30代男性Vtuberが、自分を愛せるようになるまでの話 作:物怪相談
新作を裏で執筆しつつ、ボツになっていたデータを手直しして投稿です。
おまけ1_【ミコト視点】カクシ君のグッズを勝手に企画しよう
「やっほー。 女装人妻Vtuberの睦実ミコトだよー」
新婚三カ月、幸せな毎日を送りながらボクはこうして配信を続けている。
あの結婚は多くの祝福が届き、ネットニュースにもなったしチャンネル登録者も大幅に伸びた。 ただやはり既婚と未婚には大きな違いがあるらしく、メンバーシップは三割ほど解除する人が出たし、コメント欄に来なくなった人もいる。
だけどその分、女装人妻という要素にやってきたのか、トータルでは若干のプラスとなっていた。
なお、この人妻という呼称はファン投票によるものである。
カクシ君は「どっちも男だし既婚で良いのでは?」というスタンスだったが、リスナーはもっとキャッチーなネーミングにしたいと言い張り、一時間近い議論の果てに人妻となった。
結婚したことでリスナー層が妙に濃くなった気がする。
>コメント:やっほー!
>コメント:今日も可愛いね
>コメント:今日は部屋着なのね
続々と集まってきたコメントを見て、ボクは画面上に一枚の大きなスライドを映した。
そこに書いてあったのは『勝手にカクシ君のグッズを企画しよう』である。
「はい! 画面とタイトルにもある通り、今日はカクシ君のグッズ企画会議です! 良さそうなのはボクのポケットマネーでグッズ化します!」
>コメント:旦那のグッズ勝手に出すのか()
>コメント:だってカクシさんグッズ出さないし……
>コメント:売られてるグッズ、平野ママが勝手に出してる同人誌だけだからな
>コメント:あれには大変お世話になりました
コメントにもある通りカクシ君は全くグッズを出さない。 昔ならともかく、今のカクシ君はファンからの愛を疑っていないのに、グッズ出そうよと言っても何故か言葉を濁すのである。
そのためか、今日の配信にはカクシ君単推しのリスナーがちらほら紛れ込んでいる。
「とりあえず鉄板としてはアクスタだよね」
ボクは表示している画面にアクスタと記載する。
>コメント:アクスタは欲しい
>コメント:立体の絵だからフィギュアとはまた違う魅力
>コメント:個人的にはSDと二次色先生の立ち絵版の二種で
>コメント:結婚式場背景込みDX夫婦セット販売
「ふむふむ、SDと二次色パパ版……。 確かにボクのアクスタと並べられるのはいいかもね。 けど、DX夫婦セット……あの、なんか引き出物に配ってるみたいでちょっと恥ずかしいというか……」
>コメント:定期的に惚気配信しておいて??
>コメント:それを恥ずかしがる人は結婚式で唇を奪う所を配信せんのよ
>コメント:あれは激しくてドキドキした
「あんま思い出さないでよ! ボクだって後でとんでもないことしたって思ったんだから!」
コメントの発言に思わず赤面する。
流石に普段のボクならあんなことはしない。 あれは結婚式でテンションが上がってたことと、カクシ君が指で間接キスなんてことをしてきたからだよ……。 最愛の夫にあんなことされて我慢できるだろうか。 いいや無理だね。
>平野律:うっ脳が……
>コメント:ママはそろそろ立ち直ってもろて
>潮騒セレナch:女装人妻公開キスってエッチだよね……
>コメント:ショックのあまりBSSやNTR好きになったらしい
>コメント:セレナはそこで踏みとどまらないとマジで婚期逃すぞ
>コメント:これが今季アニメopを歌ってる歌姫かぁ……
「しかも目を離したらコメントが酷いことになってるし……グッズの話に戻ろうね」
>平野律:ごめんなさい。 グッズは『女生徒に告白されるけど「大人になってからね」とあしらう国語教師シチュエーションボイス』でお願いします
>潮彩セレナch:ごめんなさい。 デュエット歌見たCD恋愛マシマシ
>コメント:ほんまゴメン、1/6スケールフィギュア
シチュボ、歌見た、フィギュア、とコメントにあったものを書き込んで画面に表示する。
ただ……。
「シチュボと歌ってみたはカクシ君次第かな、カクシ君の協力なしで作れないし。 フィギュアは欲しいけど……最初のグッズにフィギュアって敷居高くない?」
フィギュアは大体二万円くらいだろうか。 売れ行きが読めないから初めてのグッズとしてそこまで単価の高いものを出すのは難しい。 在庫が多くなると出している側としては心が苦しくなるし。
>コメント:食玩フィギュアくらいの値段なら買いやすい
>コメント:個人Vでもガチャのフィギュア出た人いるよね
