救いのない鬱ゲー世界で主人公御用達の喫茶店をやる   作:音塚雪見

37 / 37
第20話

 風が唸る。

 空気がえぐれ、酸素が薄くなる。

 超高速で移動する影。

 魔石のカンテラが揺れ、その度に部屋の光景が塗り替わった。

 

 

「──ッ」

 

 

 学園長モルガナは、元世界最強の魔女の名に恥じず、 平均的な魔女とは比べ物にもならない脚力を発揮し、左手に握ったナイフと、右手に持ったリボルバーを炸裂させる。

 

 

 閃光が部屋を照らした。人の頭蓋を一撃で破壊して余りある凶弾は、しかし標的に当たらない。

 

 

 嶺岸明日香と名乗った白髪の少女は、類いまれなる動体視力で射線を見切ると、首をわずかに傾けるだけで銃弾を回避。腰の裏から肉厚のサバイバルナイフを抜き、地面を切りつける。跳躍。疾走。モルガナに鋭く斬撃を仕掛けた。

 

 

 攻撃を仕掛けられ、モルガナは反射的に瞼を──瞑らない。

 むしろ目を見開き、明日香の隙を狙う。

 

 

「凄いな……」

 

 

 古明地葵はその光景を眺めながら、モルガナと協力して戦うために参戦することを躊躇していた。

 あの速度で動き回っていると、自分の攻撃がどちらに当たるか判らない──とか、そういう理由ではない。

 葵は現役の世界最強の魔女だ。凄まじい速度だとはいっても、余裕をもって対応できる範疇である。

 

 

 ではなぜ彼が動かないのかというと、拘束されたノエリの安全を守るため、二人の攻撃の余波を防いでいたからだ。

 いま葵がノエリの元を離れれば、跳弾や飛んできた石片などで怪我をしてしまうだろう。

 それを思うからこそ、葵は動けなかった。

 

 

「それに」

 

 

 モルガナが守るべき生徒──つまりノエリが居る空間で躊躇することなく銃を扱えているのは、ノエリの近くに古明地葵が控えているおかげだ。葵ならば、どんな流れ弾であろうと防ぐという信頼。

 

 

 やや重たい思いだが、モルガナの信頼を裏切りたくない。

 ゆえに葵は状況を静観するしかなかった。

 

 

「んん、んんん!」

「ノエリ?」

「んんんんん!」

 

 

 その時。石台に縛り付けられたノエリが暴れ出す。

 腕が鬱血するほどの強さで拘束されているのだ、いくら身をよじっても縄から逃れることはできない。

 けれども、激しい痛みを感じているだろうに、ノエリは決して拘束を破ろうとする意志を緩めなかった。

 双眸に強い光を宿して葵──今のノエリにとってみれば、包帯で顔を隠した不審者だろうが──を睨みつける。

 

 

「分かった」

 

 

 彼女に聞こえないよう、小さく囁く葵。

 指先に魔力を集中させ一閃。瞬きほどの時間ですべての縄が切断され、ついでとばかりに猿轡が外された。

 体液を多く含み、重さを持った布がノエリの口元から落ちる。緊張と恐怖に粘度を増した唾液が唇の端から零れる。

 ノエリは涙を浮かべたまなじりを拭うと、

 

 

「貴女は学園長の仲間ですよね?」

「────」

「頷くばかりで、返答がないのが不安なところですけど」

 

 

 無言の肯定に眉を寄せたノエリ。 

 しかし頭を振って切り替え、いまだ戦闘を続ける二人に視線を向けた。

 

 

「あそこに私が入っても足を引っ張るだけですね。貴女は参戦しないんですか?」

「────」

「……なるほど。私の護衛を」

 

 

 ノエリの額を貫かんとして飛んできた銃弾。葵はそれを指で摘まみ、彼女の眼前でひらひらと振った。

 守られた、と理解したノエリは一瞬だけ悔しそうな顔をする。世界最強の魔女を目指しているのになんて無様。

 けれども文句を垂らしている暇はない。見たところ、この包帯女は学園長に匹敵する実力者なのだろう。そんな人が自分を守るために手をこまねている。その事実はノエリのプライドをひどく刺激した。

