いつの間にか決闘中心社会   作:不死鳥の導き手

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前回のあらすじ
・パックから『アタリ』が出てきた。
・ふしんしゃの おっさんが デュエルを しかけてきた !
・いつの間にか、世の中にデュエルが浸透してた!
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見てくれた方もありがとうございます!見て貰えるだけで嬉しい限りです!
では2話もぶっぱします、どうぞ。


第2話『沈黙は銀』

 重い瞼をこじ開けて、俺、『三伏 修』は意識を無理矢理覚醒させる。時間は朝の7時、いつも通りの起床時間だ。ふと机を見るとデュエルディスクが置きっぱなしだった。どうやら『夢だった』なんて甘い話ではなかったようだ。

 布団から飛び出て目を擦りながら慣れた手付きで制服に着替えようとするが、何かを思い出し壁に貼ってあるカレンダーを見る。今日は確か……

 

「あ、今日休みじゃねぇかよ」

 

 ……祝日だ。確か開校記念日とかその辺だった気がするがどうでもいい。重要なのは今日が休みだということだ。

 昨日、町にちょっとした変化が起きた。夢ではなかったということは、その変化を俺は『真実』として受け入れなければならない。

 

「……はぁ、なんで俺はこの状況に適応しようとしてんだ」

 

 溜め息と共に吐き出した言葉は静まり返った部屋に響き、そのまま消えた。俺は制服を元に戻し、タンスを開けて私服を取り出した。

 

***

 

 俺はある建物の目の前にいる。この建物……じゃなくて、この学校が俺の通っている『六木中学校』だ。市立だから正式名称は確か『六木市立六木中学校』だっけか。どこか変化した場所はないかと思い、俺は学校全体を見渡してみる。

 全く変わっていなかった。体育館の位置も、校舎の位置も何もかも変わっていない。そして校門に書かれた校名も……

 

「は?」

 

 ……校名は『決闘学園六木中学校』と書かれていた。明日からはデュエル専攻しろとでもいうのか、明日は頭痛で休みたくなってきた。

 学校の確認も終わったので、気分転換がてらによく行くカードショップへ行くことにした。あのおっさんの言葉が本当なら余計に疲労が溜まると思うが、おっさんの頭が壊れていただけだろうし問題はないだろう。俺は学校に背を向けると、町の大通りへ向かって歩いた。

 

***

 

 今大通りを歩いているのだが、ここも大分変化していた。今までは大通りを避けるようにひっそりと建っていたカードショップが、俺の真横に堂々と建っている。ここは目的の店ではないが、この町で一番でかいカードショップなのだろう。《天札堂(てんさつどう)》と看板に書いてある。

 あと変わった店も色々あるみたいだ。デュエルディスクを購入したりレンタルすることが出来る『デュエルディスク専門店』、アイディアとお金さえあればデッキ構築のプロにデッキを組んでもらえる『デッキビルドショップ』、極めつけは大会を行う為の施設である『超大型デュエルドーム』だ。何してんだ政治家の奴ら、もっと優先すべき建物あんだろ。

 え?何で俺が詳しく知ってるのかって?それは……

 

「来月開催されますデュエル・モンスターズの大会に備えて、町内にある施設を詳しくご案内しておりまーす!」

 

「ぜひご利用下さいませー!」

 

 ……カードショップ前の道でこんなことを言いながらパンフレットを配っている人たちがいるからだ。俺はそれ貰って読んでいただけだ。しかし町内大会1つにここまでやるのか。

 

「気合い入ってんなぁ……」

 

 俺はパンフレットを鞄にしまうと、目的のカードショップへ向かって再び歩き出した。

 

***

 

 大通りを避けるように立てられているこの建物が俺のよく行くカードショップ『Savage』だ。ここは遊戯王カードを中心に色々なカードゲームを扱っている店だ、看板にも『デュエル・モンスターズ専門店』って書いてあるし……へ?

 

「おいおい店長、いつか俺に言ってた言葉はどうしたよ!?」

 

 思わず虚空に突っ込みをいれてしまった。それは遡ること1ヶ月ほど前、いつもの如くストレイジを漁っていた俺に店長が言った。『遊戯王もいいけど、他のカードゲームもいいぞ?せっかく色々あるんだからさー』と。

 

 とりあえずデュエル・モンスターズ専門店になってしまったこの店の扉を開ける。内装はほとんど変わっていないが、他のカードコーナーだったところが丸ごとデュエル・モンスターズのコーナーになっていた。色々見ていると、ガラスケースに飾られている《転生竜-サンサーラ》を見つけた。お値段は何と驚き1万円。

 

「何が十数万だよ、あのおっさんホラ吹きやがって……高くなってるのは確かだけどよ」

 

 ガラスケースに入っているシンクロ・エクシーズモンスターは基本的には高くても数千~数万円程度だった。レアリティがアルティメットやホログラフィックだったり、汎用性が高くてどんなデッキにも入れられそうなカードは、おっさんが言ってた通り10万単位の値がついている。だがそれも数えるほどしかなかった上にどちらかというと効果モンスターの方が高かった。開闢野郎が100万越え、混沌帝龍に至っては時期が最悪だったのか170万と鬼畜プライスとなっていた。これはもう混沌帝龍は諦めるしかないな。

 

「げっ!《魔王龍ベエルゼ》のシクが9かよ……あのおっさんの方が金持ちじゃねぇか」

 

 今のところ、シンクロ・エクシーズでの最高額はアークナイトのアルティメットレア、値段は101万円。ナンバーとかけてるつもりかよ、馬鹿じゃねぇの。

 

***

 

 俺はこの後、全てのガラスケースを舐めるように見て回ったが、ある1つの疑問が生まれた。

 

「おかしい、スターダストドラゴン……だけじゃねぇ。シグナー竜が1枚もないじゃねぇか」

 

 疑問とは、アニメでシグナーが使っていた所謂『シグナー竜』が1枚もないことだ。ナンバーズと決闘竜は同じカードが複数枚存在しているようだが、三幻神、三幻魔、三邪神、シグナー竜は1枚も見当たらないのだ。まさかとは思うが……

 

「よーう三伏君、探し物か?」

 

「お、店長じゃねぇか。おっす」

 

 ……話しかけてきたのは黒色の短髪の二十代前半くらいの男だ。この男がこの店の店長『日山 勝真(ひやま かつまさ)』だ。軽いお調子者だが、ちゃんとガキを叱れるしっかりした大人だ。

