『虚飾』から始めるヒーローアカデミア 作:百合カプはいいぞ
小説に限らず創作をしていると、キャラが勝手に動き出すことがよくあります。今回は特にそう感じた。元々は普通に放課後デートさせるつもりだったのに、なんかしっとりしちゃった……。
ヒロアカ世界の法律などについて、独自設定が出てきます。ご注意を。
突然のことではあるが、この世界の日本の法律は割と同性愛に寛容である。おそらく個性というものがある影響なのだろう。同性婚も普通に認められているし、当然遺産の相続なんかも前の世界で言う配偶者と同じ権利を持つことができる。
というか、私達からすればこの世界は同性カップルの割合がかなり多いように思えた。いくらパンドラの美貌を持っているとはいえ、共学の中学校で同性から告白された数は異性からのそれとほとんど同じだったし、学校に普通に女の子同士のカップルもいた。
何が言いたいかと言うと、別に私とエキドナが街中でデートをしていたとしても、それはありふれた光景であるということだ。いや私達の容姿は優れてるから注目はされるにはされるだろうけど。それでも人々からすれば例え恋人繋ぎをしたり、明らかにカップルです的な行動をしても「顔の良いカップルが歩いてる…………」程度の認識だろう。
それが、私にとってはとても好ましい。前世では少しずつ認められてきていたとはいえ、まだまだ一部からの風当たりは強かった。それがない今世はとても居心地がいいのだ。……別に前世で恋人がいた訳じゃないけど。
「すみません、お待たせしてしまいました」
「あぁ、実に待ったよ。連絡してくれたから問題はないが」
「……そこは「全然待っていないよ」と言うのが相場なのではないですか?」
「それは物語の中だけの話だろう。無理して見栄を張るよりも、素直な気持ちを伝え続けた方がお互いのためだと思うが」
「……まぁ、一理ありますね」
戦闘訓練を終えた私は、クラスメイト達からの質問攻めをなんとか三十分程度で捌ききり、B組の教室へと赴いていた。昨日の今日でしかも仮契約ではあるが、恋人らしく一緒に帰ろうという話になったのだ。
連絡は入れていたものの、予定よりも遥かに遅れた時間に焦りながら教室へと入ると、中にはエキドナ以外の人の姿は見えなかった。みんな帰るの早すぎじゃない……?A組は緑谷君を待つ人が結構残ってるのに、この差は一体……。
「さて、行こうか」
「えぇ、そうですね」
まぁ考えたって意味なんてないから、思考を中断して戸締りをする。個人的なイメージでしかないけど、こうやって自分達で教室の戸締りをするのって高校生らしい感じがあるよね。
「それじゃあ、ボクは鍵を返してくるから、適当に待っててくれ」
「では職員室の前にいます」
「了解」
明日には忘れてしまいそうな日常会話をしていたら、早々に職員室へと辿り着いた。
外は既に黄昏色に染まり切っており、もう少しで夜の帳も降りるだろうという時間だ。原作で緑谷君がかっちゃんへ個性のことを告白するのもこの時間帯だったが、もしかしたらかち合う可能性もある……?見てみたい気はしなくもないが、流石にそのシーンに居合わせるのは居心地が悪い。
「お待たせ」
「えぇ、お待ちしてました。では、帰りましょうか」
「そうだね」
そんなことを考えていると、鍵を返し終えたエキドナが帰ってきた。まぁ、もしも居合わせたらその時はその時か。最悪権能でも魔法でもいいから姿を隠そう。
エキドナと並び立って会話をしながら、靴箱のある昇降口へと向かう。
「そういえば、B組は今日が個性把握テストでしたね。結果はどうでした?」
「…………概ね、順調だと言える程度かな」
「それは研究の進捗が一ミリもない理学生が使う、最も信用のない言葉では……?」
ふと、B組の個性把握テストの結果が気になりエキドナに聞いてみるが、思い出したくもないと言いたげな渋い表情をされてしまった。原作でのエキドナの運動神経は赤ちゃんにも劣るくらいには貧弱(私の偏見)だが、魔法が使えるのだからそこまで問題にはならないのではと思うが。
「今まで運動を避けてきてはいたが……正直自分でも驚いている。まさかソフトボールを投げるだけで肩が脱臼するとは」
「……それは……その」
「腹筋なんてまともにできないし、反復横跳びなんて開始の一歩目でこけた」
「……………………」
「……なんだい、その目は」
「いえ……なんでも、ありませんよ」
聞いてて可哀そうに思えてきた。というかそんなに貧弱なんだ、エキドナって。肉体強度が低く運動神経もからっきしのイメージは持ってたけど、まさかそこまでとは。
