30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話   作:物怪相談

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番外編19【完】_ハッピーエンド、VR結婚式

 その後も沢山のゲストが一人一人、自分が担当するワールドで様々な催しを行ってくれた。

 

 寺のワールドでは、ミコトがラジオでご一緒していた声優達による紙芝居朗読劇。

 息遣いや間の取り方で魅力が何倍にも膨れ上がって、本職の凄さに全員で子供のように聞き入った。

 

 ファンタジーな城内のワールドでは、ゲーム配信で遊ぶ機会の有ったプロゲーマーとの参加型FPS企画。

 この時間帯のチケットは一緒の空間に参列できる権利というより、プロゲーマーとのプライベートマッチに参加する権利。 俺とミコトとプロゲーマーによる三人のチームと、リスナーたちで対戦を行った。

 企画が決まってから裏でかなり練習をしたおかげで、足を引っ張りながらもなんとか勝てていい催しになったと思う。

 

 マグマのワールドでは、クイズ配信者による○×クイズ。

 リスナーと一緒に○と×の足場に別れて、不正解の足場が消えるVRならではのスリルあるクイズを楽しんだ。

 最後の『永遠の愛を誓いますか?』 という問いには俺達だけが○に立って、正解の音と共に次のワールドへと移動する美しい演出だった。

 

 

 他にもたくさんの方が俺達の結婚を祝ってくれて……ついに最後のゲスト、平野ママのワールドに入った。

 

 最初のゲストがパパで、最後がママ。

 その並びで組み立てられた結婚式のプログラムだった。

 

 

 

***

 

 

 

 最後のワールドは披露宴会場。

 周りを見渡せば三十人のリスナーに二次パパやセレナさん、その他これまで参加してくれたゲストたち。

 

 

「お二人とも、ご結婚おめでとうございます」

 

 

 その言葉に振り返れば、平野ママが普段と違いフォーマルなスーツ衣装に身を包んでいた。

 結婚式の企画をする前からドレスとタキシードはミコトが依頼していたらしいが、それでも本当に多くの依頼をこなしてくれて頭が下がる。

 

 

「平野ママ、お忙しいのに沢山ありがとうございます。 ご自身の衣装まで」

「このくらいなんてことないですよー、元ゲーム会社勤務! 作れるものの幅広さと速さが取り柄なので!」

「貰ったときにも言ったけど、ドレスも白無垢もカクシ君の衣装も、全部最高だったよ!」

 

 

>コメント:クオリティも一級だから隙が無い

>コメント:ミコトちゃんは良くこんな人捜してきたよ

>コメント:フォーマルな衣装も似合ってる

 

 コメントでも称賛の声があふれている。

 そんな平野ママは、挨拶もそこそこに早速パフォーマンスへと移行した。

 

 

「二次パパは先輩夫婦として、親としてでしたけど! 私は3Dモデラーらしくやらせてもらいますね! それでは、お楽しみください!」

 

 

 その言葉と共に音楽が流れ、空中には様々なモデルが半透明のホログラフ風で映し出された。

 

 スーツやドレスと言った衣装から、傘や扇子といった小物たちに、鳥や動物、車や飛行機。 様々な人の姿。

 先生がポートフォリオとして公開しているモデルたちが、流れては消えていく

 まるで未来の商品カタログだ。

 

 そんなモデルの一部が時にリスナーの方へと向かって動き回る。

 リスナーも自分の傍へと近づいてくる犬や鳥、走り去っていく車たちに大興奮だ。

 

 平野ママが手を叩くと、俺達も打合せ通りにボタンを押して衣装を切り替える。

 

 基本衣装、エプロン、羽衣、狐姿。 羽織袴にタキシード。

 ミコトも基本衣装やエプロン、パンツルックのアイドル姿や男性的な私服、白無垢にドレスなど、会場は先生がこれまで作ってくれたモデルの博覧会。

 

 スモークや花火の演出と共に、目で楽しませる非常に素晴らしいパフォーマンスとなった。

 音楽が鳴り終わると、平野先生が優雅に一例をして俺達もリスナーも惜しみない拍手を送る。

 

 

>コメント:本当にすごい!!

