30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編3_初めての遠足(後編)

 ベンチでの心地良いひと時だったが、流石にそれで一日を終えるつもりはなく、ミコトも十分ほど経った頃に起き上がった。

 

 

「硬かっただろ、太もも」

「硬さより厚みが気になったかなー? 横向きに寝たらちょうどいい感じの高さだけど、仰向けだと苦しそう。 今度キミにもしてあげるね」

「なんか緊張して眠れ無さそうだ」

 

 

 お互いに笑いあって、次の話をする。

 

 

「ミコトの時は遠足の解散までどうしてたんだ?」

「流石にボクも記憶がおぼろげなんだよね……。 あー……画用紙に、確か動物の絵を描いてたような……。 学校に帰って図工の授業で色を付けてた気がする」

「へぇ……流石に、今日それをやるのは難しそうだな」

「まぁね、今度リスナー君たちにも雑談配信で絵をかきながら今日のお話をしてみたらどう?」

 

 

 そう言われて、リスナー達を思い浮かべる。

 彼らは最近、ミコトのことを話すとコメントが加速することが多い。

 少々複雑な気持ちではあるし、しばらく二人だけの思い出にしておきたいこととかは話すつもりはないが、動物園に行った話などはしてみようと思う。

 

 ミコトと一緒に動物園を後にする。 入口にある大時計で確認すれば、時刻はまだ十四時程度だった。

 ミコトは車のトランクを開けると、積み込んでいた荷物を見せて話す。

 

 

「ねぇカクシ君、時間も余ったからこの近くに自由に使える広場があるんだけど、久しぶりに体を動かして一緒に遊ばない?」

 

 

 

***

 

 

 

 付いたのは広い広い敷地の自然公園。

 松の木がたくさん植えられており、地元住民の散歩コースにもなっているようだ。 バーベキューで人が込み合うこともあるようだが、平日ということもあってほとんど人がいない状態になっていた。

 

 

「それじゃ、いくよ!」

 

 

 ミコトが声をかけながら、フリスビーを投げる。 最初は受け取りやすい位置に。 次第にある程度走らないと受け取れない位置へ、左右に振り分けながらお互いに投げ合った。

 

「あ、ゴメン! 高すぎたかも!」

「いや、このくらいなら、大丈夫……っと!」

 

 

 こちらに向かって飛んでくるフリスビーの高さは四メートル弱。 このくらいなら助走をつけて飛べば余裕で手が届く。

 俺はフリスビーを掴むとそのまま空中で体を捻り、ミコトの手元へと投げ返した。

 

 

「さっすが!」

「運動は昔から何故か、特に頑張らなくても上手くいくんだよなぁ」

 

 

 勉強も運動もどちらも成績は上位だったが、運動に関しては本当にただちょっと練習するだけで学年で一番になれた。

 キャッチしてこちらに手を振るミコトに、俺は駆け寄って戻る。

 

 

「それなら、ダンスとかも出来るかもね。 教えるから今度一緒に動画でやってみようよ!」

「あの衣装でか……?」

 

 

 俺の衣装は白衣(びゃくえ)だから、どちらかと言えばダンスより陰陽師の兎歩とかの方になりそうだが……。

 そうは思いながらも、ニコニコと楽しそうなミコトの笑顔に、付き合うことにした。

 

 

 ミコトの真似をしながらダンスの基本を軽く教わる。

 と言っても、最初は足運びだけだ。 最近ではダンスも授業カリキュラムに入っているらしいが、俺にその経験はない。 いきなり上半身の動きも込みで行うのは混乱してしまう。

 

 足は移動で日常的に使用するパーツだが、ダンスのステップはそれらの動作とはまるで異なるため、真似できない程ではないが戸惑いが大きい。

 ミコトの手拍子に合わせて、地面につけておいた印に向けて足を運び、身体に基礎的な様々なステップを覚えこませていく。 最初はゆっくりと。 次第に速度を上げていった。

 

 

「うん、うまいうまい! キミは手足が長いからダイナミックで派手になりそう! ……っていうかキミ、結構身体柔らかいね。 ボクはダンスを始めた時に、まず体の硬さで苦労したのに」

 

 

 ダンスには足を大きく開いたり上げたりする動作もある。 身体が固いとこの動作が小さく縮こまってしまい、見栄えが良くならないのだそうだ。

 

 

「仕事の休憩時間は、ミコトのアーカイブ聞きながらストレッチとか軽い運動してたからかな」

 

 