「まぁ一位だったんだが、釈然としない結果であったのは事実だね」
「一位だったんですか!?その醜態で!?」
「おいコラ、醜態とはなんだ醜態とは」
聞いているだけでも同情するような醜態を晒して一位を取れるって……エキドナが凄いのか今の時点でのB組がそこまで凄くないのか……。思わず素が少し出ちゃったよ。
「……意外と愉快なんだな、パンドラは」
そんなことを思っていると、エキドナがふと笑いながらそう呟いた。
「愉快、ですか?」
「あぁ。パンドラは割と淡泊というか、感情の波が一定の印象があったんだがね。改めて話していると、表情こそ変わらないが雰囲気が結構変わっていてわかりやすいし、会話の応酬にも応じてくれる。こちらを気遣う物言いもできる。ボクにとってみれば、会話もしやすくて非常に好ましいよ」
聞けば、エキドナからそう返ってくる。
「……そんなに、わかりやすいですか?」
「ボクからすればね。普通の人にはわからないと思えるほど微弱な変化だ」
そうなのかな。普段自分のことを俯瞰して見る機会がないから、わからないや。
「そうだ、言い忘れていたのですが……おや」
あれからしばらく雑談を挟みつつ、私達以外誰もいない昇降口で靴を履き替え外に出ようとすると、ある光景が目に入ってきた。
その光景を見た瞬間、私はエキドナの手を掴み咄嗟に
「パンドラ?」
「静かに……彼ら、見えますか?」
そう言って私が指を指した先には彼ら――緑谷出久と爆豪勝己がいた。おそらく私が危惧していたように、原作のあのシーンにたまたま出くわしてしまったようだ。
「彼がどうかしたのかい?ボクの記憶では、君のクラスメイトだったと思うが……」
「……彼らが、原作の主人公とそのライバルです。それに、あのシーンには見覚えがあります……どうやら原作のシーンとたまたま出くわしてしまったようですね」
「ほう、彼らが!」
何やら興奮している様子のエキドナは放っておいて、緑谷君とかっちゃんの様子を見る。
『僕の個性は……人から授かった、個性なんだ』
「って、エキドナ!何してるんですか!?」
「何って、鑑賞だよ鑑賞。折角原作のワンシーンに立ち会えたのだから、このくらいしても許されるだろう」
「やってること思いっきり盗聴ですよね!!普通に犯罪ですよ!?」
どうやり過ごそうか考えていると、それなりに距離が離れているはずなのに二人の会話が聞こえてきた。音の出所を探せば、隣で堂々と盗聴(映像も出してるから盗聴と言えるか怪しい、しかも地味に高度な魔法を行使)しているエキドナの姿。その姿に思わず叫んでしまったが、陰魔法のお陰で彼らに音は聞こえていないだろう。陰魔法様様である。
「それにしても、『人から授かった個性』か……興味深いね。個性因子の存在は既に発見されているが、それを他者に移植する技術はまだだったと記憶している。そもそも個性因子の性質はDNAのそれとほぼ同じだ。個性の譲渡とはそれ即ち他者と体を入れ替えるに等しい行為……少量では意味がないだろうし、適合できるかの問題もある。確かに生体を使用して個性を発動できる、あるいは個性の適用範囲になる道具は存在するが、道具にするのと他者に移植し個性を移すのとでは難易度は雲泥の差だ。いや、この場合は表に出ている情報を疑う方が合理的かな。既に個性が人々に発現してから百年は経った。そういった技術が既に確立されていたとしてもおかしくはない。個性を譲渡する技術なんて、公表したらどんな問題が起こるかわかったものじゃないし、何よりそれ目的で犯罪が起こるのは火を見るより明らかだ。それに因子と銘打ってる以上、技術的には不可能でもないだろう。とはいえそう簡単に譲渡なんてできないだろう……魔女因子と違って、意思を持って他の誰かに乗り移るわけでもない。体中を巡る個性因子を適切に取り除き、適切に他者へ移植する……どんな技術か、増々気になるね。あぁ、そういえば異形型の場合どうなるんだろうか……尻尾だったり触角だったりならまだ切除といった選択もできるが、中には『巨人』のような体全体に影響を及ぼす個性だってある。発動型や変形型の個性因子とはまた違った性質を持っているだろうし、個性因子を取り除くだけで体が無個性の者と変わらない状態になるならば、異形型の体は変化している部分全てが個性因子で成り立っているということになる。しかしそうならば例え怪我をしても血は流れないのでは?血液が成り立つには個性因子だけではなく受け継がれた一般的な遺伝子も必要とする。個性因子だけで成り立っていると仮定すると矛盾が生じるな。だとするなら他のアプローチ方法があるのだろうか……確かボクが前に読んだ論文では――――」
