前編は学校でのお話でしたが、後編は白利の学生っぽい夏休みでのお話となります。
次回の投稿は多分そんな間開かないと思います……タブンネ
6人はE組校舎のある山を降り椚ヶ丘中学校の正門を出ると一通のメールが白利のスマホに届く。
取り出して見てみるとどうやらメールの送り主は渚のようだ。
『宿題で教えて欲しいところがあるんだけど、月乃の家に行っても良いかな?』
『良いけど…今、杉野達5人と一緒にいるからどうせなら皆でやるか。ちなみに渚は昼飯どうする?こっちは俺ん家の食堂で食うつもりだけど。』
『僕もお昼まだだから御相伴に預ろうかな。』
『オッケー、椚ヶ丘駅まで迎えに行くからもし先に着いたら駅前で待っててくれ。』
『前に杉野に月乃の家の場所教えてもらったからいいよ、お迎えは大丈夫。』
『そうか?なら、先に待ってるぜ。』
渚との約束を取り付けるとスマホの画面を切りポケットに仕舞うと、先ほどまでスマホと睨めっこしていた白利を不思議に思ったのか皆が視線を向けている。
「どうかしたのか?」
「いや、渚がウチに来るみたいでさ。その連絡をしてた。」
「渚君が?」
「宿題で教えて欲しいところがあるんだってさ、…どうせならお前達もやるか?夏休み勉強会。」
「いいの!?」
このメンツ中では比較的成績が振るわない岡野が目を輝かせながら白利に詰め寄り、他のメンバーも首を縦に振っている。
「一応宿題持って来といて正解だったな。」
「ね、でも大丈夫?月乃の負担すごそうだけど。」
「そうだな…神崎さんさえ良ければ教える側に回って欲しいんだが良いか?」
「うん、大丈夫だよ。でも私、数理は苦手だからそっちは教えて欲しいかな?」
「任せてくれ、数学が得意な千葉と英語が得意な渚いるから手は足りそうだな。」
国語、数学、英語でトップクラスの成績を取ってるメンバーもいるので案外なんとかなりそうだと思っていると、再びスマホにメールが届く。
『月乃〜…宿題教えて〜…』
開いてみると茅野から送られて来たようで、渚と同じく宿題を教えて欲しい様が文体のしおしお具合でわかる。
『良いぞ。杉野達5人と一緒にいて渚も来るから俺ん家で昼飯食った後、勉強会やるつもりだけど来るか?』
『行く!』
『オッケー、俺ん家の場所覚えてるな?』
『この前通った場所でしょ?大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。』
『じゃ、先に待ってるぞ。』
茅野との連絡を終わらせて再びスマホを仕舞い、皆にもうひとり増えたことを報告する。
「…と、言うことで茅野も勉強会参加だ。」
「茅野っちも来るんだ、いーねー夏休みって感じしてきた!」
「…でも月乃君は大丈夫?こんな大人数で押しかけて迷惑じゃないかな?」
「ん?あ〜平気だよ。食堂の席埋まってたらウチの居間で食えばいいし、家も無駄に広いから俺含めて8人くらいは余裕だ。」
「確かに月乃の家広かったな。…俺、月乃の家の雰囲気好きなんだよなザ日本家屋って感じで。」
「そっか、千葉君達は月乃君のお家に行ったことあるんだもんね。」
神崎が言っているのは十中八九白利が不登校になっていた時のことだろう、別にその言葉に悪気がないのはわかっているが白利は少し苦い顔をしてしまう。
「……その節は大変ご迷惑をおかけしましたぁ…」
「…あっ!ごめんねそんなつもりは…!」
「大丈夫だ、悪気がないのはわかってるから。」
ワタワタと慌てながら謝る神崎を宥めていると、白利を連れ戻した張本人が口を開く。
「色々と驚きはしたけど別に迷惑をかけられたとは思ってない、じゃなきゃ皆月乃が帰って来てあんなに喜ばないでしょ?」
「………そう……か?」
速水の言葉に思わず足を止めて皆の顔を見渡すと、笑顔で白利の事を見つめてくるので気恥ずかしくなってしまい顔を逸らす。
