ご注文は終わらない日常ですか?   作:ツカッチ

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プロキシのみなさん、うさぎのみなさん、こんにちは。

今回の話はアニメ一期第七羽をベースに書きました。


第六羽 静かな夜と、騒がしい夜と

「ありがとうございました〜!」

 

 ルミナモールのスーパーマーケット。店員さんの明るい声を背に受けながら、僕は買い物袋を持って歩き始めた。

 足りない食材を補充し、ついでにプリンとリンのお菓子も買って、いざ帰ろうとした、その時。

 

「あっ、アキラさーん!」

 

 聞き慣れた声がして振り返ると、ココアが駆け寄ってきた。

 よく見れば、彼女が着ているのはラビットハウスの制服だ。チノからお使いを頼まれたのだろうか?

 

「やぁココア。君も買い出しを頼まれたのかい?」

 

「実は、ちょっと……」

 

 言いかけて、ココアは視線を逸らす。

 その様子からして、何やら訳ありのようだ。

 

「僕でよければ、力になるよ。」

 

 僕は彼女に一歩歩み寄り、少しだけ目線を合わせるように屈む。

 ココアは少し驚いたようで、まん丸な目をさらに開いていた。

 

「困ってる人は、放っておけない性分でね。」

 

「い、いいの?」

 

「もちろん。ココアの友達として、ね。」

 

 そう言って軽く笑うと、ココアの表情が少しだけ和らいだ。

 

「じゃあ……お願いします。」

 

 通路の中央にあるソファに腰掛けながら、ココアはゆっくりと打ち明けてくれた。

 

「実はね……チノちゃんのジグソーパズル、ちょっとだけ手伝おうと思ったんだけど……。」

 

「ちょっとだけ?」

 

「気づいたら、けっこう進んじゃってて……。」

 

 ココアは申し訳なさそうに視線を落とした。

 

「それで、チノちゃん、すごく悲しんじゃってたみたいで……。」

 

「なるほど。それで新しいのを?」

 

「うん……。でも、どんなのにすればいいか分からなくて……。」

 

 ココアはぎゅっと拳を握りしめる。

 

「わぁぁぁん!これじゃお姉ちゃん失格だよぉ〜!」

 

「そこまで落ち込むことじゃないよ。」

 

 僕は苦笑しながら、泣き叫ぶココアの肩にそっと手を置いた。

 

「むしろ、チノのことをちゃんと考えてる証拠だ。」

 

「ふぇ……?」

 

「まだ間に合うよ。」

 

 手の甲で涙を拭うココアに笑いかける。

 そして僕は立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。

 

「行こう、ココア。一緒にチノが喜ぶパズルを探そう。」

 

「アキラさん……!」

 

 ココアは涙を拭うと、いつもの明るい笑顔を見せた。

 その手で僕の手を取り、立ち上がる。

 

「やっぱりアキラさんって、お兄ちゃんみたいで頼りになるね!」

 

「そうかい? ありがとう。」

 

 そうして僕とココアは、チノへのプレゼントを買いに、おもちゃ屋へ向かった。

 

「アキラさん、早く早く!」

 

 下ろした手を掴まれ、そのままぐいぐいと引っ張られる。

 

 ……さっきまで泣いていたのは、いったい誰だっただろうか。

 

 

 

「アキラさん、今日はありがとう!」

 

「どういたしまして。」

 

 ジグソーパズルを包んだ紙袋を抱えながら、ココアはニコニコと笑う。彼女自身もチノも喜ぶパズルを買えたと喜んでいた。

 

「これならチノちゃんも喜んでくれるはずだよ!」

 

「その前に、勝手にパズルを進めたことを謝るんだよ?」

 

「はーい!」

 

 そして僕たちは並んでルミナモールを出る。

 外は、すでに夕焼けに染まり始めていた。

 

 オレンジ色の光が街を包み込み、昼間の賑わいは完全に落ち着いていた。

 

「……あれ?」

 

 ココアが空を見上げて、きょとんとする。

 

「もうこんな時間……?」

 

 手に持った紙袋と、沈みかけの夕日を交互に見て――

 

「はっ……!?」

 

 ぴたりと動きが止まった。

 

「わ、私……仕事中だった……!」

 

「やっぱりか……。そんな気はしていたよ。」

 

 今更感が半端ないが、思わず苦笑いがこぼれる。

 

「ご、ごめんなさいアキラさん!私、夢中になっちゃって……!」

 

「いや、僕も付き合わせた側だ。おあいこだよ。」

 

 しかしココアはバタバタオロオロしている。

 いずれにしろ、早く帰らなければ。

 

「ラビットハウスに戻ってみんなに謝らないと!」

 

「僕も一緒に行くよ。」

 

