30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編14_バレンタインのひととき

 二〇二七年二月十四日。

 恋人たちの日であるバレンタインデー。

 

 今日の配信はミコトのチャンネルでチョコを作る予定になっている。

 配信で使う材料などの準備は既に終えており、配信が始まるまでぽっかり空いた一時間は俺とミコト、二人だけの時間だ。

 

 

 例年通り、今年もミコトからは服が送られた。

 今回のプレゼントは黒のトレーニングウェア、ミコトにしては珍しく実用性重視の服だ。

 ノースリーブのものから長袖まで複数種類用意されており、冬ということもあって長袖のものを手に取った。

 ミコトにせがまれるまま、背を向けてその場で着替えていく。

 

 俺とミコトの体格はかなり違うのに、相変わらずサイズはピッタリで驚かされる。

 

 

「うわぁ……体のラインがはっきり出て……」

「ミコト、修学旅行あたりからそういうの隠さなくなったな……別にいいけど」

 

 

 ミコトの視線が若干いやらしくて、目の前で着替えたのは失敗だったかもしれない。

 少し気恥ずかしくなりながら俺は上着を羽織って隠す。

 

 

「普段は外から見てカッコいい服だったでしょ? 今年はキミが服を脱いだ時にドキッとする奴にしようかなぁ……って」

「それは、性癖という奴か……?」

 

 

 本来性癖は生まれ持った癖や性格を指す言葉なのだが、今では性的嗜好の意味で使われることが多くなっている。

 

 3Dお披露目の時からそうだが、自分にそういう目が向けられるという事実にまだ慣れていない。

 恋人であるミコトからだし、答えていきたくはあるのだけど……どうすればいいのだろう。

 

 ミコトのように可愛いファンサも、相手を喜ばせるような仕草も思いつかず、途方に暮れてしまう。

 

 

「キミはそのまま、思う通りに反応すればいいよ」

「そうか? ……ありがとう」

 

 

 ミコトの言葉に、少し気が楽になった……のだが……。

 

 

「普段当たり前に着てた服なのに、いやらしい目で見られてると知って恥ずかしそうにしてる姿も凄く可愛いからね。 キミは変に意識せず自然体のままが一番」

「お前……ホントに欲望出しすぎだろ……」

 

 

 恋人として同棲を始めたことで、友人としてずっと接してた頃は見えてこなかった色々な一面が見えてきた。

 隠してただけでミコトが出してるCDとか、旅行でのアレコレとかを考えると、多分以前から抱えてはいたんだろう。

 そういう感情を持ってるのが当たり前とは言え、それを明け透けに人に向けるのはあまり褒められたことではない。

 

 

「……なのに、こういう所も可愛いって思ってしまうんだよなぁ……」

 

 

 恋は盲目。 痘痕もえくぼ。 昔の人たちは上手いことを言う。

 目をキラキラさせてこちらを見つめる恋人に、仕方ない……とトレーニングウェアを全て隠すのはやめて、上着を羽織るだけに留めた。

 ミコトはそれを見て満足したのか、俺に逆に提案をしてくる。

 

 

「ボクもキミに好きな服を着てもらったし、何かリクエストが有ったら着替えてあげるけど……何かある? ……ふふ、動物園の時に言ってたミニスカートでもいいよ?」

 

 

 俺はその言葉に深く考え込んだ。

 正直に言ってミコトの着る服装はどれも違う魅力があって、選ぶのは難しい。

 

 俺は頭に浮かぶ、これまで沢山見てきたミコトの服装の中からどれがいいか考え込んで……。 一つ、今のミコトが絶対に着ないものを思いついた。

 

 

「…………それなら」

 

 

 

***

 

 

 

 ソファーに座りながら、ミコトを待つ。

 リクエストをするとミコトは少し戸惑いながらも、待っててと部屋に戻った。

 普段と違い、自分が頼んだ服を着てくれるというのは何となくソワソワしてしまい落ち着かない。

 だがそんな時、部屋に近づいてくる足音が聞こえて、居住まいを正す。

 

 

「カ、カクシ君。 着替えてきたけど……どう、かな?」

 

 

 扉の陰から恥ずかしそうに出てきた姿に、思わず声を出せなくなった。

 

 頭から足へと視線を送り、ミコトの姿を眺めていく。

 

