何でも屋にはご用心   作:ぼっちクリフ

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時には失敗して一人寝の夜もある①

ティリオン中心部の高層ビル街を横目に、僕は裏通りへと向かう。

かつてこの街は「おとぎ話の都」と呼ばれた程に幽玄で美しい街並みだったそうだが、この区画にはそんな面影は残っていない。もう少し中心部から南、離宮の方へ行けば昔の美しい街並みが残っているが、そっちは高級住宅街、僕のような者にとっては無縁の場所だ。

東西冷戦がロヴァルナの崩壊という結末で終わった今日、ティリオンはオルクセン連邦第二の都市として繁栄を極めていた。

 

本屋では最近流行の星紀末モノの本がずらりと並んでいる。「4年後の星歴999年、衝撃の予言が成就する!」なんて煽っているが、生憎と僕にとっては何の興味も無い事だ。

一夜の恋人を確保する事に失敗した僕は、すごすごと裏通りにあるバー『ファールロース』へと帰ってきた。

 

「お帰りなさいレオンさん」

 

カウンターでグラスを磨くマスター……ここの店の主であるドワーフの挨拶に答えながらカウンターの椅子へと腰掛けた。

 

「ただいまマスター、姉貴は?」

 

「今日はまだお戻りになられていませんね」

 

「やれやれ、何処ほっつき歩いてんだかあの不良闇エルフ」

 

「その分ではレオンさんの方も」

 

「もう最悪だよ、聞いてよマスター」

 

マスターの出してくれたビールに口をつけながら、僕は今日の顛末を話始めた。

 

 

 

僕ことレオン・ノイマンは一夜の恋人……いわゆるワンナイト・ラブのお相手を探しに夜の繁華街へと繰り出していた。華の大学生活、学問ばかりをするヤツはここティリオンの二流大学では希少種だ。皆バイトをしたり趣味に没頭したり、他にも色々とする事を目的に大学生活を送っている。

そんな僕にとって夜のお相手を探す事は日常茶飯事だ。今のとこ狙いをつけた本命も居ないし、適当に夜の街を自慢の愛車(バイク)で流しながら良さげな子を物色するのが日課となっていた。

 

とまぁ、こんな風に自己紹介すると大抵の奴は胡乱な目で僕を見てくる。僕を見ながら、頭の固い大人は皆決まってこう言うのだ。

 

『最近の若者はなんて乱れてるんだ、質実剛健にして健全でモラリストたるべきオークの風上にも置けない』

 

余計なお世話な事この上ない。やれグスタフ王の時代はどうだの、オークたる者人生を共にする伴侶一人に愛を誓うべきだの何だの、そういう説教にはうんざりしてるのだ。

大体、グスタフ王以前の時代はオークと言えば好色で暴飲暴食の限りを尽くした蛮族だったと言うではないか。実際オークは精力旺盛で良く食べ良く飲む、何が悲しくて若いうちから禁欲的な生活なんぞしなけりゃならないんだ。

 

そんなわけで種族の本能に忠実なレオ君はこうして夜の街でナンパを慣行したわけだ。幸運な事に、今日目星をつけた相手は極上だった。

短く切りそろえた金髪にはメッシュ入り、吸い込まれそうな青い瞳、アイシャドウをつけパンクスーツにブーツを合わせたその子は如何にも「今どきの白エルフの若者」だった。

ついでに出る所はこれでもかと出て、引っ込む所はキュっと引っ込む大層魅惑的な身体つきをしているのも見逃さなかったよ、僕は。

 

「ねぇ、今夜暇?」

 

「何アンタ――」

 

「実はさ、カラオケに行きたいんだけど相手が居ないんだ、良ければ一緒に歌わない?」

 

「アンタ、アタシと歌いたいの?」

 

「そ、君の歌声が聞いてみたくてさ、ビビっと来ちゃったんだよね」

 

なるべく愛嬌のある笑顔を作って向けながら、これは手応えありだと確信する。

白エルフはとにかく歌と踊りが大好きで、ナンパする時はカラオケやディスコに誘うに限る。この子は足の肉の付き方から歌の方が好きだと睨んでカラオケに誘ったんだけど、これが大正解!

 

「ふーん、良いよ。アタシも今夜歌う場所を探してたから」

 

「やった、君、名前は?」

 

「カレン。あんたは?」

 

「僕はレオン、レオって呼んで」

 

そうして僕はオーク用の大型単車のケツにカレンをのっけて、夜のカラオケへと繰り出した。ここまでは順調そのもの、今夜の事は全て上手くいくと疑ってなかったんだよね。

 

 

カラオケは楽しかったよ。カレンは流石白エルフらしく歌が上手い……というか、これプロ並みなんじゃないか、って歌い方だった。

キャメロットの伝説的バンド『女王』の曲みたいな古い歌から最新のランキングに乗ってる歌まで、何でも歌えるしまるで魂を燃やすかのような激しい歌い方だった。

 

これは僕も負けてられないとばかりに得意な曲を何曲か歌う。彼女に比べりゃ『白銀樹と枯れ木』のようなもんだけど、それでも女の子とカラオケに行く時用に歌える曲のストックは多い。カレンは僕の、良く言って普通の歌も真剣に聞いて拍手を送ってくれた。

