30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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11_初めての企画、異種恋愛譚

 手を引かれて初めていった図書館。

 

 母に作ってもらった図書カード。

 初めての自分だけの持ち物に目を輝かせた。

 

 遠くにいる母に促され、これを貸してくださいと絵本を司書さんに手渡した。

 

 手続きを終えた司書さんは、ほほえましいものを見る目で俺に本を手渡してくれて、それを大事に受け取った。

 

「ありがとーございます」

 

 舌ったらずな声でお礼を言って、三冊の宝物を抱えて母の元へと戻った。

 

 文字はまだ読めなかったけど、絵だけでもお話を楽しめた。

 一人の時間に何度も何度も読み返して、毎日図書館へと通って新しい本を借りた。

 

 それが俺の、一番古く暖かい思い出。

 

 

***

 

 

 

「異種恋愛の古典紹介?」

「あぁ、テーマを絞って、それに合致するお話を紹介しようと思うんだ」

 

 

 五月十七日の日曜日、互いに配信をしていない時間に通話をつなげ、考えた企画の相談を行う。

 ミコトには企画が水準を満たしていなければバッサリ断ってほしいと頼んだ。 気にしないでいいのに、と言われたが、ミコトの足手まといになるのは嫌だと言えば折れてくれた。

 

 

 普段している紙芝居動画は、物語の再話。 子供向けに内容を一部削ったり、複数ある話を纏めたりしたもので、一つの動画で話せる物語は一つ。

 青空読書は本の雑談をした後に、青空文庫に存在する物語を朗読する形式だ。 雑談の中で本を紹介することは有っても、その内容はバラバラだ。

 

 だが今回の場合は、異種恋愛というテーマに絞っていろんな物語を紹介できる。 サムネイルやタイトルで、古典や読書という大きな分類なら入りづらくても、"異種恋愛"というテーマが気になる人は入りやすいのではないだろうか。

 

 

「うん。 本は君の好きなものでチャンネルの武器だもんね。 良いと思うよ。 でも、最初にこのテーマにしたのは何故かな?」

「以前ミコトに、リスナーの見たい物について言われただろ? 俺なりに本の人気ランキングとかから色々調べたんだよ」

 

 

 書籍の売り上げランキングやアニメ化した作品の一覧から、今注目度が高いもの。 つまり需要がある物を調べた。

 凄くざっくりとした分類になるが、男性はバトルを伴うファンタジー。 女性は恋愛ものや歴史ものが強いようだった。

 

 ただバトルにせよ歴史にせよ、どちらにしても完全に恋愛要素を排除した作品は殆ど無かった。 恋愛ものは男女ともに人気のあるジャンルなのだろう。

 古典であれば、歴史ものに僅かに被る。

 異種恋愛であれば、ファンタジーに登場する亜人種にも被る。

 

 これなら多くの人が興味を引かれるのではないか。そう考えて今回のテーマを選出したとミコトに説明した。

 

 

「理由もちゃんと考えてたんだね。 なら、ゲストとして参加するよ」

「よかった、ありがとう。 ……ところで、ミコトならこのコラボ企画は何点だとおもう?」

「ボクじゃこの企画は出来ないから百点! ……と言いたいけど、ボクでもわかる減点が三つあるから七十点かな」

「それでもコラボしてくれるんだな」

「大型企画でもないなら完璧目指していつまでも配信しないより、ある程度の面白さが見込めるなら及第点でやっちゃうくらいがボクは良いと思ってるよ。 ボクはただのゲストで特に準備も必要ないし。 スケジュールが空いててちょっと面白そうなら参加してもいいって感じ」

 

 

 ミコトはそう言いながら、減点の理由を説明する。

 

 

「まず、ボクに声をかけたのが十点減点だね。 この企画なら犬とか竜とか、いろんな人間以外のVTuberに声をかけてみたほうがいい。 とりあえずコラボのお誘いをしてみて、そこから新たなつながりも生まれるしね」

「う……。 確かにそうか。 ミコト以外と配信するのはあまり考えてなかったな」

「そう言ってくれるのはちょっとうれしいけど、交友関係を完全に閉じ切ってしまうのはチャンネルにも良くないよ。 たまには他の人と関わっていこうね」

「善処します」

 

