突然だが、俺は転生者だ。
コンビニ帰りに視界がブラックアウトして、気づいたらアカェチャンになっていた。細かいことは覚えていないが、多分トラックか何かとぶつかってしまったのだろう。テンプレってやつだ。
で、だ。
ありがたいことに、この世界は前世の日本とほぼ同じだった。異世界で剣と魔法とかじゃなくて本当に良かったと心の底から思う。
二度目の人生だ。程々ながらも真面目に生きようと思った。
両親は普通に優しいし、ちゃんと育ててくれてる。なら俺も、それなりの企業に入って、それなりに親孝行して、それなりに生きていこう。
ん〜、我ながら完璧な人生設計だ。……夢が小さいことを除けば。
まぁ、そんなわけで家から通える進学校──秀尽学園高校に入学した。
◇
一年の頃は……まぁ、平和とは言い難かった。
陸上部と
まぁ、触れない方がいいやつだな、あれは。
俺はというと、部活には入らず生徒会へ。理由はシンプル、内申点のためだ。
……だったんだが、これが意外と悪くない。
一応社会人経験があるからね。事務仕事とかはある程度できる。それのおかげもあってか、先輩、後輩どちらも俺を頼ってくれている。
仕事はそこそこ、空気は悪くないし、知り合いも増えた。気づけば、それなりに“高校生活してるな”って感じにはなっていた。
◇
二年に上がってすぐ、空気が変わった。
原因はひとつ。
前科持ちの転校生が来る、なんて物騒な話が回ってきたのだ。
そして初日。
そいつは大遅刻で現れた。
絵に描いたような不良ムーブをかましながら教室に入ってきたそいつ──雨宮蓮は、うちのクラスの唯一の空き席である、俺の前の席に座ることになった。
それから数日、様子を見ていたが……
どうやら、去年
……う〜ん、アウト!
俺の中の“関わっちゃいけない人間センサー”が順調に反応している。
関わらないでおこう。そうしよう。
そう思っていた時だった。
◇
事件が起きた。
しかも、前世含めても経験したことのないレベルのやつが。
同学年の女子生徒──鈴井志帆さんが、屋上から飛び降りた。
交流はない。けど、見覚えはあった。
同じクラスの高巻杏と一緒にいるのを、何度も見かけていたからだ。
窓から中庭を見た時に目に入った、悔しさを噛み殺したような高巻さんの顔が頭から離れない。
◇
で、この事件で気になったことがある。
いや、“気になる”で済ませていいのか分からないけど。
教師の対応だ。
俺も中庭に向かおうとする途中、生徒会長の新島先輩が教師と話しているのを見かけた。
だが、様子がおかしい。
指示が飛んでる感じがしない。誰も動こうとしていない。
そして極めつけ。
救急車が来ても、誰一人として同行しようとしなかった。
……いや、普通行くだろ。
結局、付き添ったのは高巻さん一人だった。
あの光景はちょっと忘れられそうにない。
◇
……と、ここまででも十分に“異常”なんだが。
実はもうひとつ、重要な出来事がある。
猫だ。
そう、猫。
最近、校内で鳴き声がするって話になって、生徒会でも軽く捜索していたんだが……
見つけた。
見つけてしまった。
見つけたこと自体はいいことなんだが……
その、場所が問題すぎた。
俺の前の席──雨宮の机の中。
いや、なんで!?
授業中、確かに聞こえたんだよ。「にゃー」って。最初は気のせいかと思って、窓の外とか周りを見渡した。
──そしたら、いた。
黒い毛並み。
青い目。
黄色い首輪。
尻尾の先と、鼻先と、足の先だけ白くてやけに目立っていた。
そしてこの一件は、鈴井さんの飛び降りという衝撃に、あっさり上書きされた。
気づけば、家に帰るまで頭からすっぽ抜けていて。思い出したのは、夜にやっていた猫の特番を見たときだった。
◇
この件は、どうするべきか。
先生に報告する?
