30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編6_二次色:時代の流れ

 僕のペンネームは二次色。

 今では四十八歳、もうすぐ五十を目前にして妻一人。 高校生の息子に中学生の娘を持つ二児の父だ。

 

 かつてはゲームのメインビジュアルを担当したり、ライトノベルのイラストを担当したこともある。

 ゲームは超大作とまではいかなかったけど、小さな会社を代表するタイトルになった。

 ライトノベルも二度アニメ化して、それなりに有名なイラストレーターだと言えるだろう。

 

 

 だけど、今の僕で一番通りの良い肩書は、"睦実ミコトのパパ"である。

 

 

 

***

 

 

 

 僕は会社所属のグラフィッカーとして入社した。

 最初はモブやモンスターをいくつか担当して経験を積み、メインビジュアルを担当してそれが人気作になった。

 

 ゲームのビジュアルブックと並行して画集も発売されて、僕はこの分ならフリーでも行けるのでは? と独立した。

 

 理由は通勤時間だ。

 毎朝決まった時間に起きて、満員電車に乗って会社に行くという多くの人の当たり前が、僕には中々難しかった。

 

 フリーになってからは担当していたゲームのネームバリューで、ライトノベルをいくつか担当させてもらい、それらにはアニメ化する作品も出てきた。

 だけど時代の流れには逆らえなかった。

 

 

 僕の絵柄は少し古くなっていたらしい。

 

 

 以前担当していたゲームも、続編はぱたりと作られなくなって忘れ去られた。

 そうなれば旬が過ぎたのか仕事が徐々に減り、妻と幼い子を食べさせるために貯金を切り崩す状態になっていた。

 

 

 依頼は来なくても仕事に繋がるように、今の絵柄を研究して自分の絵に取り込み、様々なイラストをSNSにアップした。 その絵はそれなりに拡散されて、フォロワーだって増えていく。

 だけど、僕の絵はタイムラインに毎日のように溢れていく多くのイラストに押し流されて、仕事に繋がることは殆ど無かった。

 

 

 企業所属の場合、仕事は確実に入り収入も安定している。

 家族を食べさせていくためにも企業所属に戻ろうかと考えた矢先、僕の仕事用メールアドレスに仕事の依頼が届いた。

 

 

 送り主は睦実ミコトさん。 Youtuberをしているそうで、聞けば好きだったゲームのデザイナーである僕にお願いしたくて依頼したとのことだった。

 

 仕事の内容はLive2Dでのモデル作成。

 元となるビジュアルが有り、それを僕の画風でブラッシュアップしたうえで、Live2Dモデルにして欲しいそうだ。

 

 企業ではなく、個人依頼。

 僕にLive2Dの経験はなく、相手は社会的信用の無いYoutuber。 デザインもあまり僕が描いたことのない女装男子。

 受けるべきか悩みに悩んだが……、昔作ったゲームのファンだという彼をむげには出来なかった。

 

 少し割高に設定したうえで着手前に半額を受取り、納品後に残りを貰う形で依頼を受けた。

 

 初めての仕事ではあるが、Live2Dモデルの実績は次の仕事に繋がりそうだと思ったし、これで様子を見てダメなら再就職という、最後の仕事のつもりで全力で作業に当たった。

 

 

 その結果、彼がYoutubeに投稿した新衣装お披露目と題した配信は大きな注目を浴びた。

 SNSやネットニュースでは、"懐かしいあのゲームのイラストレーターが担当"とかなり大きく拡散された。 僕が自薦しても全然イラストは伸びないのにと少々複雑な気持ちになったが、おかげで沢山の仕事が舞い込んだ。

 

 

 ミコト君からは三カ月に一度、定期的にLive2Dの依頼が来るようになったし、不定期なものだと、サムネイル用のイラスト数点や、動画用イラストも来るようになった。

 更にそれを見た人達から仕事の依頼、Skebサービスの依頼が舞い込んだ。

 妻子を食わせるどころか、子供の大学の学費まで奨学金に頼らず全額支払っていけそうな収入になった。

 

 

 昔全力で取り組んだゲームが睦実ミコトを楽しませて、その睦実ミコトが新しい時代のコンテンツとして僕に依頼をして、それが新しい客層へと受けて僕の生活を救った。

 

 

 一度彼の配信に出た後、配信が終わった後に彼にお礼を言ったことがある。

 

 

「時代の流れに忘れ去られるばかりだと思っていた僕が、おかげで波に乗れたよ」

 

 

 それを聞いたミコト君は笑ってこう言った。

 

 

「ボクは忘れたことなんてないです。 それに新しい絵柄に挑戦したり、したことのないLive2Dに挑戦できる先生が、忘れ去られるなんてこと絶対ありませんよ」

 

 

 彼は、昔僕のゲームが好きだったからという理由だけで依頼したのではなかった。

 それはあくまで理由の一つ。

 

 昔ファンだった多くの作品のイラストレーターの中でも、新しいことに挑戦していたのが見えたから、きっとこの人なら、女装少年という属性や、実績にないLive2Dでもやってくれるのではないか?