 

 コラボ配信はチャンネルの初期に何度か。 それも相手からの連絡で、自分から声を掛けることは殆ど無かった。

 

 

「それで、他には?」

「市場分析が甘いのでさらに十点減点。 男の子の場合、バトルものというザックリとしたところで止まらず細分化できるはずだよ? 立身出世なのか、不愉快な相手を倒して気持ちよくなりたいのか、承認欲求なのか、ただ凄い作画で戦ってるのが見たいだけなのか、とかね」

「なるほど……。 確かにアニメやマンガだと絵の比重は結構重いな」

「女の子の方もそう。 何故歴史ものが人気なのか考えなきゃ。 例えば、刀剣や英雄・偉人のゲームが人気になったから元ネタが知りたくて買っているとか、大河ドラマや歌舞伎、2.5次元舞台の影響とか。 恋愛にしても、学生の恋愛が受けているのか。 異なる時代や国の宮廷恋愛が受けているのか。 恋愛よりも、妨害してくる妹やライバルをボコボコにするのが主題のものもある。 そこまで掘り下げてたら、ぴったり合う作品を紹介しやすくなるでしょ?」

 

 

 確かに、宮廷恋愛ものに注視すればとりかへばや物語や光源氏、求婚を袖にした竹取物語や、浮名を流した和泉式部などに繋げることも出来たかもしれない。

 

 

「最後は?」

「リスナーに相談してないこと。 この間の青空読書でも何を読みましたか? だけじゃなくて今の流行とか何が受けてるのかとか聞けばよかったんだよ。 あと草案の段階で話しておけば、面白そうですね。 遊びに行きます。 って人も出るかもしれない」

「でも、迷惑じゃないか?」

「リスナーは何人もいるんだよ? 面倒だって思う人は『誰かがやってくれるでしょー』って気にしないし、答えたい人は『はいはーい!私わかるよー!』って教えてくれるさ」

 

 

 答えたい人が答えて、答えたくない人は気にしない。 目からうろこだった。

 俺は無意識のうちにリスナーを一人一人の個人として見ていたが、総体としてのリスナーに呼びかけて、答えたい人だけが反応するという形でもいいのだ。

 

 

「まずキミは人に頼ることを覚えなきゃ。 なんでもかんでも自分で抱えすぎ。 自立してるのは良いことだけど、もっと積極的にリスナーに頼ってもいいよ。 リスナーだって頼られれば嬉しいはずだからね」

 

 

 耳に痛い忠告を受け、深く息を吐く。

 ミコトは動画を作るときも、ある程度外部への委託を行っていた。 個人で出来ることは限界がある以上、俺もそうするべきだった。

 

 

「勉強になります……」

「通話だから顔が見れないけど、なんかしおしおになってそうだね。 ……あんまり落ち込まないでね? 配信の企画もリスナーとの関わりも、絶対の正解があるわけじゃない。 あくまでボクの考えってだけだからね」

 

 

 こちらを慰めるミコトに礼を言い、配信の日付を決めてから通話を切る。

 そして、先ほどの通話を記したノートを見返した。

 

 

「……自分の考えとはいうものの。 言ってることは納得できるんだよな」

 

 

 俺が作った動画で比較的伸びたタイトルたち。 アレは確か、ゲームのキャラとして登場して人気が出て、関連動画として紙芝居も伸びた経緯だったはずだ。 市場調査を事前にしっかりしていれば、同じように流行りに乗って伸びた動画はいくつか作れていたかもしれない。

 

 

 市場調査もリスナーへの相談も次回以降の配信での改善点だが……、ほかに何かできないだろうか。

 

 

『この企画なら人間以外のVTuber』『人に頼ることを覚える』か……。

 

 

「……平野先生に、一度相談してみるか」

 

 

 以前教えていただいたアドレスへ、メールの文面を書いては消し、書いては消す。 失礼になってないか。 文面が固すぎやしないか。 送る時間は今でいいのか。

 ビジネスメールは何度も書いてはいるものの、仕事や会社員という役割を取り払えば、お願いして拒絶されないかという不安が付きまとう。

 

