魔力量3の魔女は潜入先の魔法学園の伝統を破壊してしまいました! 作:底辺作家
「精霊の加護もユニークスキルとしては非常に強力なんだけど、他と同じようにデメリットがある。それが『魔法』が使えないというものなんだよね」
「それって、まさか……」
「フェイリアが魔法を使えなかったのも、ユニークスキルが原因ということになるかな」
フェイリアは驚きで開いた口を両手で覆い隠す。今まで苦労してきた理由がユニークスキルが原因となれば、驚くのも無理はない。でも、ここで終わらせると精霊の加護に良くない印象を持ってしまう。
印象が固まってしまう前に、私は間髪を入れずに補足することにした。
「もっとも悪いことばかりじゃない。むしろ、ユニークスキルは恩恵の方が非常に大きい」
「そうなんですか?」
「うん、精霊の加護の持ち主は、まず精霊に好かれるための圧倒的な魔力を与えられる」
「でも、制御できなければ意味が……」
「そうなんだけど、発現するのは平民の場合も少なくないからね。多くの場合は、魔法が使えないことがデメリットにならなかったんだ」
「なるほど……」
「もう一つは、精霊魔法というもの。魔法と付いているけど、精霊魔法は魔力の操作による一般的な魔法とは違って、精霊に魔法を使わせるものなんだよね」
「精霊に魔法を……」
一気に説明をしたけど、フェイリアは消化しきれていないようだ。何しろ、魔法を使うのではなく、精霊に使わせるというのは精霊の存在を認識してこなかったフェイリアには初めてのこと。
「難しく考えなくてもいい。精霊にお願いする、だけでいいと考えれば難しいことじゃないし」
「お願い、ですか?」
「そうそう、精霊の加護によるお願いを精霊は断れないから。例えば平和を願ったら、国全体に結界が張られることもある」
「そ、それは……」
フェイリアには心当たりがあるのだろう。これまで祠で祈りを捧げていたお願いに、似たような内容が入っていたと想像が付く。そうでなければ国全体を覆うような結界を簡単に維持することなど不可能だからだ。
「王国を守る結界。それを作り出していたのはフェイリアだよ」
「えっ、聖女様じゃないんですか?」
「当然でしょ。聖女が魔力量が高いと言っても、国一つ覆う結界を維持するなんて無理だからね。仮にできたとしても、平然とはしていられないわ」
私の言葉を聞いて、フェイリアは腑に落ちたように視線をわずかに落とした。しばしの時間、彼女が思考を整理している間、私は紅茶の香りを楽しむ。
ちょうど紅茶を飲み終わるくらいになって、フェイリアは視線を戻した。
「たしかに、私の魔力をもってしても、王国全体に結界を張るのは難しいです。でも、そうだとすると、精霊魔法は物凄い力を発揮するのではありませんか?」
「そう。普通に使ったら数百人単位による儀式が必要な魔法ですら、使うことができる。それが『精霊の加護』の本当の力だよ」
「もし、滅んでほしいと願ったら──」
「当然、精霊によって未曽有の災害が立て続けに起こって滅ぶだろうね。でも、精霊の加護を与えられる人間は純粋な人間だけなんだ。何しろ精霊自体が純粋な存在だから」
だからこそ、フェイリアはあそこまで不遇であっても王国を見捨てることができなかった。だからこそ、私はフェイリアが自ら国外に出ることを選ぶように彼女の可能性を示して支援した。
と、それはあくまで建前。私自身がフェイリアと一緒にいたいと思ってしまったからというだけの話だった。
でも、精霊の加護の有用性を少し強調しすぎたせいか、逆にフェイリアは不安な表情になってしまう。
「もしかして、私じゃなくて私の『精霊の加護』が目当てだったのですか?」
「それは違うかな。依頼を受けて学園に入ったけど、『聖女』のスカウトだからね」
「えっ、でも聖女はシャーリーさんじゃ……」
