暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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星の翼楽しいネ…


問答の時間・2時間目

「………」

 

昨日の土砂降りの雨が嘘のように晴れ渡った空の下、いつもと同じE組校舎へと続く山道を進んで行く。

 

殺せんせーに送った『明日の朝、話がしたい』というメールに『いつもの時間に待っています』と殺せんせーから返信が来た。

話の内容についての言及は無い、つまりは殺せんせーも何を聞かれるかわかっているのだろう。

 

「…おはよう、殺せんせー。」 

 

「はい、おはようございます月乃君。」

 

校舎の前を掃き掃除している殺せんせーに挨拶をすると、何も聞かずに校舎の扉を開けてくれた。

 

「さ、入りましょう。」

 

「…あぁ。」

 

殺せんせーの背中に着いていき、上履きに履き替え教室に入ると

 

『殺せんせー、月乃さんおはようございます!』

 

律が元気良く挨拶をしてくれる。

 

「おはよう、律。」

 

「おはようございます律さん。」

 

『その…実は月乃さんが殺せんせーとお話ししたいというメールを見てしまいまして…』

 

律は皆との情報共有を円滑にするため、全員の携帯に律の端末をダウンロードさせた『モバイル律』としてスマホの中に入っているので、2人のやり取りを見てしまったのだろう。

 

「すまない律、殺せんせーと2人で話したいから…」

 

『わかりました、私は8時30分までスリープモードに移行します。もしも早く終わりましたら、メールでお伝え下さい。』

 

「ありがと。」

 

律の駆動音が徐々に小さくなり、モニターが完全に暗転した。

律が眠るのを見届けて

 

「…さて月乃君、私に話とは?」

 

「もうわかってるだろ?アンタの…殺せんせーの正体について、前に出された『宿題』を提出しに来た。」

 

「………」

 

「答えを突き付けさせてもらう。」

 

白利は深呼吸をして、殺せんせーの目を見つめ告げる。

 

「アンタは…元々人間なんだろ?」

 

そうですか…もう…そこまで…なぜ、そう思ったのですか?」

 

「…黒板借りるぞ。」

 

白利はチョークを手に取り

 

『イトナ』

 

『殺せんせー』

 

と書いていく。

 

「イトナが触手を出す前『血を分けた兄弟』って言った辺りに考えてたんだ。イトナは肉迫攻撃担当として送り込まれた暗殺者、つまり殺せんせーの速度に反応できるって事だ。正直最初はロボでも来るのかと思ってたが、イトナの見た目は普通の人間だった。『普通の人間が肉迫攻撃』もう俺等が散々やってるのにおかしいだろ?だから俺はこの単語に違和感を抱いた。」

 

『イトナ』の隣に『調整』と書く。

 

「律が言っていた『彼の調整に時間がかかった』。『予定の調整』ならわかるが、普通人間に『調整』なんて言葉使わないし『人間を調整』する事もないだろ?調整する必要があるなら、何かしら不具合や安定性に欠けるところがあるって事だ。」

 

『人間の調整』

 

『安定性の欠如』

 

『殺せんせーの速度を捉えられる肉迫攻撃担当』

 

とさらに書き込む。

 

「『肉迫攻撃担当』のイトナが『安定性の欠如』を起こし、『調整』が必要になった。それはなぜか…『殺せんせーの速度を捉える』肉体…つまり触手を得るために改造を施したから。」

 

「………」

 

「それで次は殺せんせーの方なんだが…殺せんせーは『殺せんせー人工生命体説』に80点を付けたから大筋は合ってるとして、アンタ口を滑らせただろ?『生まれも育ちもひとりっ子』『両親に弟が欲しいとねだった』って。」

 

『殺せんせー』の横に『生みの親がいる』『育てられた』と書く。

 

「最初はSF作品みたいに培養液内で造られたと思ってたんだが、『生みの親がいる』のとイトナの『肉体の改造』で、もしかしたら殺せんせーは元々人間なのかもって考えた。」

 

『殺せんせーは元々人間』

 

『肉体の改造』

 

『触手』

 

『殺せんせーは実験によって人工的に造られた』

 

『イトナと殺せんせーは血を分けた兄弟』

 

と書き込み

 

「『殺せんせーは元々人間』だったが『肉体を触手にする実験』を受けて今の殺せんせーが『人工的に造られた』、そしてその実験結果を一部取り込んだイトナはある意味『血を分けた兄弟』ってとこか。これなら『ひとりっ子』と『兄弟』も『人間』と『人工生命体』も矛盾しないだろ。」

 

『どうだ?』とチョークから手を離し、殺せんせーに向き直る。

殺せんせーは俯き黙り込んでいたが、しばらく時間が経つと口を開いた。

 

