30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編2_初めての遠足(前編)

 ミコトと交際を始めて数週間が経ったころ。

 デート、と口にできるようなことはまだ行えていなかった。

 

 したことと言えば、お互いに時間の都合が空いた平日に、街まで行って服屋や本屋で買い物をしたくらい。

 学生の頃にしていたことと何も変わらない行動。

 

 それは確かに楽しいのだが、プロポーズまでしてくれた相手に学生の頃のまま変わらないでいるのは良くないと感じた。

 

 だから隣を歩き、規則的に揺れるミコトの左手を勇気を出してそっと握った。 ミコトはそれに少し驚きながらこちらを見て、嬉しそうに笑って同じように握り返してくれた。

 

 

 秋口の少し肌寒くなってきた時期だというのに、顔が火照って心地よい風が顔を撫でる。

 俺にとっては、この行動だけでもかなり勇気が行ったのだけど……。

 

 

>コメント:中学生の初デートカナ?

>コメント:かわいいね

>コメント:傍から見てても両想い丸わかりだったんだから、もっと進んでもいいと思うよ

>コメント:もう大人で恋人なんだし、普通にキスくらいしたら?

 

 

 相談したリスナー達にはそのように言われてしまった。

 

 

「そう言われても……まだ付き合いたてですし、こういう経験無いんですよ。 お付き合いしてる方たちはどのくらいで先に進むんですか?」

 

 

>コメント:わり!俺経験無いからわかんね!

>コメント:そりゃもう告白して受け入れてもらったらキスよ(妄想

>コメント:私お見合いして即結婚したから参考にならないよ

 

 

 これもチャンネルの特徴か、リスナーからのアドバイスはあまり期待できなさそうだ。

 俺のリスナーは結構既婚者の方や子持ちの方が多いはずなんだけど……、この配信には遊びに来てくれてないんだろうか。

 

 

>コメント:観客としては恋愛始めたてのドギマギしてる姿とか、大トロみたいなものだから邪魔したくないです

>コメント:ポップコーン片手に楽しんでるからもっと話して。 口出ししないけど

>コメント:ミコちゃんの惚気配信と両方見てると最高に恋愛コンテンツって感じがするね

 

 

 ……違った。 遊びに来てないんじゃない。

 俺の行動を眺めて楽しむために、助言する気が無いんだ。

 

 

***

 

 

 色々悩んだ末に、ミコトに「遠足に行ってみたい」と連絡を送ってみることにした。

 

 遠足のバスを見送る事こそ多かったが、彼らがどこへ行っていたかは詳しく知らない。 遠足の感想を書く授業は俺だけ読書感想文になっていたし、羨みたくなくて周りに遠足の感想を聞かなかったからだ。

 

 

 ミコトは俺からの連絡を受取ると、すぐに家へとやってきて一緒に遠足の場所を選定することにした。

 ミコトが行ったことのある場所だと、科学館や水族館、動物園、ハイキングを兼ねた自然公園、歴史資料館などに行ったらしい。

 

 お互いに出身地から離れているため、本当に子供の頃に行ったであろう場所とは異なるが、車で行ける範囲にある施設で、遠足に使われそうな場所をリストアップしていく。

 

 どれも楽しそうだが、流石に一日で全部回る事なんてできないし、やっても慌ただしくなってしまう。 最終的に行き先は動物園に決まった。

 ペットや近場にいる野生動物以外は本でしか目にすることが無かったため、実際に目にするのが楽しみだ。

 

 今回選ばれなかった候補たちをブラウザ上でブックマークしていくと、ミコトが「いつか全部行こうね」と笑って言った。

 

 

「……そんなに、行きたそうに見えたか?」

「うん、子供みたいにキラキラしてて可愛かったよ」

「なんか、恥ずかしいな……。 多分小学校の時でもそんな姿見せてなかったと思うんだけど」

 

 

 先生たちに慰められても、「仕方がない」「読みたい本があるから大丈夫です」と言っていた気がする。 ……大人から見れば、アレもただの強がりだとすぐわかっていたんだろうな。