 

 

「邪魔をしないように私はこの部屋を出ます。そうしたら貴女は学園長と一緒に戦ってあげてください」

「────」

「確かに罠があるかもしれません。ですが足を引っ張るだけなんて嫌なんです。何もできないなら、せめて邪魔はしたくない」

 

 

 褐色の瞳を真っすぐに向ける。

 ノエリは唇を引き締めると、粉砕された扉の残骸近くに開いた穴、つまり部屋の入り口に視線を移した。

 

 

「守っていただき、ありがとうございます」

「────」

「武運を祈る、ですか? どちらかというと私は逃げる立場なので、祈られる武運もないと思いますが」

「────」

「まあ、仰るとおり、細かいことは気にしないほうが楽ですね。……というか貴女は一言も発していないのに、どうして私は貴女の言っていることが理解できるのでしょう。ついに読心術に目覚めたんでしょうか」

 

 

 ノエリは不思議そうに首を捻る。

 実際には、浅からぬ縁のある古明地葵が相手ゆえに、ノエリは葵の一挙手一投足で意思の疎通を図れたのだが。

 そうとも知らず、彼女は目覚めてもいない超能力に心を躍らせる。

 

 

「────」

「……そうですね。馬鹿げたことに時間を浪費している場合じゃないです」

「────」

「大丈夫ですって。入り口までは五メートルもないですよ? それくらい、私だけで身を守れますって」

 

 

 腕をぐるぐると回すノエリ。

 その場で軽く跳ねると、鍛え上げた足腰のバネで走り出そうと、

 

 

「──嘘、でしょ」

 

 

 最初の一歩目で足を止めた。

 否。止めた、ではない。止められた。

 入口に現れた見覚えのある影によって。

 

 

「小牟田式子……?」

 

 

 闇をそのまま溶かしたような黒髪の少女。

 彼女には全く相応しくない冷徹な表情ではあったが、それ以外の要素が、雄弁に少女の正体を語っていた。

 

 

 そこに立っていたのは、正真正銘、小牟田式子だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する(作者:あに)(オリジナルファンタジー/日常)

身体がちょいとガタつくけど、大丈夫。▼僕はみんなのお兄ちゃんだからね。▼カクヨムの方にも投稿してます


総合評価:3298/評価:8.31/連載:20話/更新日時:2026年05月16日(土) 17:04 小説情報

厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった(作者:灰鉄蝸)(オリジナル現代/恋愛)

「キミが好きだよ。だから殺すね」▼「あなたが好きです。好きなので洗脳しますね」▼「俺の死因多すぎるだろ…」▼異能バトルも伝奇ホラーもある世界で、バッドエンドの元凶になるような厄い美少女に好意を抱かれる――好意全開の金髪巨乳幼馴染み、ややホラーな超能力者の黒髪ロング同級生、彼女たちが引き起こす破滅の未来に巻き込まれる少年。▼愛が重くて、死の原因になる厄ネタヒロ…


総合評価:3703/評価:8.83/連載:31話/更新日時:2026年05月26日(火) 18:03 小説情報

和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?(作者:鬼怒藍落)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一般和風好き転生者VS曇らせと理不尽と絶望▼ファイ!▼カクヨムにも出します


総合評価:3595/評価:8.04/連載:42話/更新日時:2026年05月07日(木) 07:10 小説情報

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4152/評価:8.84/連載:74話/更新日時:2026年05月25日(月) 08:07 小説情報

不老不死、自分が過去に設立した組織に加入する。(作者:RGN)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

なお、かつての仲間は全員上位種で、色々と主人公への感情を拗らせまくっているものとする。


総合評価:4329/評価:8.1/連載:5話/更新日時:2026年05月12日(火) 23:48 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>