…………こっわ。
ぶつぶつ呟いてる姿が完全に変質者だし、口元も歪んでる。最早原作のエキドナとそこまで相違ないレベルだ。近寄らんとこ。
「パンドラ、彼の個性について何か知っていることは……パンドラ?何故そんなに離れているのかな?」
「………………彼の個性については、知っています」
「本当かい?ならぜひとも教えて欲しい。対価は何がいいかな?ボクが差し出せるものなら何でも差し出そう!知識は何物にも代えられない、貴重な財産だからね!」
「とりあえず、少し静かにしててください。彼の話なら、帰りにいくらでもしてあげますから」
そう言えば、エキドナは随分と現金なようですんなりと口を閉ざした。
『氷のやつ見て、敵わねえんじゃって思っちまった!ポニーテールのやつの言葉に納得しちまった……!クソッ、クソッ!…………白髪のやつを見て、
気を取り直して、緑谷君とかっちゃんの様子を見る。相変わらず隣から音声が聞こえてくるけど、気にしない気にしな……私のこと言ってんじゃん、かっちゃん。ちょっと嬉しいような恐れ多いような。
『こっからだ!!俺はこっから!……俺はここで一番になってやる!!』
かっちゃんのその宣言を、私達は二人で聞き届けた。彼はこれから大きく成長していくことだろう。生まれて初めて挫折して、ずっと下だと思っていた幼馴染に敗北して。それでも、彼の言う通り『ここから』が、彼のスタートラインなのだろう。
「…………実に少年漫画らしいね。主人公に宣言するライバル……彼の今後を見るのが、楽しみになってきた」
「ほどほどにしてくださいよ……?そもそもこの世界の住人にとって、私達はレギュレーション違反のようなものなのですから」
ポツリと、そう呟いたエキドナに釘を刺す。ほどほどにしてもらわないと、それこそ本当にかっちゃんの心が折れるかもしれないのだから。
「今の所、君の方が彼に与えている影響は大きいと思うのだが。先ほども君のことを話題に出していただろう?」
「……私はほどほどに調整していますよ。少なくとも、あの程度で折れるような方ではありません」
私だって完璧に予想できるわけじゃない。でも、本気を出していないだけまだマシな方だと思う。今の様子を見てたら、エキドナなんて楽しくなったら手加減なんて忘れてしまいそうだし。
「まぁいいか。とりあえず彼の個性について聞くとしよう……帰りが遅れるという連絡をしなくてはならないね」
オールマイトがかっちゃんのフォローをしているところを横目に、私は近くの個室の店を探す。『OFA』のことはそう簡単に外には漏らせないし、わざわざ権能を使うにしても条件設定が面倒だ。どこか落ち着ける場所で話したい。折角エキドナが何でも差し出すと言ったのだから、情報料ついでに奢ってもらうとしよう。
「…………さて、彼らも全員去りましたし、行きましょうか」
「行くって、どこに?」
「人に聞かれない所です。彼の個性については、そこで話します。ついでですから、放課後デートとしゃれこみましょう」
雄英の付近にある、個室のある焼き肉店。調べた限りこのくらいしか選択肢がなかったが、最低限人目のないという条件は揃っているから問題ない。強いて言うなら、一般的な高校生では手が出せないような値段であることが問題か。
「……なるほど、情報料としてこの会計をボクが持つということかな?」
「個室ならどこでも良かったので別に奢ってもらうことが目的ではないのですが……まぁ、話が早くて助かります」
とりあえず、入ってしまったのだし注文はしよう。……一番安いのでいいかな。私は普段権能で誤魔化しててご飯なんて食べてないから、安いものでも満足できると思うし。
「…………それで、彼の個性について教えてもらえるかな?」
適当な雑談でお茶を濁しながら過ごしていると、私達の注文が全て届き店員が下がる。ちなみにエキドナは躊躇なく超高い物を注文していた。お金持ちってみんなこうなのかな……。
そして、完全に誰も聞かれていない状態になったのを見計らって、エキドナが切り出した。その瞳には好奇心が渦巻いており、私の言葉を待ち望んでいるのは明白だ。
「彼の個性は『
そんな台詞を皮切りに、一応の保険として権能も使いながら、私は知る限りのことをエキドナに話した。『OFA』の継承のこと、初代のこと、これまでの継承者のこと……そして、諸悪の根源『AFO』のことや、オールマイトの時間制限のことまで。
エキドナは、私の話を静かに聞き続けた。時折グラスを傾けてはいるが、私の話に集中しているのだろうということは、容易にわかる。
