30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編4_ミコト:カクシ君の幼児退行と同棲生活

 ボクが最愛の彼とお付き合いを始めて一カ月。

 カクシ君が奥手なため、告白した日のハグから始まり、デートでの手繋ぎ。 そして初めての遠足ではついに、自分からキスしてくれるところまで到達した。

 ……ほっぺたにだけど。

 

 少し残念ではあるが、その日は眠るまで頭がふわふわしていたし、配信でもリスナーに突っ込まれた。 自分でもわかるが完全にポンコツになっていたのだろう。

 

 

 そして、昨夜のこと。

 いつものようにお休みと言って別れるとき、彼が初めて「寂しいからもう少し一緒に居たい」と言ってきた。

 

 正直に言えば、内心進展するかと思ってドキドキしていたのだけど、カクシ君にとっては本当の本当に「離れるのが寂しいから一緒に居たい」でしかなかった。

 

 一緒にゲームをした後、彼の大きなベッドの上でおしゃべりして、そのまま二人で添い寝して眠った。 まるで小学生のお泊り回だ。

 

 カクシ君は寂しいという言葉通り、左腕でそっと優しくボクを抱きしめるように眠っている。

 背中で感じるのはカクシ君の少し高い体温と、筋肉質な体の硬さ。 そしてボクの頭の下にはカクシ君の右腕が枕となっている。

 ボクはそんな幸せとも呼べる状態で目を覚まして……。

 

 

「オレへの拷問か、これは……!」

 

 

 と、思わず久しぶりにオレ状態でつぶやいた。

 緊張と興奮でほぼ仮眠程度にしか寝付けず、彼の規則正しい寝息と心音を聞きながら、自分の理性と戦い続ける夜だった。

 

 大学の時にもお泊りは何度かしているが、その当時よりも彼が屈託のない笑顔を見せ、ハグしたりとスキンシップもするようになったことで、より理性に良くない状態になってしまっている。

 

 以前ならオレにベッドを使わせて、彼は布団にくるまって床で寝ていただろう。 そういう意味では大幅な進展だ。

 

 寝返りを打って見れば、そんな恋人があどけない顔で腹筋をチラ見せしながらすやすやと眠っている。 ほんの少し迫ればキスだってできるほどに近い距離。

 もはや誘ってるだろうこれは……。 と思いながらも、目に毒な部分を彼の肩まで布団をかけて隠す。

 

 

 手を出したい気持ちはある。

 

 

 どちらが抱くか抱かれるかなど些細な問題だ。 どちらの役割でもいいからオレは彼と深い仲になりたい。

 

 オレにだって当然性欲はある。 ……というか、大学生から我慢してるんだぞこっちは……。 拗らせて肥大化した感情が堰を切ったら、もはやどうなるかわからない。

 そう思いながらも、幸せそうに眠る愛しい顔を見てグッとこらえる。

 

 

 昔の彼は、オレがミニスカートを履けば時々太ももに目が行っていたし、部分的に肌を露出したデザインの服を着れば、たまに肌が見える部分に視線が向いていたのも知っている。 ……だが、今の彼にはそのような視線は無い。

 

 

 このような様子を見せるようになったのは、オレが結婚を申し込んで……。 つまり、正式にお付き合いをしてしばらくしてからだ。

 

 

 彼の異変に気付いてから、俺は彼を然るべき病院へと診せた。

 だが受け答えもはっきりしているし、特に問題のある行動も見られない。 他の人がいる街中や医師の前だと、普通に恋人としての顔を見せてくれる。

 

 だが、二人きりだと不意に、俺への愛情表現が親へ甘えるような愛になってしまうのだ。

 

 

 医師の結論としては原因不明。

 感情が制御できなくなって物を壊したり騒いだり、本当の意味での幼児退行を起こし始めたら投薬も検討しましょう、と言われた。

 

 

「俺、今そんなに危なくなってる?」と自分の変化に気付いていない彼は驚いていた。

 

 

 あくまで傍で観察していた俺の考えでしかないが……今の彼はおそらく一時的に子供に戻って、幼少期に得られなかった愛情を得ようとしている段階なのだろう。

 

 抱きしめて欲しいと思えば抱きしめられて、手を握ってほしいと思えば手を握ってもらえる。

 子供ならだれもが与えられる愛情を経験しなかったから、それを自分の中で当たり前のことにしようとしている。

 

 大人にならないと死んでしまうから、子供なのに無理やり大人になろうとして……その反動で心の奥底に小さな子供の部分が残ってしまった。

 その眠っていた子供の部分が満たされれば、きっと戻るはずだ。

 

 

 だからこの先に進むのはもう少しあとだ。 今手を出すのは子供に手を出すようなもの。 大丈夫、十四年待ったんだからまだ待てる……。 と自分にそう言い聞かせた。

 

 

 

