暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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親愛の時間

「視線を切らすな!!次に標的(ターゲット)がどう動くか予測しろ!!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐ事になる!!」

 

運動場に烏間先生の声が響く。

殺せんせーの暗殺が始まり4ヶ月が経ち、烏間先生の最初の体育の時間と同じように実践形式での中間テストが行われていた。

 

「月乃、少し付き合ってもらっていい?」

 

「テストの前に身体を一回動かしておきたいの!」

 

磯貝と前原ペアのテストを見ていると、2人の女子から声をかけられる。

 

「速水と矢田か、別に良いぞ。…俺は烏間先生みたいに完全に受けに回った方が良いか?」

 

「そっちの方がありがたいけど…」

 

「月乃君もテスト前でしょ?大丈夫?」

 

「俺は平気だ、受けに周ってる側の感覚も知っておきたかったんだ。」

 

「じゃあ、お願い月乃。」

 

「おうよ。」

 

少し広いスペースに移動して2人と向かい合う。

速水と矢田、ダンスをやっていた者同士仲が良い2人はどう立ち回ってくるのか。

白利は警戒を強め、できるだけ2人を視認できる位置取りを意識する。

 

「さぁ…来い!」

 

「言われなくても!」

 

「行くよ!」

 

最初に動き出したのは速水、白利の左側に周りつつ刺突を繰り出して来た。

白利はナイフをいなし、あるいは身体を捩りながら回避しつつ矢田の位置を確認する。

 

(左右に分かれて俺の視界に2人が入らないように位置取りをしてる…矢田を捌きたいがそうすると速水の方の防御がおざなりになっちまうな。)

 

「やッ!」

 

続いて矢田が白利の背中に突きを繰り出す。

白利の体勢的に弾く事はできないので突きを放った速水の腕を引っ張り体勢を崩しつつ、勢いのまま速水の身体に沿うように回転して位置をずらし矢田の攻撃を回避する…が、腕に少し掠る。

 

「わわっ」

 

「むぅ…今の避けるかぁ…」

 

「いや、腕に掠ってはいたし良いコンビネーションだ。」

 

「…矢田、まだいける?」

 

「うん、任せて凛香!月乃君に一泡吹かせよう!」

 

「なんでそうなんだよ。」

 

白利の余裕そうな態度に少しイラッと来たのか、速水はナイフを持ち直し矢田は満面の笑みで恐ろしい事を言っている。

『女子ってこえ〜…』と思っていると今度は2人同時に切りかかってきた。

 

「ハッ!」

 

「ヤァ!」

 

2人の位置取りは先程までとは違い白利がギリギリ2人を視認できる程度の感覚でナイフを振るっているが

 

(これ見よがしにフェイントを混ぜて来やがる…!それに…近い!)

 

2人は白利にかなり接近しており、白利の視界の端に映るようにフェイントを混ぜ込んでくる。

先程までの距離ならかろうじて取捨選択できていたが、至近距離ではどうしても反応せざるを得なくなってしまう。

 

ならば距離を取ろうと後ろに下がろうとすると、白利が足を出そうとした場所に先んじて踏み込み足場を無くされて

 

(こっちのやりたい事を…やらせてもらえない!)

 

「……今!」

 

「月乃君ごめんね?」

 

「うおっ!?」

 

下がろうと左足を動かした瞬間、速水に左足を絡め取られバランスを崩したところを矢田に押されて地面に倒れ込んだ。

そして女子2人は倒れ込んだ白利の胸部に対先生ナイフをぷすぷすと刺しまくる。

 

「いや〜守りって難しいな…足の踏み場を無くされるのは相当困ったわ。」

 

「でしょ?矢田と2人で話した時に思いついたの。」

 

「でも問題はコレが烏間先生…もとい殺せんせーに効くかなんだよねぇ…」

 

「それを試すのが今回テストなんだろ?結局やってみるまでわかんないってやつだ。」

 