 そう思って僕を選んでくれたらしい。

 

 

 タイムラインに押し流されていく、僕が日々仕事に繋がればと描いていたイラストも無駄ではなかった。

 人によっては一瞬、数秒しか見ないそれらを見て、新しいことに挑戦していると汲み取って依頼をしてくれていた。

 

 

 思わず配信が終わってから彼の言葉を反芻して、布団の中で涙して妻に心配されてしまった。

 

 

 それ依頼、ミコト君からの依頼やお願いは最優先で受けると決めている。

 

 ミコト君から八周年の配信に出て欲しいと急に言われたときも、スケジュールは空いてるよと返しつつ、急ぎの仕事などを前倒しで終わらせて都合をつけた。

 

 一番困っていたころに依頼をくれた彼への人情というものだ。

 

 

 

 ただ、最近は少し困ったことが出来てしまった。

 息子と娘に、仕事のペンネームがバレてしまったのだ。

 

 

 僕はちょっとえっちなイラストや成人向けの同人誌も書いて販売しているから、子供たちに活動名は内緒にしている。

 だから僕がゲームのメインビジュアルを担当していたことも、昔アニメ化もしたアニメのイラストを担当していたことも、睦実ミコトのモデルを担当したパパということも妻以外は知らないことだった。 芋づる式に成人向けアカウントの方にたどり着かれたら困るからだ。

 

 

 ただ……これは妻も僕も知らなかったことだけど、中学生の娘は最近、おしゃれで可愛いミコト君を推し始めたらしい。

 そして、睦実ミコトの八周年配信を自室で見ていた娘は、そこに父親の声で話す露出多めの萌えキャラを見てしまったようで、翌日からちょっと話すのが気まずくなってしまった。

 僕への対応に困った娘が息子に相談したことで、そちらにもバレてしまったようだ。

 

 

 それ以来、数カ月間は少々会話が気まずくなったり、困った日々を過ごすことになった。

 だけどミコト君が配信を休止したことで、娘はその期間アーカイブや過去動画を掘り進めて待つことにしたらしく、僕とミコト君のコラボしたものが続々と掘り起こされていった。

 

 

 その結果、当初は僕に対してどう話せばいいかわからなくなった娘も、今では逆に「何で早く言ってくれないの! リビングでミコト君の配信見てくれればもっと早く知れたのに!」と文句を言ってくるようになった。

 

 

 気まずさが無くなって結果オーライではあるのだが、親が萌えアニメとか、美少女(っぽい)アイドルVtuberの配信を家族の前では隠すようにするのって古いんだろうか。

 

 

 そう思いながら日々を過ごしていたところ、ミコト君が復帰配信を行う少し前に、ミコト君とカクシ君の双方から「お付き合いを始めました」と個人連絡用のアカウントにメッセージが届いた。

 

 僕は思わず「あれ!? どっちか女性だっけ!?」と戸惑ったが、カクシさんは声からも確実に男性で、ミコト君とも八年一緒に仕事をしている内に、数回リアルであったこともあるが、そちらもちゃんと男性だった。

 

 

 僕は何と返せばいいかわからないまま、おめでとうございますとだけ返して、はや数週間が経ってしまった。

 もっといい言葉があった気がする。 何と返せばよかったのだろう。

 そんな言葉が頭の中でぐるぐると回りながら日々を送った。

 

 

 

 ……最近の僕はミコト君が配信を再開したことを期に、朝に起きて娘と一緒にミコト君の朝活を見る生活をしている。 クイズ大会でミコト君に忠告されたし、規則正しい生活を心がけ始めたのだ。

 朝に子供と軽く会話をして、子供たちが学校に行くのを見送る習慣が楽しくて、まだ眠くはあるがこの習慣を続けていこうと思っている。

 

 

 そう思いながら眠気覚ましにコーヒーを飲んでいると、テレビ画面に映した配信上のミコト君が、朝食を作りながらとんでもない発言をしていた。

 

 

『え、最近のカクシ君? ちゅーしてくれるようになったよ。 ……まだ頬っぺただけど』

 

 

 ゲホゲホとむせながら、「今ってそういうの隠さないんだなぁ」と僕は思わずつぶやいた。

 娘は特に気にするでもなく、「配信者でお付き合いしてるって公表するのは珍しいかもね」と答える。

 

 

「いや、そっちじゃなくて、男同士ってこと」

 

 

 僕の若いころは、男が好きだと知られたら縁を切られるような扱いだった。 狙われそうで怖いとか色々と陰口もあった。 もちろん、そういった趣味嗜好の人のための本や作品は売られていたが……、それでも皆、そういう嗜好を持つ人たちは隠していた。

 

 

 だが娘も、そして後からやってきて状況を把握した高校生の息子も特に気にしていないらしい。

 

 

「お父さん古いよー?」

「珍しいけど、周りにいないわけじゃないな」

 

 

 子供たちが口々にそう言ってきて、思わず時代は変わったんだなぁ……。とつぶやいた。

 どうやら、画風や技法だけじゃなくて、価値観も時代に合わせてアップデートしないといけないらしい。

 

 

 だけどまぁ、確かに二人が幸せなら、男同士とかそんなものは些細なことか。

 

 

 僕はそう思いながら、子供たち二人を玄関で見送ると、交際おめでとうのイラストを描いてSNSに投稿する。

 そしてミコト君たち二人のメールにも、もう一度お祝いの返信を送った。

 

 

 どうかお幸せに。

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