「わかったでしょ?今のエロトークの中に難しい単語は1コも無いわ。日常会話やなんてどこもそんなもん。周りに1人はいるでしょ?『マジすげぇ』『マジやべぇ』だけで会話を成立させて奴。その『マジで』にあたるのがご存知『really』木村、言ってみなさい。」
「…リ、リアリー」
「はいダメー、LとRがゴチャゴチャよ。LとRは発音の区別つくようになっときなさい、
(…タメにはなるんだよなぁ、エロいだけで。)
ビッチ先生が言った事をノートに書き留める白利。
教卓に置かれたテレビから明らかに中学生向けでは無いまぁまぁキツめのエロトークをしているドラマを教材に授業をしている。
ビッチ先生の授業は潜入暗殺が専門ゆえに話術も上手く、間に挟む経験談も聞いていて飽きない面白い授業をしてくれるのだが…
(不正解で公開ディープキス、正解で公開ディープキスなんだよなぁ…)
正解してもしなくてもどっちみちディープキスして来るのが玉に瑕である。
『ビッチ言うな!!』言ってた割にちゃんと痴女してるじゃねぇかとは思う。
ちなみに白利はビッチ先生からのディープキスは受けた事は無い。
『ッざけんな!俺のファーストキスをビッチに奪われてたまるか!』
『良いじゃない!私がアンタのハジメテ貰ってあげるのよ!?感謝なさい!!』
『ヤダーッ!!』
となぜか躍起になって白利のファーストキスを奪おうとするビッチ先生から逃げ続けているのだ。
(たまったもんじゃないな…)と思いつつ、授業が終わったのでノートを閉じると千葉が近寄ってきた。
「月乃、良かったら一緒に帰らないか?」
「あー…すまん千葉、俺ちょっとイリーナ先生にさっきの授業のことで聞きたいとこあるから先帰っててくれ。」
「流石マメだな。…ビッチ先生の授業ってめちゃくちゃわかりやすいけど下ネタ多いよな。」
「職業柄仕方ないんだろうけど…もうちょっとマイルドな奴欲しいよな。授業内容は面白いんだけどさ。」
2人は困ったように笑うが、ビッチ先生のそういうところが好きでもある。
女子からの信頼も厚いし、男子からも痴女っぷりは困惑されているが信用もされている。
千葉と別れた後、ノートを持ってビッチ先生を探すとどうやら理科室にいるようだ。
「イリーナ先生ちょっと良い?」
「ん?月乃じゃない、どうしたの?」
「今日の授業で聞きたいとこあってさ。」
『ふーん、どこ?見せてみなさい。』と言われ近づくと
「ッ!!うっ…」
「イリーナ先生!?」
何かに吊り上げられたようにビッチ先生の身体が浮く。
どうやら首に巻き付いているようで、白利は急いで椅子を重ねてビッチ先生の身体を支える。
『驚いたよイリーナ。子供相手に楽しく授業、生徒達と親しげな帰りの挨拶、そして随分と慕われているようだな。』
『…!!
「誰!?…てかどこの言葉だ?」
背後から気配も無く現れた謎の男、言葉はわからないがビッチ先生とは知り合いらしい。
どうするべきかと悩んでいると
「何をしている。下ろせ、女に仕掛ける技じゃないだろう。」
烏間先生がやってきた。
『…心配ない、ワイヤーに対する防御くらいは教えてある。』
謎の男がワイヤーを切ると、白利の腕にビッチ先生の全体重がのしかかり落とさないようにゆっくりと床に下ろす。
「…ありがと月乃。」
「イリーナ先生、あの人誰…?」
「…あぁこれは失礼、日本語の方が良いだろうか。別に怪しい者ではない。」
急に流暢に日本語を話し出す謎の男、どうやら烏間先生や白利達の会話も理解しているようだ。
「……あの人は私の
「センセイ…イリーナ先生の師匠って事か。」
潜入暗殺のプロであるビッチ先生の師匠という事はこの男も相当腕ききの暗殺者で国とのパイプを持つ人物なのだろう。
そんな大物がなんでここに…?
