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6月になっても最近は雨も降らず、梅雨の気配も無かったが今日は思い出したかのように大雨が降っている。
雨で少し鬱屈ではあるが、さらに頭を悩ませる事が
「おはようございます、烏間先生から転校生が来ると聞いていますね?」
そう、2人目の転校生が来るのだ。
殺し屋である事はわかっているのだが、
「………」
『月乃さん、皆さんの前では…』
「ホンマこのポンコツAIはよぉ…」
後ろを向いて律を見ると、頬を染めて目を逸らされる。
友達ではあるが、それはそれとして自身の事をおかしな性癖持ってるやつと誤認してるのは直して欲しい。
「律さんの時は少し甘く見て痛い目を見ましたからね、先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ、皆さんに
「そういえば律は何か知らないのか?今日の転校生暗殺者のデータとか。」
『はい、少しだけ。初期命令では、私と『彼』の同時投入予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃、連携して殺せんせーを追いつめると。』
『彼』という事は転校生は男らしい。…律の事を考えると彼もまた全身機械の可能性がある。
『ですが…2つの理由でその命令はキャンセルされました。』
「理由は?」
『ひとつは彼の調整に予定より時間がかかったから。もうひとつは、私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから。』
「律が劣る…」
『私の才能では…彼のサポートをつとめるには力不足だと。そこで各自単独で暗殺を開始する事になり、重要度の低い私から送り込まれたと聞いています。』
殺せんせーの指を飛ばした律が劣る扱いだとは転校生はどんな怪物がやって来るのか。
調整に時間がかかったとも言っていたので、もしかすると律と同型の自己進化AIを積んだ人型ロボの可能性もありえる。
全員が律の話に絶句する中、教室の扉が開かれると
顔を隠した全身白装束の体格的に男だろうか…が入って来た。
男は教室を見渡した後、ゆっくりと右腕をあげて…
ポン
と真っ白な鳥を出す手品を披露した。
「ごめんごめん驚かせたね、転校生は私じゃないよ。私は保護者…まぁ見ての通り白いし『シロ』とでも呼んでくれ。」
「いきなり手品する白装束の保護者って…」
「殺せんせーでもなきゃ誰だってビックリする…」
シロの手品に少し驚きつつ、教卓に視線を戻すと殺せんせーはおらず少し見上げると
液状化して天井の角に縮こまっていた。
「ビビってんじゃねーよ殺せんせー!!」
「奥の手の液状化まで使ってよ!!」
「い、いや…律さんがおっかない話をするもので…」
殺せんせーの弱点
噂に踊らされる
「初めましてシロさん、それで肝心の転校生は?」
「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね、私が直で紹介させてもらおうと思いまして。」
殺せんせーに羊羹を手渡すシロという男、服装からしてどうにも掴み所のない男であるが
(…?今、渚を見た?)
覆面の隙間から覗く目が、渚の方を見た気がした。
「皆いい子そうですなぁ、コレならあの子も馴染みやすそうだ。では紹介します、おーいイトナ!!入っておいで!!」
イトナと呼ばれた転校生。
(さぁ…何が来る?)
全員が扉に注目していると
ゴッ
と後ろの壁を破壊しながら転校生が入って来た。
(((ドアから入れ!!)))
心の中で皆ツッコんだ。
「俺は…勝った。この教室のカベよりも強い事が証明された。それだけでいい…それだけでいい…」
(また変な方向に味濃いが来やがった…)
見た目は普通の人間だが、譫言のように『俺はカベより強い…』と呟き続けているイトナ。
殺せんせーもリアクションに困って変な顔をしている。
「堀部イトナだ、名前で呼んであげて下さい。…あぁそれと私も少々過保護でね、しばらくの間彼の事を見守らせてもらいますよ。」
全身白ずくめの保護者と様子がおかしい転校生、また波乱を呼びそうな予感がするが
(…てか、イトナ外から入って来たのに濡れていない?)
