トレーナーさんとの出会いは偶然だったのだろうか。それとも必然だったのだろうか。
人生をパズルに例えるなら、人との出会いはパズルピースなのだろう。
家族、友人、ご近所さん。反りが合ったり合わなかったり。ピースに合う人もいれば、合わないもの、微妙に形が違うものが出てくる。
そんな中で自分にピッタリと当てはまる人と出会えることはどれほどの確率なのだろうか。
アタシ、ナイスネイチャは隣で総菜屋で買った出来立てのコロッケを美味しそうに食べるトレーナーさんを見て、愛おしく思ってしまう。
歳は少し離れてて、ちょっぴり可愛いところもあるんだけど、いつでもアタシのことを考えてくれている。
アタシを見る瞳は何時だって真っ直ぐで、厳しいトレーニングはアタシを知り尽くしているからだ。トレーニングはキツい。でも、大事にされているのが伝わるから、どこまでも頑張れてしまう。
アタシ自身、キラキラしたい。同時にトレーナーさんの期待に応えたい。そんな思いでここまで来て、多くの一着を手に入れられた。
ーーーねえ、昔のアタシ。
ーーー今のアタシはあんたなんかより、キラキラしているよ。
「ねえ、トレーナーさん。トレーナーさんってさ、彼女いたりする?」
「え、いないけど?どうしたの、急に」
「なんでもないの。ただ、今日そういうのでクラスメイトと盛り上がっただけ」
ーーーこれからもーっとキラキラに輝くけどね。
今までのアタシだったら、勇気がでなくて聞けなかった言葉が今なら、自然と聞けてしまった。
レースの一着だけでは満足出来ない飢餓が溢れ出てしまったのだ。
「うにゃああああああああああ!なんてこと聞いてんのアタシィイイイ!」
「どうしたの、ネイチャ?」
「にゃんでもないいいい!」
部屋に戻ってから、とんでもないことを聞いてしまったと後悔してしまう。同室のマーベラスに心配されてしまう始末。
はぁ、明日からどんな顔してトレーナーさんに会えばいいんだろ。
今までのアタシならここで終わっちゃってたかもしれない。でも、トレーナーさんにはもっともっとアタシを見てもらいたいから。
「おいっすー、トレーナーさん、これどうぞ」
「え、なに?お弁当?」
「そ、トレーナーさんいつもコンビニ弁当とかじゃない?だから、栄養偏っちゃうんじゃないかなーって、ババ臭いかもだけどさ」
中身は卵焼きにきんぴらごぼう。焼き鮭とシンプルなものばかり。
トレーナーさんはお弁当を開けて、いただきますといって言って食べ始める。お弁当の中身はあっという間に消えていく。
「ご馳走様!美味しかったよ、ネイチャ」
屈託のない笑顔で米粒一つ残すことなく完食したトレーナーさんに胸の中は喜びで満ち溢れていく。
「お粗末様。はい、お弁当箱返して」
「え?洗って返すよ」
「それじゃ明日も持ってこれないでしょ」
「いいの?いや、助かるんだけど」
「いいのいいの。アタシが好きでやってることなんだからさ」
「ありがとう。ネイチャはいいお嫁さんになれるね」
「ッ!」
本当にこの人は!
アタシの心をどこまでも掻き乱していく。
「きっとネイチャと結婚する人は幸せものなんだろうな」
そうして、幾星霜が経った卒業の日。
トレーナーさんから貰った折り紙のトロフィーは、アタシにとっては掛け替えのない宝物。
それはきっとトレセンを卒業しても、大人になってもしわくちゃのおばあちゃんになっても大切なものであることは変わりないと断言できる。
トレーナーさんに会えない日は、折り紙を眺めてはトレーナーさんの顔を浮かべてトレーナーさんの名前を呼んでしまう。
トレーナーさんのことを考えない日はない。毎日あの人のことを考えているのに飽きることもなく、日に日にトレーナーさんへの思いが強くなっていく。
卒業式の日、桜の木の下でアタシはトレーナーさんと向き合っていた。
顔が熱く、紅潮しているのは鏡を見なくても自覚できる。
「トレーナーさん」
「ネイチャ、卒業おめでとう」
今、アタシの心臓はこれでもかと高鳴っている。胸に手を置かずとも、聞こえる鼓動は大舞台のレース前よりも緊張している事が自覚できた。
「トレーナーさん、初めてアタシと会った日のこと覚えてる?アタシは覚えてるよ」
今日、アタシはトレーナーに告白する。
「トレーナーさんの担当ウマ娘になっていっぱいトレーニングして、レースで一着取った時も、うまくいかなかった時もトレーナーさんはアタシを支えてくれたことも全部、昨日のことみたいに覚えてるよ」
募らせていた思いをトレーナーさんにぶつけるんだ。
「ネイチャ……」
「アタシ、ナイスネイチャはあなたのことが好きです。」
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トレセン学園卒業から数年、テレビの画面に映っているトレーナーさんを眺めている。
洗濯物を畳む手を止めて、テレビに集中する。
番組の趣旨は数々の名ウマ娘を産み出したトレーナーへのインタビューだった。
『○○トレーナー、今年もトゥインクルシリーズでのご活躍おめでとうございます』
『いえ、活躍したのは担当の子です。活躍というほどのことはありませんよ』
『謙遜されなくても。多くのウマ娘を活躍させた○○トレーナーが言ってしまうと嫌味になってしまいますよ』
『ハハハ、それは失礼しました。でも、本当に私自身特別なことはしていないんです』
トレーナーさんの瞳は昔と変わらず、真っ直ぐな瞳だった。レースに関する質問が進んだあと、インタビュアーは少し悪戯っぽく微笑む。
『○○トレーナーは名トレーナーであることは有名ですが、愛妻家であることも有名です』
『いや、お恥ずかしい』
『ウマ娘である奥様のどんなところに惹かれたんですか?』
『本当に恥ずかしいですね。そうですね、彼女は自分に自信があるようなタイプではなかったんです。誰かと自分を比較して、落ち込んでを繰り返して。そんな彼女を支えていくうち、いつの間にか自分には欠かせない存在になっていました』
『人とウマ娘の恋愛関係、実に羨ましいですね』
トレーナーさんは照れ臭そうにしていた。
『今はウマ娘のお子様も生まれて、トレーニングまでされているとか』
『トレーニングといっても、まだ小さいので厳しいトレーニングはしていません。身体への負担も層ですが、今は純粋に楽しさも悔しさも幼いながらに感じてほしいと思っています』
画面が切り替わり、小さいウマ娘と成人ウマ娘が映し出される。
トレーナーさんと奥さんとお子さんだ。
アタシじゃない。
アタシじゃない人と結婚したんだ。
途中からテレビから音が聞こえなくなる。
テレビが故障したのではない。ただ、学生時代の思い出が頭を駆け巡っていった。
「トレーナーさん………トレーナーさん………」
気付けば、トレーナーさんのことを呼んでいた。未だ忘れられないあの人のことを。
『2人は僕の一着です』
テレビから聞こえたその一言はアタシの頬を濡らすのに十分だった。