いや〜無理か、今それどころじゃないのは明らかだ。
十中八九、「後にしろ」で終わると思う。かといって放置もどうなんだこれ。
どうしたものかなぁ……
関わりたくないなぁ……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
雨宮の机の中に猫がいたのを目撃した翌日。
俺は寝不足になりながらも、一晩中考えた。真面目に、割と真剣に。
そして、ひとつの結論に辿り着いた。
『たまたま見つけて、可愛さのあまり机に入れてしまった説』である。
……うん。だいぶ、いやめちゃくちゃ無理やりだが、こうでもしなきゃ、他に『猫を机に入れる理由』が思いつかないからね、しょうがないね。
◇
ひとまず“納得したことにする”という結論を出し、少しだけスッキリした頭で登校する。
蒼山一丁目駅から学校までの道を歩いていると、前方に見覚えのある背中があった。
両手をポケットに突っ込み、猫背気味で歩く男子生徒。
──雨宮蓮だ。
スクールバッグを背負っている。ああ、背負うタイプなんだな、あいつ。
なんてどうでもいいことを考えていた、その時。
バッグの口が、もぞりと動いた。
……いや、動いた?
次の瞬間。
ぬ、と。
見覚えのありすぎる“あの顔”が、ひょっこり顔を出した。
黒い毛並み。
青い目。
黄色い首輪。
完全に昨日の猫だ。
(アイエエエ!?ニャンコ!?ニャンコナンデ!?)
心の中で変な悲鳴が出た。
いやいやいやいや、待て待て待て。
なんで普通に持ち歩いてるんだよ。しかもバッグの中!
はァァァア!?もうなんなんだよお前ェ!
てか、周り! 誰か気づけよ!
通行人、誰一人として反応していない。完全スルーである。
……え、見えてないの?
いやそんなバカな。
なんだ、なんなんだホントに!?
もう怖い。
やめよう。
考えるの、やめよう。
◇
その日を境に毎日、雨宮はバッグの中に猫を入れて持ち歩いている。
じゃあ校内ではどうしているのか?
もちろん机の中さ!
狂ってるよォ!
◇
何かもう気になりすぎて、個人的に学校で噂を拾い集めたりして少し調べてみた。
どうやら雨宮は、
最悪の場合、退学になるとかなんとか。
あと俺と同じクラスである三島由輝の名前も出てきたが……正直、印象が薄い。すまん。
◇
そんなこんなで、猫のことを誰にも相談できないまま、悶々とした日々を過ごしていたある日の朝。
いつも通り、バッグに猫を入れて登校してくる雨宮を横目に、教室へ向かおうとした時だった。
やけに騒がしい。
掲示板の前に、人だかりができている。
何事かと覗き込んでみると――
そこに貼られていたのは、妙に物々しい“予告状”だった。
新聞の切り抜きで作られた、いかにもそれっぽいやつ。
しかも貼り方が「カモシダ」の形になっている。
無駄に凝ってんな。
内容は──
……まぁ、要するに。
鴨志田に罪を認めさせる、という宣言だった。
最後の一文の『覚悟しておきなさい』はもうネタでしかない希ガス……
ツッコミどころは山ほどあるが、一旦置いておく。
今はそれどころじゃない。
俺の視線は、別の張り紙に釘付けになっていた。
◇
『報告
最近していた猫の鳴き声がしなくなったので、捜索は終了とします。お疲れ様でした。』
……は?
いや、ちょっと待て。
それ終わってない。
終わってないから。
まだ(雨宮のバッグの中に)いるから!
なん……だと……
これじゃあ報告できないじゃないか!
俺が抱えていた“猫問題”、公式に打ち切られたんだが!?
◇
軽く絶望していると。予告状の“当人”が現れた。
鴨志田卓。
秀尽学園高校の体育教師でバレー部の顧問、さらには元金メダリスト。
「この学校での影響力は校長よりも上」なんて噂されている
予告状を見て、露骨に機嫌が悪くなる先生。
この反応は……どっちなんだろう。
俺的には、黒に感じる。なぜなら、入学した当初からアゴ先生には黒い噂が少なからずあったからだ。
と言うか、予告状の内容的にもついこの間飛び降りた鈴井さんが嫌でも結びつく……あ、アゴと目が合った。
「そこのお前、確か生徒会だろ! 今すぐこの紙を剥がせ!!」
ご指名されてしまった。ちょうどいい、他に何か猫に関する情報がないかと、予告状をベリベリと剥がしながら、確認していく……
◇
結果。
猫関連の新情報は、なし。
……クソッ。
なおその過程で、アゴに何か言われたり。
退学寸前と噂の雨宮と坂本、さらにはアゴのお気に入りと前から噂されている高巻さんにも睨まれた気がしたが。
気にしない、気にしない。
◇
そして、アゴは翌日から学校に来なくなった。
Cat in the desk
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