未だに対先生ナイフで突いてくる2人の手首を掴み止めてから身体を起こす。

 

「じゃ、そろそろ俺の番だから行ってくるわ。」

 

「頑張って。」

 

「付き合ってくれてありがと〜」 

 

2人に背を向け、烏間先生の元に駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

テストの待機列に並んで観戦していると烏間先生に弾かれた渚がゴロゴロと転がって来た。

 

「…いった…」

 

「渚大丈夫か?」

 

「…!!すまん、ちょっと強く防ぎすぎた立てるか?」

 

「あ、へ、へーきです。」

 

渚に手を差し伸べて身体を起こしてやる。

ペアの杉野に渚が『バッカで〜』と言われているが、白利は渚のテストを思い返していた。

 

(なんだったんだ…今の…?渚の雰囲気が変な感じだったような……)

 

確かにこの目に捉えていたはずなのに、急に殺意が膨れ上がったような…気づいた時には既に喉元にナイフを突きつけられているのに気づいたような烏間先生の反応。

思考を巡らせていると

 

「次!!月乃君!!」

 

「あ…はい!!」

 

白利の順番が周ってきた。

 

 

 

白利は1人で烏間先生と向かい合いテストを開始する。

烏間先生から教わったナイフ術と体術、そして今まで伸ばし続けていたスピードを存分に発揮していく。

 

(月乃白利…暗殺開始から今まで射撃成績はダントツで最下位、更には的へのヒット数もゼロ…だが、それを補って余りある程の身体能力の高さを持っている。筋力は決して高くはないが、持ち前の体幹と柔軟性、女子にも負けず劣らずの肉体のしなやかさ。そしてなにより…)

 

「シッ…!」

 

「良い速さだ、もう少し予備動作を小さくすれば完璧だろう。」

 

「…はい!」

 

(このスピードと正確に急所を狙う精密動作性、肉体の柔軟性と掛け合わせたモーションの高速化と短縮を実現できるセンス。教えた事を直様取り込み実践、応用できる思考の柔軟性。まさしくE組(このクラス)におけるトップクラスの近接攻撃(アタッカー)だろう。)

 

「よし!月乃君加点6点!」

 

「ありがとうございました…!」

 

 

 

 

 

「それまで!今日の体育は終了!!」

 

全員のテストが終わり、烏間先生の号令がかかり授業も終わると速水と矢田に声をかけられた。

 

「お疲れ月乃、凄かったね。」

 

「ね〜、1人で6点も稼ぐなんてやっぱ近接戦闘は月乃君がトップクラスだね。」

 

「まぁその分射撃成績がアレだからな俺は…そういえば渚達に付き合ってて見れなかったんだが、そっちはどうだったんだ?」

 

白利の問いに2人は少し顔を曇らせながら首を横に振る。

 

「てんでダメ、まずあそこまで近くに寄らせてもらえなかった。」

 

「挟み撃ちにしても全部反応されちゃった…1点は取れたんだけどね?」

 

「最初の頃は1点も取らせてもらえなかったんだし十分な結果じゃないか?」

 

3人で反省会をしていると倉橋が烏間先生をお茶に誘っていたが『誘いは嬉しいがこの後は防衛省の連絡待ちでな。』とクールに告げて校舎へと戻っていった。

 

「私生活も隙がないな烏間先生。」

 

「…っていうより、私達との間に壁っていうか一定の距離を保ってるような。」

 

「厳しいけど優しくて、大切にしてくれてるのは感じるけど…」

 

「確かに任務で教師やってんだろうけどさ、ただ任務の為だけなら俺達個人ごとに色々と見てくれてないだろ。俺、射撃はダメダメだけどそれでもあの手この手で色んな射撃の指導してくれてるし。」

 

「えぇ、月乃君の言う通りです。」

 

白利の頭にポンと触手が置かれ撫でられる。

 

「殺せんせー。」

 