 送信ボタンを押すのが怖くて何度も文面を見直した後に、それだとただ先送りにしているだけだと自分で自分を叱りつけて、たっぷり深呼吸をしてから送信ボタンを押した。

 

 

 

 ……結果からいえば、拒絶されることも無く。

 ダメもとでお願いした内容も色よい返事がいただけて、最良の結果が得られたと言える。

 

 

 だけど、条件として返ってきた"お願い"に、やっぱりメールを送らない方が良かったかな? なんて、少しだけ思った。

 

 

 

***

 

 

 

 五月二十日の水曜日。

 予定となった配信の日。 企画を立ててから配信の空いている時間が三日後のこの日だったため、慌ただしく書籍紹介用のスライドを作って完成させた。

 

 

 古典紹介の際はタイトルやあらすじなどを画面に映し、それを元に説明する。 そのため聞き手役であるミコトには画面共有ソフトを使用して、配信画面をミコトと共有する形だ。

 ゲストがリスナーと同様、Youtubeのライブ配信画面を見て状況を確認するという方法もあるが、それだとどうしてもタイムラグが大きくなる。

 そのため、今回は画面共有で行うことにした。

 

 

 

「こんばんは、本や物語を紹介するVTuber、紙カクシです」

「ゲストの睦実ミコトだよー。 ……カクシ君、どうして隠れちゃってるのかな?」

 

 

 ミコトが配信画面に俺が映っていないことを疑問に思っている。

 実は今日は平野先生にお願いした"仕込み"があるのだが、実行に移すかは配信ギリギリまで悩んでいたため、まだミコトには説明していなかった。

 

 

 恥ずかしくて仕方ないが、俺は意を決して配信画面外の下側から、自分の体をドラッグして顔だけを上に出す。

 その頭にはピコピコと揺れる可愛い狐の耳が付いていた。

 

 それを見たミコトが驚きの声を上げる。

 

 

「ど、どうしたのカクシ君! その可愛い姿!?」

「……この配信する前に、ミコトが人外のVTuber呼んだ方がいいって言ったから……」

「確かに言ったけど! ……あ! だから自分でなったの!?」

「平野先生にダメもとで、もし耳とか尻尾生やすなら費用や期間はどのくらいですか? って言ったら、趣味で作ったの有るので送りますよって」

 

 

 平野先生に相談したのは、次回以降同じことがあったときのために予算や期間を相談するためだった。 だが予想しなかったことに、既にモデルが存在していたため、今日の配信にこの耳が間に合ったのだ。

 

 

「あー……、ママ。 キミのこと結構好きみたいなんだよね。 そのモデルの製作は納期をかなり長めで取ってたんだけど、筆?が乗ったのかかなり早く完成して、逆に『一万人まだなの?』ってせっつかれてたし」

 

 

 仕方のない人だなぁ、と少し困ったような笑い声を漏らすミコト。

 俺のモデルは初期のイメージこそ俺だが、露出度を含めたデザインや、顔つきの画風、数パターンある髪型など平野先生の好みが大幅に反映されている。 愛着がわいて当然だろう。

 

 そして、未だに頭しか出していない状態の俺にミコトが疑問を呈す。

 

 

「でもなんでそんなに隠れてるの? 耳を付けるために依頼して、付けてもらえたなら、別に恥ずかしがらなくていいじゃん」

「……それが、これ外したらダメだって」

 

 

 最もなミコトの疑問に、俺は配信画面に胸元までを表示した。

 その首にあるのは、チョーカーと言うよりは大型犬用の太めの赤い首輪だった。

 

 

>コメント:ワンちゃんプレイですか!?

>コメント:エッッッッ!!!

