30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編
番外編1_ミコト:のろけ配信


 パソコンの前に座りながら、配信開始の時間を待つ。

 

 ボクはつい先日、三カ月の休止を終えて復帰配信を行ったばかり。

 休止の理由は、カクシ君を放っておけなかったという理由が第一。 第二に、面白半分に火をつけた連中の開示請求と訴訟だ。 何度も何度も弁護士事務所に足を運ぶことになったし、基本的に赤字になるとは言われたが些細な問題だった。

 何が有っても守るという意思表示でもあるし、次に同じようなことをした奴に容赦しないとアピールすることもできる。 それが結果的に、次以降の誹謗中傷を抑制できる。

 

 

 ……おっと、いけないいけない。 もうすぐ配信時間が始まってしまう。

 

 

 用意していた配信枠を見れば、先程まで考えていたつまらないことはすべて吹き飛んだ。

 タイトルは【交際開始】紙カクシとお付き合い始めました【惚気雑談】

 

 十四年の恋が成就し、自分の胸に秘めておきたいこと。周りに言いたいこと。

 様々な感情のままに配信枠を取り、時間になったことを確認して開始ボタンを押した。

 

 サムネイルを作った時も、待機所を作った時もハッキリ言って浮かれており、その気持ちがよみがえった今、OPが終われば挨拶もそこそこに本題へと入る。

 

 

「配信内容はサムネとタイトル通り!! ボク!睦実ミコト、紙カクシ君と交際スタートしましたー!!! 今日は惚気る! 以上!!!」

 

 

>コメント:端的!

>コメント:わかりやすい!

>コメント:[5000]おめでとうございます!!

>コメント:[10000]祝!交際!!

 

 

 いくつもの祝福コメントやスーパーチャットが飛び交い、暖かな気持ちになる。

 配信者の交際であり、同性の交際をたくさんの人に祝福してもらえる時が来るとは全く思っていなかった。

 

 それぞれに丁寧に感謝を述べた後、サムネの意図を話す。

 白一色の背景にボクの姿を中心に置いて、両サイドに交際開始と赤文字でデカデカと表記した分かりやすいサムネイル。

 

 

「内容を見なくてもわかるようにしたくてね。良い知らせか悪い知らせかわからないのって、心臓に悪いでしょ? ……まぁ復帰配信の後に悪い知らせって何だよって思うけど」

 

 

>コメント:それは本当にそう

>コメント:黒塗りに文字だけのサムネマジ怖い

>コメント:お付き合いを機に引退しますじゃなくてよかった

 

 

「ちなみに今日カクシ君はこの配信を見ていません! 恥ずかしいから見ないでね、ってお願いしたからね!」

 

 

>コメント:それでいけるんだ

>コメント:プライバシーを守るセキュリティ、口頭でのお願い

>コメント:メン限配信ですらないのにプライバシーもなにも

 

 

「いいんだよ、カクシ君にだけ見られてなければ。……ってうわぁ」

 

 

 目に留まったのは、一つの赤いスーパーチャット。

 

 

>コメント:[50000]最近伸び悩んで休止してたのはわかっていたけど、営業で男と絡むミコトちゃんを見たくない。 話題性とか腐女子層を取り込んだって今までのファンが離れていくだけだし考え直してほしい。 言いたくないけど、そういう合わないことをしてもミコトちゃんが傷つくだけだよ

 

 

「あはははは、こんな赤スパする人まだいるんだ! ……全く、キミ達にある自由は推しを選ぶ自由で、推しをコントロールする自由じゃないよ? 第一、ボクはずっと好きな人いるって公表してたんだから、勝手に勘違いした気持ちを押し付けないでよね」

 

 

 こちらの発言を本気にしていなかった、ごく一部のユニコーンの角を全力で折る。

 そんな思惑もわずかながらにあったけど、まさか本当に来るとはという気持ちだ……。

 この赤スパもどうせ取り下げや、支払い能力なしでこちらに届くことは無いのだろう。

 このタイプはどうせまた新しく推しを見つける。

 特に気にすることなくボクは「このユーザーを表示しない」を選択して消去した。

 

 

 ボクはボクのファンが好きだ。だがリスナーが推しを選ぶ自由があると同時に、ボクにもファンを選ぶ自由はある。

 アンチや勘違いした人に時間を使うより、ボクはボクのコンテンツを楽しんでくれるファンを喜ばせるために時間を使いたい。

 

 

 コメントを消したころ、こちらを気遣ったのかスーパーチャットが連続して表示された。

 

 

>コメント:[3000]伸び悩み……?(現登録者八十六万人の個人勢

>コメント:[10000]オラ!不愉快なスパチャはスパチャで上書きすんだよ!