「烏間先生は確かに先生の暗殺のために送り込まれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ。」

 

「…だよな。」

 

殺せんせーの言葉を聞きながら烏間先生の背中を見つめていると、校舎の扉が開き大量の紙袋と段ボール箱を抱えた恰幅の良い…腹が出ているデカい図体の男が現れ、運動場にやってくる。

 

「やっ!俺の名前は鷹岡明!!今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくなE組の皆!」

 

中央で自己紹介すると手に持った荷物を地面に下ろす。

どうやら中身はケーキや飲み物らしい。

 

「これ『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん!!」

 

「こっちは『モンチチ』のロールケーキ!!」

 

甘い物好きの茅野や不破が叫ぶのを聞くに高級スイーツの類なのだろうか、矢田は速水の手を引っ張り物色に向かう。

 

「いいんですかこんな高いの?」

 

「おう食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな!」

 

磯貝の質問に気丈に鷹岡が言い放つが、額には汗が浮かんでおりお財布事情を感じさせる。

 

「モノで釣ってるなんて思わないでくれよ?お前らと早く仲良くなりたいんだ。それには…皆で囲んでメシ食うのが1番だろ?」

 

「でも…えーと鷹岡先生、よくこんな甘い物ブランド知ってますね。」

 

「ま、ぶっちゃけラブなんだ砂糖がよ。」

 

「デカい図体してかわいいな…」

 

殺せんせーや皆は嬉々としてスイーツやジュースを手に取る中、速水はこの場に白利がいない事に気がつき辺りを見回すと白利は先程まで居た場所に立ち尽くしていた。

 

(どうしたんだろ。)

 

箱から自身と白利、2人分のエクレアを取り出して駆け寄り顔を覗き込むと

 

「え……?」

 

白利の酷く濁った目が見えた。

教室や先程まで見せてたような笑顔は無く視線の先にいる鷹岡を見続けている。

 

「月…乃……?」

 

「…ん?速水か、どうした?」

 

「えっ…とコレ食べるかなって持って来たんだけど……」

 

「エクレアか、ありがとな。」

 

至近距離に近づいてようやく速水の存在に気づいたのか、顔を向けて速水の手からエクレアを受け取ると打って変わって濁った目が元に戻り、顔には笑みを浮かべていた。

 

「………」

 

E組が始まった頃の無表情な時と似ているのに、その身に纏う雰囲気はまるで違う。

 

(なんだか…すごく怖い…)

 

エクレアを頬張るその横顔に、恐怖と危うさのような物を覚えた。

 

 

 

 

 

「…よーし皆集まったな!では今日から新しい体育を始めよう!」

 

次の日

烏間先生の負担を減らす為、体育の授業の担当は鷹岡に代わり最初の授業である。

 

「ちょっと厳しくなると思うが…終わったらまたウマいモン食わしてやるからな!」

 

「………」

 

速水は鷹岡の言葉を聞き流しながら隣に座る白利の横顔を見つめているがその顔は昨日と同じ無表情で濁った目をしていた。

 

(月乃…一体何が…?)

 

「さて!訓練内容の一新に伴ってE組の時間割も変更になった、コレを皆に回してくれ。」

 

「…?時間割?」

 

配られ時間割は

 

10時間目、夜の9時まで訓練と少しの授業で埋められた異常な物で全員が絶句してしまう。

 

「このぐらいは当然さ、理事長にも話して承諾してもらった、『地球の危機ならしょうがない』と言ってたぜ。この時間割(カリキュラム)についてこれればお前らの能力は飛躍的に上がる。では早速…」

 

「ちょっ…待ってくれよ無理だぜこんなの!!」

 

前原が立ち上がり抗議の声を上げる。

 

「ん?」

 

「勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!理事長も()()()()()承諾してんだ!!遊ぶ時間もねーし!!できるわけねーよこんなの!!」

 