「ところで殺せんせーは今どこに?」
「…上海まで杏仁豆腐を買いに行った、30分前に出たからもうじき戻るだろう。」
「フ…聞いてた通りの怪物のようだ。来てよかった、答えが出たよ。」
ロヴロがビッチ先生に向き直り告げる。
「今日限りで撤収しろイリーナ、この仕事はおまえじゃ無理だ。」
「え…?」
「…?ずいぶん簡単に決めるな、彼女はあんたが推薦したんだろう。」
「現場を見たら状況が大きく変わっていた、もはやこいつはこの仕事に適任ではない。」
確かにそうだろう、ビッチ先生はハニートラップや話術を持って懐へ潜り込み殺す、正体を隠した潜入暗殺なら比類無き才能だ。
一方、素性が割れればそれらが一切役に立たなくなってしまう。
今のビッチ先生は後者なのだろう。
「見苦しく居座って教師のマネゴトか、こんな事をさせるためにお前を教えたわけじゃないぞ。」
「…そんな、必ず
「ほう、ならば。」
ロヴロが動いたと思ったら一瞬でビッチ先生の背後を取り拘束し、喉に指を突き立てている。
「こういう動きがおまえにできるか?隣の彼の方がよっぽど向いているぞ。」
(真横に居たのに全く反応できなかった…コレが…プロ…)
「相性の良し悪しは誰にでもある、さっきのおまえは発音について教えていたが…
「半分正しく、半分は違いますねぇ。」
「殺せんせー!?」
いつの間に上海から帰っていたのか、殺せんせーは顔の半分に◯、もう半分に×を浮かべてロヴロとビッチ先生を引き離す。
「何しに来たウルトラクイズ。」
「ひどい呼び方ですねぇ、いい加減殺せんせーと呼んで下さい。…ロヴロ氏、確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません、クソです。」
「誰がクソだ!!」
「ですが、彼女と言う暗殺者こそこの教室に適任です。殺し比べてみればわかりますよ。彼女とあなたどちらが優れた暗殺者か。」
「殺し比べるってどうやって?殺せんせー相手だと話にならないだろ。」
「簡単です、殺す対象は烏間先生にすればいい。」
白利の質問にニヤニヤしながら烏間先生に顔を向ける殺せんせー。
一方烏間先生は口をあんぐりさせている。
「おい待て!!なんで俺が犠牲者にされるんだ!!」
「烏間先生なら公平な
『クッ…』と悔しそうに歯噛みする烏間先生、事実だから言い返せないのだろう。
殺せんせーはどこからともなく対先生ナイフを取り出しロヴロに渡す。
「使用するのは人間には無害な対先生ナイフ、期間は明日1日!どちらか先に
「…なるほど、要するに模擬暗殺か。いいだろう、余興としては面白そうだ。」
「…チッ、勝手にしろ!!」
そう言い捨て烏間先生が理科室から出ていく。
相変わらず気苦労の絶えない人だ…
「フッフフ…殺せんせー、なかなか出来るなあの男。」
「それはもう、この私の監査役に選ばれる位ですから。」
「あいつに刃を当たる事などおまえには無理だ、イリーナ。おまえに暗殺を全て教えたのはこの俺だ。おまえに可能な事、不可能な事、俺が全て知っている。」
「………」
「この暗殺ごっこでおまえに思い知らせ、この仕事からおとなしく降りてもらう。…そして誰も
理科室を去るロヴロの背を無言で見つめるビッチ先生を白利はどう慰めたものかと悩んでいると
「…私を庇ったつもり?」
ビッチ先生が口を開く。
「どうせ
思ったより平気そうなビッチ先生だったが一応声をかけておく。
「イリーナ先生。」
「ん?なによ月乃、私今からカラスマ殺す準備しに行くんだけど?」
「イリーナ先生、ビッチで痴女で事あるごとにディープキスしようとして来るヤベー奴だけどさ」
「呼び止めてまで貶して来る普通!?」
「授業面白いからさ、俺の言葉じゃ気休めにもならないと思うけど…頑張ってイリーナ先生。」
「……ホントに気休めにもならないけど、期待して待ってなさいガキンチョ。」
やっぱりこの先生は好きだ。
と思ったのだが
「カラスマ先生〜♡おつかれさまでしたぁ〜♡ノド乾いたでしょ?ハイ冷たい飲み物!!」
「………」
「ホラ、グッといってグッと!!美味しいわよ〜」
体育の時間が終わった直後、水筒のカップに並々注がれた水を烏間先生に差し出すビッチ先生。
声が猫被りすぎだし、必死すぎて明らかに何か混ざってるのを確信させる。
「おおかた筋弛緩剤だな、動けなくしてナイフを当てる。…言っておくが、そもそも受けとる間合いまで近寄らせないぞ。」
「あ、ちょ待って、じゃここに置くから…あっ」
ため息を吐く烏間先生に睨まれ、カップを置こうとしてズッコけるビッチ先生。
「いったーーい!!おぶってカラスマおんぶ〜〜!!」
ギャン泣きするビッチ先生が見ていられず、起こしに行く。
「……イリーナ先生、昨日の『頑張って』撤回してもいい?」
「諦めるの早くない!?だって仕方ないでしょ!!顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!!」
「そりゃそうだ。」
「キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ!?それと一緒よ!!」
「それは知らんよ。千葉〜!イリーナ先生回収するから手伝ってくれ〜!」
昨日ちょっとカッコいいなと思ったのは幻覚だったようで、見るに絶えないビッチ先生を教室まで千葉と引きずって行くのだった。
休み時間、烏間先生の様子を見に行こうと教員室に訪れると扉の前にロヴロがいた。
どうやら正面から殺しに行くようで、両手に手袋を付けて扉を勢いよく開けた。
(行った!!)