 

「ところで店長よぉ、スターダスト・ドラゴンとか置いてねぇのか?」

 

「はは、冗談きついよ三伏君。世界に1枚しかないカードを、こんな店に売りにくるわけないじゃん」

 

 店長はいつも通り人の良さそうな笑みを浮かべながら「あればもうちょっと儲かるんだけどねー」とか言ってた。あ、そういう類のカードなのか。

 

「いや、そういう訳じゃねぇんだ。どうしてナンバーズみてぇに一般流通しねぇのかなって思ってよ」

 

 店長は無言で俺の真横を指差す。そこには『デュエル・モンスターズ 書籍コーナー』と書かれていた。

 

「そこで『シグナー・プロジェクトに迫る!』って本を探してみなよ。あ、ビニールついてるからちゃんと買ってくれよ、値段は410円くらいだからさ」

 

 「付録もついてたと思うから買ってねー」と付け足すと、店長はレジの方へ走っていった。店長も変わってないようで安心したよ、んで『シグナー・プロジェクトに迫る!』だっけか……

 

***

 

 店長が言ってた本を見つけ、レジを通してからその辺の椅子に腰掛けて読んでみた。内容は割愛するが『シグナー・プロジェクト』という『過去のデュエリストのデータを解析し、シグナー竜を量産する』プロジェクトがあったが、量産したカードが何度印刷してもその場で消えてしまうので何かしらの力が働いてるものと見て企画を一度凍結した。

 

「へぇ……まあ、カードが目の前で消えればそりゃ怖くもなるわな」

 

 しばらくして『シグナー竜を元に新たなカードを創造する』という企画を立ち上げたところ、印刷したカードは消えなかったという。この企画に『シグナー・プロジェクト』の名を受け継がせ、シグナー竜を元にした新しいカード『決闘竜』たちを『シグナー・プロジェクト』の成果として世に放った……といった感じだ。

 

「おう三伏君、難しい顔してるねー」

 

「んだよ店長、さぼってんじゃねぇよ」

 

 俺の横で本を覗き見るように立っていた店長は「手厳しいなぁ」とけらけら笑っていた。だがその笑いをぴたりと止めるとただならぬ雰囲気を漂わせて俺に向き合った。店長がこういう顔するのは面倒な時だ。

 

「三伏君、水野ちゃんが来てるぞ。相手してやれ」

 

「……おいおい、俺は客だぞ?店長んとこの店員じゃねぇんだからさ」

 

「いいじゃん常連なんだし、それに仲いいだろ?」

 

 気になるなら自分で応対しろよ、自分の店の客だろが。ちなみに『水野』ってのは俺の友達だ、だいたい1年くらいの付き合いになる。

 

「それに水野ちゃん、クールだしかわいいんだけど……俺相手じゃあんまり口利いてくれないんだよー」

 

 情けなく「俺嫌われちゃったかな~?」と苦笑いする店長。

 

「あいつが口数少ねぇのはいつものことだ……ったく」

 

 座っていた椅子から立ち上がると、デュエルスペースへ向かうことにした。とはいえ、目の前にあるんだけどな。

 デュエルスペースは俺が知ってるところとは大分変化していた。全体的に広くなっており、テーブルが何かゴテゴテしてて、謎の装置がついている。どういう使い方するんだろうか……と軽くワクワクしてたら、目的の人物を見つけた。

 銀色の長髪、白い肌、低い身長、青い目をした澄まし面、間違いないな。

 

「よう水野、ここ座るぞ」

 

 そう言い水野と呼んだ女の正面に座る。彼女は俺の顔を見ると口を開いた。

 

「三伏、来てたのか」

 

 こいつは水野 鏡子(みずの きょうこ)、俺と遊戯王をやっている1人だ。口数が少なくクールで頭がすこぶる良い優等生ってやつ。身体能力は体育を特別な理由で休んでいるので並以下、背も低い。今は何だかんだで仲がいいのだが、知り合った当初は凄く冷ややかだった。デュエルは結構強く、初心者時代にカモったのを含めると現在の勝率は大体五分だ。

 

「店長がてめぇの相手しろってうるせぇから、めんどくせぇけど来てやったんだよ」

 

「そうか、暇なんだね」

 

「うっせぇな」

 

 これを切欠に2人でたわいのない話が展開された。水野のウルトラレアの大嵐が使えなくなったこと、俺が轟雷帝ザボルグと現世と冥界の逆転を使ったよからぬデッキを思いついたりしたこと、水野は王家の神殿の悪用法を考えていたり等々……。

 そして色々話した後、「デュエルをしよう」と水野が提案してきた。

 

「おう、いいぜ。いつものは間に合わなくて新制限適用できてねぇから、大嵐入ってねぇデッキを使うぞ……ちょいと調整不足だけどな」

 

 デッキケースから昨日使わなかったデッキを取り出した時だった。水野の横に高校生くらいの男がやってきた。その男の髪は緑色で顔立ちは整っており、雰囲気は爽やかそうだ。随分と個性的なヘアカラーをしているが、染めているのだろうか?髪が痛まないか非常に心配だ。

 

「そこのお嬢さん、そんな奴なんかより僕と一緒にお話しない?」

 

 その男は水野にそう声をかける。ああ、ナンパって奴か。水野はなんだかんだで結構可愛いからな、チビだけど。

 ……って『そんな奴』だと?おいおい気持ちいいご挨拶じゃねぇか、キャベツとかレタスみてぇな頭しやがってよ。

 

「んだよレタス頭、水野に用事か?」

 

「君と話すことはない」

 

 挨拶を返してみたが、軽くあしらわれてしまった。ああ、話すことがないのか。じゃあしょうがないな、拳で語り合いたくなってきたぞ。

 

「お嬢さん、そんな奴なんかより僕とお話しない?」

 

「三伏、デュエルをしよう」

 

 俺を見て淡々と告げる水野。そうだな、横にいるのは自生したレタスだ。ボディランゲージなんかよりも、気にせずデュエルをするか。

 

「おうよ、今日も俺が勝つからな」

 

「……お嬢さん?」

 