 

 

「犬じゃないです、狐です。 後ろから見たらお尻に太くてほわほわのしっぽがあるんですよ。 ……平野先生に、お金を払うんで耳と尻尾のモデル買い取れますか? って言ったら『お金はいらないんで、その首輪まで込みのフルセットで配信してください』って……」

「ママ! カクシ君にセクハラやめて!」

「今メチャクチャ恥ずかしい……!」

 

 

 そういいながら思わず熱くなった顔を覆う。

 

 

>平野律:趣味で他にも色々作ってるので、今後も連絡してください。 カクシさんにはおしゃぶりとかおすすめです。

>コメント:年上の男性におしゃぶりや首輪を付けたがるママ

>コメント:業が深すぎるだろ

>コメント:性癖を満たすために技術を身に着けたタイプのクリエイターだ

 

 

 コメントにも登場した平野先生、おしゃぶりとか一体どんな配信で使うというんだ。

 

 

「……いいんです。 普通はお願いして数日でこの耳とか間に合うわけないんですから。 多少の恥は飲み込みます」

 

 

>平野律:[10000]値段言わないけど、このくらいの工数で尊厳売ってくれるなら貰いすぎだからお釣り渡すね。 バニーのスーツも作ってるからいつか着てね。

 

 

「平野先生、スーパーチャット……お釣り、お釣りの額これ!? ……ありがとうございます。 スーツ、仕事で着ていますが、首回りが苦しくて苦手なんですよね……」

「カクシ君よく読んで。 "バニーの"スーツだよ

「うわホントだ! 文面が酷いから読み飛ばしてました!」

「……ママ、あんまり度が過ぎると怒るからね? カクシ君も、行き過ぎたセクハラはちゃんと断りなよ?」

 

 

>平野律:ごめんなさいー!!

>コメント:やーい息子に怒られてるー

>コメント:そりゃ怒られるやろ

>コメント:息子の友達に羞恥プレイを迫る母親とか想像したら嫌だよ

 

 

「……えー、一応平野先生のフォローをさせていただくと、私たちよりお若い方ですからね。 あと本当に本当に無理なときは私も普通に断りますから。 首輪はとてもとても恥ずかしいですがギリ何とかいけます。 なのであまり心配しすぎないでくださいね」

 

 

 こう言っておかないと、本当に嫌がっているのを無理やりやらせたと平野先生の評判がかなり落ちてしまう。 まぁ実際かなり恥ずかしくて、かなり嫌よりの行いなのだが、何とか耐えられるレベルだ。

 

 

「はい、というわけで気を取り直して、配信をしていきましょう。 紙カクシです。 今日は異種恋愛に絞ってお話したいと思います」

「生徒役としてボクは参加するよ。 だから衣装もブレザーで女子生徒風! リスナーの皆も一緒にお勉強していこうね」

 

 

>コメント:はーい!

>コメント:かわいい!

>コメント:どんな話か楽しみ。

 

 

 今日のミコトの衣装は、ミコトの発言通りブレザーの女生徒衣装だ。 3Dではなく二次色先生製のLive2D。 カーディガン差分もあってオールシーズン使用できる衣装だ。

 

 

「ミコトとは大学からなので、そういう格好を私は見たことないですね」

「大学は私服だったからねー。 ……いや、そもそも高校でのボクはちゃんと男子制服だったから、ズボンを履いてたけどね」

「似合ってそうですし、その服も見たかったですね」

「ふぅん……。 実家に残してるし、今度着てあげようか?」

 

 

>コメント:またイチャイチャしてる……

>コメント:30歳を超えて制服プレイですか?

>コメント:BL営業はいいんだけど、裏でこっそりイチャついてるのを想像する方が興奮するんだよなぁ。

 

 

「いえ、別に営業ではないのですが……。 私たちは普段からこうですしね」

「口調はちょっと違うけどね」

 

 

 最初の動画の時は抱きついて来たり、隣に座っていることで燃えないかと危惧していたが、特にそんなこともなく受け入れられていた。

 俺が気にしすぎていただけで、世の中のコミュニケーションはこんなものなのかもしれない。

 

 

>コメント:"ガチ"ってこと?

>コメント:[500]話変わってきたね、もうちょっと聞かせて?

