『虚飾』から始めるヒーローアカデミア 作:百合カプはいいぞ
「「「個性把握……テストォ!?」」」
目の前で推し達が声を揃えるのを微笑みながら見ています、私です。
昨年は多くの除籍者を出した『個性把握テスト』の時間がやって参りました。目標は一位……ではなく、去年よりも記録を伸ばすことだ。具体的には去年出せなかった『∞』の記録を出したい。去年はできなかった飛行魔法をできるようにしてきたから可能性は大分あるはず。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事、出る時間ないよ」
相澤先生の言い方は冷たいが、事実である。特にこの世代は事件にめちゃめちゃ巻き込まれるから本当に時間は無駄にできない。
そもそも雄英は『自由な校風』が売り文句。それは先生側もまた然り。だからこそ初日に学年のほとんどを除籍にするという行動も許されるんですね。去年のは流石にやり過ぎて減給させられたって山田先生言ってたけど。
「中学の頃からやってるだろう?個性使用禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ文部科学省の、怠慢だな」
先生の言い分には一理ある。個性を持つが人口の八割を占めるこの世界において、個性使用禁止の体力テストは非合理的もいい所だ。異形型のように本人の意思では解除できない個性だってあるのだし。
「虚、こっち来い」
そんな去年も聞いた説明を呑気に受けていると、相澤先生から手招きをされる。……もしかしてデモンストレーション私がする感じ?かっちゃんの仕事じゃないの?え、普通に嫌なんだけど!?
まぁ恩師でもある相澤先生に真正面から文句を言うことなんてできず、渋々前へと出る。
「お前、中学のソフトボール投げの記録は?」
「……9mです」
…………公開処刑だ。屈辱である。
一応入試主席だったから去年もやらされたんだよー!!これでも頑張った方なんだよ!?この身体美しいけど筋肉が全く付かないの!未だに腕立てでプルプルするんだから!
「じゃ、個性使ってやってみろ」
「……はい」
解せぬ。相澤先生は恥ずかしいって感情とは無縁なんだろうな。合理的な人だから個性禁止と個性ありの差が激しい私を選んだんだろうけどさぁ……こう、もっと生徒の気持ちを考えて欲しい。
とはいえ、テスト自体は真面目にやろう。計測は二回だから、最初は去年と同じ方法で。二回目に飛行魔法のお披露目といこう。怒られる気がしないでもないが、デモンストレーションだしわかりやすい方がいいでしょ。
とりあえず……
「ムラク」
飛行魔法を使うにしろ使わないにしろ、重力軽減はしておくだけお得だ。権能があるからマナ切れは起こらないし。
線のぎりぎりに立ち、手を掲げる。角度は丁度、45度。
どうせ『見間違え』にするのだから、ありったけのマナを使おう。
「……アル・フーラ」
本来は大きな範囲で起こす風魔法を、掌から集中的に放つ。刃のような鋭い風ではなく、ボールを包み込むように柔らかく。風に仰がれたボールは一瞬で私の手元から、遥か遠くへと飛んで行った。着地点は……遠すぎて見えない。
「まずは自分の最大限……それを知ってもらう。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」
記録は……4,677m。去年よりも大分伸びたみたいで安心だ。去年は『アル・フーラ』どころか『ウル・フーラ』すらまだ完全に制御できてなかったから『エル・フーラ』でやったけど、1000mをちょっと超えたくらいだったし。やはり魔法は偉大。
「4,000m!?」
「何これ、面白そう!」
「個性思いっきり使えんだ、流石ヒーロー科!」
クラスのみんなは私の記録に大騒ぎしたり、個性が思いっきり使えることでざわざわしている。確かかっちゃんの記録が700mくらいだったよな……でもお茶子ちゃんが『∞』出すからなぁ。
「面白そう……か」
「…………」
その一言で相澤先生の不穏な雰囲気を感じ取ったのか、みんなは一斉に押し黙る。
「ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごすつもりなのかい?」
あぁ……始まった。相澤先生は半端にヒーローを目指す者は容赦なく除籍する。雄英はヒーローになるための場所であり、決して『面白そう』だけで生き残れるような場所ではないのだ。白雲朧の件もあるのだろう……『誰かのために命を賭すヒーロー』にならないように、生き残れる実力をつけさせるために。
「よし、八種目トータル成績最下位の者は、『見込みなし』と判断し除籍処分としよう」
「「「はぁ~~~~!?」」」
「厳しいですね……相変わらず」
誰に言う訳でもなく、そう呟く。先生の宣言には、何人か――特に緑谷君、青山君辺り――が顔を青くしていた。逆に、去年経験した私や推薦入学者の八百万さんや轟君、才能マンのかっちゃんなんかは余裕そうな顔をしている……私はいつも通り微笑んでいるだけだけど。
「生徒の移換は俺たちの自由……ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
そうして、最初の苦難である『個性把握テスト』が始まった。
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第一種目、50m走。
ここで目立っていたのは飯田君だろう。個性『エンジン』……短すぎる距離では加速しきれないが、記録は4秒04。前世なら世界記録を優に上回るだ。あと飯田君の影に隠れてたけど梅雨ちゃんも6秒切ってる……速くない?