 

夕食はどっかのレストランかバーガーショップで、と思ったけどあんまりにもカレンが真剣に歌うもんだから僕も時間を忘れて歌い続けてしまった。夕食もカラオケのフードで済ませ、二人で三時間程歌いっぱなしだったおかげで僕の喉はガラガラだ。

でもカレンはと言えば、僕よりもかなり多く歌った(体感で時間の7割くらいはカレンが歌ってた)割に平気そうな顔をしてるし、声も全くおかしくなっていなかった。

 

「楽しかったよ、レオ」

 

「そりゃ良かった。もちろん、この後も退屈はさせないぜ」

 

そうニッコリ笑う僕を、カレンは不思議そうに見る。おいおい、そりゃ無いぜとばかりに僕はカラオケボックスの裏手にある『お休み所』をジェスチャーで指して見せた。熱が冷める前に二回戦を始めたいからね、この近辺のラブホテルの位置の事前把握はバッチリさ。

そんな僕に対し、カレンはみるみると眉を吊り上げ怒りの表情を浮かべると

 

「最初っからそういうつもりかよ、この下品な豚野郎!」

 

と言い放って思いっきりビンタをくれたのだった。

呆気に取られながら呆然と見送る僕を置いて、彼女は街の喧騒へと消えていった――

 

 

 

「それは災難でしたね」

 

二コリとも笑わずマスターが言う。この人が笑ったり怒ったりした事は、少なくとも僕が物心ついて以降見た事が無い。かつてベレリアント戦争に従軍したと言われる老ドワーフは僕にお代わりのビールを差し出しながら続けた。

 

「最初から一夜のお相手だとは言わなかったので?」

 

「いや、普通ああいうナンパに乗るならそういう事になるだろうと相手も分かってると思ってさぁ。そんな初心な子にも見えなかったし」

 

「報告や連絡、相談は重要です。特に軍隊と男女の間では」

 

「肝に命じておくよ」

 

そこまで話していた所でバーの扉が開く。

入って来たのはタンクトップにダメージジーンズ、皮のブーツを履いた見知った闇エルフだった。

 

「よぉ非行少年、今夜は寂しく一人寝か?」

 

「生憎と添い寝相手には年齢制限があるんで、姉貴はお断りだけど」

 

僕の憎まれ口に対し姉貴は拳骨で答えた。ポカリとやられた頭を摩る僕の隣に座った姉貴はマスターに向かって話かける。

 

「悪いねマスター、何か夜食ある?」

 

「もちろんです、アルフィリオン様」

 

マスターの出してくれたエビとアボカドの和え物を乗せたオープンサンドを美味そうに食べ始めた姉貴は、俺のビールに手を伸ばし勝手に呑み始めた。

 

姉貴ことアルフィリオン・ソールロッド、通称アルフィ。僕の姉にして育ての親、そしてこのティリオンではそこそこ有名な「何でも屋」だ。

何でも屋なんて気取っているが、要は裏社会で面倒ごとが起こった時に揉め事の解決を頼まれる便利屋だ。このバー『ファールロース』を拠点として、日々裏社会で起こる揉め事に首を突っ込んでは仲裁したり、時には暴力に訴えて解決している。姉貴はこう見えて裏社会で顔が広く、そして特定の組織に所属していない。そこを見込まれて大小様々な厄介事が持ち込まれるという寸法だ。

 

「あぁ、それとマスター、そろそろ『マダム』が来るから」

 

そら来た、今日も揉め事がやって来る。

この裏社会で『マダム』という単語が示す人物は一人。ティリオン随一の娼館『トラオム』のオーナーにして娼婦達の互助組織『白』のトップ、マダム・ブランシュの事だ。裏社会の顔役の一人であるマダムが来るという事は、厄介の規模がなかなかに大きい事を示している。下手すれば僕まで駆り出されるわけで他人事ではない。

 

「今日の用事もマダム絡みだったの?」

 

「いんや違う。中立地帯で余所者が暴れてたから取り押さえに行っただけさ」

 

「それじゃあんま稼ぎにはならないね」

 

「あぁ、だからマダムの依頼が重要なのさ」

 

「そりゃそうだ、ここ2カ月くらい依頼が無いせいで、我が家は素寒貧なんだから」

 

「いざとなりゃお前がマダムのとこで働きな、学生」

 

「冗談、三日で搾られるものも無くなっちゃうよ」

 

お聞きの通り、この姉貴は生活能力が皆無かつ勤労意欲がゼロどころかマイナスに振り切っている。我が育ての親ながらよくコイツに育てられてグレなかったと自分を褒めてやりたい。

オークである僕を産んだのはもちろん姉貴じゃない。僕の本当の親は不明で、姉貴に尋ねた事もない。まぁ教えられるような事ならこの姉貴が遠慮するわけもなし、何か言えない事情があるのだろうとは薄々思ってる。