 

 

「行きたい気持ちを素直に出せるようになったんだし、良い傾向だよ。 ……それより、一緒に遠足のお菓子を買いに行こうよ。 どうせやるなら、細かいところも拘らないとね」

 

 

 そう言われて、ミコトの車に乗ってショッピングモールへと買い物へ行く。 子供の頃は遠足のお菓子の説明なんて、殆ど聞き飛ばしていた。 お腹がそれほど膨れるわけではない嗜好品に割く余裕は全くなかったから。

 

 ついたのは、ショッピングモール内にある小さな駄菓子屋。

 

 

「ボクが子供の頃は個人商店の駄菓子屋さんがまだそれなりにあったんだけどね。 さっきナビとかで調べてみたけど、この辺りはそういう個人商店がもう残ってないみたい」

「最近じゃ子供も少ないし、モールの中以外では難しいのかもな」

「薄暗い小さな駄菓子屋さんでお菓子を選ぶのが楽しかったんだけど……、ちょっとここは賑やかすぎるかな? 奇麗でいいことなんだけどね」

 

 

 少しノスタルジックな気持ちになっているらしいミコト。 残念ながら俺は駄菓子屋に行ったことが無いから、その感情に付き合うことは出来ない。

 駄菓子屋などでの経験は、生きるために必要なものではなかったけど、やはりそういう余分な経験をしていないことを少し寂しく思う。

 

 ……もっとも、それを取り戻すために、今ここにいるのだが。

 

 

「さてカクシ君。 遠足のお菓子はね、決められた金額の中で買うのが醍醐味なんだよ。 ボクが子供の頃は三百円だったけど、最近は物価があがったから当時の感覚に合わせて四百円としよう」

「小さいお弁当が買えそうだな……って最近じゃそれも厳しいか。 ホントに物価あがったな」

 

 

 ミコトがそう言いながら、駄菓子を子供用の小さなかごに入れていく。

 

 

「選び方も人それぞれでね。 大袋のお菓子を買って少しずつ人と交換する子が居たり、交換を考えずに好きなのを一種類全部買うとか、高めのチョコレートバーを買って、他を小物で埋める子とかね」

「へぇ……色々あるんだな」

 

 

 コーン生地のトレーに、小さなブロック状の餅のようなものが入ったお菓子や、タバコを模したものなど、見た目で楽しませる工夫のされたものを俺もカゴに入れていく。

 

 

「これ、思ったよりすぐに上限になりそうだな」

「そうなんだよー。 駄菓子って小さくても割高だから、意外とあっという間なんだよね。 今にして思えば、欲しいものを選んだり、我慢したりする練習だったのかな」

 

 

 なるほど、確かに買い物は経験しないと身につかない。

 お小遣い制度ががないような家でも経験できるようにしているのかもしれない。

 

 

「とはいえ、確かにすぐ上限になるが……子供が食べきれるのか? お弁当を食べた後だろ」

「みんな結構残して持ち帰ってたね。 ボクは残ったお菓子を家族と分けて、遠足の話をしながら食べてたよ」

「へぇ……、なんかいいな、そういうの」

「でしょ?」

 

 

 そう言ってミコトは笑う。

 以前だと俺に親がいないことを気にして話題にしなかったかもしれない。

 だけど俺がそんな反応を望んでないと知っているから、ミコトは普通に楽しかった思い出として家族のことを話してくれる。

 

 その何気ない普通の会話が嬉しかった。

 

 

「あ、当日に見せあうから一旦カゴの中は見ないでね、ボクは先にレジに行ってくるから」

「ははは、了解」

 

 

 ミコトを見送ったあと、俺も残りの金額で買える駄菓子を選んで買い物を済ませた。

 

 

***

 

 

 そして当日。 開園時間とほぼ同じ時間に動物園の中へと入る。

 

 今日のミコトの服装は、薄手のニットに、シルエットが隠れるようなゆったりとした上着。 動きやすさを重視してか、ショートパンツにタイツとスニーカーだ。

 