>コメント:綺麗なモデル沢山だったねー!!

>コメント:作れる範囲幅広すぎでしょ!!

>コメント:ねえいまおしゃぶりと哺乳瓶流れてなかった?

>コメント:時々ヤバい衣装流れてたのがノイズすぎる

 

 ……うん。 本当に惜しげもなく、色々なモデルを演出に使ってくれたんだな。

 何も隠すことなく。

 

 ともあれ、俺達は平野ママの元へと向かって話しかける。

 

 

「最高のパフォーマンスでした!」

「本当だよー、これまでのママの集大成だね!」

 

 

 俺達の賞賛に、平野ママは笑って胸を張る。

 

 

「クリエイターにとって作ったものはみんな子供で財産! サンプルとして公開するだけだった子たちも、こうやって活躍の機会が出来て私も嬉しいです」

 

 

 平野ママも二次パパもミコトも……、今日来てくれた他の配信者達も皆そうだが、自分の好きなことを全力で頑張っている人たちは本当に輝いていてカッコいい。

 俺の憧れる人たちが、こうして祝ってくれることに心から感謝した。

 

 

「けど、私の余興はここで終わりじゃないですよ? まだ時間があるんですからね」

「あ、そういえばサプライズで衣装があるって言ってたよね。 ボクとカクシ君の合わせ衣装」

「設定するように言われてたものですね」

 

 

 サプライズだからと中身に関しては見ていない。

 ボタンを押せばそのモデルに切り替わるように、予め設定だけはしていたもの。

 

 

「ほら、中央に立って二人で向かい合ってください。 カメラさんもお二人を映すように!」

 

 

 平野ママの指示通り俺達は壇上の中央で向かい合った。

 そして、お互いに手元のコントローラーのボタンを押す。

 

 すると光に包まれたミコトの姿は、タキシードへと変化した。

 細身の体に、少し長めの髪を後ろで縛った中性的な美貌。

 可愛さと格好良さを両立したその姿。

 

 

「……うん、やっぱりミコトはそういう服も良く似合うよ」

 

 

 俺はそういってミコトへと手を伸ばす。

 視界に入る俺の()()()()()()()()()()ミコトの頬へと…………うん?

 

 俺は動きを止めて、まじまじと手元を見た。 先ほどまでのタキシードと違い、美しい白のレースで編まれたアームカバー。

 まさかと思い、リスナー席の背後にある配信画面と同期した大スクリーンを確認する。

 

 そこには、大きく肩を露出させたウェディングドレスを着た俺の姿があった。

 

 

()()()()! またやりましたね!?」

「ママ呼びじゃない?! え……え……親子の縁切られちゃった!?」

 

 

>コメント:そりゃそうだろ

>コメント:この規模の視聴者の前で恥ずかしい格好させるのはダメだよ

>コメント:お色直し(強制)

 

 

 ショックを受けたようによろけながら、こちらを上目遣いで見る平野先生を宥める。

 

 

「…………切ってませんよ、ちゃんと大事なママだと思ってます」

「ホント……?」

 

 

>コメント:甘やかすんじゃない

>コメント:ちゃんと叱らないとダメよ

>コメント:でも結構似合ってて好き

>コメント:見た目綺麗だとガタイ良くてもドレス似合うんだな

>コメント:ありがたや……

 

 

 リスナーからは甘やかすなと言われるが……、これでも良いところが沢山あって尊敬できる俺の"親"だ。 少なくとも、俺はそう思ってる。

 だから縁を切ったりはしない。

 欲望に忠実過ぎるのはホントにどうかと思うけど……欲しいものを自分で生み出すクリエイターというのは、多かれ少なかれそういう部分があるのだろう。

 

 

「一応聞きますが、誰の計画ですか? ミコトは関わってますか?」

「……私の独断です」

「目的は?」

「…………性癖を満たしたくて」

 

 