「食玩フィギュアはマーブルincだね。 箱全体でファンがとにかく多いから出来るけど、流石にボクとカクシ君の規模じゃ無理かな。 ガチャもそうだね、あれは個人Vとはいえグループだから出せたんだと思う」
そう考えるとやはり箱やグループという枠組みは強いのだろう。 50万人のファンがいるVtuberが四人でユニットを組んだ場合、単純計算で200万人になる。 ……もちろん、兼任しているファンもいるだろうからそう単純な数にはならないけど、それでもボク個人のファン数よりは多いだろう。
そうしてコメントに返事をしながら、投稿されていく様々な案を記入して画面上に表示する。
その中で一つ、目に留まったものがあった。
>コメント:自由に動けると言えば、ぬいぐるみ欲しい。 手のひらサイズでカバンに付けれる奴
「ぬいぐるみ! いいね!」
>コメント:ミコちゃん毎年出してるよね
>コメント:三つ持ってる
>コメント:フルコンプ済み
「そうだよー、定期的に出してるボクも好きなグッズ! みんな買ってくれてありがと!」
個人勢のVtuber、Youtuber問わず、グッズ販売にぬいぐるみを出す人は珍しくない。 それどころか、イラストレーターであっても代表的な看板キャラクターがいる場合、縫いぐるみを販売することもある。
これはぬいぐるみメーカーの方から商談が来るためだ。
ボク自身がぬいぐるみを好きだったこともあり、2020年から毎年一つ、衣装違いの小さなぬいぐるみを出して販売している。 CDやアクリルスタンドと並ぶボクの主力ファングッズだ。
「最近だとぬい活ブームも来てるしね。 ボクのVlogと同じ場所にボクのぬいを連れて行ってくれた人とかもいるみたいだよ」
>コメント:みたみた、行動力あるよね
>コメント:聖地巡礼みたいなもの
>コメント:京都は近所だから俺も行って写真撮ってきた
コメントのリスナー達もやはりぬいぐるみ所持者は多いみたいだ。
だけど、ボクのぬいぐるみは沢山あるけど、グッズ販売などを全くしてこなかったカクシにはぬいぐるみが未だに一つもなかった。
埃が被らないようにアクリルケースに飾られているボクのぬいぐるみたち。 そちらをチラリと見ると、カクシ君がいないからなんとなく少し寂しそうに見える。
「カクシ君のぬいぐるみ、欲しいなぁ……」
>コメント:いいじゃんぬいぐるみ
>コメント:カバンに付けられるように紐付きで
>コメント:ヴェール捲った時にちゃんと目が見えるようにして欲しい
「いいねいいね。 デザインは二次色パパにお願いしてデフォルメした感じにして、サイズ感はボクと並べるようにいつも作ってくれてるメーカーさんに依頼して……」
コメントの人たちもテンションが上がったのか、髪型はどれがいいかなどの熾烈なアピールが開始され、腕枕型ぬいぐるみや1/2ビッグサイズなど、実現しても買う人が少なそうなものまで出始めた。
ネタコメントを抜きにしても非常に流れが速い。
やはり実際にVlogで聖地巡礼したりする人を見て、ぬいぐるみを自分も欲しいという需要が高まっていたのだろうか。
そんな時、コンコンと控えめなノックが響いた。
「あれ? カクシ君が来たみたい……。 ちょっと出るね」
扉を開けてカクシ君……結婚したばかりの夫を部屋に招き入れると、ボクはパソコンの前に戻って座り、カクシ君にはコラボ配信の時に使う椅子を差し出した。
「初めてじゃない? 配信中に来るなんて」
「うん……リスナーの皆様も、お邪魔して申し訳ありません。 すぐに済ませますので」
コメントの方では『お気になさらず』などの言葉が並んでいた。
だがカクシ君は何か緊張しているのか、少し視線が泳いでいる。
一体何なのだろう。 カクシ君が何か問題を起こすようなことはイメージが出来ないし……。
そう考えているとカクシ君は意を決したように、背中に隠していた大きめのラッピング袋をボクへと差し出した。
「……これ、プレゼント」
「…………ボクに? 記念日とかだっけ……?」
結婚したのは三カ月前、周年も三カ月前だし、誕生日もまだ先……全然思い当たることが思いつかない。
受け取ると大きめではあるものの、とても軽い。 中身は本ではないらしい。
「開けても良い?」
「もちろん」
ドキドキしながらリボンを解いて、大きなラッピング袋の口を開く。 すると中から出てきたのは、30cm位の大きさをした、カクシ君の姿をしたぬいぐるみだった。 そのぬいぐるみにもお腹の当たりにラッピングリボンが巻かれていてとてもかわいい。
「こ、こ、これ……! どうしたの!?」
「作りました」
「作ったって……。 あ! リスナー君たちに伝えると、カクシ君がボクにプレゼントをくれたんだけど、それがカクシ君のぬいぐるみで……しかもかなりクオリティが高いんだよ!」
>コメント:どういうこと!?