 男の目が少し潤んでいる、ったく情けねぇレタスだな。まあ俺はテメェと話すことはねぇから、何も言ってやれねぇけど。

 そんなことを考えていると、水野がデッキを机にある謎の装置にセットした。するとデッキが勝手にシャッフルされる、ああそういう装置だったのか。男……もうレタスでいいか……は下を向いて何かを考え込んでいた。そして何かを思いついたのか今度は俺の方を凝視し始める。

 

「……おい、そこのモブ男子」

 

「あぁ!?誰がモブだコラ!」

 

 レタスが喧嘩を売ってきた。買ってやろうか?高校生だからって中学生ナメてんじゃねぇぞ。つか話すこと無いんじゃなかったのかよ。

 

「……んで、なんだよレタス野郎」

 

「レッ……!き、君は彼女とはどういう関係だ?」

 

「あぁ?」

 

 いきなり何を言ってるんだこの淡色野菜は。カードショップに一緒に来てるんだから友人に決まってんだろ。だから「友達だ」と答えた。

 

「そうか、なら少し頼みがある」

 

 ああ、何となくだが流れは読めたぞ。多分『俺とレタスがデュエルをして勝った方が水野と話す』とかそういうデュエルをする流れだろう。いいだろう、このデッキの錆びに……

 

「頼む!名も知らぬモブ男子、僕と代わってくれ!」

 

「へ?」

 

 ……しようと思ったが、レタスは俺に頭を下げてきた。ああ、そういう発想はなかったわ。

 

「僕は彼女とデュエルがしたい!だから代わってくれ!」

 

 レタスは頭を下げたままだ。図々しいことこの上ないが、俺は譲ってやってもいいと考えている。何故なら、俺を取り巻く環境がこうも変わっているのだ、身内のデッキにも何らかの変化があるかもしれない。姑息な考えだが、俺は今回、『様子見』をさせてもらうことにする。

 

「あー……俺は別にいいけどよ、水野はどうすんだ?」

 

「……わかった」

 

 凄く不機嫌そうな顔で睨まれたが、水野は何とか了承してくれた。こいつのデッキを改めて観察するいい機会でもあるので俺は隣のテーブルに腰掛けた。

 

「あ、ありがとうお嬢さん!」

 

 俺のことはガン無視かよ、某フカヒレ野郎みたいにイラっと来るぜ。

 

「モブ男子よ感謝するぞ。さあお嬢さん、僕とデュエルだ!そして僕が勝ったら僕と付き合うんだ!」

 

「えっ」

 

 レタスが自然に放ってきた爆弾発言に、水野は目を大きくして固まってしまった。彼女すらもデュエルで決めるのか、実力主義社会って怖いな。で、俺の視界には水野の困惑した表情が映り込んでいる。こいつが目に見えて動揺するのを見るのは久しぶりだ。悪いが口出しが出来ない以上、助けることはできない。某七皇みたく言うなら『非力な私を許してくれ』ってところだ。

 

「……負けなければいいなら、問題ない」

 

 俺の心中を察したのか、露骨に嫌そうな顔で水野が頷く。レタスがデッキをセットし、シャッフルが済んだ瞬間、2人の口が同時に開かれた。

 

「デュエル」「デュエル!」

 

水野 鏡子vsレタス

 

「先攻は私か」

 

「ならモンスターをセットしてターン終了だ」

 

 水野がテーブルにカードを裏向きに置くと、手乗りサイズのカードが実体化した。昨今の作品だとデュエルディスクやバイクのせいで忘れられているが、ソリッドビジョン搭載テーブルとは懐かしいな。王国編以来じゃないのか、と思ったが神経衰弱デュエルがあった。

 

水野

LP:8000

手札4枚

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「じゃあ僕は《憑依装着-ウィン》を召喚!」

 

憑依装着-ウィン

★4:ATK/1850

 

 レタス野郎が置いたカードから出てきたのは緑色の髪の毛をポニーテールにした女の子だ。このレタスのデッキは【魔法使い族】か?それとも緑色のモンスターだけでデッキを組んだとかか?

 

「更にフィールド魔法《魔法族の里》を発動!」

 

「これにより僕だけが魔法使い族をコントロールしている限り、お嬢さんは魔法を使えなくなる!」

 

 テーブルは人の手の及ばぬ深い森に変化した。そこには集落が存在しており、ローブを着た魔法使いであろう人間が何人か見える。これは結構面倒なデッキだな。

 

「バトルだ、ウィンちゃんでセットモンスターに攻撃!」

 

 ウィンが杖を構えると緑色の竜が現れ、空気の塊を裏向きのカードに吐き出した。するとカードが表になりモンスターが実体化した。手にした杖と独特の服装から魔術師と推測できる。

 

「《見習い魔術師》だ」

 

見習い魔術師

★2:DEF/800

 

憑依装着-ウィン:ATK/1850

見習い魔術師:DEF/800

 

 飛んできた空気の塊を受けた見習い魔術師は、ガラスが割れたかのようにバラバラになり消えた。

 

「戦闘破壊された見習い魔術師の効果」

 

「デッキからレベル2以下の魔法使い族を裏側守備表示で特殊召喚する」

 

「《TG サイバー・マジシャン》をセット」

 

 この【TG(テック・ジーナス)】、本来なら未来の世界のカードだ。だがガラスケースにもTGのシンクロモンスターはあったし、水野も持ってるということは、このシリーズは一般流通しているということになる。アクセルシンクロは出来るか知らない。

 

「メインフェイズ2、カードを1枚伏せてターンエンドだよ」

 

レタス

LP:8000

手札3枚

 

「私のターン、ドロー」

 

「この瞬間、リバースカードオープン!《サモンリミッター》!」

 

 レタスのリバースカードが表になり、お互いのモンスターゾーンを囲うように三角形の設置物がいくつか出現する。

 

「このカードがある限り、お互いにモンスターの召喚行為を1ターンに2度までしか行えない」

 

「そのモンスターはチューナーみたいだからね、2度だけしか召喚できないならシンクロ召喚は行えないよ!」

 

 里による魔法封じ、更にサモンリミッターによるシンクロ・エクシーズ封じ。中々に面倒なロックだ。

 

「メインフェイズ、《TG サイバー・マジシャン》を反転召喚」

 

TG サイバー・マジシャン

★1:ATK/0

 

 特徴的な帽子を被った肩幅のすごい魔法使いが現れた。それと同時にフィールドに大きく『1』の文字が表示される。

 