 目をそらしながらそう言う平野先生に、俺は内心でため息をついた。

 

 流石にこれをお咎めなしにするのはダメだ。

 罰を受けたことまでセットにしてエンタメにしないと、せっかく素敵なパフォーマンスで上がった評価が、結婚式の舞台でセクハラをかましたド変態になってしまう。

 

 ……もう遅いかもしれないけど。 

 

 

「………………壇上から降りてリスナー席で反省しててください」

「ごめんなざいいぃ!」

 

 

 大泣きのエモートをしながらとぼとぼとリスナー席へと歩いていく先生を見送る。

 結婚式で親は泣くというが、多分こんな涙じゃないと思うんだよな……。

 

 

「……カクシ君」

 

 

 後ろからミコトの声がして振り返る。

 どこか真剣で、熱を帯びたような声色。

 

 

「キレイだよ……。 キミの薄衣はこの結婚式のために有ったんだね」

 

 

 リスナー席の背後にある、配信画面と同期した大スクリーンに視線を向ける。

 そこに映るのは肩から背中にかけて、大きく露出したウェディングドレスを着た俺の姿。

 

 だが、普段俺が身に着けている目元を隠す半透明の薄衣は、確かに花嫁のベールのようにも見えた。

 

 

「そんなわけ無いだろ……流石にこんなことは想定してないよ……」

「自信を持って。 ボクにとって、キミは世界で一番綺麗な花嫁で旦那様だよ。 大きく開いた広い背中も、その純白のドレスもとても素敵だ――」

 

 

 つらつらと美辞麗句がミコトの口から流れていく。

 本心から言っていることがわかるだけに、とても恥ずかしい。

 

 ……正直、俺はこの衣装切替を無断でしたことに引っ掛かっているだけで、ドレスを着るのは構わない。

 お互い男同士なのに、ミコトだけに花嫁をさせるというのもおかしな話だ。

 すごく恥ずかしいのは確かだが、ミコトが着てほしいというのなら俺は着よう。

 

 ……とはいえ、俺が耐えられなくなる前にこの褒め殺しをやめさせたい。

 

 俺は二本の指を自分の唇に当てて軽くリップ音を出すと、次にその指でミコトの唇へと触れた。

 

 指を経由した間接キス。

 

 先程まで立て板に水とばかりに言葉を述べていたミコトが、途端にフリーズして黙り込む。

 しばらくすると、ボタンを操作したのかミコトの姿がドレスに戻った。

 俺もそれに合わせてタキシードに衣装を戻す。

 

 

>コメント:あぁ、せっかくのドレスが!

>コメント:うるせえ口だな、黙らせてやる(間接キス

>コメント:直接チューしろ!

>コメント:結婚式だよ!遠慮しなくていいから!

>コメント:キッス!キッス!

 

 

 その光景を見たリスナー達が盛大に囃し立てた。

 凄まじい勢いで流れていくコメント達。

 全員が無秩序に話すと画面前のリスナーに俺達の声が届けられないため、VR空間上ではゲスト以外の音声は全てミュートになり文字での会話になっている。

 だがそんな彼らも、まるでキスを囃し立てるように口元に手を持って行って何かを叫んでいる様子だ。

 

 俺が直接口付けをしなかったのは恥ずかしいからだが……もう一つ理由もあった。

 

 

「皆さんの姿が見たくてゴーグルをつけてるから難しいんですよ、これで許してください」

 

 

 視界をモニターに移し、頭部はゴーグルじゃなくトラッカーにして配信することだってできた。

 でも俺は応援してくれるリスナーを同じ空間から見たくて、このゴーグルをつけている。

 

 リスナーの方を向いてそう説明していると俺の指をミコトがつまみ、軽い力で引っ張ってくる。

 

 

「ん、どうした?」

 

 

 何事かとミコトの方を振り向けば、そのままミコトは俺に抱きつきリスナーの前で強引に口付けた。

 腕は首の後ろに回され、離れられないようにしっかりとホールドされている。

 ゴーグルがキスの邪魔にならないように少しズラされたことで、VRと現実の視界が半分ずつ見えた。

 俺の視界を埋める、アバターの睦実ミコトとリアルの恋人の姿。

 