 

「ショートパンツは久しぶりに見たな、よく似合ってて可愛いよ」

「ありがと。 キミが以前短いスカートでも似合う、なんて言ってゲームを妨害してくれたからねー……、流石に短いスカートは難しいけど、今日は足を見せるスタイルだよ」

 

 

 ジト目になりながら、俺の脇腹を肘でつつくミコト。

 妨害したというのは、ヤマトタケル解説コラボを始めてやった日のことだろう。

 

 

「悪かった……あの時はつい、本音が漏れた」

「別にいいんだけどね。 ……短いスカートとかは、部屋で二人の時とかになら着てもいいよ」

 

 

 ギリギリ耳に届くくらいの声でポツリと言われたそれに、思わず想像してしまい、照れた顔を隠すようにして背けた。 ミコトはそんな姿を見てニマニマと得意げに笑う。

 

 

「ふっふっふ、仕返し完了」

「くそ……。 こう言うことはホントに、勝てる気がしない」

「……それと、別に冗談で言ってるわけじゃないから。 見たかったらボクの家に来てリクエストしてね?」

「……考えておく」

 

 

 まだ動物を見ていないというのに、思わぬダメージを受けながら二人して並んで歩く。

 ライオンや虎、キリンのような動物園の目玉ともいえる生き物の他にも、タヌキやニワトリのようなどこにでもいる生き物を見ながら園内を見回っていく。

 

 最近ではパソコンの動画でいくらでも動物たちを見ることは出来るが、やはり実際に側に行くことで得られる臭いや、こちらを認識して行うしぐさなどが新鮮で面白い。

 特に映像では伝わりづらい大きさや、あまり人気のない動物の姿などは実際に足を運んでこその経験だった。

 

 

「見て見て、この鳥、ボロボロで禿げちゃってる」

「えーっと……、メスの気が立っててイジメられたため隔離しています、だって」

「動物でも上手くいかないことってあるんだね」

「動物にだって浮気もイジメもあるらしいからなぁ……」

 

 

 鳥類コーナーでキジを見たり……。

 

 

「ハイエナってオスとメス、区別が殆どつかないらしいよ。 今のボクみたいだよね」

「昔は可愛い顔立ちでも男とわかったんだが……、今はホントに喉や上着を脱がないと全然わからないな」

「ふーん……昔から可愛いって思ってたんだ」

「可愛いと思ってたし、カッコいいなぁとも思ってたよ」

「……そのとき言ってくれればよかったのに」

 

 

 猛獣コーナーでハイエナを見たり……。

 

 

「ふれあいコーナーだって、ウサギにエサやりできるみたいだよ」

「膝に乗ってきた! ……か、かわいい……」

「……次の新衣装はバニーかなぁ…………」

「変なところで対抗意識燃やさないでくれよ」

 

 

 ふれあいコーナーで兎と戯れたりした。

 

 それぞれのコーナーをしっかりと堪能しながらも、園内の全てを見終える。 気付けばいつの間にか太陽は真上になり、身体も空腹を訴えてきた。

 ふれあいコーナーの後ということもあり、手をしっかりと洗った後にベンチに座って共にお弁当を広げることにする。

 

 

 この弁当はミコトから、遠足では仲のいい子とお弁当のおかずを交換したりするんだよ、と言われて朝から作ったものだ。

 

 俺の弁当は、肉野菜炒めに卵焼き、ブロッコリーにから揚げ。

 米の部分は海苔の巻いてないおにぎりが並んでいる。

 

 イメージしたのは小学校の運動会で、先生が分けてくれた弁当。

 

 晩御飯の分も考えるとお昼はパン一個しか買えなかった俺には、先生が分けてくれた弁当が凄くありがたかった。 きっとあれは、俺に分けるつもりで作っていたのだろう。 作りすぎたと言っていたけど、子供サイズのおにぎりがいくつも入っていた。

 

