学校に猫はダメだろ、常識的に   作:Kaitei

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大丈夫なのか、それ。

 

 

 なんやかんやで、7月になった。

 

 今回、怪盗団が改心させた相手──金城潤矢。

 

 コイツは“渋谷を中心として学生に高給の裏稼業を斡旋したかと思えばそれを出汁に家族に危害を加えると脅迫し、彼らから財産を巻き上げるという凶悪な手段で儲けている悪漢”(怪ちゃん調べ)

 

 ココ最近増えていた“危ないバイト”もコイツが元締をしていたとの情報もあるし、割とガチでヤバいやつのようだ。

 

 というか、怪盗団のターゲット、どんどんスケール上がっている気がする……

 

 都内の私立高校教師の鴨志田。

 

 日本画界の巨匠、斑目。

 

 そして今回──渋谷の裏社会を牛耳る男、金城。

 

 あれ?

 

 なんか斑目の方がヤバくないか?

 

 ……それは一旦置いておくとして、このペースでいくと、そのうち天皇とか改心しそう。(KONAMI感)

 

 そんなこんなで、期末試験やら花火大会やら、イベントも一通り終わった。

 

 個人的ハイライトは、肉フェスだ。

 

 その日のテレビのインタビューに、雨宮たちも映っていていて、坂本のコメントがやたら印象に残っている。

 

 相変わらず、雨宮はバッグの中に猫を入れていた。

 

 ……炎天下だぞ?

 

 大丈夫なのか、それ。

 

 というか。

 

 なんで誰も気づかないし、ツッコまないんだよ……。

 

 そして現在。

 

 世間は“メジエドによる怪盗団への宣戦布告”の話題で持ちきりだ。

 

 なんでも、有名なハッカー集団らしいが……ぶっちゃけ知らん。

 

 

 ◇

 

 

 ──さて。

 

 そろそろ現実逃避はやめよう。

 

 俺は今、四軒茶屋にある純喫茶ルブランという店の前に立っている。

 

 理由は至ってシンプル。

 

 「忙しくて返せてなかったメモ帳を返す」と新島先輩に呼び出されたからだ。

 

 メモ帳を貸したのは、確か6月の中旬。

 

 あの時点では、新島先輩は“怪盗団を追う側”だった。

 

 だが、今は違う。

 

 なぜなら、授業中にちらっと見えた、雨宮のスマホ。

 

 あの怪盗団のグループチャット。

 

 そのメンバー欄に──

 

 新島先輩の名前が、ガッツリ載っていたからだ。

 

 というか、この前も思ったが、何なんだチャットアプリは、アイコンが謎角度の顔写真固定とか何考えて作ったんだよ……。

 

 特に厄介なのが、このチャットアプリがスマホの連絡手段で覇権を握っていることだ。他の手段を使用するとしたらメールか電話くらいしかない。

 

 ……前世のLINEとかDiscordみたいなのを開発したら大金持ちになれるのでは?

 

 ……話が逸れた。

 

 ともかく。

 

 新島先輩が怪盗団側にいる以上。

 

 俺の運命は、ほぼ決まっている。

 

 ──消される。

 

 怪盗団の正体に、自力で辿り着いてしまった一般人。

 

 うーん、アウト!

 

 ちなみに。

 

 家には遺書……とまでは言えないが、手紙をを置いてきた。

 

 本来の予定とは違うが、これまでバイトで貯めた金も一緒に入れてある。

 

 少しでも親孝行になっていたら嬉しい。

 

 震える膝を抑えながら、ドアに手をかける。

 

 さらば、二度目の人生!

 

 勢いよくドアを開けると店内の視線が一斉にこちらを向く。

 

 雨宮、坂本、高巻さん、喜多川くん──そして新島先輩。

 

 怪盗団のメンバーがそれぞれ、カウンター席やテーブル席に座っている。

 

 あ、猫もいる……。

 

 カウンター席座ってる……。

 

 猫もこっち見てる。

 

 めっちゃ見てる。

 

 怖い。

 

 胃が痛い。

 

 帰りたい。

 

 でも帰れない。

 

 俺は震える声で口を開いた。

 

「ド……ドウモ〜」

 

「来たわね、佐藤君」

 

 俺を呼び出した張本人の新島先輩がこちらに向かいながら言う。

 

「アッハイ」

 

「まずは、こんなふうに呼び出してごめんなさい」

 

「いや、全然……大丈夫です」

 

 大丈夫じゃないけど。

 

 全然大丈夫じゃないけど。

 

 ここで「無理です 」って言えるメンタルは持ち合わせていない。

 

「ありがとう。はい、これ。メモ帳」

 

 新島先輩が、あっさりとメモ帳を差し出してくる。

 

 受け取る。

 

 軽い。

 

 いつも通りの、俺のメモ帳だ。

 

 (お? これ最速で帰ればワンチャン生き延びられるのでは?)