僕自身もそこまで知りたいとは思わなかった。物心ついた時から姉貴の知り合い、このティリオン裏社会に住むマフィア、娼婦、ゴロつき、流れ者、その他様々な連中が世話を焼いてくれたおかげで今の僕がある。言うなればこのティリオンという街の裏側が僕の親代わり、それで別に良い。

今更育ての親なんてものが出てきても……

 

……いや、どこぞのお金持ちが僕の事を御曹司として迎えてくれるなら、それはそれでやぶさかではないけど。

 

 

「失礼するわね、アルフィ」

 

扉をくぐりやって来た、それは見目麗しい白エルフのご婦人。ウェーブのかかった豊かな金髪をひと纏めにし、紺色を基調としたパンツスーツ。耳には大きなイヤリングをつけ、地味に見えて要所要所にアクセサリーで華やかさを演出するのを忘れない。さながらやり手の女社長といった所だ。

彼女こそマダム・ブランシュ、ティリオン裏社会を三分する組織『白』の長だ。

 

「ようこそマダム。マスター」

 

「心得ております」

 

姉貴の言葉を受けてマスターがマダムへカクテルを差し出す。マダムはそのグラスを傾けながら早速とばかりに話を切り出した。

 

「実は困りごとがあるの、アルフィ」

 

「でなけりゃマダム自身がこんな所まで来ないでしょうね」

 

「あら、私はアルフィならいつでも歓迎だけど?」

 

「それはありがたいお言葉だけど、本題をお願い出来る?」

 

「ええ、そうね。実はね、最近面倒な事が起こってね」

 

「いつもの事だけど、詳しい内容を聞こうか」

 

「私が庇護してる白エルフの子がね、変な連中に付け狙われてるのよ」

 

「マダムが庇護してるって事は、水商売?」

 

「いいえ、その子は堅気――というわけでもないわね。半歩だけこちら側の子よ」

 

「半歩?」

 

「インディーズバンドのメンバーよ。最近人気急上昇中、ソロデビューの予定」

 

マダムは娼館の他にライブハウスも経営してその影響下に収めている。白エルフ達が多いのがその理由だ。

姉貴は微妙な顔をする。

 

「厄介なファンかストーカー対策だったら警察か憲兵隊を当たってくれよ」

 

「違うわよ、どう見ても堅気じゃない連中。黒スーツ着こんだオークやコボルトがライブハウスに来るわけないでしょ」

 

「スーツ着こんだオークって、それ『黒』じゃないのマダム?」

 

口をはさんだ僕に対しマダムは頭を振ってみせた。

 

「それがねレオちゃん、私も最初はそう思って『黒』の連中に探りを入れたのよ。そうしたら違うって」

 

 

このティリオンの裏社会には3つの大きな組織があって、それぞれが縄張りを主張してる。それが『黒』『白』『紅』の3つだ。

 

(シュヴァルツ)』、オークやコボルトを中心とした愛国主義団体、いわゆる右翼マフィアって呼ばれる連中。

主に密輸や違法薬物売買をシノギとする連中。強面のイカついおっさんが多い。

 

(ブランシュ)』、白エルフを中心とした娼婦達の互助組織。要は売春斡旋の元締めだね。

主なシノギは売春、情報売買。マダム・ブランシュを中心としてほとんどが女性で占められている。

 

(ロート)』、主に人族の移民、不法入国者達の集まり。最近はロヴァルナが崩壊したせいで東側のマフィアなんかも参加してるらしい。

主なシノギは違法賭博、不法入国者の仕事斡旋。勢力は一番小さいが勢いがある。

 

で、この三組織は対立し、時には小さな抗争を繰り返しながらも一線は越えず、何かあれば上が話し合って手打ちにして来た。

オルクセンの警察組織は無能じゃない、もし三組織が一般市民の生活にとって見過ごせない程に有害だと判断すれば容赦なく潰しにかかるだろう。それを分かっている三者は絶妙なバランスで裏社会に根を張っている。

 

 

そんなわけで『黒』と『白』は仲が良いわけじゃないがパイプは持っている。マダム・ブランシュが直接『黒』に尋ねて違うという回答を得たなら、その子を付け狙っているのは『黒』ではない可能性が高い。

 

「じゃあ『紅』?」

 

「『紅』がオークやコボルトを使うってのは聞いた事無いし、ヤツらはそんな事でマダムを敵に回す程馬鹿じゃない」

 

「って事は……」

 

「余所者の可能性が高いな」

 

姉貴は言いながら懐からタバコを出す。僕はすかさずライターを取り出しそれに火を点け、ついでに箱から一本失敬した。

一瞬姉貴が嫌な顔をするが、話を続けることを優先する。

 

「分かった、引き受けるよマダム」

 

「ありがとうアルフィ、この写真の子よ。普段はリンゲイト通りのライブハウスで歌ってる筈だわ」

 

うん、リンゲイト通り?

それって……

 

「カレンナリエル・リングール、通称『歌姫カレン』。この子の護衛と付け狙う連中の特定を正式に依頼するわ」

 

思わず身を乗り出して写真を覗き込んだ。

予想通り、そこには先程僕にキッツい一撃をくれた女の子が写っていた。

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