 ……しかし、この無邪気に抱き着いてくる可愛い子が本来の彼だったのなら、よくもまぁ彼を捨て置くことが出来たものだ。 と会ったことも無い相手に苛立ちが募る。

 

 

 

 ある時、オレが食器棚から食器を取ろうと上に手を伸ばしたときのことだ。

 側で料理を作っていた彼が一瞬硬直し、ジッとこちらを見てから、ホッとしたように料理に戻った。

 その時は気付かなかったが、共に過ごすうちに何度か同じことがあって気付いた。

 

 

 その反応を見せるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 おかしいとは思っていた。

 ……放置されてロクに教育をされてないだろう四歳児が、一人で図書館において置かれて周りは放っておくだろうか。

 普通、騒いでしまって司書たちが注意することになり、保護者がいないとわかれば警察に連絡が行くだろう。

 

 そうならなかったということはきっと、日常的に暴力を振るわれ、周囲の目を窺うようになったから。 殴られないように、周りの目を窺うようになったのだろう。

 

 普段のカクシ君は、そのことを忘れている。

 だけどこの幼いカクシ君はきっと、身体でそのことを覚えている。

 

 

 彼が話してくれない以上は真実は闇の中。 全てはただの予想でしかないが、既に死んでいる義両親をとても許すことはできない。 もしも墓が側にあったなら蹴りを入れていたと思うぐらいには憎悪している。

 

 オレが不機嫌な顔をしていることに気付いたのだろう。

 目を覚ました彼がオレの手を握り「おはよう。 大丈夫か?」と聞いてくる。

 

 

「……おはよう、カクシ君。 大丈夫だよ。 何か朝ごはん食べる?」

 

 

 オレではなく、ボクの皮を被って微笑んで話しかける。 今ではどちらも自分の素顔。 カクシ君はオレもボクもどちらも好いてくれるんだろうけど、何となく好きな人には可愛いと思ってほしい。

 

 二人並んでキッチンに立ち、朝食を作る。 まるで新婚みたいだと内心で喜んだ。 ……とは言っても、ボクの家ならともかく単身者用のキッチンで、体の大きなカクシ君が隣にいるのは流石に狭い。

 

 

 仕方なくカクシ君にはお皿を用意してもらうことになった。

 

 

 

 出来上がった朝食をテーブルへと運んで、二人で食事をとりながらボクはある提案をする。

 

 

「ねぇ、これからはボクの家で一緒に暮らさない?」

「ミコトの家で?」

 

 

 

***

 

 

 

 話はトントン拍子に進んだ。

 今はもう仕事を辞めたカクシ君だ。 駅のアクセスなども関係が無くなり、一緒に住みたいと思ったのなら特に止まる理由がない。

 

 ……まぁ、子供状態のカクシ君ならきっと一緒に暮らすことを受け入れるだろう、と思ってその状態の時に提案したのだけど。

 

 うん。 自分でも思うが、ボクはかなり卑怯なんだろう。

 告白する勇気がないのに、側に他の人が近づかないように色々なもので関係を匂わせたり、判断力が無い時を狙って委任状を書かせたり、今もこうして引越しをさせている。

 ただ、カクシ君は本当にダメなことをしたときは叱ってくれるから……、それまではこういうズルいこともしていこうと思う。

 

 

 なお、カクシ君が引っ越してくることになるボクの家は、家主が亡くなり、相続した人が住もうにも都心からは遠すぎて持て余していた家だ。

 そのため敷地も家屋も大きいのに殆ど投げ売り同然で、フルトラッキング部屋や配信部屋、自室と使っているのにまだ部屋が余っている。

 カクシ君の自室と、カクシ君の配信部屋を用意してもまだ余裕があるほどだ。

 今ほどこの物件を一括で購入してよかったと思ったことは無い。

 

 

 数日かけて荷造りをすると、カクシ君は軽トラックを借りてボクの家へと荷物を運びこんだ。

 高校生の夏休みなどは短期で引越しのアルバイトもしていたらしい。 そりゃ筋肉も付くな、と内心納得した。

 運び込んだのは、カクシ君の身長でも問題なく眠れる大きさのベッドや寝具。 それ以外は衣類や食器、その他私物。

 一つあれば十分な炊飯器や冷蔵庫は処分したので、元々あまり物を買わないカクシ君の荷物はかなり少なかった。

 

 だが、荷解きを手伝っていた時のこと、事件は起こった。

 

 

「な、なんで、これがここにあるの……?」

 

 

 それは、ボクが出していたボイスCD。 毎年コミケの時期にクリエイターズマーケットのBOOTHを利用して販売していた、パッケージ付のシチュエーションボイス。

 

 ボイス販売自体は定期的に行っているが、このボイスCDだけは他とは異なる。

 年に二回出すこのCDは、相手をカクシ君のイメージで原稿を書いて演じている。 許されるならカクシ君とあんなことをしたい、カクシ君にこういうことをされたい、カクシ君にこれをしたいという、ボクの願望が全開になったCDだ。