顔を赤くして立ち尽くしてしまっている白利を挟み込むように、杉野と千葉が肩を組んで来た。
「そうだぜ!多重人格だろうがなんだろうが俺達は友達だろ?もっと俺達を頼れよな!」
「頭が良くて、運動神経抜群で、射撃が絶望的にヘタクソ、だけど絶対に諦めないメンタルを持ってる、それが俺達の良く知る月乃白利だ。多少隠し事があっても、そんなやつ嫌いになるかよ。」
「……えぇい暑苦しい!!離れろお前ら!!」
「なんだ照れてるのか?」
「暑いんだろ?さっさと行こうぜ〜!」
杉野と千葉は頬を赤く染めバタバタと暴れる白利を引き摺りながら歩き、その様子を女子達も笑顔で見つめながら後ろをついて白利の家へと向かった。
太陽がちょうど真上らへんに位置する頃、結局白利は2人に引き摺られたまま自宅…もとい『天ノ川』まで着いたのだが目の前には呼んだ2人と呼んでない1人が佇んでいた。
「あ、月乃……どうして杉野と千葉君に引き摺られてるの?」
「先に待ってるって言ってたのに〜溶けちゃうよぉ〜」
「悪い悪い、色々あってな…先に入ってて良かったんだぜ?」
「それが…」
渚が『天ノ川』の扉を指差すと『本日臨時休業』と書かれた吊り看板が扉にかけられていた。
朝は普通に営業していたのだがどうしたのだろうと十三にメールを送ると、すぐさま『馴染みの顔が揃ったもんでな、少し出かけてるんだ。』と返信が届き、ひとまず問題は無いようなのでとりあえず胸を撫で下ろし、
「……で、そちらの赤髪の方は何をしに来た?」
「ん〜?たまたま外歩いてたら渚君と会ってさ、話聞いて着いて来ちゃった。」
呼んでない人間に目線を向けるとヘラヘラとした返答が帰ってきた。
「着いて来ちゃった、じゃねぇよ!せめて一声かけろや!」
「ごめんごめん、じゃ俺も混ぜて?」
「お前ほんとなぁ…ここで追い返したら俺が悪モンみたいじゃねぇかよ…」
『月乃君やさし〜!』と反省の色がまるで見えないカルマの声を背に受けながら食堂の扉の鍵を開けていると、渚の元へ速水達が集い白利に聞こえないように会話をし始める。
「月乃ってもしかしなくも結構苦労人?」
「そうだね……2年までは人付き合いも少なかったけど、E組で人付き合い増えてからはやたらとツッコミに回ってる事多い気がする…」
「アハハ…ツッコミの原因大体殺せんせーだけどね…」
「律とカルマにも相当振り回されてるよな…」
「まぁでも…あの無表情時代と比べたら断然感情豊かだからな今…」
「カルマって前から月乃のこと今みたいに弄ってたの?」
「ぜ〜んぜん、前は気が合う奴くらいで普通に話してたけど今は叩けば音が鳴る良いおも…弄り甲斐のある奴って感じ。最近じゃ寺坂も加わって楽しい限りだよ。」
『こいつ今良いおもちゃって言おうとしたな…』とツッコミたい気持ちを抑え、神崎はそんな皆を『あらあらうふふ』と見守っていると、
「…おい、入らないなら閉じるぞ?」
ジト目で入り口を指差してる白利の警告に全員急いで店の中へと飛び込んだ。
誰もいない食堂の電気と冷房をつけ自由に席に着くように言うと、白利は手を洗って汚れた服から着替えエプロンを身につける。
中は案外涼しかったので、祖父母が家を出たのはついさっき辺りなのかもしれない。
「で、何食う?メニュー表は机の上にあるから自由に選んでくれ。」
「へ〜和洋中なんでもあるんだな。」
「ここまで沢山あると目移りしちゃうな〜、えっ!?デザートとかもあるの!?」
「ウチの手作りのやつがな。」
キッチンの電源をつけて料理の準備を進めていると、メニューを見た思い思いの反応が聞こえて来て思わず微笑んでしまう。
「季節物のメニューもあるんだね、夏野菜のカレー美味しそう。」
「…ていうか、月乃ってメニューに載ってるの全部作れるのか?」
「何当たり前の事聞いてんだ、作れるに決まってんだろーが。これでも一応食堂の跡継ぎだぞ?」