>コメント:[1000]紙リスです。どこを好きになったんですか?

 

 

「あ、焚火さん、HAGANEさん、折り紙さん、みんな気を使ってくれてありがとね! ……どこを好きになった、かぁ……気付けば好きになってたんだよね」

 

 

>コメント:まぁ好きになるのってそんなもんよね

>コメント:自分、カクシさんの顔推しです

 

 

「カクシ君の見た目?それはボクも好きだよ。……でもこれ、彼を好きになったから見た目も好きになったんだよね」

 

 

 ボクはカクシ君の全部が好きだ。それは内面も見た目も含めて。

 ボクより少し背の高いところも、厚みのある体も、重ねた時に全然違う手の大きさも。

 だけどそれはどちらかと言えば、彼を好きになったから見た目も好きになったので、順序が逆だ。

 元々は女性が好きだったし。今も男性が好きというよりは、カクシ君が好きなだけ。

 

 

「でもそうだなぁ、強いてあげるなら……浮いてる時でも人気の時でも、変わらず隣を一緒に歩いてくれるところ、とかかなぁ」

 

 

>コメント:なんか思ったより普通なところが来た

>コメント:割と誰でも出来そう

>コメント:ホントに出来るか……?(八年間稼働し続けてる紙カクシチャンネルを視ながら

>コメント:浮いてる時代有ったの?

 

 

「浮いてる時? ……ボク、高校までは上手くやってたんだけどね。 ゲームだけじゃなくアニメとかも好きで、可愛い服が好きで、家族の理解はあったけど、世間的にはそういうの隠しながら人気者やってたよ」

 

 

>コメント:アニメ隠す必要なくない?

>コメント:昔はアニメ見てたってだけで白眼視されてたんだよ

>コメント:年齢的にそろそろ受け入れられつつあった頃だな

>コメント:貴重なミコトちゃん三十代成分。

 

 

「可愛い服が好きだからさ。 家を離れて大学に入ったら、誰にも迷惑かからないし可愛い服着るぞーって。 入学してしばらくしたら女装して学校行き始めたんだよね」

 

 

>コメント:あ(察し

>コメント:勇気あるなぁ……

>コメント:ミスった時のリカバリー怖くて、街中ならともかく学校や職場では無理だ

 

 

「そしたら、もう一気に周りから人が消えちゃったんだよ。 ……まぁ、本当に女の子の服を着てるだけって状態だったしね」

 

 

>コメント:やっぱり

>コメント:まぁそうなるよね

 

 

「女装とかに理解がありますって顔してる人は、二人だけの時は話してくれるよ。 でも一緒に隣を歩きたいとは思ってくれないんだ。 だからボクの周りは常に誰もいない。 講義の時、グループワークの時だけ話すとかだったなぁ」

 

 

>コメント:それはキツイ

>コメント:ミコトくんみたいな子いたら女子はほっとかないけどね

 

 

「いやいや、女子も変わんなかったよ。 声かけてきた人なんて誰もいなかったな。 ……けど、そんなとき声をかけてくれたのがカクシくん」

 

 

 今でも思い出すだけで胸がポカポカする、ボクの大事な大事な思い出。

 

 

「あの人はボクを連れて自分の友達のところにもいくし、買い物でも一緒にレジに並んで話してくれるんだよ。 それが当たり前って態度でね」

 

 

>コメント:イケメンすぎる

>コメント:理解のあるカレ君じゃん

>コメント:今のミコト君なら全然いけるけど、浮いてる状態だもんなぁ……

 

 

「……きっとその時だね、好きになったのを自覚したのは」

 

 

 本当はもっと前から好きだったのかもしれない。

 キャンパスの中でも、自然とカクシ君を探していたから。

 だけど、一番大きいのはこの思い出だ。

 

 

「だけど今度は、ボクが側にいることで好きな人が周りとギクシャクしてることに気付いちゃってね」

 

 