「次、虚と麗日」
先生に呼ばれたからスタート位置へと着く。飯田君には悪いが、50m走は私が目立たせてもらおう。クラウチングスタートのための設備はあるが、目線を下に下げると上手くイメージができないためそれは使わない。
『位置について……よーい』
機械から聞こえる可愛らしい声。私はスタートの合図と共に目の前の『ゲート』へと飛び込む。
『0秒53』
僅かにラグが出てしまったらしい。まぁ去年はなんちゃって陽魔法によるごり押しだったからそれよりはマシか。1秒切れたし、十分でしょ。
「「「0秒53!?」」」
「やべー!なんだよ今の!」
「転移系の個性?でもハンドボール投げの時とは違ったように見えた。複数個性とか?でも転移だけでも十分珍しいのに……物体とか、空間系の個性の可能性もあるか…………」
今のは作中でもベアトリスが使ってた陰魔法だ。詳しい名前は知らないけど、『扉渡り』の下位互換というか、基礎にあたる魔法なのだろう。去年一年間の訓練でようやくものにできた魔法の一つだ。『アル・シャマク』の異空間のイメージを掴めれば割とすぐに習得できた。……やっぱり陰魔法って便利なんだなって。
「今の凄かったね!飾ちゃんってどんな『個性』なの!?」
「ケロ、私も気になるわ」
「……お二人とも、ありがとうございます。先ほどのは習得に苦労したので、そう言っていただけて嬉しいです。個性に関しては……そうですね、テストが終わるまでは秘密ということで」
「えぇー!!」
さて、ここからはダイジェストで行こう。
第二種目、握力。
私が一番嫌いな種目だ。なんちゃって陽魔法でも平均しか出ない。
虚飾、記録――26.0㎏。
「……まぁ、こんなものですかね」
魔法使ったのに平均……別に悔しくないもん。ホントだもん。
第三種目、立ち幅跳び。
結構な数の人が砂場越えを記録した種目だ。その中でも私は特に目立っただろう。
「先生、この場合記録はどうなりますか?」
去年一年間で覚えた飛行魔法があるからね。火と風と土を組み合わせるってことは知ってたけどどう組み合わせるのかはわからなかったから完全に手探りだった。魔法を扱うようになって十年間コツコツ試して去年ようやく覚えたのだ。誰か褒めて。
「……その状態は、どのくらい持つ?」
「半日程度なら、問題なく」
「自分の力量を見定められているならいい。お前の記録は『∞』とする」
「「「『∞』!?」」」
「すっげー、『∞』が出たぞ!」
第四種目、反復横跳び。
……頑張ったけど無理。幅が狭すぎて魔法じゃ無駄が多すぎる。なんちゃって陽魔法で誤魔化したけど、去年よりもちょっと伸びただけだ。
記録――54回。
第五種目、ボール投げ。
「……お前」
「なんでしょうか、相澤先生?」
相澤先生は私を睨み……つけてはいないが、非難の目を向けている。私の投げたボールは、そのまま宙に浮かんでいた。飛行魔法が便利すぎる。『ムラク』との併用で比較的少ないマナで運用できるのもグッド。
「何故先ほどそれをしなかった?」
「おや……デモンストレーションなのですから、わかりやすい方がいいかと。ご迷惑でしたか?」
「……いや、いい。これも記録は『∞』な」
その後、無事にお茶子ちゃんも記録『∞』を出して、出席番号が並んでいるから二連続で『∞』が出た形だ。後で同じ『∞仲間』として話しかけに行こう。
ちなみに緑谷君は原作通りに進んだ。相澤先生が個性発動する時、髪と一緒に捕縛布も浮かぶのいいなって思いました。
第六種目、上体起こし。
この身体に腹筋なんてあるはずもなく。でも反復横跳びよりは魔法の制御も簡単だからそれなりに良い記録は出せたと思う。陰魔法便利~。
記録――37回。
第七種目、長座体前屈。
この種目で活かせる個性って『軟体化』とか『腕を伸ばす』とかそんなのぐらいじゃないかな。私も魔法使わなかったし。この身体柔らかくて良かったなとつくづく思う。
記録――54㎝。
最終種目、持久走。
……まぁ、短距離走の繰り返しですね。やっぱり陰魔法が便利すぎる。
記録――5秒。
こうして、『個性把握テスト』は終了した。
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「んじゃーパパっと結果発表。トータルは単純に、各種目の合計を足した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので、一括開示する」
こういう所が学校生活の中における相澤先生の大好きな所。一々順位発表するのは、盛り上がるかもしれないけど時間かかるから私も嫌いだ。
先生が結果を表示する。一番上の一位には……『虚飾』と書かれていた。
…………ふぅ、一先ず安心。万能性では流石に八百万さんの『創造』には敵わないし、点数の基準もどうなってるのかわからなかったから不安だった。この世代優秀だし。私以降は見た感じ原作通りみたいだ。まぁ今まで彼らと関わってきたわけではないから、ここで変化が起こるなんてありえない。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」
「「「はぁーーー!!??」」」
その発言が虚偽なんですよね。『除籍』が嘘なら私は留年していない。
「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」
「…………」
本当なんだよなぁ……言う意味がないから言わないけど。相澤先生も「余計な事は言うなよ?」と言いたげにこっちを睨んできてるし。言いませんよ、だから一瞬だけ睨むのはやめてください。睨まれながら笑みをキープするのって難しいんですよ?