 

 カクシ君と会う機会が極端に減ったことで溜まっていくボクのフラストレーションは、リスナーたちとの交流以外にこのCDで発散していたというのも大きい。

 最初はおうちデートや、一緒に服を選び合うショッピングデートといった、大学時代の延長でしかなかったそのCDは、回を増すごとに過激さを増していった。

 

 最新版では、ボクとオレの二人のミコトが相手を組み伏せ、なすがままにされる彼を、左右から取り合い、耳元でどちらを選ぶか囁いて迫るというものだった。

 なお、仮にボクが二人がかりでもカクシ君は止められないパワーがあるので、そんな彼がロクに抵抗しないと言う状況も、ボクが彼に受け入れられているという願望が込められている。

 

 

 頼むからコレクショングッズとして買っただけで聞いていないでくれ、と思いながらそのCDを手に持ってみるが、無常なことにフィルムは開封済みだった。

 

 

「~~~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

 思わずカクシ君の枕に顔をうずめて、声にならない声を叫んだ。

 

 

「別に恥ずかしがることじゃないと思う、交互に声色を使い分ける演技は凄く良かったぞ」

「ホントにガッツリ聞いてるじゃん……!」

 

 

 恥ずかしさで目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にしながらCDを握る。

 そんな様子を見たカクシ君は少しおろおろとしている。

 

 ボクの状況は例えるなら、自分を主人公にした夢小説を相手役の本人に読まれたようなもの。 だが、物語を再話して発表する形式のカクシ君にはその恥ずかしさがわからないのだろう。

 

 

 カクシ君は忙しい人だから買ってないと油断してたけど……。 そうだよ、カクシ君が学生の時からボクを好きだったなら、グッズ類は買っててもおかしくないじゃん……!

 

 ボクはぷるぷると震えながらCDをそっと箱に戻す。 存在ごと消してしまいたいけど、これはカクシ君のだからね……! もう聞かれてるから、今さらそんなことをしても意味はないというのもあるけど!

 

 だが、そうやってCDを睨みつけるボクに、カクシ君は何を思ったかとんでもない提案をしてきた。

 

 

「あ、このCDみたいなことやってみるか?」

「は?」

 

 

 そういってカクシ君はボクを抱えて、ベッドの上に仰向けになると、ボクを自分のお腹の上に置いた。

 ボクの肉が少なく薄い尻に、彼の腹筋の感触が伝わってくる。

 

 そして、カクシ君はそのままボクの両手を握る。 指同士が深く絡まる、いわゆる恋人繋ぎ。

 一度だけデートの時にしてくれたことがあったけど、その時は隣り合って片手でしたものだった。 それが今回は、互いに向き合って両手で絡み合っている。

 

 

「……あ、握り合うんじゃなくて、ミコトが俺の手首を掴んで押さえつけるんだっけ?」

 

 

 こんなことをしながら言うカクシ君に、一瞬、もう唇くらい奪っても許されるのでは? と悪魔が囁く。

 

 

「ん? どうした?」

 

 

 しかし、カクシ君の顔を見れば無邪気に笑っており、性的な雰囲気は欠片も無い。

 きっと今の彼にとってはまだ、幼児がするごっこ遊びの範疇なのだろう。

 

 

 ……ボクは大きくため息をついて、そのまま彼にのしかかるように脱力した。 ハグよりも密着したその行為。 肌寒い季節に全身で彼のぬくもりを感じるが、まだこれくらいなら許されるだろう。

 

 

「だけど、もう、ホントに……。 頼むからオレの理性が無くなる前に大人になってくれ……」

 

 

 彼のペースで恋人らしいことをしていけばいい、なんていったけど、これじゃオレの理性が持たなくなる。

 オレは彼の胸に顔をうずめて、もごもごとそう呟くしかなかった。




 カクシは二重人格のようなもので、幼少期に無理に大人になろうとしたため、子供の人格を眠らせたまま大人の人格を産んだ状態でした。
 トラウマである暴力を伴う虐待を忘れているのも、このときの分裂が原因です。

 ビリーミリガンのように記憶を共有してないタイプではなく、ほぼ全部共有しながら成人男性として判断するカクシと、幼児として判断するカクシ、どちらの思考が表に出るかという感じ。
 なので生活上もコミュニケーションも全く問題がありません。


 今は心の深い部分にあった傷が癒えつつあり、眠っていた子供人格が愛を欲して表に出てるだけです。
 ミコトが考えてる通り、満たされれば統合されて元のカクシ君に戻ります。
 その時こそ完全に過去から脱却したと言えるかもしれません。


 大人に戻ったカクシ君はちゃんと、この引っ越した時のことも覚えてるし、自分が子供だったことでミコトが断念したこともわかっています。
 なので仲がさらに進展したころ恥ずかしそうにしながら、してみるか?とCDを指さしたりします。 ミコトの理性は消えます。
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