>コメント:まぁそりゃ、うーん

>コメント:いや、うーん……

>コメント:ごめんけどちょっと周りの気持ちはわかる、かも……

 

 

「いいんだよ、ただ遠巻きに避けられただけで、排斥されるでも、石を投げられたりもしなかった。 ……寂しかったけどね。 そういう意味では、周りは皆いい人だったかな」

 

 

 班を決められれば、話すことはしてくれた。 あぶれた人たちと班になることも多かったけど、そのときだって課題に困ったことはない。

 だからみんな、理性的でいい人だったんだ。

 ただ友達の枠にはボクを入れられなかっただけ。

 

 

「ボクは女の子に見られたいんじゃなくて、可愛い服が着たかっただけ。 だけどその時初めて、女の子に見られようと努力した。 女の子に見られる姿なら、カクシ君が女の子を連れ歩いてるだけに見えるかなって思ったから。 ……女装のクオリティが上がったのもこの頃。 いつの間にか、以前ほどボクの周りは空白じゃなくなって、告白してくる人も男女問わず結構出てきた」

 

 

>コメント:やっぱ見た目かぁ

>コメント:残酷だけど真理

>コメント:そりゃスカート履いてる男と、女の子に見えるけど実は男じゃ全然違う

 

 

 ……もっと女の子らしくなれば、彼が僕を好きになってくれるかな? なんて思っていたけれど。

 元々ボクを好きだった彼にそんな行動は効果が無くて、無理をして女の子らしく振舞っていたことを咎められただけになってしまった。

 

 

「……でも、そんな風に好きだっていう人が沢山出てきてもやっぱり、隣を歩いてほしいのってボクにはカクシ君だけなんだよね。 十四年経ってもビックリするくらい全然変わってない。 ……ううん。もっとその気持ちが強くなったんだ」

 

 

>コメント:ベタ惚れじゃん。

>コメント:カクシさん、鈍感すぎて周りから浮いてたのに気づいてなかっただけじゃないの?

>コメント:失礼だろ

 

 

「鈍感か……ふふ。 あの人は好意に鈍くても、悪意には敏感だからね。 その上でボクのために隣にいてくれた。 ……本当はエゴサーチだってできないくらい悪意に臆病なくせに。 Vtuberにだって向いてなかったんだ」

 

 

>コメント:八年も続けてるのに?

>コメント:Vtuberに誘ってきたのカクシさんだよね?

 

 

「そうだよ。 社会人になったボクがつまらなそうだったから、ボクに楽しそうな場所を探してきたのがボクたちの始まり。 ……そして、隣を歩くために頑張ってくれた。 だからボクには彼しかいないの。 一緒に歩いてくれるって言って、ホントに八年全てを捧げてくれる人なんて絶対いない」

 

 

>コメント:純愛だ

>コメント:もうプロポーズしたら?

>コメント:デートではどんなことしたの?差し支えなければ教えて

 

 

 プロポーズはもうしたんだよ。 とは流石に言えない。

 あの約束を話すのはもっともっと後だ。

 これを話題にすれば、もしかしたらあっさり百万にたどり着くかもしれないけど……、一年は彼の頑張りを見守っていたい気持ちもあるし……なにより、しばらくは自分だけの思い出として独占したい。

 

 だから代わりに、その下のコメントを読む。

 

 

「デートでどんなことした? えっとね、詳しくは言えないけど…………手を繋いで街歩いたりした……よ?」

 

 

 ちょっとだけ気恥ずかしくて、少しもじもじとしながら話す。

 

 カクシ君の自由な時間が増えたから、ボクは彼を誘いやすくなった。

 少し離れた町のお店でお買い物をするとき、遠慮がちに手を握って歩いてくれる大きな手と、恥ずかしそうに赤らめているその横顔。

 少し振り返るだけで心がポカポカする大事な思い出だ。

 

 

 

 

 

 ……だというのに。

 

 

 

>コメント:は?

>コメント:小学生か?

>コメント:君にはがっかりだよ

>コメント:ここまでデカい想い出を話してそれ?