 俺はその場で、身体を折りたたむような長座体前屈から、ベンチでの倒立歩行、片手倒立腕立てなどを行っていく。 見様見真似だが、ある程度なら器械体操の技も可能だ。

 ミコトはそれを見ながら、少し呆れたような声を出した。

 

 

「絶対それ軽い運動じゃないよ、確かに器具のいらない自重トレーニングかもだけど、ベリーハードだよ。 ……つくづく君、才能がV向きじゃなかったんだね」

「自分でもそう思う。 どうせなら好きな本を面白そうに紹介できる才能とかの方がよかったなぁ……」

 

 

 何かの事柄に熱心に打ち込めば、才能というものが存在することはどうしたって理解してしまう。 俺が熱心に考えた企画を、ミコトがゲームしながら片手間に改善案を出していったように。

だがそんなミコトより才気にあふれる人だって世の中には沢山いるのだ。

 

 才能を活かす道が良いのか、好きなことをする道がいいのかは人によって意見は変わるだろう……。 色々あった八年だったし、自分には向いていない道だったのは確かだが、それでもVtuberと言う道を選んでよかったと今では思っている。

 

 

「ふふふ、けど今は3Dの体もあるからね。 キミの身体能力も工夫すればリスナーに喜んでもらえると思うよ? ……とはいえ今日はこの辺りで終わりにしようか。 買ってきたお菓子も食べたいしね」

「ああ確かに、身体を動かしてちょっと糖分も欲しくなってきたところだ」

 

 

 俺はミコトと一緒に近くのベンチに座ってスポーツドリンクを飲む。 とは言っても、日が傾きつつあった秋の午後。 予め上着を脱いでいたためか全く汗はかいていなかった。 これなら自販機で買っておくのは水で良かったかもしれない。

 

 

 ミコトと俺で、それぞれが自分で買った駄菓子をベンチの上に広げていく。

 俺が買ったのは、主に見た目で遊ぶタイプの駄菓子だ。 タバコを模したものやカメラ型のケースに入ったチョコ、吹くと音が出るラムネを出していく。

 対して、ミコトが買ったのは小さなドーナツやチョコケーキなど、単純に小さいお菓子に加えて、一つだけとても酸っぱいものが混ざったガムなど、友達と分け合って楽しむものが多い。

 互いに少しずつ分けながら食べていく。 互いにある程度体を動かしたからか、甘いお菓子が美味しくて満たされる。

 

 

「あー、このラムネ懐かしい! っていうか、さっきのダンスの時にあったら手拍子じゃなくてこの笛でもよかったかもね」

 

 

 ミコトはそう言って俺から受け取った笛を吹いてニコニコと笑う。

 俺も口にくわえて慣らしてみるが、思ってたよりも簡単に音が鳴って驚いた。

 

 

「おまけのオモチャは何だったの?」

「んー……小さな、ワニかな?」

「ホントだ。 そういえばあの動物園にワニはいなかったね」

「確かに……動物園の記念に財布にでも入れておこうか」

 

 

 飾るにも小さすぎるし、そのくらいがちょうどいいだろう。

 無くさないうちに財布を取り出してしまうと、隣のミコトも新しいお菓子を取り出していた。

 

 

「手を出してくれる?」

 

 

 くれるのかと思い素直に右手を出すと、ミコトは手に持ったその駄菓子を少し舐めて、俺の手に押し当てた。

 

 

「うわ、何!?」

「ふふふ、これハンコになってるんだよ。 ……他の人が近づかないように、目印」

 

 

 手のひらを見ると、可愛いオバケのマークがきれいに手についていた。

 ……そういえば、以前リスナーがミコトの行動は自分の物だというマーキングと言っていたっけ。 大学の時にずっと側にいたことを考えても、案外独占欲が強いタイプなのかもしれない。

 

 

 俺はミコトの手からそのハンコを抜き取ると、同じく舐めた後にミコトの手にぺたりとハンコを押した。 ミコトの左の手のひらにも俺と同じ可愛いオバケのマークがつく。

 

 

「これでお揃いだな」

「う、うん……」

 

 

 ミコトはじっと手のひらのスタンプを見たまま動かない。

 俺はそのままそっと、互いのスタンプがくっつくように手のひら同士を合わせて、指を絡ませるように握りしめた。

 

 

「俺はずっとミコト以外見てないよ。 ……別に、印とか無くても大丈夫だから」

「……そっか。 ふふ、キミはボクのこと大好きだもんね」

 

 

 その言葉に、俺はコクリと頷いた。

 ミコトの赤くなった顔が、ちょうど夕焼けに溶けていく。

 手を繋げたのはいいが、ここからどう行動していいのか頭の中が纏まらない。

 