「攻守0のモンスターか、でもそれで何が出来るんだい?」

 

「サイバー・マジシャンは【TG】シンクロモンスターをシンクロ召喚する場合、私の手札のチューナーではない【TG】モンスターをシンクロ素材にできる」

 

「レベル1のTG サイバー・マジシャンを、手札のレベル4《TG ラッシュ・ライノ》にチューニング」

 

 サイバーマジシャンがその身を1つの輝く輪へ変えると、手札から出てきたサイの背中にブーストエンジンを着けたようなモンスターがその輪を潜り、どこからか伸びてきた光に包まれた。

 

「シンクロ召喚《TG ワンダー・マジシャン》」

 

TG ワンダー・マジシャン

★5/ATK/1900

 

 光の中から桃色の長い髪を靡かせ「ハァッ」という野太い声と共に現れたのは、背中に4つの羽根のようなパーツを着けた魔術師だ。あれ、このモンスターは女だよな?なんで声が野太かったんだろう。そしてフィールドに『2』の文字が表示された瞬間、水野のフィールドにある三角形の飾りが光の線で繋がれ、モンスターゾーンを覆っていた。これ以上は召喚できませんってことか。

 

「ワンダー・マジシャンがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを1枚選択して破壊する」

 

「破壊するのは魔法族の里だ」

 

 ワンダーマジシャンが魔法族の里のカードに向かって飛んでいき、拳で破壊した。おい、魔法使えよ。そして破壊した瞬間、山奥の集落と化していたテーブルは元に戻った。

 

「……バトル、ワンダーマジシャンでウィンに攻撃」

 

 ワンダーマジシャンが今度はウィンに向かって飛んでいく。杖を掲げて迎え撃つウィン。放たれた空気弾を躱し、軌道を修正したワンダーマジシャンは野太い声と共に渾身の拳をウィンに叩き込んだ。こいつ絶対戦士族だろ。

 

TG ワンダー・マジシャン:ATK/1900

憑依装着 ウィン:ATK/1850

 

 パンチをもらったウィンは、尻餅をついた後に消えてしまった。

 

レタスLP:7950

 

「くっ……たかが50だ!」

 

「メインフェイズ2、カードを伏せてターン終了」

 

水野

LP:8000

手札3枚

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「行くぞ!《魔導戦士 ブレイカー》召喚!」

 

魔導戦士 ブレイカー

★4:ATK/1600

 

 剣と盾を持った、色んな意味で世界一有名な魔法使い族が現れる。そしてレタスのフィールドにも『1』の数字が表示される。

 

「ブレイカーの召喚成功時に効果発動!魔力カウンターを1つ乗せる」

 

「更に、このカードに乗ってる魔力カウンター1つにつき、攻撃力を300ポイント上げる!」

 

「そして僕は《ワンダー・ワンド》をブレイカーに装備!攻撃力を500ポイントアップ!」

 

 ブレイカーの手に持った剣が消え、代わりに不気味な顔の装飾がされているワンドが現れた。

 

魔導戦士 ブレイカー

★4:ATK/1600→2400

魔力カウンター:1

 

「ブレイカーの効果発動!魔力カウンターを取り除くことでフィールドの魔法・罠カードを1枚破壊する!セットカードを破壊だ!」

 

魔導戦士 ブレイカー

★4:ATK/2400→2100

魔力カウンター:0

 

 魔導戦士ブレイカーが手に持ったワンドに魔力を漲らせ、魔力弾を伏せカードに向けて放ったが、伏せカードが表になった。

 

「チェーン発動、《リビングデッドの呼び声》、墓地のサイバーマジシャンを特殊召喚する」

 

 サイバー・マジシャンが白目になりながらフィールドに再出現する。サイバー・マジシャンの周りには黒い霧のようなものが漂っている。

 

TG サイバー・マジシャン

★1:ATK/0

 

「だがリビングデッドの呼び声で蘇生したモンスターは、リビングデッドの呼び声がフィールドからなくなると破壊される!」

 

「そうだね、破壊される」

 

 魔力弾がリビングデッドの呼び声に当たり、リビングデッドの呼び声を破壊した。それと同時にサイバー・マジシャンの体もガラスのように砕け散った。これは一見無意味な行動だ、イケメン野郎も「どうしてこんな意味のないことを……」とか言いながら首を捻っている。

 

「まあいいや、《古のルール》を発動!」

 

「このカードは、僕の手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚するカードだ!来い《コスモクイーン》!」

 

コスモクイーン

★8:ATK/2900

 

 レタスのフィールドに、年季の入った藁半紙のようなものが出現する。そこに書かれているのはまるで宇宙のような絵だ。そして、その絵から派手な冠を着けた魔法使いが現れた。そして『2』の文字と共にレタスのモンスターゾーンに光の網がかかる。

 

「バトルだ!コスモクイーンでワンダー・マジシャンに攻撃!」

 

コスモクイーン:ATK/2900

TG ワンダー・マジシャン:ATK/1900

 

水野LP:7000

 

 コスモクイーンは、まるで地球のように青くて丸く、そして自身の身の丈程の大きさの魔力の塊を精製し、ワンダー・マジシャンに向けて放った。もの凄い速度で迫る魔力弾に反応出来なかったワンダー・マジシャンは、発生した爆発に包まれる。

 

「……ワンダー・マジシャンが破壊された時、カードを1枚ドローする」

 

「ドロー効果持ちだったか、だがブレイカーでダイレクトアタック!」

 

 ブレイカーはワンドから魔力の塊を放った。だが、テーブルに座っている人間はでかすぎたので、その攻撃は届かなかった。だがライフはしっかり削られている。

 

魔導戦士 ブレイカーATK/2100

 

水野LP:4900

 

「メインフェイズ2、ワンダー・ワンドを装備したブレイカーを墓地へ送ることで効果発動!」

 

 ワンドについた緑色の玉石が発光すると、ブレイカーと共にその姿を消してしまった。だが残った緑色の光はレタスのデッキへ伸びていき、この光がデッキから2枚のカードをドローを許可した。

 

「2枚ドローし、このままターンエン……」

 

 ターンを終了しようとしたレタスに水野が待ったをかけ、墓地のカードを指で指し示す。

 

「エンドフェイズ、破壊され墓地へ送られたサイバー・マジシャンの効果発動」

 

「えっ、破壊?したっけ……」

 