 普段は肩甲骨あたりまで伸ばしている長い髪を、今日は大きめのキャスケット帽に隠して短く見せている。

 そして、今ミコトが着ているのはノースリーブタイプの薄手のニット。 男なので胸に起伏は全く無いのだが、胸元は谷間を見せるように隙間が空いたデザインだ。

 下は最近もう履かなくなってしまった短めのスカート。 フリルが付いて女の子らしいそれから、奇麗な白い足が伸びていた。

 

 

 ミコトは女装するとき、基本的に肩や胸、膝と言った男性的特徴が見える部分を隠している。 ショートパンツをはくときも、少し厚めのタイツで骨ばった間接をごまかしていた。

 

 だが今日の格好にそれらは無く、男性がただ女の子の服装をしている状態だ。

 俺とミコトが初めて会った頃を思わせる姿。

 

 何か着てほしい服はある? と聞かれたため出会った頃の服をリクエストした結果だ。

 ミコトは少し体を隠しながら、俺に呆れた声で話す。

 

 

「本っ当に恥ずかしいんだけど……」

「ご、ごめん……」

「はぁ……なんであの頃はこの格好が出来たんだろう……もっと可愛くする方法はいくらでもあるのに」

 

 

 当時のミコトはただ可愛い服やものが好きというだけだった。

 だからネイルや女物の服を着ることはしても、女性のように見せようとか似合うようにしようという考えは欠けていた。

 

 だからこそそんな当時の拙い女装が相当に恥ずかしいのか、ミコトは壁に手をついてこらえている。

 例えるなら、絵が上手くなってきたころに中学校の時に描いた絵を発掘してしまった感じだろうか。

 

 

「……せっかく着たのに、キミはまともにこっちを見てくれないしさぁ……」

「わかってるけど、初めて会った頃を思い出して……ちょっと今は顔見れない、かも……」

 

 

 俺も普段なら似合ってるよ、などは言っているのだが、今日はなんと言葉をかけていいかわからない。

 似合ってる……というわけでは無い。 普段のコーディネートの方がずっとミコトに合っている。

 だから……。

 

 

「……可愛い」

 

 

 色々と頭の中を言葉が駆け巡った後、結局そんな言葉に落ち着いてしまった。

 沢山本を読んでいるのに、表現する語彙が吹き飛んでしまったことに落ち込んでしまう。

 

 

「……ふぅん……そっかぁ」

 

 

 ミコトは少し蠱惑的に笑うと隣の席では無く、俺の膝の上に座った。

 

 

「ちょ、ミコト!?」

 

 

 短いスカートに素足だから、脂肪の少ない体の感触や熱が太腿に伝わってくる。 そしてそのままミコトは、背中を俺の胸へと預けてきた。

 

 

「せっかく着たのに、キミがまともに見てくれないからね。 ……これなら、ボクの顔を見なくて済むでしょ?」

「確かにこの状態だとお前の顔が見えないけど……!」

 

 

 ミコトはそのまま俺の両手を掴むと自分の腰へと持ってきて、抱きかかえるような体勢にさせた。

 太腿に胸、そして腕を通して伝わってくるミコトの体温に、心拍数が否応なしに上がっていく。

 

 

「そんなにこの似合わない女装が好きなの?」

 

 

 背中越しではわからないが、きっと得意げに笑っているのだろう。

 だが、それに関しては違うと否定する。

 

 

「……いや、そうじゃない。 俺が好きなのは……ミコトがデートで選ぶ服とか、あとは朝に見るエプロン姿とかの方。 恋人になれたんだなって思えるから」

 

 

 デートの時とか……同棲を始める前、月に一度会うだけだったときの、きっと熱心に選んでくれたであろう気合の入った衣装も好きだ。

 一方で朝に一緒に料理をしているとき、ラフな部屋着にエプロン姿のミコトも好きだ。 アレは本当に気を許した相手しか見ることが出来ない格好で、恋人になる前は殆ど見ることが無かったから。

 

 それを聞いたミコトは少し気恥ずかしそうな声を上げた。

 

 

「そ、そうなんだ……じゃあどうしてこの姿に、そんな照れてるの?」

「その……一目惚れした頃の服装だから、だと思う」

 

 

 俺は自分でも戸惑いの大きい今の気持ちを、少しずつ整理しながら話す。

 

 

「俺がミコトを好きになったのは、見た目じゃなくて楽しそうに好きなことを追ってる表情の方。 ……けど多分、その服で俺は当時の気持ちを思い出してるんだと思う。 ……あの時は恋と思ってなかったけど、こんな気持ちだったのか」

 

 