 どうやらフリーズから復帰したミコトは、VRゴーグルを一時的にトラッカーに付け替えていたらしい。

 囃し立てるコメントもさっきまでの比じゃない勢いで視界の隅を流れていく。

 

 

「ぷはっ。 ……こうすればキミにゴーグルが有ってもできるでしょ」

 

 

 そう言って得意げに笑うミコト。

 

 そんな見事な反撃に俺は思わずよろけると、恥ずかしさでしゃがみ込んで顔を覆ってしまった。

 二人きりなら最近はミコトに勝つこともあるが、リスナーの前だとダメだ。 どうしても照れと恥ずかしさが勝ってしまう。

 

 

 だがそんなとき、視界の隅で何人かがバタバタと倒れる姿が目に入った。

 

 

「ミコト……」

「カクシさん……」

「「脳が、割れる……ッ!!」

 

 

 リスナーに交じって、一際クオリティの高いアバターが蹲っている。

 見れば潮彩セレナさんと平野先生だった。

 その様子に恥ずかしさがどこかへと飛んで、立ち上がる。

 

 

「何してるんでしょう、あそこは……」

「あははは……あの二人は今でもガチ恋勢らしいからねぇ……」

 

 

>コメント:これがバームクーヘンエンドかぁ

>コメント:あのエンドってもうちょい和やかに見送ってない?

>コメント:リスナーよりダメージ受けてて草なんよ

>コメント:隣で推しがうずくまってる俺、どんな感情になればいいかわからない

 

 

 そんな色々なことがありつつも、最後のゲストである平野ママのワールドは無事に終了した。

 

 

 

***

 

 

 

 およそ三時間に及ぶ配信の最後の一枠。

 俺とミコトで締めの挨拶を行う。

 

 

 

「今日は皆さん来てくれてありがとうございます!」

「こうして、ファンに祝ってもらえて本当にうれしいよ。 楽しんでもらえたかなー!?」

 

 

>コメント:最高だった!!

>コメント:個人勢でもこんなの出来るんだね!

>コメント:凄い夢があった

>コメント:素敵な式でした!

 

 

 コメントの反応も良好で、いろんな人に協力してもらった甲斐があったと安心する。

 

 

「……ホントはね、どうしても身バレしちゃうから結婚式も披露宴もしないつもりだったんだ」

 

 

 それは、結婚の話になった時ミコトから言われたこと。

 

 男性同士の結婚式となればどうしたって注目される。

 お互い配信ではボイスチェンジャーなども使っていないし、体格も年齢もある程度は公開情報だ。

 守秘義務があるとはいえ、アルバイトスタッフなどから俺達の情報が漏れることだって十分考えられる。

 だから、お互いに指輪を贈るだけにしないかと。

 

 

「でも活動を続けられたのも辛いことを乗り越えられたのも、皆さんのおかげですから……皆さんに祝ってほしいと思って、このVR空間上での結婚式を提案しました」

「ふふふ、こんなにたくさんの人に祝ってもらえる結婚式とか、最高の記念だよね」

 

 

 見れば同時接続者数は数十万人に達していた。

 俺のチャンネルで……いや、ミコトのチャンネルでも全く見たことが無いあまりにも大きな数字。

 この規模はそれこそ、大手企業の大型企画に匹敵する。

 

 ここまでの視聴者数になったのは、ミコトがこれまで配信で交流してきた様々な人がゲストとして参加したこと。

 それにスケジュールが合わない人たちも、自分の配信や動画で式についてを祝福して拡散してくれたことなどがある。

 

 ……だけどおそらくは、同性の結婚という話題性が一番大きいのだろう。

 

 

「同性同士ってやっぱりまだまだ障害は多いんだよね。 籍も入れられないし、カクシ君に子供も抱かせてあげられない。 籍を入れられないと、相手に何かあった時出来ないことが沢山あって……ボクがカクシ君を学生の頃からずっと好きだったのに、告白できなかったのはそれが理由」