>コメント:もっとやることあるだろ三十二歳

>コメント:手繋ぎぐらい友達でもやるのに

 

 

 

 コメント欄はこの反応である。

 少し馬鹿にされた気持ちになって、ポーズとして軽く怒りながら反論する。

 

 

「いいじゃん!! 男友達だとそういうことは全然しないんだよー! 結構肉体接触のコミュニケーションがないっていうか、パーソナルスペースが広いっていうか……。 女の子みたいに、あーんとかも全然しないし……これでもボクらには大きな一歩なの!!」

 

 

>コメント:わかる

>コメント:男の距離感って全然わかんないわ

 

 

「いいんだよ、ボクらはこれで。 ずっとお互い忙しくしてたんだもん。 これから少しずつカップルっぽいことしていくんだ。 …………って、これを言い出したのはカクシ君なんだけどね、あの人ほんと可愛くてズルいと思う」

 

 

>コメント:小学生同士かよ

>コメント:カミカクは可愛い。同意。

>コメント:むしろあっちの方が奥手なのか?

 

 

 ボクとしては、もっと先に進みたい。

 キスだってしたいし、もっと彼と触れ合いたいと思ってる。

 だけど少しずつ自分のペースで歩み寄ろうとしてくれていることが嬉しくて、ボクはもうしばらくは彼の歩調に合わせるつもりだ。

 

 

「ボクたちだけの思い出にしたいことも沢山あるから、全部を話すわけじゃないけど、時々キミたちにものろけ話を聞いてもらうつもりだから覚悟してね!」

 

 

>コメント:ああ~脳が壊れるんじゃ~

>コメント:カップルを見る壁になりたい勢にはご褒美

>コメント:毎秒イチャイチャしてほしい

>コメント:もう同棲しろ

 

 

 照れ隠しにリスナーに言葉をぶつけたけれど、同棲というコメントを見つけて反応してしまう。

 同棲は……したい。 正直に言えば、毎日彼と一緒に目を覚ましたいし、一緒に朝食を取ったりしたい。

 たくさんたくさんしたいことがあるけれど、するうえで絶対気を付けなきゃいけないことが最近出来てしまった。

 

 

「そう、その同棲! ……したいけど、もしすることになったら、カクシ君の部屋は鍵付きにしないといけないって最近思っちゃってさぁ……」

 

 

>コメント:なんで???

>コメント:見た目的に逆じゃない?

>コメント:体格的にカミカクなら嫌なこと拒めるでしょ

 

 

「カクシ君がボクの気持ちを受け止めてくれるって思ってから、歯止めがきかなくて……この間カクシ君が配信中可愛いことしたとき、車で彼の家に押しかけそうになったんだよね。 同じ屋根の下とかにいたら、多分配信に乱入してると思う」

 

 

 最近だと彼はリスナー達に対しても多少のデレを見せるようになった。 だけどボクがコメントに書き込めば、みんな必ず反応してしまう。 だからどれだけ気持ちが高ぶっても書き込まなかった。

 リスナーたちとの時間を邪魔しないように、配信はPCのフルスクリーンで表示した後、キーボードからも少し離れて視聴していた。

 会いに行きたい気持ちを抑えて、スマホと車の鍵を枕の下に隠してぐっとこらえ続けた。

 

 炎上した時に一度乱入したから、もう一度することへの心理的障壁が一気に下がってしまい、今までで一番忍耐力が試されたかもしれない。

 だけど当然、そんな言葉を聞いたコメント欄は酷いもので。

 

 

>コメント:最悪のハト

>コメント:クソ厄介ファン

>コメント:公表してるカップルなら良いんじゃないの?

 

 

「ダメだよ! カクシ君単推しのファンは、カクシ君と仲間だけの空間を楽しみたいんだよ? それを邪魔しちゃ絶対ダメ! カクシ君も、ファンは大事にしたいって言ってるし……ボクも彼を支えてくれたファンには恩があるから、流石に邪魔したくないし……」

 

 

>コメント:こっちのことも考えてくれてありがとね

>コメント:カミカクをよろしくお願いします

 

 

 昔からカクシ君の配信で見かけていた名前が、ボクの配信にも来てくれている。

 今この場にいないファンもいるだろう。 内心、ボクのことを面白く思ってないファンもいるはずだ。

 だけど、自分の推しを任せてもいいと思ってくれた人がいるだけで、元気が湧いてくる。

 

 だが、だが……。

 

 

「あぁでも会いたいよー!」

 

 

>コメント:いえたじゃねえか

>コメント:それもう直接言ってみたら?