 レタスが目を瞑った。そして思い出したかのように目を見開き、あっと漏らした。そう、リビングデッドの呼び声が破壊された時に一緒に破壊したあのサイバー・マジシャンの効果である。

 

「デッキからサイバー・マジシャン以外の【TG】モンスターを手札に加える」

 

 机の装置にセットされていたデッキがシャッフルされ、1枚のカードが出てくる。水野はそれを手に取り開示する。

 

「私が手札に加えるのは《TG ラッシュ・ライノ》だ」

 

レタス

LP:7950

手札2枚

 

「ドロー」

 

「相手の場にだけモンスターがいるから、手札の《炎王の急襲》を発動する」

 

 水野のフィールドが、突然発生した炎に包まれる。

 

「このカードは、私のデッキから炎属性の獣・獣戦士・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。でも効果は無効になり、エンドフェイズに破壊される」

 

「来て、《ネフティスの鳳凰神》」

 

 燃え盛る炎の中から現れたのは、全身が金色でどこか女性っぽい鳥だ。だが全身を取り巻く炎は徐々にネフティスの体を焼いている。

 

ネフティスの鳳凰神

★8:ATK/2400

 

「だけど、そのモンスターの攻撃力は2400しかない!それにサモンリミッターの効果であと1回しかモンスターを召喚できない!」

 

 水野のフィールドには『1』の文字が表示されている。ネフティスの鳳凰神は強力なカードであり、炎王の急襲との相性も良い。だがこのままエンドフェイズを迎えると、水野はガラ空きの状態で相手にターンを渡すことになってしまう。しかも相手のフィールドには大型モンスターまでいる、1回だけしか残されていない召喚で、この状況を凌ぎ切ることはできるのだろうか。

 

「うん、その通りだ。でもモンスターを召喚する必要なんてない」

 

 水野は表情を崩さずに手札から1枚のカードを魔法・罠ゾーンに表向きで置くと、そのまま発動した。

 

「《強制転移》だ。私のネフティスをあげよう」

 

 強制転移。お互いのプレイヤーは自分のモンスターを1体選び、相手にコントロールを移すカード。一見最上級モンスター同士の交換に見えるかもしれないが、ネフティスは炎王の急襲で破壊が確定している。自分だけが得をする最悪なコンボだ。

 

「なっ……!……こ、コスモクイーンを渡す」

 

 ネフティスとコスモクイーンの周囲の空間が歪み始めると、いつの間にかお互いの立ち位置は入れ替わっていた。お互いのモンスターは、お互いの正面にいる元々の主人に敵意を向けることになった。

 

「ならこのままターンを終了しよう。ネフティスを破壊してくれ」

 

 ネフティスの全身に纏わり付く炎が、ついにネフティスを焼き尽くした。先ほどまでネフティスがいたフィールドに残るのは灰だけだ。

 

「くっ……こんな方法でコスモクイーンを突破してくるなんて……」

 

水野

LP:7000

手札4枚

 

「ドロー!」

 

 カードを引いたレタス野郎の顔が綻ぶ。どうやらいいカードを引いたようだ。

 

「……ならカードとモンスターをセットしてターンエンド」

 

レタス

LP:7950

手札1枚

 

「ドロー、スタンバイフェイズにネフティスの効果を墓地から発動」

 

「効果で破壊された次の私のスタンバイフェイズ、ネフティスを特殊召喚する」

 

 フィールドに突然現れた炎が渦巻き、鳥の形になる。前のターンに燃え尽きたはずのネフティスが、炎を纏って戻ってきたのだ。

 

ネフティスの鳳凰神

★8:ATK/2400

 

「この効果で特殊召喚された時、フィールドの魔法・罠を全て破壊する」

 

 ネフティスが水野の声に反応するように鳴くと、自身の体で燃え盛っていた炎が周囲に吹き飛んだ。勢いを増しながら周囲に拡散されていく炎はやがて爆炎となり、レタスのサモンリミッターと裏側のカードを包み込む。

 

「チェーン発動!相手のライフが4900ポイントなので《破壊輪》を発動!コスモクイーンを破壊する!」

 

 燃え上がるカードが表になると、そのカードから1つの輪が出現し、コスモクイーンの首に装着される。その輪には手榴弾がいくつも付けられている。

 

「そして破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを僕が喰らってから、お嬢さんにも与える!」

 

 破壊輪は大爆発を起こしてコスモクイーンを葬り、同時にお互いのライフポイントを削った。

 

レタスLP:5050

水野LP:2000

 

「でも、サモンリミッターを破壊してもらう」

 

 その言葉の後、サモンリミッターと破壊輪のカードは爆炎によって破壊された。

 

「《調律》を発動」

 

「デッキから【シンクロン】チューナーを1枚手札に加え、デッキトップを墓地へ送る」

 

 水野のデッキがシャッフルされ、1枚のカードが飛び出してくる。

 

「《ジャンク・シンクロン》を手札に加えて、デッキをシャッフル。デッキトップを墓地へ」

 

 そのカードを手に取ると、デッキは再びシャッフルされ、デッキトップのカードが墓地へ送られた。

 

 墓地送り

《トラップ・スタン》

 

「《ジャンク・シンクロン》を召喚する」

 

ジャンク・シンクロン

★3:ATK/1300

 

 水野が置いたカードから眼鏡をかけたオレンジ色のロボットっぽい戦士が現れる。どう見てもロボットだが、戦士族だ。

 

「ジャンク・シンクロンの召喚成功時、効果発動」

 

「私の墓地からレベル2以下のモンスターを、効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。TG サイバー・マジシャンを特殊召喚」

 

TG サイバー・マジシャン

★1:DEF/0

 

 三度目の登場にサイバー・マジシャンも疲労の色を隠せないのか、顔は死人のように真っ青だ。もう休ませてやれよ。

 

「墓地からモンスターの特殊召喚に成功した時、手札の《ドッペル・ウォリアー》の効果発動」

 

「このカードを特殊召喚」

 

ドッペル・ウォリアー

★2:DEF/800

 

 サイバー・マジシャンの横に銃を持った全身黒ずくめの男が現れた。ドッペル・ウォリアーはそっとサイバー・マジシャンの顔を覗き込むと、複雑そうな表情をした。

 

「レベル1のサイバー・マジシャンを手札のレベル4、ラッシュライノにチューニング」

 

