救いのない鬱ゲー世界で主人公御用達の喫茶店をやる   作:音塚雪見

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第16話

 どうもモルガナの中で相当な葛藤があったようだが、やはり世界最強の魔女という名前が強かったのか、彼女は俺たちの協力を受け入れてくれた。

 

 

「店長さん本当に何したんですか?」

「頑張って説得しただけだよ」

「なんかあくどいことしてそう……」

 

 

 話し合いの最中に退室を促され学園長室から追い出されていたノエリは、疑いの目を向けてくる。

 なんか俺が悪いことをしたみたいな空気になってしまった。

 頑張って説得をした立役者になんたる物言いだろうか。

 

 

「だってあの学園長ですよ? そう簡単に意見を曲げる人じゃないです。だったら店長さんが何かやらかした、と考えるのが普通じゃないですか」

「俺に信用がなさすぎない?」

「名前も教えてくれない人に信用があるとでも?」

「うーん藪をつついて蛇を出したか」

 

 

 ノエリはいまだに不満を抱えているようで、極寒の双眸で睨みつけてきた。

 両手を上げて白旗降伏した俺はその後なんとか冤罪を晴らし、モルガナと失踪事件についての話し合いを再開する。

 

 

「さて──俺たちの協力を認めてくれるんですよね」

「それは正確な理解ではない。私が認めたのは、『世界最強の魔女』古明地葵の代理人としての協力だ」

「代理人、ですか」

 

 

 頭の中で彼女の言葉を反復してみる。

 どうにも意味が纏まらず、最終的に霧散してしまった。

 モルガナは何を意図しているのだろうか。

 

 

「私はこれから君たちを世界最強の魔女として扱う」

「それは……」

「まあ、君なら私が何を言いたいのか分かってくれると思う」

 

 

 なんて意味深な眼差しを向けてくるモルガナ。

 心臓を直接掴まれたような心地がして、自然、口の端が歪む。

 よもや俺の正体がバレてしまったのだろうか。いや、冷静に考えてみれば、あんなお粗末な誤魔化しが通用するような相手ではないか。

 

 

『学園長』モルガナの能力を甘く見ていたことを痛感させられ、俺は先程ノエリにした白旗とは違い、心の底からの降伏宣言をした。

 ついでに秘密を暴露しないでね、というお願いも。

 

 

「む」

 

 

 そんな視線だけのやり取りに置いてけぼりにされた気分を味わったのだろう、ノエリは頬を膨らませ、視線を遮るように俺の前に立つ。

 

 

「二人で通じ合ってる、みたいな空気出すのやめてくれませんか。三人じゃなくて二人と一人になってます。独り側になったことあります? 結構来ますよ。心に」

「ごめんごめん」

「軽い謝罪だなあ」

 

 

 人見知りのくせに、疎外感を感じると寂しがる。

 たちの悪いうさぎみたいな性質をしているが、頬を膨らませるノエリの姿が可愛らしかったので、俺は苦笑交じりに謝罪した。

 どうもノエリは納得いかなかったようだが──その納得がどこを向いているのかは定かではない──とりあえず話題を元に戻しても問題なさそうだ。

 俺はモルガナに向き合い、

 

 

「そちらが事件について押さえている情報を共有してほしいのですが」

「期待の眼差しを裏切るのは心苦しいな」

 

 

 モルガナは白い髪を揺らして苦笑した。

 

 

「前述のとおり、私たちも犯人の目的や手段を解明できていないんだ。あれは情報を秘匿するための妄語ではないんだよ。正真正銘、尻尾を掴めていない」

「魔女の──魔女協会の捜査網を使っても?」

「ああ。おそらくこれは相当に計画的か、あるいは魔女協会に相当する組織の犯行だと思われる」

 

 

 そこに居たのは今までの付き合いやすいモルガナではなく、元世界最強の魔女として畏れられるモルガナだった。

 彼女は顎に白い指を添えると、

 

 

「君たちはどうやってこの難問を解決する」

「……すぐには答えが出ません」

「ああ、だろうね。むしろすぐに答えを出されては、私たちの立場がないというものだ」

 

 

 机の上で組んだ手に額を当て、大きな溜息をつくモルガナ。

 彼女は髪の隙間から双眸を覗かせ、僅かに声を潜める。

 

 

「──古明地葵なら、どうするのかな」

「……さあ。本人に訊いてみないと」

「でも君は古明地葵に伝手があるのだろう」

「え。そうなんですか店長さん」

 

 

 急に振り返ってくるノエリ。

 勢いが凄すぎてホラー映画かと思った。

 もしこれが本当にホラー映画だったら、まず間違いなくノエリの首は弾みに弾み、血飛沫を撒き散らして、辺りを赤黒い染料に染めていたことだろう。

 

 

 俺は誤魔化すように明後日の方向を見やり、

 

 

「いやどうなんだろうね」

「というか話の流れでツッコめずにいましたけど、『世界最強の魔女からのお願い』ってなんなんですか? 私まったく聞いてなかったんですけど?」

「口から出まかせで……」

「取ってつけたような嘘で学園長を騙せるわけがないじゃないですか。店長さんは何かしらの証拠を提示したんですよね? じゃないと私たちが事件に関わることを許可するはずがないですから」

「……素晴らしい推理だ、探偵さん。小説家にでもなったほうがいいんじゃないかな」

「店長さん!!」

 

 

 胸元を掴まれてぐわんぐわんと前後に揺らされる。

 女の子とはいえ鍛えている魔女だ、ノエリの力は凄まじく、こちらも魔女でなければ脳震盪でダウンしていたかもしれない。

 

 

 シリアスな空気をぶち壊す交流に蚊帳の外にされたモルガナは、そんな俺たちの姿を鑑賞しながら、凝り固まった頬を若干柔らかくしていた。

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