「えっ、アキラさんも!?」

 

「多少なりとも責任はあるからね。」

 

 そう言いながら、ポケットから車のキーを取り出す。

 

「送るよ。急いだ方がいいだろう?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ぱっと顔を明るくしたココアは、僕の後をついてきた。駐車場に停めていた車に乗り込み、エンジンをかける。

 

「アキラさん!めいいっぱい飛ばしてー!」

 

「さすがに法定速度は守らせてもらうよ……。」

 

 ゆっくりと走り出した車内で、ココアの慌てた声が止むことはなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 その後、僕とココアは六分街に戻り、チノとリゼに頭を下げた。2人はココアを心配していたようで、無事だったことに安堵していた。

 

 時間は流れ、夜の七時。リンと夕飯を食べ終え、一緒にのんびりテレビを見ていた時だった。

 

 

 ピコン♪

 

 

 リンのスマホに通知が入る。音からしてノックノックの通知だった。

 

「どうしたんだい?」

 

 画面を見つめたまま固まるリンに、尋ねる。

 

「なんかね、ココアから連絡があって――」

 

「“協力してほしい”んだって。」

 

 その画面には、『協力してほしいことがあるの!チノちゃんの部屋で待ってる!』というココアからのメッセージが表示されていた。

 

「事情は分からないけど……行っておいで。」

 

「え、お兄ちゃんは来ないの?」

 

「年頃の女の子の部屋に、成人男性が入るわけにもいかないだろう。」

 

「ヒュ〜!さすがは紳士なお兄ちゃん!」

 

「至って普通のことじゃないかな?」

 

 揶揄うリンに軽く返し、送り出す。ドアが静かに閉まり、部屋に一人の時間が戻ってきた。

 イアスたちもすでに充電という名の眠りにつき、機械の微かな駆動音が小さく響いていた。

 

「……さて。」

 

 手持ち無沙汰になった僕は、小さく息をつく。

 

「久しぶりに、お邪魔しようかな。」

 

 そう呟いて、ズボンを履き替える。

 夜の空気を感じるように、ドアを開けて部屋を後にした。

 

 

 

 夜の六分街は静まり返っていた。日中のざわめきが嘘であるかのように、物音ひとつしない。響いているのは、僕の足跡と六分街を駆け抜ける風の音だけ。

 

 そして、僕が向かったのはラビットハウス。“チノの部屋”ではなく“ラビットハウス”だ。

 

 扉を開けると、『カラン♪』と優しい音が鳴る。店内は薄暗く、カウンターのライトだけが静かに灯っていた。グラスに反射した光が、わずかに揺れている。

 

「いらっしゃい。……おや、アキラ君。」

 

 カウンターに立っていたのは、店のマスター兼バーテンダーのタカヒロさん(香風タカヒロ)。チノのお父さんだ。

 

「こんばんは、タカヒロさん。ティッピーも。」

 

 僕は1人と1匹に挨拶をして、カウンター席に腰を下ろす。タカヒロさんは拭いていたワイングラスを棚に戻し、代わりに一つのグラスを取り出すと、水を注いで僕の前に置いた。

 

「ありがとう。」

 

 礼を言ってグラスに口をつける。冷たい水が、ゆっくりと喉を通っていった。

 

「夜のラビットハウスで会うのは久しぶりだね。」

 

「そうだね。最後に来たのは……2ヶ月くらい前かな。」

 

「リン君は一緒じゃないのかい?」

 

「リンはチノの部屋に呼ばれてね。今日は僕一人だよ。」

 

「アキラ君も一緒に遊んで構わないよ。そこから家に入れる。」

 

 冗談めかした口調に、思わず苦笑する。

 

「いやいや、若い女の子の部屋に入るのは気が引けるよ。」

 

「君もまだまだ若い方さ。」

 

「……どうだろうね。」

 

 グラスの水を軽く揺らす。

 

「少なくとも、あの子たちと同じようには遊べないよ。」

 

 カラン、と氷の音が静かに響いた。

 

「何か飲んでいくかい?」

 

「話し相手が欲しかっただけなんだけど……何も飲まないというのは、マスターに失礼だね。」

 

 メニュー表を手に取り、軽く目を走らせる。

 

「……それじゃあ、ウイスキーを水割りでもらおうかな。」

 

「かしこまりました。」

 

 タカヒロさんは静かに頷くと、棚からボトルを一本取り出し、手慣れた様子でグラスに氷を落とす。

 

 コツン、と小さな音が響いた。

 

 続けてウイスキーを注ぎ、水を加える。

 マドラーで軽くかき混ぜると、琥珀色がゆっくりと揺れた。

 

「お待たせしました。ウイスキーの水割りです。」

 

「ありがとう。」

 