 

 

 話題性があるというのは、普通ではないということでもある。

 普通ではないことには沢山の不便や、障害が付きまとっている。

 

 

「ボクは幸い兄も妹も結婚して子供がいるけど……もしボク一人だったなら、両親にカクシ君との結婚を打ち明けるとき、罪悪感もあったかもしれないね。 もちろん、それでも結婚を選んでただろうけど」

 

 

 ミコトは困ったように笑う。 俺はそれを見て、思わず口を挟んだ。

 

 

「……珍しいですね、ミコトが諦めるなんて。 いつも満足せずに次々提案してたのに」

 

 

 一緒に配信するときもそうだった。 一度配信したなら、次はそれを当たり前にしていくとミコトは笑った。

 修学旅行で一緒に温泉に入った時も、次は家のお風呂で試して、難しかったらまた別の旅行でと色々と考えるのがミコトだった。

 

 

「ミコトなら、結婚はスタートライン。 次はそれを当たり前にして、どんどん次の幸せを増やしていくと思ってました。 籍を入れるのだって子供だって、諦めないものかと」

「そりゃボクだってキミとの子供は欲しいけど……いくらボクが可愛くても妊娠は無理だからね?」

 

 

 少し呆れたように俺に言うミコト。 まぁ、生物学上はそうなんだけど……。

 

 

>コメント:カクシさんくらい体が大きければ妊娠できるかもしれない

>コメント:ターミネーター役の人だって昔映画で妊娠してたよ!

>コメント:可能性はある!!

 

 

「カクシ君……」

 

 

 流れていく無責任なコメントを見て、ミコトが熱っぽい視線でこちらを見る。

 実際にはゴーグル越しだから表情が見えているわけではないが……声色だけででもどんな顔をしているかぐらいわかる。

 だからこそ今のミコトは恐ろしい。

 

 

「……カクシ君、産めるの……?」

「まてまて……落ち着け。 俺が、いや私が言ってるのはそういうことじゃなくて……」

 

 

 俺の腹へと伸ばし始めたミコトの手を取り、宥めていく。

 これ全部アーカイブに残るんだからな……?

 

 

「……最初から諦める必要は無いんじゃないかってことです。 ……そういう研究をしてる医療機関に投資や寄付をするとか」

 

 

 今も医療はドンドン進歩している。 iPS細胞による、雄のマウス同士での繁殖実験に成功したというニュースだってあった。

 人間に応用するにはまだ課題も多いだろうが、可能性はゼロと言うわけじゃない。

 

 

「私達の代で成果が出なくても、次に私達みたいな夫婦が恩恵を受けられるし……子供が出来るようになれば、結婚だって法的に認められるんじゃないでしょうか」

 

 

 俺とミコトは籍を入れていない。

 ミコトの両親の籍に養子縁組する形だって出来たし、そう提案もされた。

 だけどもしきちんとした結婚が認められた時、すでに兄弟となってしまった戸籍で結婚が出来るのか不安で、その提案は断ることにした。

 

 同性同士での結婚が認められていないのは、子を持てないから。

 ならそれが解消されれば、きっと公式に認められる日が来るだろう。

 

 俺の言葉を聞いたミコトは、嬉しそうに笑った。

 

 

「……ふふふ。 ボクみたいに諦めの悪い人になっちゃって」

「相手に似ていくのが夫婦ですから」

 

 

 俺がミコトからいい影響を受けたように、ミコトもきっと俺から影響を受けている。

 別に夫婦に限った話じゃなく、人と人との関わりと言うのはそういうものだと思う。

 

 

「うん、ボクが好きになったのが……一生共に歩いていく人がキミで本当に良かった」

 

 

 少し俯いていたミコトが、こちらを見て太陽のように笑う。

 

 

「愛してるよカクシ君。 過去もこれからの困難も吹き飛ばせるくらい、絶対キミを幸せにするからね!」

「私も……いや、俺も愛してる。 ミコトがしてくれる以上に、俺もミコトを幸せにして見せるよ」

 

 

 お互いに顔を見合わせて「似た者同士」と笑いあう。

 そして、今度はこちらからミコトへと口づけを交わした。

 

 

 きっと、これからも色々な困難はあるんだろう。

 子供についても、籍を入れることも、諦めるつもりはないけど実際に解決するかどうかはわからない。

 

 それでも、俺と家族になってくれたミコトが居れば、必ず幸せになれると信じている。

 それに…………。

 

 

>コメント:お幸せに!!