 

 

「スーパーチャットありがとうございます。 もうちょっと話聞かせて……。 ミコト、やっぱり俺達って距離近いのかな?」

「距離感は人それぞれだから気にしなくていいよ。 詳しくと言われても、配信で見てる姿をそのまま想像してくれればいいかな。 ボクたち特に変わってないから。 あんまり脱線しすぎると本編の時間無くなるからこの辺りで許してね」

「……それもそうですね、スーパーチャットを貰って申し訳ないのですが、そういう話はまたの機会ということで」

 

 

>コメント:残念……

>コメント:カミコトはあるんだ

>コメント:ミコカクかも

 

 

 コンビやユニット名を考えているリスナーが目に入る。

 俺達がデビューした二〇一八年は、ユニット名の文化はそこまで定着していなかった。 どうせ同日デビューするなら、そのあたりの名前を考えてもよかったかもしれない。

 そんなことを片隅で考えながら、本編の話をしていく。

 

 

「さて、今日のテーマは異種恋愛の物語を紹介していきます。 異種恋愛とは、そのまま人と人以外の恋愛ですね。 異類婚姻譚とも言うのですが、結婚に至らないケースも紹介したかったので、異種恋愛としています。 有名なところで言えば安倍晴明の母が、葛の葉という狐です」

「有名、なのかな……? ボクは君から教わるまで知らなかったけど……」

「私、昔から本好きなので有名か否かが正直判断がつかないんですよね。 なのでこういう疑問は非常に助かります。リスナーさんは知ってましたか?」

 

 

>コメント:昔、安倍晴明が流行った時に調べて知った

>コメント:知らないかも

>コメント:そもそも清明は凄い陰陽師ぐらいの知識しかない

>コメント:神社に行ったことがあります

 

 

 知っている人はおよそ二割程度だろうか。 本好きのリスナーが多く集まるチャンネルでそれだと、マイナー寄りなのかもしれない。

 

 

「コメントには神社に行ったことがある方もいるようですね。 実はこの狐は元々信田妻と言って、大阪の信田という地の伝承なんです。 それが後に歌舞伎や浄瑠璃になり、葛の葉と名を与えられた。 そんな経緯です。 ……これは言おうか迷ったのですが、彼女をまつる神社は一つしかありません。 もし御実家から行ける範囲にあった、とかなら住所バレに繋がるので、何を祀った神社がそばにあるかは秘密にした方がいいですよ。 詳しい人ならある程度特定できちゃいます」

 

 

>コメント:うへー、もう引越してるんで大丈夫ですが気を付けます

>コメント:好きなお菓子が、実はご当地お菓子だったとかでも出身地バレる

>コメント:俺もさくら大根が関東ローカルなの、Vリスやっててはじめて知ったわ

 

 

 コメントでは出身地バレの経験が話し合われている。 リスナーが身バレして問題が起きるかは不明だが、気を付けた方がいいのは確かだ。

 

 

「それでお話を戻すけど、これはどんなお話なの?」

「そうでしたね。 男に助けられた狐が、恩返しのために男の元へ行き、いつしか二人は結ばれて童子丸という子を授かる。 これが後の安倍晴明です」

「カクシ君みたいに狐耳は生えてなかったのかな」

「葛の葉も晴明も、見た目は完全に人間の姿ですね。 漫画とかだとイメージ優先で獣耳を生やしたって良いかもしれませんが」

 

 

 本来は俺が進行すべきなのだが、脱線しがちなのでミコトが軌道修正してくれることに感謝しながら話を進めていく。

 

 

「ただ、ある時葛の葉は童子丸と寝ている時に自分の姿が狐に戻ってしまい、童子丸に見られたことで家族から去ることになります。 この際、役者は口で筆をもち、ふすまに歌を書いて記した。 このような方法で人ではないという描写をしたわけですね」

「へぇー、面白い方法! 今だと特殊メイクで獣人っぽく見せたり、狐のロボットとかCGにしそうだよね」

「無かった時代の創意工夫というものですね」

 

 

>コメント:口で書くとかしてたんだ

>コメント:親が狐なのは知ってたけどこれは知らなかった。

 

 

「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉。 会いたくなれば住処の信太の森に来てください。 そう残して去っていくわけです」

「よかった、会いに行っていいんだ」

「ええ、帰ってきた夫は童子丸と共に、葛の葉を訪ねそこで不思議な道具を貰いました。 そこからは安倍晴明の物語へと変わっていきます」

「……あれ? もしかして、道具をくれただけ?」

「……そうです。 訪ねておいで、と言ってますが一緒に暮らせるわけじゃありません」

 

 

>コメント:むしろこの状況で物品だけ与えて帰すのおかしくない?

