TSアンドロイドメイドになったので異世界冒険します 作:Revak
イナは鼻歌でも歌いそうな笑顔でダンジョンに入っていった。
「おぉ」
思わず感嘆の声をイナは洩らした。
入った先はまさしく鉱山の中だ。
岩肌が露出し地面はある程度整備されてるがそれでも普通の道よりは歩きにくい。
廃坑の名の通り坑道の補強に使われている木などは腐りかけていたりするが割としっかりした作りになっている。
そして横にも縦にも広い。六人横並びでも余裕があるくらいには広いのだ。
更には壁にはランタンがかけてあり灯りが確保されている。
きょろきょろと周囲を見て回るイナを見かねてマックスがため息を吐いた。それと同時に指示を出す。
「いいか。お前はボーダーだ。まずは俺らの戦いを見て学べ。後ろで見てるだけでいい」
「えー、索敵とかは?」
「パウルがするからしなくていい。じゃあいくぞ」
そうしてパウルを先頭にしプサイロンドのダンジョン探索が始まった。
進む事五分。何も出ずイナは退屈そうな顔をし始めた。
このダンジョンに出るモンスターは五種類。
ダンジョンバッド。どのダンジョンにもだいたいいる人の顔ほどの大きさの蝙蝠。肉はから揚げにすると美味く翼は錬金術の材料になる。
鉱夫ゴブリン。人の腰程度の身長の緑色の肌のモンスター。鉱夫の名の通りピッケルを使って鉱石を採掘している。戦闘時はピッケルで殴り掛かってくる。
ダンジョンワーム。三メートルから五メートルほどの巨大なミミズ。岩を主食にしている。このモンスターのせいでダンジョン内には足場が薄い落とし穴が生成されている。
ハイスパイダー。名の通り常にハイ状態……テンションが高い蜘蛛。二メートルから三メートルほどの大きさ。雑食性。
それら通常出現するモンスター以外に最終層の六層にゴーレムのボスモンスターが出現する。六層はボス部屋だけで他には何もない。
このダンジョンは基本モンスターが落とすドロップアイテムと鉱山という特性からくる鉱石の採取を持って成り立っているダンジョンだ。
更に五分ほど歩くとパウルが手で制した。
イナの優れた聴覚は鉱石を掘る音を聞いていた。
「ゴブリンだ。バックアタックするか?」
「ああ、数は?」
「二体。鉱石採取に夢中だ……ゆっくり近づこう」
そうして近づくと一心不乱に鉱石を掘っているゴブリン二体に遭遇した。
パウルが弓で矢を放ち一体を仕留め、その隙にマックスが突撃した。
当然仲間が倒れたことに混乱しゴブリンは行動を迷う。その隙を突いてマックスが剣で両断した。
そしてゴブリンは死体を残さず、ドロップアイテムとなった。
この世界のダンジョンで死んだ者は例外なくドロップアイテムという結晶に変化する。
結晶を使用することでアイテムを取り出すことが出来る。
鉱夫ゴブリンが落とすのはピッケルか鉄や石炭、銅などの鉱石だ。
「ボーダー、仕事だぞ」
マックスが剣を収めながらイナにそう言った。
「はーい。ボロ、拾って」
「了解」
ボロがふわふわとドロップアイテムの近くに進み、異空間に収納した。
「それじゃあ、この調子でいくぞ」
「はーい」
■
(自分が何もしないとなると暇だな!)