前原の言う事は何一つとして間違っていなかった、少なくともE組の生徒全員は同じ事を思っていただろう。

 

その言葉を聞き遂げた鷹岡は前原に近づき

 

「…ガハッ!?」

 

「『できない』じゃない、『やる』んだよ。」

 

髪を掴んで腹に膝蹴りを叩き込んだ。

前原は苦しそうに腹を押さえながら地面に倒れ込んでしまう。

 

「言ったろ?俺達は『家族』で、俺は『父親』だ。世の中に…父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」

 

「「「………!!!」」」

 

「さぁ、まずはスクワット100回かける3セットだ。」

 

「「「………」」」

 

警戒心を隠さない生徒達を見て鷹岡は続ける。

 

「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人もいる、1人や2人入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい。」

 

ゆっくりと生徒達の周りを一周するように歩く、まるで逃げ場など無いと言いたげに。

 

「けどな、俺はそういう事したくないんだ。お前ら大事な家族なんだから父親として1人でも欠けて欲しくない!家族皆で地球の危機を救おうぜ!!なっ?」

 

「馬鹿馬鹿しい。」

 

恐怖に空間が支配される中1人が声を上げた、誰であろう白利だ。

 

「月乃…」

 

速水の心配する声も届かず、吐き捨てるように言葉を続ける。

 

「聞いてりゃ『家族』だの『父親』だの、子供にだって誰を親と慕うのか選択する権利くらいある。それに…」

 

「なんだ?」

 

「人としても、教師としてもアンタ()()()()()()()()()()()()。」

 

「……ッ!!このガキィッ!!」

 

大きく振りかぶった鷹岡の拳が白利の顔を捉え、身体が大きく後方に吹き飛んだ。

 

「「「「月乃ッ!!」」」」

 

「やめろ鷹岡!」

 

速水、千葉、杉野、渚そして烏間先生が駆け寄ってくる。

 

「前原君、大丈夫か?」

 

「へ…へーきっス…」

 

「月乃君は?顔をよく見せてくれ。」

 

「…大丈夫ですよ。」

 

地面に転がった白利が速水達の手を借りて上体を起こし、烏間先生と目線を合わせる。

 

「ちゃんと手加減してあるさ烏間、大事な俺の家族だ当然だろ。」

 

「いいや、あなたの家族じゃない。私の生徒です。」

 

血管を浮かべて鷹岡の肩を掴む殺せんせーの顔は黒く染まり、見るからにキレて敵対心を剥き出しにしているのがわかる。

 

「フン、文句があるのかモンスター?体育は俺に一任されている。そして、今の()も立派な教育の範囲内だ。短時間でお前を殺す暗殺者を育てるんだぜ、厳しくなるのは当然だろう。それとも何か?多少教育論が違うだけで…お前に危害を加えてない男を攻撃するのか?」

 

「………」

 

この言葉に殺せんせーは一度引き下がるが、烏間先生共々いつでも止められるようにとすぐに割って入れる位置で見守ることにしたらしい。

 

体育は続き、白利達はスクワット300回をこなしているのだが

 

「じ、冗談じゃねえ…」

 

「初回からスクワット300回とか…死んじまうよ…」

 

菅谷と岡島が息も絶え絶えになりながら膝を震わせている。

 

「烏間先生〜…」

 

助けを求めるように倉橋が烏間先生の名を呼ぶと、耳に入ったのか鷹岡が寄ってきた。

 

「おい、烏間は俺達家族の一員じゃないんだぞ?家族は連帯責任だからなぁ…しっかりお前が責任とるんだぞ月乃!!」

 

明らかに八つ当たりで白利へと拳を振りかぶる鷹岡、それを見て止めようと烏間先生も駆け出すが

 

パアァァン!