それよりも目を引いたのは外はどしゃ降りの雨なのに制服が一滴も濡れていないイトナだった。
カルマも同様の事を思ったのだろうイトナを追求すると、イトナは少し教室を見渡した後カルマに近寄り
「…お前はたぶんこのクラスで1番強い、けど安心しろ、俺より弱いから…俺はお前を殺さない。」
「…!」
カルマの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「俺が殺したいと思うのは、俺よりも強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんただけだ。」
「強い弱いとはケンカの事ですかイトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ。」
「立てるさ、だって俺達血を分けた兄弟なんだから。」
「は…?」
「「「兄弟ィ!?」」」
「負けた方が死亡な、兄さん。兄弟同士小細工は要らない、兄さんおまえを殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。」
『こいつらにお別れを言っとけ』と言い残し、イトナは自身で開けた穴から出ていった。
「ちょっと先生兄弟ってどういう事!?」
「そもそも人とタコで全然違うじゃん!!」
「いっ…いやいやいや!!全く心当たりありません!先生生まれも育ちもひとりっ子ですから!!両親に『弟が欲しい』ってねだったら…家庭内が気まずくなりました!!」
(((そもそも親とかいるのか!?)))
(イトナと殺せんせーが兄弟…?意味がわからん…でも…)
かつて出された殺せんせーからの宿題『殺せんせーの正体を暴く』もしかしたら今、その答えを出せるのかも知れない。
白利が殺せんせーに提示した『殺せんせー人工生命体説』は80点を付けられたので大筋はあっているのだろう。
まずは重要そうな言葉を整理する。
『イトナは肉迫攻撃担当として送り込まれた』
『イトナと殺せんせーは血を分けた兄弟』
『殺せんせーが兄、イトナが弟』
『殺せんせーはひとりっ子』
『殺せんせーには両親がいる』
『殺せんせーには両親がいる』これがまず白利の提示した『人工生命体説』に引っかかる。
(研究所で造られたのに両親…?あり得るなら、大元は同じ研究だったがそれぞれ殺せんせープランとイトナプランで研究が分けられたって感じだが…その大元の事を『両親』と言うか…?)
今度はイトナの事を思い返す、兄弟と言っていたが見た目は殺せんせーと大違いで普通の人にしか見えない。
そう普通の人間なのだ。
(普通の人間になんで『調整』する必要がある?)
律が言っていた本来人には使う事の無い言葉、性格が特殊だとシロは言っていたがそれが原因ならば『調整』なんて言葉使わないはずだ。
『調整』する必要があるのは、何かしら不具合や安定性に欠けるところがあるから…ならば何故安定性などが欠けてしまっているのか?
(イトナの身体に特殊な改造を施してる…とか?)
それならば納得が行く、『肉迫攻撃担当』として送り込まれたイトナは、殺せんせーの速度に追いつく為の改造を受けたせいで性格が特殊な事になったとも考えられる。
(身体の…改造…)
ふと、とある考えがよぎる『殺せんせー人工生命体説』に対する採点で言われた足りない所。
殺せんせーは研究所で生まれた、これは間違いなくだろう。
そう
(もしかして…殺せんせーには元になった人間がいる…?実験の果てに成り果てた姿が殺せんせー…なのか?)
殺せんせーは元人間、それならば両親がいる説明もつく。
そして『イトナと殺せんせーは血を分けた兄弟』これはおそらく2人が受けた改造の事を指しているのではないか?