一時間後。イナはそう内心で思っていた。
進んでも進んでもダンジョンの風景は変わらず鉱山の中で薄暗い。
出てくるモンスターも最初の内はおもしれーと思っていたが何度も見るとさすがに飽きる。
更にその間自分がすることはボロに指示を出してのドロップアイテム回収のみ。暇にもなるという物だ。
そうしてイナがむすっとした顔でダンジョンを進んでいると唐突にボロが話し出した。
「報告。前方から中型モンスターが接近中。推奨。撤退」
「あ? 何言ってんだこの箱」
マックスがボロの台詞に何を言っているんだという顔をする。
「まぁ待て。何かあるかもしれないじゃん。ここは従ってみたら?」
そう返すのは
「少し待ってくれ、探知する」
パウルがそう言い
「……確かに何か来てるな。人型の足音が二つと……よくわからない物音が一つ」
「何? じゃあここは引くか」
その言葉に全員が了解と返せそうとしたとき。音が響いた。
それは絶叫の声だ。
「げっミミズ!」
一番視力がいいイナが嫌なものを見たと遠くを見て声を漏らした。
「ミミズ? ワームの事か?」
「ちょあれ逃げた方がいい!」
そう叫ぶと音の正体がやってきた。
やってきたのは逃げている軽装鎧を纏った冒険者二名と巨大なダンジョンワームだ。
土気色の肌を持つ巨大なミミズであり大口を開けている。
問題はその大きさだ。このダンジョンの坑道を埋め尽くすかのように大きい。
「ま、魔法を!」
マックスが逃げ越しになりながら叫んだ。
「駄目! 人に当たる!」
アンナがそう叫んだ。
アンナが使える攻撃魔法ではどうやっても射線上に人がいるため当たってしまう。
「に、逃げるぞ!」
イナとボロ以外反転して逃げ出した。
マックスたちのパーティ戦闘力ならあの大きさのワームにだって勝てる。だが問題はそこではない。
あの大きさに加え興奮状態、あるいは飢餓状態にあるワームを相手にするとどうなるか。
決まっている。食われるのだ。
食われたら体中べどべどになるし服は買いなおさなきゃいけなくなる。
何よりもワームの中というのは臭いに決まっている。
プサイロンドの者たちが逃げ出す中イナは逃げずに立ち向かった。
理由は単純で仲間が逃げ出す相手を倒せば自分が評価されると思ったのだ。単純である。
「<
イナの右手の手首から先が消え黄色い光のレーザーが集いレーザーの剣となる。
それの出力が上がり大きな──五メートルほどの光の剣となる。
「警告。エネルギー大幅低下。活動に支障が出る」
「問題なし!」
そのままイナはダンジョンワームに突撃。
逃げ出す二人の冒険者の後にビームサーベルをダンジョンワームに向かって刺突の形で突き出した。
目の見えないダンジョンワームはそのままイナの<
そうしてダンジョンワームは死亡しドロップアイテムとなった。
すぐさまイナは右手の<
本来想定にない使い方をしたのでエネルギーを割と消費した。
E7は事実上の永久機関を搭載しているが一度に取り出せるエネルギーには限界があるのでエネルギーを消費しすぎると活動が停止するという弱点がある。
右手が戻り、イナは振り返ってブイサインをした。
「勝利!」
そこには誰もいなかった。
「あれ?」
「報告。プサイロンドと逃げていた者二名は走って去っていった。推奨。プサイロンドの追走」
「……やべ、怒られる!」
こりゃいかんとイナは慌てて走り出した。
「おい、イナが居ないぞ!」
逃げているパウロがそう叫んだ。
「なんだと?!」
その言葉にマックスが振り返り足を止める。
そこにはダンジョンワームもイナも居なかった。
「まさか、イナの奴ワームに食われたんじゃ……」
ルドルフのその言葉にプサイロンドのメンバーはサーと顔を青くした。
この街最高位の冒険者チームが初心者冒険者一人守れずモンスターに殺させました、は外見が悪い。
これでもプサイロンドはこの街唯一のダンジョンボスを討伐した冒険者チームであり唯一のBランク冒険者なのだ。
それが新人一人満足に守れませんでしたは外見が悪い。
「い、急いで戻るぞ!」
プサイロンドの者たちは反転し走ってきた道を逆走し始めた。
だがすぐに足音が聞こえてきたことで動きを止める。
足音は重い。ドス、ドスという音が響いている。
「あ、いたいた! おーい!」
向こう側から走ってきたのは当然イナだ。
「イナ! お前無事だったか!」
イナがマックスの前まで近寄ると止まる。
「もちろん無事だぜ!」
「そうか!」
マックスは笑顔を浮かべた。
そしてイナの頭に右手でチョップを食らわせた。
「いた! くはない! けどなにすんだ!」
「てめぇこの馬鹿野郎! リーダーの指示には従え! 見る限りお前ひとりでモンスター倒せたみたいだがお前の判断一つでパーティが壊滅するかもしれなかったんだぞ! この馬鹿野郎が!」
そう言いながらマックスは右手を振るう。
「……なんか右手凄い痛いんだがお前の頭何で出来てんだ。石頭にもほどがあるんじゃないか?」
「ま、まぁそれは置いておいて……すみませんでした」
イナが一応アンドロイドとバレることは避けるべきだとされている。
何せ今でも地上で暴れているアンドロイドは数は少ないながらいるのだ。下手に正体が露見すれば討伐対象にされる。
「おう。わかればいいんだ。次からは勝手に動くなよ」
「はい。すみませんでした」
しょんぼりした顔でイナはそう言い、頭を下げるのだった。
「それじゃあ、気を取り直して探索を続けるぞ。お前は最後尾な」
「……はいっ!」
そうして探索を再開した。