>コメント:わけがわからない

>コメント:いやまあ一応野生動物だから、共に暮らすのはダメなのか?

 

 

 コメントの方でも基本的には納得がいっていない意見が多いようだ。

 

 

「おかしいじゃん! キツネとわかった上で夫は会いに来たんだから、もう一緒に暮らしなよ!」

「そうなんですよね……。 じつはこの異類婚姻譚と呼ばれる物語は、正体がバレた場合、どれも共に暮らせなくなるんです。 私も、一緒に暮らせた方がいいと思うんですが」

 

 

 ミコトも少し納得がいかない、という雰囲気で怒っている。

 

 

「ここからは他の物語も紹介していくので、色々と見ていきましょうか」

「ボクはハッピーエンドが見たいよー! 期待してるからね!」

 

 

 俺は黙って画面に映っているミコトのモデルとは反対の方を向いて目をそらした。

 

 

 

 そこからは、四つの物語を紹介した。

 

 

 

 妻の本来の姿である、ワニ(龍)の体を見てしまったために喧嘩別れとなった豊玉姫。

 浦島太郎のモデルになった浦島子と亀姫、こちらは箱を開けたことで老人になるのではなく姫と再会できなくなる話。

 葛の葉と同じように、夫と再開まではするのに共には暮らせない蛇女房。

 蛇が人に化けて夫となり女性を妊娠させたが、三度の節句の酒で清められて子が流れる蛇婿伝説。

 

 

 一つ一つ説明していくうちに、ついにミコトの不満が爆発した。

 

 

「なんで! ハッピーエンドの! 話がないの!?」

「そういうパターンのお話なんですよ」

 

 

 ホントにこの物語の形式にハッピーエンドは殆どない。

 人は人としか結ばれないと言っているかのようだ。

 

 

「っていうか豊玉姫も子供捨てて帰んないでよ!」

「フォローしておくと一応、妹を送って子供の面倒は見てもらっていますから」

「でも自分の子供だよ!?」

「自分の子供相手でもそういう人はいます」

「そうかもしれないけどさー!!」

 

 

>コメント:古い時代だし

>コメント:一応乳母を付けただけマシか?

 

 

「ちなみにこの息子である天津日高(あまつひこ)日子波限建(ひこなぎさたけ)鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)は養育してくれた玉依毘売(たまよりひめ)と結婚して神武天皇を授かりました」

「なんて?」

 

 

 先ほどまで怒っていたミコトが、キョトン? としながら問い直してくる。

 

 

「養育してくれた母みたいな人と結婚して」

「いや、ごめん。 名前の方」

天津日高(あまつひこ)日子波限建(ひこなぎさたけ)鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)ですか?」

「……覚えたの?」

「中学の時に、あまりに長い名前なのでムキになって覚えました。 あまつひこ、ひこなぎさたけ、うがやふきあえずのみこと、で三つに分けるのがコツですね。 屋根がふきあわされてない時に生まれ、かやに包まれ、なぎさに捨てられた子、という意味です」

「そう聞くとちょっと覚えられるかもしれないけど、なんか名前も、捨て子って感じの名前だし、ちょっとかわいそうだなぁ……」

 

 

>コメント:よー覚えるわ

>コメント:オタクはフルネーム覚えがち

>コメント:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが何だって?

 

 

「ミコトには悪いのですが、最後の一つもハッピーエンドではなくて……」

「はぁ……。 いいよ、物語を作ったのは君じゃないんだもん。 次回はハッピーエンドのお話を探してきてよね」

「えぇ、わかりました」

 

 

 とはいえ、悲恋や悲劇の方が印象に残りやすい。 ハッピーエンドとなれば英雄譚だろうか。 ……いや、ヤマトタケルすら悲劇で終わっているか。

 それについては後で考えるとして、最後のお話をするとしよう。

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