「ほぼ100点と言っていい内容でしょう。素晴らしいです、まさか2ヶ月程で辿り着かれてしまうとは。」

 

「…()()100点なだけで100点では無いんだな。」

 

「えぇ、ほんの少しだけ足りない箇所がありますが、君が知り得る情報ではありませんのでほぼ100点です。」

 

「そっか…『殺せんせーの正体』を暴くのはここら辺が限界か。」

 

「……残りのピースは先生が墓場まで持って行かなければいけない物なんです。」

 

「ん、わかった。…じゃ、あと暴くべきなのは殺せんせーの動機か。」

 

殺せんせーが核心に迫りそうになった時に言っていた

『君達が地球を救えば…君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。』

生きている間、殺せんせーから動機を話す気は無いのだろう。

 

「先生の動機はもっと難しいですよ?」

 

「不本意ながらシロとイトナのおかげで少し道は見えた気がしたからな、そこから手繰ってやるさ。」

 

「…では、『先生の動機を暴く』を追加の宿題として出しましょう。」

 

最後のピースの事は聞きたいが、殺せんせーにも隠しておきたい事もあるのだろうと白利は口をつぐんだ。

 

 

 

「月乃君、先生からもお話ししてもいいですか?」

 

「…何が聞きたい?」

 

殺せんせーはかつてと同じように二つの机を向かい合わせに置き、椅子を引く。

白利は言葉を発さずに席に座る。

 

「この教室が始まってもう2ヶ月経ちましたが、どうでしょうこのクラスには馴染めましたか?」

 

「前と同じ質問だな…あぁ、馴染めたよ。」

 

「ヌルフフフ、それはそれは。最近の君はよく表情が表に出ていますし、速水さんや千葉君、律さんとは君自身から歩み寄って打ち解け手を取り合う事ができた。素晴らしいです!」

 

顔に◯浮かべて拍手する殺せんせー。

 

「まぁ殺せんせーが言ってくれたからな『見た目や噂に流されず、しっかり彼自身を見てあげて下さい』って、だから俺も見た目で判断するんじゃなくて内面を見ようと思ったんだ。」

 

「しっかりと実行する行動力があるのは素晴らしいですよ月乃君。君が繋いだ縁は必ず君の力になる、大切にして下さいね。」

 

「力になるって言っても速水と千葉に…最近だと律にも手伝ってもらってるのに射撃の腕は一切上がらないし…ナイフ術とか体術ばっか達者になってるよ…」

 

バッグから対先生ナイフを取り出し先端を指で弾く。

 

「人によって得手不得手がある…と言いたいですが月乃君の場合は極端すぎますかね…」

 

「律にも『月乃さんの射撃は…その…個性的ですね!』って哀れみの目で見られた時は死にたくなったよ……さて、でもアンタが本当に聞きたいのは別の話だろ?」

 

「おや、バレていましたか。…渚君とカルマ君から聞いたのです『月乃君が本気を出しているところを見た事がない』と、そんな君がなぜ本気で暗殺に取り組んでいるのかを聞きたくて。本気の出し方がわからない…というわけでも無いでしょう?」

 

殺せんせーが何かを聞きたげにしてたのは気づいていたが、まさかそんな事を聞かれるとは思っておらず唖然としてしまう。

 

「無理に、とは言いません。ですが教えて欲しいのです、なぜ君は自身にブレーキをかけ続けたのか、なぜ暗殺に対してだけそのブレーキを外したのかを。」

 

「………」

 

今度は白利が黙り込んでしまい、その瞳は居心地が悪そうにあちこちへ視線が泳いでいる。

 

「………」

 

「………」

 

(交友関係や表情の表出などを彼は克服してきた。日常生活においても友人達とも仲が良く問題も特に無い、なのに何が彼の『本気』を堰き止めている?暗殺の何が彼の『本気』を引き出した?)

 

「…わかった。」

 

目の前に座っている白利が口を開く、その目には覚悟のようなものが見て取れた。

 

「俺はやりたい事…いや、やるべき事があるんだ。」

 

「やるべき事…ですか?」

 

「あぁ、でもそのやるべき事をやり遂げられるのがいつかはわからない。1年後なのか10年後なのか、もっとかかるかも知れないしもっと早いかも知れない。…ま、要はタイミングがわからないから1年後地球を爆破するアンタが邪魔なんだ、だから殺す。アンタが何者だろうが殺さなきゃいけないんだ。」

 

手に持ったナイフの先端を殺せんせーに向ける。

 

「やり遂げる為に先生が邪魔だから『本気』で殺す…大変結構!そういう気持ちで来てくれないとこちらも殺され甲斐が無いと言うもの。…ではもう一つ、やるべき事は『本気』でやり遂げるべきものですか?」