 

「あ……ありがとうございます。じゃあ俺はこれで──」

 

「ちょっと待ってもらっていい?」

 

 はい知ってた。

 

 (デスヨネー)

 

 心の中で頭を抱えながら、ゆっくり振り返る。

 

 覚悟、完了。

 

 逃げ場、なし。

 

 ──取り調べ開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新島先輩に案内されるがままテーブル席に座る。と、そこで。

 

 す、と音もなく、俺の前にカップが置かれた。

 

 顔を上げると、そこにいたのは雨宮。

 

「……」

 

 いつの間に用意したのか、湯気の立つコーヒーを無言で差し出してきている。

 

 ……いや、待て。

 

 この状況で出されるコーヒー、怖いんだけど。

 

 最後の晩餐的なアレじゃないよな?

 

 とりあえず、ぎこちなく一礼だけ返しておく。

 

 飲むべきか、飲まざるべきか。毒とかは……いや、さすがにないか。多分。

 

 そんなことを考えていると、

 

「……では、単刀直入に聞く」

 

 喜多川くんが口を開いた。

 

 静かな声。

 

 だけど、逃げ場を塞ぐタイプのやつ。

 

「お前は、“アリババ”か?」

 

「……へ? いや、違います……けど」

 

 アリババってなんスか?

 

 初耳なんですけど。

 

 数秒の沈黙。

 

 ……なんかちょっとだけ空気が緩んだ気がする。

 

 ほんのちょっとだけ。

 

「……そうか」

 

 喜多川が小さく息を吐く。

 

 どうやら本当に違うらしい、と判断されたっぽい……?

 

 助かった、いやまだ助かってないけど。

 

「じゃあ次」

 

 間発入れずに、高巻さんが口を開く。

 

「いつ、どうやって私たちのことに気づいたの?」

 

 来た。

 

 ……まあ、ここで誤魔化す意味もない。

 

 俺は息を整えて、口を開いた。

 

「えーっと……ファミレスで、偶然見かけて」

 

 そこからは、順番に話した。

 

 聞こえた会話の断片。

 

 スマホのグループチャット。

 

 見たもの、気づいたもの、全部。

 

 あと猫のことも。

 

 話してる途中。

 

 なんか猫がめっちゃ怒っていた。

 

「……なるほどね」

 

 話を聞き終えた高巻さんが、小さく頷く。

 

 肯定も否定もされない。

 

 けれど、この反応は、多分。

 

 当たり、ってことだ。

 

「少し、待っててもらってもいい?」

 

「え、あ、はい」

 

 なんだか、呆れた様子の新島先輩の言葉に反射的に頷くと、そのまま全員が店の奥へ引っ込んでいく。

 

 ……怪盗団、会議中。

 

 え、ちょっと待って。

 

 これ、もしかして。

 

 ……生存ルート行けるか?

 

 わずかな希望が胸の中で膨らむ。

 

 さっきまでの緊張が抜けたせいか、急に喉が渇いてきた。

 

 俺は少し迷ってから、目の前のコーヒーに手を伸ばす。

 

 一口。

 

 あ、美味い。

 

 思わずもう一口。

 

 ……ん?

 

 なんかこれ、どっかで──

 

「ごめんね、待たせちゃって」

 

 顔を上げると、さっきより、少しだけ柔らかい表情をした新島先輩が戻ってきていた。

 

「それで、その……怪盗団のことは他言しないでほしいの」

 

 まっすぐな視線がこちらに向けられる。

 

「(。_。(゚д゚(。_。(゚д゚ )ウンウンウンウン」

 

 全力で首を縦に振る。

 

 ここで逆らう理由がない。

 

 というか、こんな質問が来るということは……。

 

 生存ルート入ったぞ!!

 

「……分かったわ。なら──」

 

 ひとまず話は終わり。

 

 そんな空気が流れかけた、その時。

 

「……なあ」

 

 坂本が、横からボソッと声を上げた。

 

「ダメ元で聞くけどさ」

 

 嫌な予感がする。

 

 すごくする。

 

「“佐倉双葉”って、知ってるか?」

 

 ──は?

 

「ちょっと竜司! バカ! さっき気を付けようって話し合ったばっかじゃん!」

 

 佐倉、双葉。

 

「いーじゃん、もうこいつにはバレてんだし」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

「もう、そういう問題じゃないでしょ……」

 

 ……あれ?

 

「つーかバカはないだろバカは」

 

どっかで、聞いたことある。

 

「ニャー」

 

 

 ◇

 

 

 小さい頃の記憶だ。

 

 母親の友人で、家に呼んだり行ったりして、何度か会う人がいた。

 

 優しそうで、少しだけ疲れた顔をしていた女の人。

 

 その人の傍にはいつも──

 

 小さな女の子がいた。

 

 一個年下で、人見知りで。

 

 最初は全然喋らなかったけど。

 

 ゲームとかの話になると、目を輝かせて元気になって。

 

 めちゃくちゃ頭が良くて。

 

 こっちが適当に言ったことも、すくに理解して。

 

 ……ああ、そうだ。

 

 名前は、確か──

 

 ──双葉ちゃん。

 

 ……あれ。

 

 もしかして?

 

 

 ◇

 

 

「……佐倉かどうかは分かんないけど」

 

 気づけば、口に出していた。

 

「双葉って子なら、知ってるよ」

 

 






Cat in the café

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