 グラスを受け取り、軽く口をつける。

 ほんのりとした香りと、柔らかな苦味が広がった。

 

「……飲みやすいね。」

 

「アキラ君に合わせて、軽めのものを選んでみたよ。」

 

 短いやり取りのあと、店内には再び静けさが戻る。

 グラスの中で氷が触れ合う、小さな音だけが響いていた。

 

「最近はどうだい?店の方は。」

 

 先に口を開いたのはタカヒロさんだった。

 

「ぼちぼち、かな。電気代は相変わらず高いけど……常連さんには助けられてるよ。」

 

「それは何よりだ。」

 

「タカヒロさんの方は?昼と夜で忙しさも違うだろう?」

 

「昼はいつも通りさ。娘はしっかりしているし、リゼ君とココア君がいるおかげで店も明るい。」

 

 そう言って、タカヒロさんは小さく笑う。

 

「夜は……こうして静かにやっているよ。」

 

 カウンターに手をつきながら、淡々とした口調で続けた。

 

「バーを始めた当時に比べたら客の数は多くないが……その分、一人一人と向き合える時間がある。」

 

「なるほど……。」

 

 グラスを傾けながら、僕は頷く。

 

「それもまた、いいものだね。」

 

 そう言って僕はウイスキーを一口、喉へ流した。

 

 と、その時。

 

 

 ピコン♪

 

 

 スマホに届いたノックノックの通知。

 ポケットからスマホを取り出すと、そこには――

 

『お兄ちゃん!今すぐにチノの部屋に来なさい!』

 

「お、怒っている……!?」

 

 リンが命令文で連絡して来るなんて……。

 どうやら、今の彼女は相当お冠らしい。

 

 スマホを握りしめたまま、僕は小さく息をついた。

 

「……これは、行かないとまずいね」

 

 グラスに残っていたウイスキーを飲み干し、カウンターに置く。

 

 ポケットから財布を取り出し、1000ディニーを静かに置いた。

 

「アキラ君?」

 

「ちょっと、呼び出しを受けてしまってね……。お釣りは後で取りに来るよ。」

 

 苦笑しながら立ち上がる。

 

「そこから入ってもいいのかい?」

 

「ああ。チノの部屋は2階に上がって一番奥の部屋だよ。」

 

 タカヒロさんの穏やかな声を背に、僕はラビットハウスを後にした。

 

 ドアを開けた先にある階段を上り、奥の部屋に向かう。ドアの隙間からは光が漏れていて、何やら声が聞こえてきていた。

 

 部屋の前に立ち、軽くノックをする。

 

「アキラだ。入ってもいいかな。」

 

「どうぞ。」

 

 中からチノの声が返ってくる。

 

 扉を開けた瞬間――

 

「おっそーい!!」

 

 リンの怒声が飛んできた。

 

「やっぱり怒ってる……。」

 

 思わず一歩たじろぐ。

 

 部屋の中には、チノ、ココア、リゼ、千夜、シャロが揃っていた。そして床一面には、例のジグソーパズルが広がっている。

 

「おっ、来た来た。」

 

「アキラくん、こんばんは〜。」

 

「アキラさん!」

 

「こ、こんばんは。」

 

 全員の視線が僕に向けられ、口々に挨拶が飛ばされる。

 

「アキラさん。すみません……こんな時間に。」

 

「いや、それは構わないけど……。」

 

 ふと、視線を落とす。

 

 改めて見ると、やはり異様だった。

 

「……これは、想像以上だね。」

 

「でしょ!?」

 

 リンが勢いよく腕を組む。

 

「8000ピースだよ!?お兄ちゃん何考えてるの!?」

 

「最終的に選んだのはココアだよ……。」

 

「そ、それはそうだけど……!」

 

 ココアがしゅんと肩を落とす。

 

「だ、だってチノちゃんが悲しんでたから……!」

 

「違うのココア、問題はそこじゃないの!」

 

 リンはびしっと僕を指さした。

 

「一緒に選んでた張本人(お兄ちゃん)が、ほとんど手伝ってないこと!」

 

 リンの鋭い指摘に、言葉が詰まる。

 彼女は深くため息をつくと、僕の方を見た。

 

「ほら、お兄ちゃん。責任取って。」

 

「……やっぱりそうなるよね。」

 

 苦笑しながら靴を脱ぎ、部屋へ上がる。

 

 そして、床いっぱいに広がるピースの海へと足を踏み入れた。

 

「アキラくん、今夜は寝かさないわよ〜?」

 

「千夜、それは洒落にならないから……。」

 

 まだ夜の八時。

 

 けれど――

 

 長い夜が始まりそうだった。




無自覚人たらしお兄ちゃんのセリフを考えるのが難しい。

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