「……なるほど。継承する個性に、個性を奪い与える個性か。前者はともかく、後者の個性にはなんだか親近感を覚えるね」
「強欲の権化のような個性ですからね。他作品でも、『強欲』は奪取系統の能力になることが多いですし」
そう考えると、リゼロの権能ってスタンダードから外れてるものが多い気がする。『虚飾』や『暴食』は割と名前のイメージ通りの権能だけど、『怠惰』とか『傲慢』とか、それこそ『強欲』とかは、一般的に名前から想像できるような権能ではない。まぁ、その辺は解釈次第だから何とも言えないんだけど。
「それに……確かに、この話は外ではできないね。オールマイトの弱体化……ただでさえ敵は増え続けているというのに、オールマイトまでいなくなってしまえば、敵の時代が訪れるかもしれない」
「少なくとも、『AFO』がいるのなら確実に敵の時代が来ますね。既に動き出しているでしょうし、オールマイトも想定より弱体化しています。最悪の場合、権能の行使も視野に入れましょう」
今はヒーロー飽和社会。そう簡単には敵の時代は来ないだろうが、AFOがいるなら話は別だ。オールマイトには、是が非でも神野で相打ちになってもらわねばならない。
「……今の話を、ボクにしてしまって良かったのかい?言ってはなんだが、同族とは言えボク達は昨日知り合った程度の仲だ。信頼していると言うには積み重ねた時間が足りないだろう」
適当に焼き肉をつつきながら、エキドナはそう言う。まぁ、彼女の言い分はわからなくもない。仮契約で付き合っているとはいえ、私達はまだ出会って一日しか経っていない。そんな相手に容易く話すような話でないのは事実だろう。
「問題ありません。最悪の場合、権能を使えばいいだけの話です」
「君、そればっかりだな。いや悪いというわけではないが、少し脳死気味になってないか?」
だって仕方ないじゃん。便利なんだもん、『虚飾』の権能。
「それに…………信頼とは、時間だけで決まるものではありませんから。共に過ごした時間が一日に満たない僅かなものでも……貴女が優しい人間だということくらい、わかっているつもりです」
「……………………」
目の前にいるエキドナは、優しい人間だ。私の提案を無下にせず、尊重してくれる。私が話をしている時も、静かに耳を傾け、こちらを気遣ってくれていた。それに、今の私の話を聞いて利用するような人間は、わざわざそんなことを聞かない。やるなら、黙ってやるか、原作のエキドナのように言葉巧みにこちらを騙してくるだろう。
「……優しい、か。そんなこと、初めて言われたよ」
それからしばらく、私達の間に会話はなかった。ただ黙々と食事を済ませ、店を出る。会計は値段が値段だから流石に申し訳ないと思い、せめて割り勘にしようと提案したが、「これは情報料だから」と断られてしまった。
外は既に暗闇に染まり、既に高校生は家に帰る時間帯だ。元々は恋人っぽい放課後デートをしようと計画していたのだが、完全に狂ってしまった。まぁ、これからも機会はあるだろうし、焦らず行こう。
「…………君は、この世界の未来を知っている」
どこに向かうわけでもなく歩き出したエキドナに着いていくと、ふとそう言われた。言葉の意図が読み取れず、ただ曖昧に肯定することしかできない。
「ふと気になったんだ……君は、未来を変えたいのかい?それとも、変わらない未来を眺めたいのかい?」
そこまで言われて、理解できた。私には、選択肢がある。力も持ってる。未来を捻じ曲げ、無理やりにでもハッピーエンドやバッドエンドを作ることができてしまう。だからこそ、エキドナは気になるのだろう。私は何を考えているのか。
「……物語は、既に始まっています。まだ序章ですが、今年は激動の時代が訪れます」
「………………」
「どうすれば良いのか、私にもわかりません。私の権能は無法なもので、すべてを救えると言っても過言ではない代物です」
「……そうだね」
「ですが同時に、変えてしまうことを恐れている自分がいます」
人は変化を恐れる。既知は安心であり、未知は不安。それが人間に刻まれている本能だ。
「だから、流れに身を任せるしかないと……そう、思っています」
だから私はそう結論付けた。結局の所、未来はわからないのだから。
「えい」
「っ……エキドナ?」
そう思っていると、不意に手を握られる。指も絡めていない、ただの手繋ぎだ。
「人は、人に触れると安心するという研究結果がある。脳内ではオキシトシンが分泌され、ストレスや不安も軽減されるんだ。手を繋ぐ程度のスキンシップでもね」
「それは知っていますが……なぜ?」