>コメント:ホント多芸な人やでぇ……
たった今話していたばかりのぬいぐるみが今手元にある。
ヴェールの下を見てみれば、器用にフェルトで作られた目が貼りつけられていた。
「最初に作るグッズは、ミコトに渡したかったものですから」
「……もしかして、それでボクが言ってもグッズを作らなかったの?」
ボクが尋ねると恥ずかしそうにコクリと頷いた。
それを見てボクは机の上に縫いぐるみを置くと、感情の赴くままに彼の膝の上に乗って強く抱きしめた。 彼は少し慌てていたが、優しく抱きしめ返してくれた。
「配信告知が私のグッズの話だったので、今朝から作業の続きをしていて、完成したのが今です。 開始前に間に合わせたかったんですが……」
「もう……事前に説明してくれても良かったのに」
「……自分の縫いぐるみを贈るつもりなんて、中々言えませんよ」
確かにそれはそうかもしれないけど……。
でも本当にいじらしくて可愛い人だ。 毎回こんなにボクを喜ばせてどうしようというのだろう。
ボクは一度抱擁を解いて彼と視線を合わせる。
膝の上に乗ったことで目線が同じ高さになったから、普段と違って見上げる必要は無い。 ボクは勢いよく燃え上がった心とは逆にゆっくりと、彼の元へと唇を近づけて行き……。
…………あと少しのところで彼の手に唇が阻まれた。
「なんでぇ……?」
思わず拗ねた声を出すと、彼は真っ赤な顔でパソコンを指さした。
「……配信中」
「……………………うわぁあ!!??」
慌てて彼の膝から降りて配信机に戻る。
コメントはさっきまでの比じゃないくらいの速度で流れていた。
>コメント:ギシギシいうバネの音、なんでぇ? と言う声、ベッドに押し倒して叱られたと見た。
>コメント:うーんこれは色ボケ
>潮騒セレナch:心臓と胃が凄く重いのに気持ちいい……教授、これは一体!?
>コメント:君才能あるよ
>コメント:平野ママのコメントが途絶えた、逝ったか……
>コメント:同じガチ恋勢でもこうも反応が違うんだなぁ……
>コメント:ぬいぐるみの写真ください
「うん!そう!ぬいぐるみね!写真アップするから待ってね!!」
>コメント:クソ早口じゃん
>コメント:焦りすぎでしょ
「それでは、私はこの辺りでお暇しますね。 皆様、配信中にお邪魔しました」
カクシ君は赤くなった顔を隠しながら、声だけは務めて冷静に振舞って退出しようとする。
ボクはカクシ君の袖を握って少しだけ制止させた。
疑問符を浮かべるカクシ君。
ボクはさっき解いたラッピング袋のリボンを、左手の手首に撒いてリボン結びをすると彼に見せた。
そして声に出さずに口の動きだけで意思を伝える。
ま・た・あ・と・で。
正しく意味は伝わったらしい。 彼はさっきよりも顔を赤くすると、コクリと頷いて退出していった。
ボクはエアコンが効いている室内と思えないほどに火照った体を、机の側に置いていた扇子で仰いで冷ます。
そして先程の醜態を誤魔化すように画面上に表示したカクシ君の縫いぐるみは、リスナー達からも凄いと好評だった。
持ち運びがしづらいからもっと小さいものを販売するつもりだが、この反応なら購入してくれる人も多そうだ。
ボクは机の上にあるカクシ君ぬいぐるみを見て笑みをこぼす。 後でこの子はボクのぬいぐるみが飾られたアクリルディスプレイに飾るとしよう。 まあボク六人に対してカクシ君一人だけど……ちょっとしたハーレム状態ということで。
このぬいぐるみを貰った正式なお返しはまたゆっくり考えるけど、今日のところは、お返しのプレゼントはボク自身、なんてね。
そんな茹だった感情を隠しながら、当初の予定時刻までリスナー君たちと一緒にグッズの企画を煮詰めていくのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今後も息抜きに、たまーに、おまけを投稿したりすることもあると思います。
新作も完結まで書いてから投稿なので、新作投稿はまだまだかかる予定です。
チャンネル登録・高評価!
ではなく……感想、評価などしてくれると嬉しいです。