これならば『ひとりっ子』の矛盾にも引っかからない。
ならば2人が受けた改造とは何か、それは殺せんせーを見ればわかる。
(触手…)
理由はわからないが殺せんせーの元になった人間が受けた身体を触手にする実験、その一部をイトナは身体に刻み込んだ。
(だから、血を分けた兄弟…)
だとするとイトナは恐らく触手を持っているはず。
シロという男もだいぶきな臭い。
(きっと答えは…放課後にわかる。)
そして決戦の
教室の中心に立つ殺せんせーと制服の上着を脱ぎ捨てるイトナの周りを机のリングが囲っている。
「ただの暗殺は飽きてるでしょ殺せんせー、ここはひとつルールを決めないかい?リングの外に足がついたらその場で死刑!!…どうかな?」
(シロの言ったルール、普通なら守るわけないだろうが破れば
「…いいでしょう、受けましょう。ただしイトナ君、観客に危害を与えた場合も負けですよ。」
「では、合図を始めようか」
シロが大きく右腕を掲げて
「暗殺…開始!!」
勢いよく振り下ろした。
瞬間、殺せんせーの左腕が斬り落とされた。
だが皆の視線は斬られた左腕では無く、イトナに集まっている。
「…やっぱりか。」
「…まさか…触手!?」
イトナの髪が触手へと変化してヒュンヒュンと空気を切りながら振り回している。
雨の中でも濡れなかったのは触手で全て弾いていたのだろう。
「…………こだ。」
白利を除く全員が絶句する中、殺せんせーは呟いた。
……凄まじい怒気を纏いながら
「どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!」
顔はド怒りの真っ黒、その表情その言葉からわかる通り殺せんせーにとって触手とは忌むべきものなのだろう。
「君に言う義理は無いね殺せんせー、だがこれで納得したろう。両親も違う、育ちも違う、だが…この子と君は兄弟だ。…しかし怖い顔をするねぇ、何か嫌な事でも思い出したかい?」
「…どうやら、あなたにも話を聞かなきゃいけないようだ。」
「聞けないよ、死ぬからね。」
左腕を再生させた殺せんせーにシロは袖口を向けると、強い光が放たれ殺せんせーの身体が一瞬硬直した。
「!?」
「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬硬直する。全部知っているんだよ、君の弱点は全部ね。」
(シロ…あいつは一体何者だ…?何故俺達の知らない殺せんせーの弱点を知っていて、何故イトナは触手を持っている?)
考えられるのはただ一つ、『殺せんせーの元となった人間を実験体とした研究に携わっていた誰か』だろう。
考えている間にイトナによる猛攻を受け、月一のエスケープ『脱皮』のカードを切らされていた。
「でもね殺せんせー、その脱皮にも弱点があるのを知ってるよ。」
殺せんせーの弱点
脱皮直後
「その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する。やって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人から見ればメチャ速い事に変わりはないが、触手同士の戦いでは影響デカいよ。」
殺せんせーの弱点
再生直後
「加えて、イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね、
殺せんせーの弱点
特殊な光線を浴びると硬直する
「さらには、献身的な保護者のサポート。」
再び圧力光線を浴びせ、殺せんせーが硬直したところにイトナが攻撃を放つ。
なんとか回避したようだが、足が2本持って行かれてしまった。
「「「…!!」」」
「これで足も再生しなくてはならないね、なお一層体力が落ちて
「…安心した。兄さん、俺はおまえより強い。」
明らかに殺せんせーが追い詰められている。
このままいけば殺せるだろう…だが殺せんせーに聞きたい事がある、殺せんせーに答えを問い詰めないとならない。
懐から対先生ナイフを取り出す。
(まだ死んでくれるなよ、殺せんせー。)
「足の再生も終わったようだね、さ…次のラッシュに耐えられるかな?」
「…ここまで追い込まれたのは初めてです。あなた達に聞きたい事は多いですが…まずは、試合に勝たねば喋りそうにないですね。」
殺せんせーは触手をポキポキと鳴らす。…なんで骨の音鳴ってんだ?
「…まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね。」
「…シロさん、この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが…ひとつ計算に入れ忘れている事があります。」
「無いね、私の性能計算は完璧だから。
イトナが殺意を込めて全ての触手を殺せんせーに叩き込む、が攻撃していたはずのイトナの触手はなぜか溶けてしまっていた。
「おやおや、落とし物を踏んづけてしまったようですねぇ。」
(床に…対先生ナイフ…?…あ)
気づくと白利の手から対先生ナイフが無くなっている、殺せんせーの方を見ると知らん顔していた。
(悪い大人め!!)