 心臓がうるさいくらいに早鐘を討つ。

 ピッタリと密着しているミコトにも、きっとこの音は伝わってしまっているだろう。

 

 

「ふ、ふぅん……そうなんだ……。 そうなんだぁ……」

 

 

 ミコトはうつ向いたまま、言葉を繰り返す。

 何か嫌な予感がした後、太腿にかすかな感触があって思わず背筋が伸びた。

 

 

「み、ミコトさん……?」

「なぁに……?」

 

 

 ミコトの手がさわさわと俺の太ももの側面を撫でている。 ズボン越しに、触れるか触れないかの優しい手触りで行き来して、くすぐったくて妙な気分になる。

 優しい手つきというより……これは、やらしい手つきだ。

 

 少しその感覚に身をゆだねたくなるが……、その両手を掴んで止める。

 

 

「……もう少ししたら配信だから……これ以上はダメだ」

 

 

 自分も流されないように少し強めに言って止める。

 

 今日の配信は何日も前から企画の説明も告知もすでに済ませてある。

 体調不良で休むとかなら仕方がない、だけど……イチャイチャしてて遅刻しましたとか、お休みになりましたは絶対にダメだ。

 

 そんな理由で休んでは、配信のために時間を割いてくれるリスナーに申し訳ない。

 

 

「…………はぁ、そうだよね。 残念」

 

 

 ミコトはそう言うと、膝から降りて隣の席に座った。

 

 

「……ねぇ、一つ聞きたいんだけど……もしボクが女装を磨くんじゃなく、そのまま勇気を出してキミに告白してたら……キミは受けてくれてた?」

 

 

 真剣に問うミコトに、俺は考える。

 あの頃の俺は、好意を受け入れることが出来なかった。

 

 

「多分、すぐに答えるのは無理だったと思う。 一週間か、一カ月か……ミコトからしばらく距離を置いて考えるだろうな……。 それでも多分、最終的には告白を受けたと思う。 ミコトと一緒に居られないのは辛いから」

 

 

 あの当時、周りの友人たちはミコトを「なんであんな奴と一緒にいるんだ?」と口々に言ってきた。 俺は初めて彼らに「俺の友達を悪く言うな」と怒ってしまい、周囲とギクシャクすることになった。

 他人からの好意を受け入れられなかったあの時ですら、多数の友人よりもミコト一人の方が大事だったのだ。

 なら、時間を置けば絶対にミコトといる道を選んでいただろう。

 

 そのことを聞いたミコトは、深い深いため息を吐く。

 

 

「はぁ…………。 オレ、それじゃあホントに無駄な回り道してたんだな。 ……十四年も、バカみたいだ」

 

 

 ミコトは背もたれに体を預け、天井を見上げて呟いた。

 

 十四年は本当に長い時間だ。

 それなのに、自分がほんの少しの勇気を出すだけで望みは叶っていたという事実が、ミコトの心に重く圧し掛かっているのだろう。

 

 

「……けど、俺は結局今の形が一番よかったと思うよ。 確かに回り道だったけど、もしあの時付き合ってたらVtuberにはならなかっただろうし、それに……俺は今間違いなく幸せだから」

 

 

 隣のミコトの手を握って、俺はそう答える。

 

 

「それでもミコトが後悔してるなら、あの時の言葉を返すよ。 その十四年間も全部取り戻して、それ以上に楽しい時間を作っていこう」

「……ふふふ、ホントに君は優しいんだから。 ……ボクも、素敵な恋人が傍にいて幸せだよ」

 

 

 ミコトは笑いながら、俺の肩に頭を預けてくる。

 

 

「なんだ、もうオレはやめるのか。 懐かしかったのに」

「それは期間限定です。 ……まぁ、気が向いたらやってあげるよ。 この恰好も含めてね」

 

 

 そう軽口を言って笑い合う。 それは十四年前の友達のようで……。

 だけど、手を握って身を寄せ合うのは恋人同士になってからのこと。

 

 俺達はそうして配信時間までの間、恋人の一時を楽しんだ。

 




 二人は愛し合ってるので、どの形でも基本的には結ばれるのですが……。

 もし学生の頃から付き合っていた場合、今より同性愛への理解が薄いことなどもあり、家族からは反対されます。
 ミコトは家族かカクシか非常に悩んだ後、反対を押し切ってカクシと交際を続けます。

 そのため、カクシもミコトも、両方家族がいない状態で共依存の様な形になってしまいます。

 お互い幸せではあるのですが、メリーバッドエンドですね。
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