一通り準備を終えて一度皆の元に戻る最中、メニュー表を指差す杉野の問いにさも当然と言うように答えると目を見開いた岡野が声を漏らす。
「そういえば前に原さんから『月乃君って自分でお弁当作ってて家庭的よね〜』って聞いたことあるかも…」
「家庭科のテストも99点だったし、月乃って結構家事全般できる?」
「まぁ裁縫とか色々とできはするが…ほら、そんなことより注文決めたか?」
「月乃ってカルマ君とは別ベクトルでハイスペだよね…頭良くて運動神経良くて料理男子で…」
渚の呟きに数人が頷いているのを見ないフリしながらメモ帳片手に注文を取る。
「じゃあ俺オムライス。」
「私も!」
「俺はサンドイッチセット。」
「僕はハンバーグもらおうかな。」
「私は…夏野菜のカレーにしようかな。」
「あ、私も神崎と同じやつで。」
「俺、唐揚げ定食で!」
「杉野と同じく!」
「オッケー。カルマと茅野がオムライス、千葉がサンドイッチ、渚がハンバーグ、神崎さんと速水が夏野菜カレー、杉野と岡野が唐揚げ定食だな。ちょっと時間かかるから先に勉強会やってて良いぞ。」
ポケットにメモ帳を突っ込み、代わりに取り出したヘアピンで前髪を束ねた後キッチンへと戻りひとりで機材を動かしていく。
野菜の下処理をしながら席を見るとカルマが中心になり、それぞれ問題集を開いて進めている様子が伺える。
殺せんせーの指導の賜物か、岡野もそこまで大きく行き詰まることもなくペンが走っていた。
(しかし…俺にこんな夏休みが来るとはなぁ。)
今までの白利の夏休みは特段大きなイベントでは無かった。
ひとりで黙々と宿題をこなし余った時間で予習する、友達なんていなかったから誰かと遊ぶこともなく精々常連客達に絡まれる程度。
E組に来る前も渚やカルマと少し遊ぶ程度で勉強会なんてした事も無かった。
それが今はどうだろうか、我が家で多くの友達が集い自分自身も笑顔で共にいることができている。
(それに、俺のことをわかってくれる友達も…頼れる先生達だっている。恵まれすぎてるな…俺は。)
《お前はそれで何者かになれたとでも思っているのか?》
(思ってないさ、でもいつかは
まだ答えは見つからない、けれど道の途中できっと見つかると信じて今はこの喜びを噛みしめながらフライパンを振るうのだった。
「はいお待ちどうさん、机の上空けてくれ。」
「「「おぉ〜!!」」」
問題集が片付けられた机の上に出来上がった料理を乗せていくと皆が…主に茅野と岡野がキラキラした目で料理を見つめている。
「すげぇ…これ全部月乃が作ったんだもんなぁ…」
「月乃!これあれだよね!真ん中にナイフ入れるとパカッてなるやつ!」
茅野が興奮しながら自身の前に置かれたオムライスを指差す。
白利が作ったオムライスは通常のものではなく、チキンライスの上に丸めたふわとろのオムレツを乗せる謂わゆる『タンポポオムライス』と呼ばれるものだ。
「その通り。てなわけで、ここからオムライスは仕上げだ。」
白利がカルマと茅野のオムレツに真っ直ぐナイフを入れると、綺麗にまるで花が咲くようにオムレツがチキンライスに覆い被さりふわとろの中身があらわになった。
「おぉ〜ちゃんと中身までカンペキじゃん、やるね月乃君。」
「だろ?ケチャップはどうする?自分でかけるか俺のおまかせか。」
「私おまかせで〜」
「俺も〜」
おまかせされたのでパッパとケチャップでオムライスに描いていく…のだが、オムライスにケチャップで書かれたものにカルマはプルプルと震え出す。
「…ねぇ月乃君?茅野は殺せんせーの名付け親だしぶっ壊れた月なのはわかるよ?でも、なんで俺のには『13』って描いたのかなぁ?」
「え〜?特に深い意味はないぜ〜?頭に浮かんで来たのを描いただけで、カルマに思い当たるものがあるならきっと偶然だろ〜?」
「……2学期の中間は覚えてなよ?」
(((逆にカルマが弄られてる!?)))