「同じ触手なら…対先生ナイフが効くのも同じ、触手を失うと動揺するのも同じです。…でもね、先生の方がちょっと老獪です。」
触手を溶かされ動揺しているイトナに脱皮した皮を被せ、包み込む。
そして勢い良く窓に向かって投げつけると、窓を突き破りイトナの身体は地面に転がった。
「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです。ですが、君の足はリングの外についている。先生の勝ちですねぇ、ルールに照らせば君は死刑、もう2度と先生を
「…心配させやがって。」
「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算ではそう簡単には計らないもの、それは経験の差です。君より少しだけ長く生き…少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、
結局こういうのを授業にしてしまうのは殺せんせーらしい。
「この教室で先生の経験を盗まなければ…君は私に勝てませんよ。」
「勝てない…俺が…弱い…?」
(イトナの触手が…黒く…)
「やべぇキレてんぞあいつ!!」
黒い触手を当てもなく振り回しているイトナ、木を両断している事からその威力を感じさせる。
「俺は強い、この触手で、誰よりも強くなった!誰よりも!」
外にいたはずのイトナは異様な速度で窓枠に戻り、力の限り碌に狙いもつけず触手を振り回し教室内を蹂躙する。
このままでは皆にも被害が及んでしまう。
「イトナァ!!」
白利の叫びに反応したのか一瞥して触手を振り抜く。
「月乃!!」
速水の呼ぶ声が聞こえた時、腹に鈍い痛みが走った。
「………ァ…?」
目を覚ますと皆が顔を覗き込んでいた、どうやら白利は横たわっているらしい。
「月乃…!良かった目が覚めて…」
「速水?俺…何を…」
「月乃君、ブチギレたイトナ君の触手に吹っ飛ばされて壁にぶつかって気絶したんだよ。…見てた感じ腹に攻撃入ってたけど大丈夫そ?」
痛む身体を起こしつつ、カルマの言葉を確かめるように制服を腹部まで捲ると
「うわぁ…」
腹に横一直線のアザができていた。
「月乃君…申し訳ありません。先生である私が生徒を守りきれず…」
「しょうがないだろ、殺せんせーだって体力消耗してたんだ。喰らったのが俺だけで良かったよ、俺意外と頑丈だし。」
カルマと速水に支えてもらいつつ立ち上がる。
「それで、イトナは?」
「しばらく休学すると…シロさんが連れて帰ってしまいました。」
「そっか…」
「…ねぇ殺せんせー説明してよ、あの2人との関係。」
速水が声をあげると皆も口々に声をあげ始める。
「先生の正体いつも適当にはぐらかされてたけどさ…」
「あんなの見たら聞かずにいられないぜ。」
「そうだよ私達生徒だよ?先生の事よく知る権利あるはずでしょ?」
皆の声に観念したのか殺せんせーは覚悟を決め口を開く、
「…仕方ない、真実を話さなくてはなりませんねぇ。実は…実は先生…」
「「「………」」」
「実は先生、人工的な造り出された生物なんです!!」
「だよね、で?」
「にゃやッ反応薄っ!!」
そりゃそうだろう、白利だけでなく皆も殺せんせーの正体について考えていたはずだ。
彼らが知りたいのはその先
「どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれてきて…何を思って
「………残念ですが、今それを話した所で無意味です。先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ。」
「「「……!!」」」
「逆にもし君達が地球を救えば…君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。もうわかるでしょう、知りたいなら行動はひとつ。」
(あぁ、そっか。殺せんせーは…)
「殺してみなさい、
(どこまでも動機を濁す気なんだな…)
『また明日!』と教室を出ていく殺せんせー。
その背を見送った後、多くの者は『殺せんせーを殺して、自分達の手で答えを見つけたい。』と烏間先生の元へと向かった。
白利はひとり教室に残り殺せんせーの携帯にメールを送る『明日の朝、話がしたい』と。
ご覧頂きありがとうございました!
【月乃白利の秘密】
イトナがロボットじゃなくてちょっと安心した