「ちょっと待った!どうして効果が無効になっているのに手札のモンスターとシンクロしてるんだ?」

 

 レタスがシンクロ召喚の演出中に待ったをかけてくる、まあ当然の疑問だな。

 

「サイバー・マジシャンのこの効果は無効にできない効果だ」

 

「そ、そうだったのか……」

 

 水野の説明に驚いた様子のレタス。なんだ知らなかったのか、こいつの効果は効果外テキストって奴だから無効にならない。というより無効にできない。

 

「続行する。シンクロ召喚、《TG ハイパー・ライブラリアン》」

 

 眼鏡をかけた長身の男が、本型のタブレットを持って登場した。来たな250円の制限カード、通称図書館マン。

 

TG ハイパー・ライブラリアン

★5:ATK/2400

 

「レベル3のジャンク・シンクロンを、レベル2のドッペル・ウォリアーにチューニング」

 

 ジャンク・シンクロンが背中のリコイルスターターロープを引っぱり、エンジンを起動させる。すると全身が発光し、3つの星のような光を放つと、消えてしまう。残った光は輪となりドッペル・ウォリアーを囲み、激しい光をフィールドに呼び込んだ。

 

「シンクロ召喚、《ジャンク・ウォリアー》」

 

ジャンク・ウォリアー

★5:ATK/2300

 

 紫色のボディをしたロボットのような戦士が、純白のマフラーを棚引かせて現れた。肩のパーツはまるで飛行機の翼のようで、ライトのように丸くて赤い双眼は光を放っていた。

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動、私のフィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力をこのモンスターに加える」

 

「チェーンし、ハイパー・ライブラリアンの効果発動。このモンスター以外のシンクロ召喚成功時、カードを1枚ドローする」

 

「更にチェーン、ドッペルウォリアーの効果発動。私のフィールドに《ドッペル・トークン》2体を攻撃表示で特殊召喚する」

 

 ジャンク・ウォリアーの横に2頭身サイズになったドッペル・ウォリアーが2体現れ、水野がカードを1枚引いた。

 そして2体のドッペル・トークンから溢れ出た光が、ジャンク・ウォリアーに流れていく。

 

水野:手札1→2枚

 

ドッペル・トークン

★1:ATK/400

 

ジャンク・ウォリアー

★5:ATK/2300→3100

 

「バトルフェイズ、ネフティスでセットモンスターに攻撃」

 

「セットモンスターは《キラー・トマト》だよ」

 

ネフティスの鳳凰神:ATK/2400

キラー・トマト:DEF/1100

 

 ネフティスがその場で羽ばたくと、運ばれた風がセットされたカードを表にする。実体化したのは、巨大なトマトをハロウィンのカボチャのようにくりぬいたモンスターだ。ネフティスが再び羽ばたくと今度は爆風が発生し、トマトを焼いた。

 

「キラー・トマトの効果発動!戦闘破壊された時、僕のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

「このターンは耐えられたか」

 

 水野は少し顔を険しくする。どうやらセットモンスターをリクルーターとは思っていなかったようだ。

 

「来い、《キラー・トマト》!」

 

 焼けたトマトの残骸から新たなトマトが現れ、古い焼きトマトを食べはじめた。何それ怖い。

 

キラー・トマト

★4:ATK/1400

 

「ハイパー・ライブラリアンでキラー・トマトに攻撃」

 

 マントをたなびかせた図書館マンが、手に持ったタブレットをちょいちょいと操作すると、図書館マンのマントからゴテゴテしたレーザー砲が出現した。そしてタブレットをタッチすると、レーザー砲から暴力的なまでの光が放たれ、トマトは消えてなくなった。

 

TG・ハイパー・ライブラリアン:ATK/2400

キラー・トマト:ATK/1400

 

レタスLP:4050

 

「キラー・トマトの効果により、最後のトマトを特殊召喚!」

 

「なら、最後のトマトに《ジャンク・ウォリアー》で攻撃」

 

 ジャンク・ウォリアーが跳躍すると、背中についたブースターが火を噴き直進する。その勢いのままジャンク・ウォリアーはトマトに接近し、拳を叩き込んだ。トマトは潰れ、当たりに赤い液体がぶちまける。

 

ジャンク・ウォリアー:ATK/3100

キラー・トマト:ATK/1400

 

レタスLP:2350

 

「キラー・トマトの効果により《ガガガマジシャン》を特殊召喚!」

 

 ブラック・マジシャンと似た形状の帽子を被っている長ランを着た魔術師が現れた。後輩は出てくるのだろうか。

 

ガガガマジシャン

★:4ATK/1500

 

「メインフェイズ2、カードをセットしてターン終了」

 

水野

LP:2000

手札1枚

 

「僕のターン!行くよ、《思い出のブランコ》発動!」

 

「このカードは墓地の通常モンスターを特殊召喚するカードだ!ただしエンドフェイズに破壊される。蘇れ、《コスモクイーン》!」

 

 魔法陣が現れ、そこからコスモクイーンが出てきた。その瞬間、水野がビクッと反応を示す。

 

「……」

 

 水野の目は、まるでドブ川のように濁っていた。恐らく自らの置かれた状況を理解しているのだろう。何故ならこのままドッペル・トークンを殴られるだけでお終いだ。それでも、その死んだ目で俺をチラチラ見てくる。なんだ、助けてくれってか?まあ、テメェが負けたら助けてやるよ。

 

「お嬢さん、君は僕の彼女になるんだ」

 

 すごく嬉しそうな表情をしたレタスが勝利宣言をする。無表情のまま目が死んでる水野とは対照的である。

 

「バトル!」

 

 レタスがバトルフェイズに入った瞬間、水野の表情に光が戻った。ということは何か防ぐ手段でもあるのだろうか。

 

「コスモクイーンでドッペル・トークンに攻撃!コズミック・ブラスト!」

 

 レタスはさっきはなかった攻撃名を高らかに叫ぶと、コスモクイーンが魔力を集中し、ドッペルトークンに打ち出す。青い魔力の塊は、速度を上げながらドッペルトークンに接近している。

 

「リバースカードオープン、《デストラクト・ポーション》」

 

 水野はその攻撃に割り込むように伏せカードを表にした。その瞬間、ピシピシという音と共にネフティスの鳳凰神の体に無数のヒビが入る。

 