 そういう思い出を立場からの施しでなく、純粋な好意として思い返せるようになったのはミコトとリスナーのおかげで、本当に感謝している。

 

 

「わぁ、キミのお弁当、手が込んでて美味しそうだね」

「そういうミコトのも美味しそうだ」

 

 

 ミコトのお弁当はオムレツにハンバーグと、周囲にプチトマトやレタスで見た目が華やかになっている。

 互いにいただきますと言ってから、おかずを少しずつ分け合って食べる。

 ミコトは箸で小さく一口、俺の肉野菜炒めを取って口に運んだ。

 

 

「ミコトの好みそうな味付けにしてみたんだけど、どうだ?」

「美味しい……もしかしてカクシ君、ボクより料理上手?」

 

 

 その反応に、ほっと一安心する。

 

 

「ミコトと比べて上手かはわからないが、高校の時にバイト先の定食屋でかなり作ってたんだ」

 

 

 毎回、賄いを作ってくれた定食屋のおじさん。

 仕事が終わった後に、余り食材で作れる料理なんかも教えてくれた。 だからこの弁当は、俺にとって恩人二人の弁当と言ったところか。

 

 

「夜配信でも料理はたまに作ってたのに、自信無くすなぁ……」

 

 

 そう零すミコトだが、別に料理が下手と言うわけではない。 味も美味しいし、彩や見栄えに関して俺よりも圧倒的に上だと思う。

 俺はミコトのオムレツを箸で口に運び、味わう。

 

 

「うん、美味しい。 ……俺はミコトの料理、好きだよ。 夜勤明けの朝に食べた時、凄く嬉しかった」

「……そっか。 キミが喜んでくれるなら、どっちが上手かなんて別にいいかな。 キミになら毎日作ってあげてもいいよ。 もちろん、これはキミへのプロポーズね」

 

 

 当たり前のように笑ってそういうミコトに、思わず苦笑する。

 

 

「まだ受けないってわかってるだろうに」

「そうだね。 でも、愛してるって言われるようなものだし、キミも嬉しいでしょ?」

「……嬉しい、凄く」

「耳真っ赤だもんね、かわいいよ」

 

 

 そう言ってからかいながら耳をつまんでくるミコト。

 

 そんな風に……、うん。

 リスナーが聞いたら多分『またイチャついてる』とか言われそうな食事を終えて、弁当を片付ける。

 

 

「大体見終わっちゃったな。 ……結構ゆっくり見て回った気がしてたんだけど」

 

 

 歩く速度が速い大人になってしまったからなのだろうか。 と時の流れを少し寂しく思う。

 ミコトはそんな俺の太ももに頭を乗せて、俺の頬をつついて笑った。

 

 

「ボクが子供の時だって時間が沢山余ってたよ。 自由時間で友達とシロクマのプールを眺めてたなぁ」

 

 

 俺がそんなことを考えていたからか、大人でも子供でもそう変わらない、とミコトが教えてくれる。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 その気遣いが嬉しくて、ミコトの頭をそっと撫でる。

 頭を撫でられた覚えが無いから力加減がわからず、本当に恐る恐るという形になってしまったが、ミコトは多少くすぐったそうにするものの特に文句が出ることは無かった。

 

 そうして頭を撫でた時に長い髪が揺れて、その下に隠れていた耳が少し表に出てきた。 それを見て思わず笑みが浮かぶ。

 

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 

 赤くなった耳は俺だけじゃなく、ミコトも同じだった。

 いつも余裕綽々に見えていたけど、照れたり恥ずかしくなってりするのは一緒のようで、少し安心する。

 確かに、今までこうして膝枕のようなことをするのも、されるのも無かった。 お互いに恥ずかしくなって当然だろう。

 

 今まで一方的にこちらが照れていたと思った出来事も、もしかしたらミコトだって同じように勇気を出して行動していたのかもしれない。

 

 肌寒い時期とは言え、太陽によく照らされたベンチは少し暖かく、俺達は二人でしばらく微睡みの時間を楽しんでいた。

 

 

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