「不安そうな雰囲気だったからね。未来を知っているが故に、変化を恐れている。それは君だけの悩みでしかないし、ボクに解決することはできない」
でも、とエキドナは続ける。その理知的な瞳は優しく微笑み、私の目を確かに捉えていた。
「こうやって不安を和らげることはできる。話を聞くことだってできる。解決はできないとしても、これは同じ転生者であるボクにしかできないことだ。それにほら、仮契約とはいえ一応ボク達は恋人という関係だ。少しは頼ってくれて良いんだよ?」
「…………まだ、出会って一日ですが」
「信頼は安心に直結する。安心できる要素が増えれば、人は不安を感じにくくなる。信頼は時間だけでは決まらないと君は言った。君の不安を解消するのに、ボクでは役不足かな?」
やっぱり、このエキドナは優しい。それも底抜けに。『同族』という色眼鏡があったとしても、ここまですることは普通できないだろう。
「………いいえ……暖かいですね、エキドナの手は。少し、安心する温度です」
「そういう君は少し冷たいね」
「冷え性なんです。この時期はまだ気温も高くないですし」
ぽつりぽつりと会話を続けながら、私達は夜の街を練り歩く。人通りは少ないが、それがむしろ居心地の良さを増している。
「……私は、この世界を楽しみたいのです」
思い出すのは、十年前の私の原点。この世界を、パンドラになりきって楽しむこと……それが、私の目標だ。前世の分まで、今世を楽しみたい。
「無理に本来の物語を変えるようなことはしません。でも、私達がいるなら確実に未来は変わります」
思い出すのは、去年の一日限定だったクラスメイト。地味ではあるが、私が起こした確かな変化だ。
「例え変わったとしても、その変わった未来も楽しみたいのです。……今までも、楽しめていると思います。少なくとも、今日の戦闘訓練は楽しいと思いました。でもたまに、不安になるのです」
未来を知っているということは、何を選択するにしても責任を伴うということ。例え救おうが、見捨てようが……知っているのなら、責任が生じる。こうやって関わっているのなら尚更だ。少なくとも、私はそう思っている部分がある。
「だから……不安になったら、話を聞いてもらっても、いいですか?」
「いくらでも話してくれ。恋人とはそういうものだ。それに、未来や可能性の話にはとても興味がある」
「……一概に恋人がそういうものだとは言えないと思いますが……そうですね、頼らせてもらいます」
握られた手に暖かさを感じながら、私はそう言った。
「……帰りましょうか。恋人らしい放課後デートは、また今度ということで」
「??……今日のは恋人らしいデートではなかったのかい?個室の店は、普通のカップルも通るものだと思っていたが」
「高校生で学校帰りに高級焼き肉店の個室に行くなんて、どこのセレブですか。そういう所はズレてるんですね」
「だが誘導したのはパンドラだろう?」
「あくまでも『OFA』の話をするために個室を選んだだけです。そもそも普通の高校生は個室の飲食店なんて利用しません」
「……そういうものなのか。難しいね」
どこか常識とズレているエキドナに呆れながら、私達は帰路に着く。握られた手には、今もなお確かな暖かさと、少しの安心が感じられた。
・パンドラ成り主
帰りついでに寄り道をしようと思ってた人。原作のシーンに出くわして予定がズレた。
未来を知っている。故に救えたものを見捨てたこともある。燈矢君とかね。
そこに罪悪感や不安を感じていないわけではない。知っている者の責任というのはそういうもの。
でも楽しむと決めた。エキドナ成り主のお陰で不安は和らいでいる。
・エキドナ成り主
恋人らしい行動……そうだ、一緒に帰るって恋人っぽいと一緒に帰ることを提案した人。
優しい。その優しさは前世から変わっていない。人のことをよく見ているし、最適な行動ができる。
仮とはいえ恋人であるパンドラ成り主には「恋人らしい」振舞いをするように心がけている。それが「愛」の理解に繋がるかもしれないと思っているから。それはそれとして優しさは素。例え恋人関係でなかったとしても、今回のようなことは起こったと思う。
前世も裕福だったため、少し世間の常識とはズレている部分がある。
個人的にリゼロの権能って『暴食』や『色欲』、『虚飾』はそれっぽいと感じるけど、『怠惰』とか『憂鬱』とかの権能は名前のイメージとは違うなぁと思ってます。権能全部好きだから特に不満はないけど。
全然敵連合の話してない。次回こそは敵連合の雄英侵入……に見せかけた屋上お昼回と委員長決め回になると思います。