>コメント:時間作ってくれるかも。

 

 

「それしたらファンの時間減っちゃうからファンに申し訳ないんだよぉ……。 それ以外の時間はボクが貰うんだから、ファンとの時間はこれ以上減らしたくないの。 ……今日はカクシ君、動画制作中だろうし、何かメッセージ送ろうかな」

 

 

>コメント:お願いしたらファンより自分を優先すると確信してる言動。

>コメント:この人ナチュラルにマウント取ってくるんだよな。

>コメント:実際射止めてるからしゃーない。

>コメント:カミカクのリスナー歴でも一番長い人だし。

>コメント:可愛い自撮り送って、とか言えばいいんじゃない?写真で紛らわそう。

 

 

「カクシ君の自撮り!? うわ……やば、カクシ君自撮りとか全然しないから、それ良いかも……ちょっと送ってみる」

 

 

 机に置いてあったスマホを手に取り、チャットアプリで『なんか会いたくなっちゃったから、ちょっとかわいい自撮り送ってほしいな』と打ち込んで送信する。

 

 

>コメント:採用されたわ

>コメント:可愛い自撮りする三十二歳身長一八六cmの男性

>コメント:ちょっとキツいか?

>コメント:ご褒美だろ

>コメント:三十前半はまだ若いわ

>コメント:紙リスとしては正直かなりみたい

 

 

 既読がついたあと、「少し待って」とだけ返ってきた。

 突然で戸惑っているのかもしれない。

 

 

「ねぇ、カクシ君はどんなの送ってくると思う?」

 

 

>コメント:ギャルピ

>コメント:指はーと

>コメント:ぶりっこポーズ

>コメント:お披露目の時の投げキッス

 

 

「あははは!全然想像できなーい! カクシ君、可愛いポーズとかあんまり詳しくないからなー。 ……でも普段写真撮らない人が、ボクのお願いで自撮りしてくるってだけでも超かわいいと思わない?」

 

 

>コメント:それはそう

>コメント:男って基本的に自撮りしないよね

>コメント:自撮りしてくれる俳優やアイドルホント助かる

>コメント:なんで自撮り送ってくれる前提?断られる可能性だってあるでしょ?

 

 

「断られる可能性……? あ、確かに。カクシ君がボクのお願い聞いてくれないの、あんまり想像してなかったかも……。 なんでも叶えてくれる人だったし」

 

 

>コメント:雑な約束を八年かけて守る男

>コメント:Live2Dを勉強して体を贈る男

>コメント:八年使った自分の体より明らかに初期ミコトのLive2Dの方が力入ってるし

>コメント:そう考えると好き好き言ってるミコちゃんより、向こうの方が矢印デカそう

>コメント:逆になんで今まで付き合ってなかったの?

 

 

「色々あるんだよー、色々ね」

 

 

 同性でも互いに好きなら、普通に付き合ってて当たり前という雰囲気のコメントに、時代の移り変わりを感じて暖かくなる。

 昔からそういうカップルは少数いたけれど、だからと言って自分の恋心に負い目を感じなかったわけではない。

 カクシ君が、ボクが無理をしていたことを咎めた。 ただほんのちょっとの拒絶。

 ボクはそれを、恋人候補になることを迷惑だと思われた、と受け取ってしまうくらいには、"普通"から外れた思いには常に負い目があった。

 

 

 

「……あ、届いた。 …………って、え!?」

 

 

 送られてきたのは、五年前に自分がアパレルブランドとコラボした、男女兼用のダボパーカー。 手元が萌え袖状態になったそれに身を包んだカクシ君が、かなり恥ずかしそうに、洗面所の鏡の前で写真を撮っている。

 余りの衝撃に思わず机に突っ伏してしまい、肘が机に当たったガンという音がマイクにも乗ってしまう。

 

 

>コメント:なに?台パン?

>コメント:トラッキング外れてて草

 

 

「ごめんちょっと配信終わってカクシ君の部屋行ってきていい?」

 

 

>は?

>なに送られてきたの!!

 

 

「絶対言わない! 少なくとも、しばらくは独り占めにさせてもらうよ!」

 

 

 それなりに値が張り、しかも数時間で売り切れになったグッズだったそれを、カクシ君が所持している。

 そして、可愛い自撮りでコレが贈られてくるということは、意図的か無意識かわからないけど彼にとっての可愛いは、ボクを指すということで……。

 は? え? キミ、ボクのこと大好きじゃん。 知ってた。いや知ったのは最近だけどね!