 

と乾いた音が鳴り響いた。

 

「…あぁすみません、()()()()()()カウンターしちゃいました。烏間先生に習ってたもので。」

 

拳は白利に当たる事なく、鷹岡の頬には紅葉模様が浮かんでいた。

白利が平手打ちをかましたのだ。

 

「このガキ…父親同然の俺に歯向かいやがって…!!」

 

「俺が親と呼ぶのは母さんだけだ。…良く似合ってるぜそのアホ面(マーク)。」

 

「…ッコイツ!!」

 

再び拳を振りかぶるが、

 

「それ以上…生徒達に手荒くするな。暴れたいなら俺が相手を務めてやる。」

 

「「「烏間先生!!」」」

 

今度は烏間先生によって阻止された。

 

「…チッ……言ったろ烏間?コレは暴力じゃない教育なんだ。暴力でお前とやり合う気は無い。対決(やる)ならあくまで教師としてだ。お前らもまだ俺を認めてないだろう、父ちゃんもこのままじゃ不本意だ。」

 

そう言うと、鷹岡は懐から対先生ナイフを取り出して指を差す。

 

「そこでこうしよう!!こいつで決めるんだ!!烏間、お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を1人選べ。そいつが俺と闘い一度でもナイフを当てられたら…お前の教育は優れていたのだと認めよう。その時はお前に訓練を全部任せて出てってやる!!男に二言は無い!!」

 

ドンと胸を叩いて見せる鷹岡に、全員が顔を明るくさせるが鷹岡は地面に置いてあるカバンに近寄ると

 

「ただし、もちもん俺が勝てばその後一切口出しはさせないし…使うナイフはこれじゃない。」

 

本物のナイフを取り出して見せた。

 

「殺す相手が人間(オレ)なんだ、使う刃物も本物じゃなくちゃなァ。」

 

「よせ!!彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない!!本物を持っても身体がすくんで刺せやしないぞ!!」

 

「安心しな、寸止めでも当たった事にしてやるよ。俺は素手だしこれ以上無いハンデだろ?さぁ烏間!!1人選べよ!!嫌なら無条件で俺に服従だ!!生徒を見捨てるか生贄として差し出すか!!どっちみち酷い教師だなお前は!!はっはは〜!!」

 

 

 

烏間先生は地面に転がされたナイフを取って生徒達を見ると皆本物のナイフに畏縮して顔を強張らせてしまっている。

 

(俺は…どうすればいい…?最も勝率が高いのは月乃君だ。だが、今の彼は何かがおかしい…昨日までの彼とはまるで違う、託してはいけない危うさを感じる。俺は…)

 

ナイフを持って立ち尽くす烏間先生を見て白利が歩み寄ろうとする…が、右手を掴まれ歩みを止めた。

 

「……離してくれ。」

 

「ダメ、絶対離さない。」

 

速水は白利の右手を両手で包み込み行かせないように引っ張る。

 

咄嗟の事だった、何故かはわからない。だが行かせてしまったら白利がどこか遠くに行ってしまうような気がして…気づけば速水は白利の手を取っていた。

 

そんな2人を一瞥した烏間先生は覚悟を決めてナイフを手渡した。

最も『可能性』がある生徒…

 

「渚君、やる気はあるか?」

 

「…!?」

 

潮田渚に。

 

「選ばなくてはならないならおそらく君だが、返事の前に俺の考え方を聞いて欲しい。」

 

烏間先生の目は渚の目を真っ直ぐ見て話す。

 

「地球を救う暗殺任務を依頼した側として…俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保証する事だと思っている。」

 

「………」

 

「だから、このナイフは無理に受け取る必要は無い。その時は俺が鷹岡に頼んで…『報酬』を維持してもらうよう努力する。」

 

『土下座でもすりゃ考えてやるがね』と鷹岡の言葉を聞き流しつつ、渚は烏間先生からナイフを受け取る。

 

(僕は烏間先生の事が好きだ。こんなに真っ直ぐ目を見て話してくれる人、家族にもいない。隠し事は沢山あるんだろうけど…それでもこの先生が渡す(ナイフ)なら信頼できる。それに…前原君と月乃の事、せめて一発返さなきゃ気が済まない。)