 

「……そろそろ帰らないとね」

 

 

 その言葉に、俺も同意する。

 動物園や今いる公園は車で行ける距離だったが、それでも家からはそれなりに離れている。

 ミコトも夜は配信があるし、あまりこの場所に長居し続けるわけにはいかなかった。

 

 ミコトと一緒にベンチから立ち上がると、握っていた手を名残惜しみながらも離すと、ミコトにお礼を言う。

 

 

「……今日は付き合ってくれてありがとう」

「これで一つ、キミが出来なかった思い出が埋まったね。 ……ボクも、まるで君と一緒の学校に通ってたみたいな思い出が出来て良かったよ」

「俺もだ」

 

 

 もし小学校の頃に出会っていたなら……というのは、ただの感傷か。

 仮にそうなって友達になることができたとしても、子供に出来ることは限られているから結局は大学での出会いが一番良かったのだろう。

 

 

「ミコトとリスナーのおかげで、今まで俺を助けてくれた人のことも、ちゃんと見られるようになった。 今日のお弁当も、その一つだ」

 

 

 あの弁当は恩と同時に、自分が周囲と比べて可哀そうな子であるという、惨めさの一つでもあった。 だけど今は素直に、先生たちの感謝することができている。

 

 

「ミコトのおかげで、今までお世話になった人に手紙を書けたよ。 ……みんな、俺が大人になれたことを喜んでくれた。 リスナーからの手紙と一緒に、全部宝箱に保管してある。 本当にありがとう」

「どういたしまして。 キミの傷が少しでも癒えたのなら何よりだよ」

 

 

 そう言ってミコトは笑う。

 ……俺の傷はまだ完全に癒えたというわけではないのだろう。

 

 まだスキンシップを取るのは、少し怖い。

 自分からしたこともされたことも無かったから、していいものなのだろうかと言う不安は少し残っている。

 多分それらは、これから少しずつ癒えていくんだろう。

 だから、そんな風に変えてくれたミコトにお礼を言う。 そして、もう一つ大事なことを伝えたい。

 

 

「ミコト、今回はその……、思い出埋めだけじゃなくて、お前とのデートのつもりで来た」

「……ふふ。 ボクは最初っからそのつもりで来たんだけどな」

 

 

 俺が言葉に出さなくても、ミコトはデートだと思ってくれていたらしい。

 周囲の人はもうほとんど帰っており、辺りは静かで虫の声しか聞こえない。

 

 

『もう大人で恋人なんだし、普通にキスくらいしたら?』

 

 

 リスナーの言葉が頭をよぎる。

 俺だって……、そうしたいと思っている。 ミコトは今日だってプロポーズをしてくれて、全力で好意を伝えてくれているんだから、こちらからも気持ちを伝えて返したい。

 

 そっと、ミコトの頬に片手で触れる。 こうしてミコトの顔に触れたのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 ミコトは目を閉じて、じっと俺を待っている。

 

 

 早鐘を打つ心臓がうるさいが、俺はゆっくりとミコトへと顔を近づけて……。

 

 

 

 

 

 

 ――結局、勇気を出し切れずにミコトの頬に口づけをした。

 

 

 

 

「……もう、キミは大胆なのか奥手なのかわかんないね」

「わるい……、今はこれが限界」

 

 

 バクバクとうるさいくらいに音を立てる心臓と、熱くなる俺の顔。

 きっと夕日でごまかせないくらいに赤くなっているのだろう。

 

 

「仕方ないなぁ……」

 

 

 ミコトは笑ってそういうと、俺の首に手を回し、背伸びをしてそっと俺の頬に口づけた。

 

 

「八周年のときみたいなフリじゃなくて、今回はちゃんとしたお返し。 ……ボクだってリスナー達には色々言われちゃったけどさ、焦らなくていいよ。 ボクたちは、ボクたちのペースで恋人っぽいことを沢山経験していこうね」

 

 

 そういってミコトは、沈んでいく夕陽を背に太陽のように明るい笑顔で笑った。

 

 こうして、何度目かのデートは幸せに終わるのだった。

 




今のミコトは別にカクシが不倫するかも、とか不安になってるわけでは無く、単に自分の影響を相手に残すのが好きだからしてるだけです。
これからもチャンスがあればしていくつもりです。


カクシ君は手をつなぐのもドキドキするレベルですが、間接キスとかそういうのは全く気にしないタイプです。ミコトは気にします。
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