「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目通しとけ」
それだけ言うと、相澤先生は一人戻っていった。……先生の向かった先からオールマイトが緑谷君を見てるのが何度か見えたけど、暇なのかな?わざわざ制限時間のあるマッスルフォームまで使って……。
「飾ちゃん!テスト終わったから教えてよ、貴女の『個性』」
「おや、芦戸さん」
相澤先生が去っていく後ろ姿を見ていたら、芦戸ちゃんに声をかけられる。そういえばそんな約束もしてたっけ。
「私も気になりますわ、虚さんの『個性』」
「俺も俺も!なんか色々やってたよな!」
芦戸ちゃんを皮切りに、八百万さんや切島君、その他ほとんどのクラスメイトが私の話を聞こうと近づいてきていた。興味なさそうにしてるのはかっちゃんだけかな……でも一応聞ける範囲にいる辺り、私のことは意識してるっぽい。
「約束ですからね、お話ししましょう……私の個性は『魔女』。簡単に言えば魔女っぽいことならなんでもできる個性です」
当然、『
「『魔女』……つまり、色々やってたのは魔法ってこと?」
「その認識で間違いありません。ボールや自分を浮かせたり、ワープしたりは魔法を組み合わせて行っています」
「すげー!マジで何でもありの個性じゃん」
「確かにその通りですね。最も、制御は簡単ではありませんし、自分の中にあるマナが尽きれば何もできなくなってしまいますが」
そのデメリットを含めても、十分強個性にあたるだろう。……まぁ、これが『個性』かと問われると、首を横に振るしかないのだが。
その後も教室に戻りながら、私はみんなから質問攻めを受けた。去年一年が灰色だった分、青春してるなーと思うといつも取り繕っている笑みが、本物になったような気がした。
「飾ちゃん、一緒に帰らない?」
放課後、私は芦戸ちゃんにそう誘われていた。入学式で早帰りの今日は友達と寄り道をするのに最適だろう。しかし残念かな、その誘いは受けられないんだ。
「申し訳ありません、本日は少々予定がありまして」
「そうなの?じゃあ、また今度誘うね!バイバイ」
「えぇ、さようなら」
私はこれからB組で知らない人を探すという予定がある。今年は私の影響で枠が一人増えて、B組も21人のクラスになった。その空いた枠に誰が入ったのか、できるだけ早めに知っておきたい。
B組はA組の隣の教室のため、教室を出てからすぐに着く。先ほど管赤先生……ヒーロー名『ブラドキング』が教室を出て行ったためHRは終わったのだろう。
B組の教室を覗けば、まだ誰も帰っていないようで多くの生徒が話に花を咲かせていた。あれは物間君だね。金髪は目立つし最終決戦のキーパーソンだから印象に残ってる。あそこにいるサイドテールは拳藤さんかな?あとは……名前が色んな意味で凄いで有名の庄田二連撃君もいる。
そうしてB組の教室を確認していると、ふとその人物が目に入った。
「………………は?」
雪を映したように儚げな純白の長髪。理知的な輝きを灯す黒色の双眸は見開いているものの、こちらを確かに見据えている。
「…………エキ、ドナ……?」
パンドラと同じ『大罪魔女』にして、『強欲』の名を冠した……あらゆる叡智を追い求める『強欲の魔女』エキドナが、そこにいた。
・パンドラ成り主
個性把握テストで無双したことで、かっちゃんに早くも劣等感を与えていることに気が付いていない。
・エキドナ成り主
あらすじにも書いてあるけど本物ではない。
でも見つけたら警戒するよねって話。