「私のモンスター1体を破壊して、攻撃力分のライフを回復する」

 

 ネフティスの体は完全に砕け、ネフティスの形をした青白い光が水野のライフを癒していく。

 

水野LP:4400

 

「攻撃の巻き戻しが発生する」

 

 コスモクイーンの放った魔力の塊は、お互いのモンスターの間で制止していた。コスモクイーンは標的を品定めするように相手のフィールドを見渡している。

 

「ライフを削りたいからそのままドッペルトークンを攻撃!」

 

 攻撃命令を受けたコスモクイーンは、止めていた魔力の塊をそのまま直進させ、ドッペル・トークンを粉砕した。

 

コスモクイーン:ATK/2900

ドッペル・トークン:ATK/400

 

水野LP:1900

 

「まだまだ!ガガガマジシャンでもトークンを攻撃!ガガガマジック!」

 

 ガガガマジシャンがドッペル・トークンに走っていくと、そのまま拳を打ち付けた。魔法使いって武闘派が多いのだろうか。

 

ガガガマジシャン:ATK/1500

ドッペル・トークン:ATK/400

 

水野LP:800

 

「これで君のライフは風前の灯火だ!メインフェイズ2、ガガガマジシャンの効果発動!」

 

「ガガガマジシャンは自分のレベルを1から8の任意の数字にできる。8を選択!」

 

 ガガガマジシャンが「ガガガァーッ!」と叫ぶと、全身からオーラが漲りレベルが上昇する。

 

ガガガマジシャン

★:4→8

 

「レベル8のガガガマジシャンとコスモクイーンをオーバーレイ!」

 

 2体のモンスターが紫色の光となって上へ昇っていく。一対の光はレタスの空いたフィールドに発生した渦に吸い込まれていき、大爆発を起こす。

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

「現れよ!《聖刻神龍-エネアード》!」

 

 光が収まると、巨大な赤い龍が立っていた。体の至る所に見られる金色の装飾がどこか神々しい雰囲気を感じさせる。

 

聖刻神龍-エネアード

☆8:ATK/3000

素材:2

 

「エネアードの効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、手札かフィールドのモンスターをリリースすることで相手のカードを1枚破壊できる!」

 

聖刻神龍-エネアード

素材:1

 

「手札の《コスモクイーン》をリリースして、ジャンク・ウォリアーを破壊する!」

 

 エネアードの口にオーバーレイユニットが吸い込まれるように入り込んでいく。そしてエネアードの体がより激しく輝くと、1つの光を生み出し、それをジャンク・ウォリアーに放った。光に接触したジャンク・ウォリアーは抵抗する暇もなく砕け散った。

 

「ターンエンドだ」

 

レタス

LP:2350

手札0

 

「お嬢さん、君はよく頑張ったよ。サレンダーするといい、無駄な足掻きは見苦しいからね」

 

 見下したように水野にサレンダーを勧めるレタス。サレンダー推奨するの流行ってんのか?昨日のおっさんもこんな感じだったし。

 

「ドロー」

 

「さ、サレンダーしないのかい?」

 

「……スタンバイフェイズ、墓地のネフティスは復活する」

 

 さも当然のようにカードを引き、さっきのターンと同じように墓地から蘇るネフティス。こいつにとってこんな状況、逆境ですらないだろう。

 

ネフティスの鳳凰神

★8:ATK/2400

 

「でも君のモンスターじゃ僕のモンスターは倒せない」

 

「……貴方には、『切り札』を使う」

 

 水野の表情が一瞬だけ鋭くなる。ああ、出すのか『アレ』を。今だといくらくらいなんだろうな、すごい高いだろ。

 

「ふふふ、あははははは!『切り札』と来たか!つまらない意地なら、張らない方がいいよ!」

 

 まるで笑い袋のように爆笑しているレタス。おいおい笑うのはやめとけ、こいつの『切り札』はシャレにならない強さだぞ。

 

「《死者蘇生》発動、墓地のモンスター1体を特殊召喚する」

 

「TG サイバー・マジシャンを特殊召喚」

 

 おなじみのアンク型の光がフィールドに現れ、その光がサイバー・マジシャンを復活させる。サイバー・マジシャンの顔は痩せこけ、目には涙が浮かんでいる。もう……休ませてやれよ!

 

「レベル4以下のモンスターの特殊召喚成功時、手札の《TG ワーウルフ》の効果発動」

 

「このモンスターを特殊召喚」

 

TG ワーウルフ

★3:DEF/0

 

 水野が召喚したのは茶色の毛並みの狼、だが左腕と右目は機械化されている。

 

「ん?レベル6のシンクロ?それとも4?」

 

 レタスの顔は勝利を確信しており、今も緩みっぱなしだ。今から呼び出す『切り札』を見ればその笑顔も凍り付くだろう。

 

「レベル1のTG サイバー・マジシャンを、レベル3のTG ワーウルフとレベル5のTGハイパー・ライブラリアンにチューニング」

 

 サイバー・マジシャンが1つの光となって2体のモンスターに向かって飛んでいく。光は2体を囲むように円を描くとその形を輪へと変え、天から光を呼び込んだ。

 

「シンクロ召喚」

 

 プリズム状の光が机の上に降り注ぎ、周囲に広がっていく。

 

「全て、凍れ。《氷結界の龍 トリシューラ》」

 

 光が消えると、白銀色の甲殻に身を包んだ3つ首の龍が立っている。トリシューラの登場と同時に、卓上には雪が降り始めた。

 

氷結界の龍 トリシューラ

★9:ATK/2700

 

「これが切り札?レベルは9なのに攻撃力はたったの2700……ククク、やっぱりサレンダーした方がよかったね!」

 

 出てきたモンスターを攻撃力で計っているこいつは幸せ者なのかもしれない。俺は知っている、こいつの恐ろしいところは攻撃力なんかじゃない。

 

「シンクロ召喚成功時、トリシューラの効果発動。相手の手札とフィールドと墓地から1枚ずつカードを除外することができる」

 

「ハハハハハハ……は?」

 

 笑い続けていたレタスは凍り付いたかのように止まった。3枚のカードを同時に除外する効果、当然だが遊戯王には『書いてあることが短いほど強い』という変な法則があるが、こいつもその法則に当てまっている。

 

「墓地の《コスモクイーン》とフィールドの《聖刻神龍-エネアード》を除外する」

 