>コメント:二十五年後も式に呼んでね!

>コメント:ずっと楽しい姿を見てられるって信じてるよ!

 

 

 コメントには沢山の温かい言葉たち。

 そして声は出せなくても拍手をしたり手を振ったり、思い思いの方法で祝福を伝えてくれるリスナー達を見て、ミコトも俺も笑顔がこぼれた。

 俺達には応援してくれる、結婚を祝ってくれる沢山の人達も付いている。

 

 

 ならこれから先に、何の不安も無いだろう。

 

 ……こうして、俺たちの幸せな結婚式は幕を閉じるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

 

 

 

【蛇足】

 

 

 

 二〇二八年、某月。

 リスナーである私は、膨大な配信アーカイブを眺めながらタイピングを続けていく。

 

 

「うーん……カクシさんもミコトくんも、こんなこと聞いちゃっていいの? ってことまで配信で教えてくれるけど、流石に本名は漏らさないんだよね……これじゃ、リアルの会話でもVとしての名前で呼び合う人になっちゃう」

 

 

 私が書いているのは大手Vtuberのwikiよりも情報が多く、二人がどんな出会いと経験を経て結ばれたのかがわかる物語。

 

 家族のこと、ネグレクトされてたこと。 親が飲酒運転の事故で亡くなったことから、デートでの様子に大学時代の話。 紙カクシさんも睦実ミコト君も、本当に色々なことを配信で話してくれた。

 だけど仕事は何をしてたかとか、住所とか、出身地や名前までは流石にわからなかった。

 

 

 ――いかがでしたか? 彼らの前世については情報が無いようです。 ……なんてね。

 

 

「……けどま。 きっとそれがリスナーと配信者の線引きだよね。 例えリスナーがわかったとしても、黙っておくのが当然だよ」

 

 

 配信で語られてない中にもきっと沢山のエピソードがあったに違いない。

 だけどそれは、彼等二人だけの大事な思い出にしたかったことなのだろう。

 

 以前はTAC配信の切り抜きでご迷惑をかけてしまったけど、今回こそはちゃんと二人の活動に貢献できると良いな。

 相手のバックボーンがわかった方が、みんなも推しやすいもんね。

 

 

「よし! これで二人が結婚するまでのまとめ、完成ー! タイトルは何が良いかなぁ、『男性Vtuberの結婚』とか?」

 

 

 うん、それもきっといいだろう。 どっちも男性だし、あのプロポーズも結婚式もネットニュースにだってなったから。

 だけど……彼らを推していたこの十年の中で一番嬉しかったのは、やっぱりカクシさんが私達の応援を受取ってくれたあの瞬間。

 

 

「……決まり! タイトルは……」

 

 

『30代男性Vtuberが自分を愛せるようになるまでの話』

 

 

 

 




 ここまで読んでくれてありがとうございます!

 これにて本当に完結です!
 感想や高評価など非常に嬉しかったです!


 辛いことが沢山あったカクシなので、番外編はそれを取り返せるように楽しいことをたくさんさせてあげたい。
 結果、結婚式を挙げて物語を終えました。

 ここから先は描写こそありませんが、カクシとミコトはずっと幸せに仲睦まじくに暮らしていくのは確かです。
 性別とか過去とか色々と大変なことはあっても、そこで諦めずに幸せを目指せる二人なのでどんな困難も超えていくでしょう。 


 それでは、ここまでご愛読! 本当にありがとうございました!!
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