「そう。だけど、あんなのスカウトしたくないし。どうせスカウトするならフェイリアさんの方がいいかなって」
「ふふふ、私は聖女ではありませんけど」
「いいのいいの。私が聖女だと言い張れば問題ないんだから!」
私の飛躍したこじつけにフェイリアの表情が緩み、可笑しそうに微笑んだ。
おそらく、自分自身ではなく、精霊の加護というラベルで見られていたんじゃないかと不安になったかと思ったのだろう。だけど、私はそんなラベルに惑わされることはない。これまで学園の常識を打ち破ってきたという実績による信頼も追い風になっていた。
「そういうわけだから、心配する必要はないよ」
「そうみたいですね」
それから少しの間、話をしてお互いに理解を深め合った。わだかまりの消えた私たちは、残る数日の船旅を楽しんで、港町サイゼへとたどり着いた。
「んー、やっと帰ってこれた!」
「ここがルミナさんの住んでいる街ですか?」
「いや、違うけど」
「えっ?! でも、帰ってこれた、と……」
フェイリアは不思議そうに首をかしげる。ここは私の住んでいる街ではない。
旅に出た私がアレクシスに捕まって、依頼を押し付けられた街である。
「学園に行く前、私は休暇を取って旅行に行ってたのよね。でも、あの男が依頼を強引に押し付けてきて……」
「ところで──今、どこへ向かっているんですか?」
「あの男に捕まった宿よ。依頼のせいで泊まれなくなっちゃったから、帰ってきた時に泊まれない、なんてことがないように言っておいたの」
フェイリアは私の言葉を聞いて、またしても不思議そうに首をかしげた。私とアレクシスの関係を知らなければ、およそ理解できない話だからしかたない。
「ま、見れば分かるわ。さっそく行きましょう」
「わ、わかりました!」
繁華街の喧騒の中を抜け、裏通りに入っていく。
「この通りを入っていった先に宿が──あれ?!」
「何もありませんけど……」
「そ、そんなはずは……!」
焦って周りを見回すけど、泊まろうとしていた宿だけが、忽然と消えていて土地は更地になっていた。
アレクシスを信じた私がバカだった。彼の実力なら、宿が潰れないようにすることなど造作もないと思っていたし、本人も余裕だと言っていたから信用していた。
「まさか潰れたなんて……これは1年くらい休暇をもらわないといけないわね」
これは文句を言うだけでは済まされない。きっちりと補償してもらわないといけないとダメだろう。
「あれ、お姉ちゃん? ホントに帰ってきた!」
腕を組んでウンウンとうなずいていると、背後から声をかけられた。振り返ると、潰れた宿の一人娘であるサラが立っていた。
「サラちゃん?! 大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。アレクシスのおじちゃんに、今日あたり戻ってくるから迎えに行くように言われたんだ」
「そうなんだ。でも、宿は……」
「ふふふ。きっとびっくりするよ!」
そう言って、サラは嬉しそうに駆け出した。この時の私は予想外のことがあまりに多すぎて、サラの着ていた服が信じられないほど高級なものになっていることに気付いていなかった。
「えっ、ナニコレ?!」
「船が──屋上に?」
サラに連れられてきたところには、空高く聳え立つ塔のような建物が建っていた。何よりも目を引くのは、屋上を占拠している巨大な船だった。
「どう? 凄いでしょ!」
「そりゃあまあ、凄いけど──」
センスは悪いかな、という言葉を辛うじて飲み込んだ。そんな私の気持ちを知らないサラは、手を引いて中へと入っていった。
「えっと、『ホテル・マリーナ・ベイ・アレクシス』?」
名前からして嫌な予感しかしない。入りたくなかったけど、時すでに遅し。建物の中に足を踏み入れてしまっていた。
「やれやれ、やっと帰ってきましたか」
私を出迎えたのは、眼鏡を掛けたイケメン風の男──アレクシスだった。