 

「やります。」

 

 

 

 

 

少し離れた場所で向かい合う鷹岡と渚を見つめ、血が上った脳を落ち着かせつつ冷静に分析する。

鷹岡は『お前の目も曇ったなぁ』とほざいているが、奴は本質が見えていない。

 

(勝利条件は『当てる』だけ。鷹岡は正面戦闘だとか痛ぶるとか勝手に思い込んでいるだろうが要は…)

 

ナイフを構えていた渚は、にこやかに、友達の元に歩み寄るように、ただ道を歩くように、()()に近づき

 

(自爆テロの時と一緒だ。)

 

自然に近づき自然に殺す、そこに戦闘態勢に入る余地など存在しない。

ごく()()に手を伸ばし()手折る(殺す)ように。

 

鷹岡の首に向かいナイフを振るった。

 

鷹岡は予想すらしてなかったのだろう、一切の躊躇無く首元にナイフを振ってくるなど、本当に殺されかけていると

 

(予想すらしないからまずは避けようと後方に仰反る。)

 

殺せんせーですら殺されかけて心を乱すのだから鷹岡も例外では無く、後ろに偏った重心を服を引っ張り転ばせて

 

(そして立て直す暇も与えず仕留めに行く。)

 

正面からでは防がれるので背後に回り、確実に

 

「捕まえた。」

 

(これが渚の…暗殺者としての才能…)

 

これまでの暗殺の数々で、渚の自爆テロの時殺せんせーが直前まで気づかなかったのは何故だろうと考える事があったが…今のでわかった。

渚は自分の殺気の扱いが異様に上手いのだ、白利がテストの際感じ取ったのはコレなのだろう。

 

「はぁ…確かに渚の方が適任か…」

 

後頭部を掻きつつ労いに行こうと足を踏み出した瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい鷹岡ァ!!せっかく俺が特別講師として来てやってんのに何やってんだよ!!」

 

野太い男の声が響いた。

 

「…は?」

 

「え…誰?」

 

校舎の方を見ると40代ほどだろうかガタイの良い黒髪の大男が立っていて、その男を見た鷹岡が声を上げた。

 

「な…南雲さん…!!」

 

「南雲…?まさか南雲修(なぐもおさむ)か!?」

 

「にゅや?烏間先生、お知り合いで?」

 

「南雲修、元第一空挺団所属で俺と鷹岡の10年以上の先輩にあたるがとっくに離任してるはず。なぜ奴を鷹岡が…いやそれよりもどうやって防衛省に…?」

 

烏間先生が思考を巡らせている間に殺せんせーが南雲と呼ばれた男の横に移動する。

 

「どうも初めまして、私はE組の担任をしている者です。鷹岡さんに呼ばれていたようですが残念ながら『アレ』ですので…」

 

「あぁ、別にそこは文句ねぇよ。鷹岡が勝手にやって勝手に負けただけだしな。…でも、()()()()は用があるんじゃねぇかな。」

 

「はて?このクラスに南雲という姓の生徒は在籍してませんが…」

 

「いや、そこにいるぞ?」

 

南雲が指差した先、殺せんせーの視線が向いた先にいたのは

 

「月乃君…!?」

 

「お前と会うのはいつ以来だ?覚えていてくれて嬉しいよ白利。」

 

「…………10年だ。」

 

無表情にただ濁った目で南雲を見続ける白利、その手には渚が持っていた筈のナイフが握られ冷たい殺意を纏っている。

 

「この身体に刻まれた改造も!お前に受けた暴力も!母さんを殺した奴の顔を!!この10年間忘れた事は一度も無い!!」

 

日の当たらぬ月の裏が顔を覗かせた。




【月乃白利の秘密】

この世で最も嫌う存在は父親
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