 トリシューラが咆哮すると、フィールドにいたエネアードが一瞬で凍り、粉々に砕け散った。それと同時に墓地のカードが1枚凍りついた。手札は無かった為、除外したのは2枚だけだ。ソリッドビジョンとはいえ、カードが凍るのは怖いな。

 

「そ……そんな、ばかな」

 

 レタスの顔がまるで凍り付いたかのように固まってしまった。希望を自ら生み出し、それを奪われたのだからダメージはでかそうだ。

 

「バトル、トリシューラでダイレクトアタック」

 

氷結界の龍 トリシューラ:ATK/2700

 

 トリシューラがその力を周囲に解き放った瞬間、トリシューラ以外の卓上の全ての動きが停止する。舞っていた雪も、他のモンスターも、相手のライフも。

 

レタスLP:0

 

水野 鏡子vs紫野 南

 

Winner:水野

 

「……いいデュエルだった、ありがとう」

 

 感情が籠っていないお礼と共に水野はとにかくスピード重視でカードを片付け始めた。よほど嫌だったのだろう、顔に『さっさと逃げる』と書いてある。

 

「そ……そんな、僕が負けるなんて……」

 

 レタスは「後一歩で勝てそうだったのに」と付け足すと、机に突っ伏して動かなくなってしまった。まあ、ドンマイ。

 

「三伏」

 

「うおっ!いつの間に……っておい!引っ張んな!」

 

 いつの間にか片付けを終えていた水野は、俺の服の袖を掴んで店の出口の方向に走り出す。不意の出来事だったせいで反応できず、俺はそのまま店の外まで引っ張られてしまった。

 

***

 

「まあ、テメェも大変だな。色々とよ」

 

「……かもしれない」

 

 俺たちは今、大通りを歩いている。水野がやや暴走気味にここまで俺を引っ張ってきてしまったのだ。なので今は特に考えもなくブラブラしているが、早めにこの場所からは脱出したいと思っているのだ。理由としては『目立ちすぎ』だ。

 

「……にしても、ここまで目立つのかよ。めんどくせぇ」

 

「今まで人の多い場所は避けてたけど……ここに来たのは事故だ」

 

 大通りですれ違う人間はもちろん、少し離れた人間の視線でさえも水野に集まっている。その理由は、晴れているのに真っ黒い傘を指しているからだ。所謂『日傘』という奴だが、傘を持っている水野の見た目も手伝って、より視線を集めているのだろう。

 

「ま、そういう体質だしな。散々苦労してきただろうよ」

 

 水野の肌は異常と言えるほどに白い。確かアルビノとかいう紫外線や日光そのものが肌や目にかなりのダメージを与えるっていう病気らしい(詳しいことはわからない)。だからこいつは極力肌を出さないような格好をしており、日傘やら日焼け止めやらで紫外線対策もしている。

 

「今は三伏がいるから大丈夫」

 

 俺の目を見てそんなことを言ってきやがった。目を見てそういうこと言うのはやめろ、なんか恥ずかしいぞ。

 まあ、水野がこんなこと言ってきたのは、1年前に俺が余計なお節介を焼いた結果、こいつの『人生初の友人』になったからだろう。肌や髪の色って、気にはなるけどそこまで気にすることじゃねぇと思うんだけどな。人間って難しい生き物だ。

 

「そうかよ……お、あそこの角曲がるとスーパーあんだよ、ちょっと寄ってこうぜ」

 

「待って」

 

 水野が急に足を止めた。何かあったのだろうか、早くここからおさらばしたいのだが。

 

「さっきは散々な目に遭った。三伏、何でもいいからカードが欲しい」

 

 そう言うと、少し険しい表情で俺に左手を差し出してきた。ったく、何で俺があのレタス野郎のケツを拭かなきゃいけないのか。

 

「あー……へいへい。んじゃこれやるよ」

 

 ここで断って機嫌を損ねるのも面倒なので、ポケットに入れてた『本の付録』を渡してやった。

 

「……パックか」

 

 そう、『本の付録』とはカード3枚入りのパックなのだ。『限定カード』も入ってるそうだが、俺の引いたパックじゃそれも出ないだろう。

 

「ああ、何か限定カードが入ってるかもしれねぇってさ」

 

 水野はいつもの澄まし顔になり、いきなりパックを開け始めた。パックのカードは俺からでも見えた。《システム・ダウン》と《あまのじゃくの呪い》、そして3枚目は……。

 

「《月華竜 ブラック・ローズ》……!」

 

「え、ちょ……!」

 

 水野が俺に見せてきたカードは、本の裏表紙に書かれていた『限定カード』だった。おいちょっと待て、俺ブラックローズ本(単行本の方)買ってねぇから持ってねぇんだぞ。

 

「三伏、ありがとう」

 

 水野がブラック・ローズを大事そうにしまうと、先ほど俺が指差した角へ向かって走り出した。俺のパック運は最低な筈じゃ……?いや、他人に渡す運命まで確定していたからブラック・ローズが入っていたのだろうか。

 まあ色々考えるよりも先に、水野を追いかけることにしよう。

 

「うぉい!ちょっと待ててめぇ!」




内容が大分膨れ上がっちゃったなぁ……っと、後書きになります。
序盤は主要登場人物のデッキ紹介も兼ねていますので、デュエル展開は結構しょっぱいかと思われます。
1話の三伏君は【炎ドラゴン】、今回の水野ちゃんは【TGジャンドネフティス】になります。3話はどんなデッキにしようかな?

そしてブラック・ローズですが、世界が書き換わった後は『漫画版5D's』は存在しない扱いですので、決闘竜の入手は基本的に困難です。
作中では書きませんでしたが、プラネットシリーズも一般販売されてます。

***

〜おまけ『水野さんの目が死んでた理由』〜

「そういや、さっきのデュエルだけどよ……諦めてなかったか?」

「うん」

「エクストラデッキに《No.22 不乱健》、手札に攻撃力1400以上のモンスターがいたら、私のライフは0だった」

No.22 不乱健
☆8:ATK/4500
闇属性レベル8モンスター×2

「あ、ジャンク・ウォリアーをデストラクトしても耐えられなくなるわけか」

「うん」

「とはいえ、あんな目すんのはやめてくれ。すっげぇ怖ぇから」

「……気をつける」
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