 

「『本気』で…いや、人生を懸けてでもやり遂げるべきものだ。」

 

「…そうですか。」

 

白利が語ったのはあくまで『本気』で暗殺に取り組む理由だけ、なぜ『本気』を堰き止めているのかは話さなかったが殺せんせーは言及せず、満足そうに席を立つ。

 

「さ、真面目な話はここまでにして律さんを起こしてあげましょう。」

 

「そうだな…ん?殺せんせー、ネクタイ破けてるぞ。」

 

「あぁ、これですか?」

 

白利は殺せんせーに近づき着けている三日月の刺繍が入ったネクタイに手を伸ばす、三日月の刺繍のちょうど真ん中辺りに鋭い物で破いてしまったような跡がついている。

 

「このくらいなら直せるけどどうする?」

 

「月乃君は裁縫も出来るんですか、家庭的ですねぇ。修繕の提案はありがたいですが遠慮しておきます。」

 

「そっか…わかった。」

 

触れたネクタイを手に一周させるように巻き付け、殺せんせーの体勢を崩すよう思い切り自身の方へ引っ張り左手に持ったナイフを振りかざす。

 

「にゅやッ!?」

 

(ネクタイを巻き付けてる以上殺せんせーは高速移動できないし、ネクタイを掴む手を乱暴に振り解く事もできない。なら、殺せんせーが次に取る行動は2つ。)

 

服を脱ぎ捨て逃げ出すか、白利が持ったナイフを取り上げるの2択。

前者はまずあり得ないだろう、ならば後者を予測した行動をすれば良い。

 

(素早い動きですがナイフを取り上げれば…!?)

 

殺せんせーがナイフを取り上げようと触手を伸ばすと、白利はナイフから手を離し流れるようにブレザーの内側に手を滑らす。

 

取り出したのは、エアガン。

 

(まさかこの距離で使うとは…ナイフに気を取られすぎた…!)

 

エアガンを殺せんせーのガラ空きの顎下に押し付け

 

「密着でなら、俺も外さない。」

 

「しまッ…!?」

 

引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

教室の中心で立ち尽くす白利、その視線は自分の手に持つエアガンへと注がれていた。

 

「………不発。」

 

殺せんせーの顎下にエアガンを押し付け引き金を引いたが、『カチッ』と鳴らすだけで対先生BB弾は発射されなかった。

 

(俺でも外す訳の無いゼロ距離射撃だったのに…)

 

黒板に銃口を向け引き金を引くと、右によれはしたが発射はされたのでエアガンがあのタイミングで壊れたわけでは無いようだ。

 

「なんなんだよ…」

 

「はー…はー…中々肝が冷えた暗殺でしたよ…月乃君。」

 

「殺せると思ったんだがな、俺はとことん射撃の神様に嫌われてるらしい。」

 

『降参だ』とでも言うように両手を挙げる白利、ちなみに彼は今殺せんせーが急いで抜け出し手入れをした事でズボンを脱がされスカートを履かされている。

 

「射撃はともかく、殺意を隠した接近や流れるような身体運び、そして先生の動きを予測した作戦どれもお見事でした。」

 

「俺が暗殺でエアガンを使う訳ないって思い込みを利用したんだけどなぁ。まさかここまでとは…」

 

『メールを受信しました、再起動します。』

 

いつのまに殺せんせーがメールを送っていたのか律が再起動し、モニターに明かりが灯る。

 

「あ、まっずい…!」

 

『おはようございま……す………月乃さん…ついに女装趣味が…』

 

「ねぇよ!ついにってなんだ!?殺せんせーに手入れされただけだ!」

 

『大丈夫です、月乃さんは中性的な体型と顔をなさっているので似合っていますよ!月乃さんに似合いそうな服を検索しておきます♪』

 

「せんでいい!」

 

 

 

白利と律の会話を離れて聞きながら殺せんせーは1人考えに耽る。

 

(しかし危なかった…月乃君の殺意は隠すどころか()()()()()()()()。『殺す』と宣言した時には殺意があった、手に持つナイフも見えていたはずなのに近づいてくる時には()()()()()()殺意が無かった…そして最後の瞬間のゾッとするような殺意は…)

 

殺意が無い状態から一変して心臓を掴まれるような冷たい殺意、まるで電気のスイッチを切り替えるような速さ。

もちろんこれまでにも白利の暗殺を受けた事はあるがどれも殺意は感じられた、だが今回のは訳が違いすぎる。

 

「………」

 

白利の横顔を見ながら思う、『この殺意は中学3年生の少年が持ち得るものなのだろうか』と。




ご覧いただきありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

人生を懸けてでもやり遂げたい事がある
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