 

 

 思わず机の側に置いてある車の鍵を握りしめて、OBSのシーンをエンディングに切り替えたところで、再度スマホの通知が鳴った。

 

 

『もう着替えた。 ファンをないがしろにしたら怒るぞ』

 

 

 がっくりと肩を落とし、しょんぼりとしながら配信画面を元に戻してリスナーに答える。

 

 

「…………カクシ君が、ファンをないがしろにしたら怒るぞ……だって」

 

 

>コメント:行動読まれてるじゃん

>コメント:そりゃ突然送られたら、配信中に何かしてることを疑うよ

>コメント:ドッキリの前科あるし

>コメント:(行動に)理解のある彼君

 

 

 カクシ君が好意を素直に出せるようになったのはファンのおかげだ。 だからこそ、今のカクシ君はファンを以前よりも大事にしている。

 雑談配信の時間をどのくらいで切り上げるか、なんて配信者の勝手ではあるのだけど……会いたくなったから短めで適当に切り上げました、というのはカクシ君的にはダメなのだろう。

 だがそうはいっても、この状況で会うのをダメだと言われると気分が落ち込む。

 

 

「はぁああぁ……カクシ君に会いたいよぉー……リスナー君慰めてよぉー!」

 

 

>コメント:うんうん、それは彼氏さんが悪いわ

>コメント:えー彼氏さんキビシー

>コメント:わたしだったら寂しい思いさせないのになぁー

 

 

「は? 何オレの恋人の悪口いってんの? カクシ君が悪いわけ無いだろ」

 

 

>コメント:声こっわ

>コメント:情緒どうなってんの

>コメント:彼氏全肯定BOT

>コメント:ファンとの時間を大切にするように言ってくれてありがと。 カクシ君大好きChu☆

 

 

「…………」

 

 

 無言で一つのコメントをタイムアウトする。

 

 

>コメント:今コメント一つ消えたぞ

>コメント:何が消えた?

>コメント:カクシにキスした奴が逝った!

>コメント:独裁スイッチだ!

>コメント:同担拒否だコイツ!

 

 

「うるさーい!! タイムアウトぐらいでガタガタいうんじゃない! というか、同担とかじゃなく人の彼氏にチューなんてコメントする方が悪いだろー!?」

 

 

>コメント:それはそう

>コメント:私なら刺すよ

>コメント:彼氏の側にいて欲しくないリスナーだ

 

 

「彼氏の側にいて欲しくない? 大丈夫、今のはカクシ君の配信で見たことないから多分ボクのリスナーの悪ふざけだね」

 

 

>コメント:なんで他配信者のリスナーの名前覚えてんだよ

>コメント:常連だったらリスナーの名前も覚えるだろ

>コメント:カミカクの配信、朗読をROMしてる人が多いからコメントの流れ遅くて覚えやすいし

 

 

「悪ふざけってわかってるからボクも軽いタイムアウトにとどめたんだよ」

 

 

>タイムアウトにした時点で結構イラっと来てない?

 

 

「イラっと来たっていいじゃんかー! 十四年越しの成就だよ!? 受け流せなくなることぐらいあるでしょー!?」

 

 

>コメント:好きにしても干支一周越えは流石に拗らせすぎでしょ。

>コメント:タイムスケールが長命種

>コメント:恋愛レベル中学生以下の三十二歳(笑)

>コメント:重大発表の内容、手を繋いでデート(笑)

 

 

「なんだケンカか? 買うぞ? 粛清の始まりだ」

 

 

 無限に増えて煽ってくるリスナーを次々とタイムアウトで吹き飛ばす、コメントを的にしたシューティングゲーム。

 善良なコメントと煽りコメントが入り混じり、ピンポイントに煽りコメントだけをタイムアウト。

 三十秒で釈放される仕様だが当然キリがないため、一度吹き飛ばされたリスナーは自然と煽るのを辞めて応援側に回っている。

 お互いに本気で煽っているわけじゃない、仲のいい者同士のお遊び。

 

 そんな風にリスナーとじゃれ合いながら、友達と話すように夜は更けていった。

 

 

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