものすごいスピードでね。その時、足元をすくわれないように気をつけて。それじゃあ。」

 

 

笑ったような明るい声で忠告をしたあと、彼は店を出た。それから、彼は何者なのか不審感が拭えなかったが、とりあえずベートを絞めようとエルフと彼と仲の悪いアマゾネス姉妹がベートを店の前にローブで縛って吊し上げたのだ。

 


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