ロヴロの姿を視認した烏間先生は対応しようとするが、椅子に細工がされていたのか動きが一瞬止まる。
その隙にロヴロが烏間先生にナイフを
ドンッ!!
当てる事は叶わず、烏間先生はナイフを持った左手を机に叩きつけロヴロの顔面に膝蹴りを
ボッ!!
と風を切る音が聞こえる程の速さで放ち、スレスレで止めていた。
「うっそぉ……」
「熟練とはいえ年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間をずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな。」
鋭い眼光がロヴロを射抜く。
烏間先生が授業の準備の為に教員室を出ると教員室の前で立ち尽くす白利と目が合った。
「月乃君見ていたのか。」
「あ、はい。…すごい反応速度ですね、一瞬反応が遅れたのにすぐに立て直してて。」
「反応の方は俺の経験もあるが、カウンターの方は君でも十分狙えるだろう。」
チラッと教員室の中を見ると机に叩きつけられたロヴロの手が赤く腫れて震えている、骨が折れてしまってるのではないだろうか。
「流石にあんな威力出せる自信は無いんですけど…」
「威力はともかく、カウンターを相手の急所に叩き込む事が大事だ。顔、胸、脇、股間、人にある多くの弱点を的確に突ければそれだけで致命傷になり得ることもある、今後はそこも含めて訓練して行こう。」
(俺、この人みたいな化け物になれるのか…?)
「…って、事があってさ。」
「机に叩きつけて骨を折るって…どんなパワーしてるんだよ…」
「膝蹴り当たってたら多分ロヴロさんの顔面の骨砕いてたんじゃねぇかな…」
「烏間先生も大概超人だよね…」
昼休みに速水と千葉と一緒に昼食を食べている途中、休み時間で見た事を話していた。
「烏間先生って第一空挺団って精鋭部隊のトップだったんだろ?精鋭部隊のトップって考えてみればそりゃ化け物か…」
「体育の時間、烏間先生革靴にスーツなのにめちゃくちゃ身軽に動くし…教員免許も取って教えるのも上手いって文武両道にもほどがあるでしょ…」
「E組の教師陣で1番普通寄りなのがイリーナ先生だからな…殺し屋が普通ってなんだ…?」
3人で烏間先生の化け物っぷりを話してて湧いて来る(これビッチ先生無理では?)という感情。
白利が窓の外を見ると木に背中を預けてハンバーガーを食べている烏間先生がいた。
「烏間先生よくあそこで飯食ってるよな。」
「ん…あれビッチ先生じゃない?」
「
だが、正面戦闘ではビッチ先生に勝ち目は無い。
と、なれば必然的にやる事は1つ
「上着を脱いだけど…烏間先生に色仕掛けは無理だろ…」
烏間先生の前で上着を脱ぎ捨て、何かを話しながら周りを一回転するように歩いて行く。
対して、烏間先生は呆れ気味ではあるもののビッチ先生への警戒は解いていない。
そして折り返し烏間先生の横を通る瞬間、思い切り手に持った物を引いた。
「ッ!?烏間先生の足にビッチ先生の上着が!」
「脱ぎ捨てた服にワイヤーを通してあったのか…!」
「色仕掛けをブラフにして上着に意識がいかないように…!」
足を取られた烏間先生はバランスを崩し、すぐさま体勢を起こすが先にビッチ先生がマウントポジションを取る。
「イリーナ先生すげぇな、烏間先生相手にあそこまで!」
「あとはナイフが当たれば!」
ナイフを振り下ろすが寸前で止められてしまう、体勢的には有利だが腕力勝負では勝ち目は無いだろう。
だが、諦めの悪いビッチ先生に烏間先生が折れたのか手を離しナイフが身体にストンと当たった。
「当たった!!」
「ビッチ先生残留決定だ!!」
「すげぇ!!」
ビッチ先生の激闘に皆が声を上げる。
ロヴロに声をかけられたビッチ先生の顔が暗いものから明るいものに変わり、『やったわ!ホホホ!』と叫びながらガッツポーズをしている。
卑猥で高慢、けれど真っ直ぐ。
そんなビッチ先生は白利達の英語教師である。
(苦手なものを克服する…か、そういうところは見習わないとな。)
「月乃やってやったわよ!一応お礼にディープキスしてあげる!」
「こっち来んじゃねぇ!!」
ここは嫌いだ。
ご覧頂きありがとうございました!
【月乃白利の秘密】
イリーナ先生からビッチ先生に呼び方を変えるタイミングを探している