白利がカルマのオムライスに描いたのは『13』速水達もこの意味をしっかり理解している為苦笑いしている。
十中八九期末テストのカルマの総合順位を弄っているのだろう、カルマは青筋を浮かべながらケチャップで描かれた『13』を消すように塗り広げていた。
「月乃って弄る時はとことん行くタイプなんだね…」
「あはは…カルマ君ほどじゃないけど月乃もやる時はやる側の人間だから…」
「
「忘れがちだけど月乃がE組に来たのって素行不良だしね、今じゃ見る影もないけど。」
「ふふっ、おしゃべりも良いけどせっかく月乃君が作ってくれたんだから温かいうちにいただいちゃおう?」
「「「はーい!!」」」
神崎のお母さん力に従いつつ皆で手を合わせ、
「「「いただきます!!」」」
会釈をすると思い思いに口に運び始める。
「うっっっっっま!?」
「いやでもホント美味いよ月乃君、シンプルなオムライスなのに今までで1番美味いかも。」
「サンドイッチもすごいな…塗ってあるソースが具材と調和してる。たまごサンドめちゃくちゃ美味い、毎日食っても飽きないぞ。」
「月乃の手料理初めて食べたけど…うん、どんどん食べれちゃいそうだよ!」
「そりゃよかった。」
夢中で次々に口へと料理を運んでいく男衆からの高評価に喜びを覚えつつ、白利も自身の前に置かれているオムライスをスプーンで掬い口へと運ぶが、
「……月乃のオムライス、私とカルマのと違くない?シンプルと言うか…?」
茅野が首を捻りながら白利のオムライスを見る。
白利の前に置かれているオムライスは茅野達のとは違いしっかりと火の通った薄い卵の膜が乗ったシンプルなオムライスである。
「…人間ってな、人の為に作る時は丁寧にやるが自分の為となると適当になるんだよ。毎日食ってるのもこんな感じだしな。」
要は『自分で食べるんだから適当でいいや』ということだ。
「月乃の言うこともわかるけどさぁ…唐揚げも他の料理もこんなに美味しいのに…」
「まぁ毎日手間暇かけるのは大変なのはわかるけど、今日くらいは良いんじゃない?」
「でもお料理できる男の子ってカッコいいよね。」
神崎の『カッコいい』という言葉に凄まじい勢いで反応し白利に顔を向けた杉野を適当に片手であしらっていると、一瞬悪い顔をしたカルマが自身のオムライスをスプーンで掬い、
「月乃君、はいあ〜ん。」
白利に向けて突き出した。
「………は?」
「『は?』って酷くない?せっかくこんなに美味しくできてるんだから月乃君にも食べてほしいって思ったのに。」
「気遣いは嬉しいが野郎からのあーんほど嬉しくないものはねぇよ、皿だけよこせ皿だけ。」
「ふ〜ん、野郎からのあーんは嫌なんだぁ?野郎からのねぇ…じゃあ…」
カルマは白利の言葉を復唱しつつ口角をさらに吊り上げると、一度スプーンを皿に置いてその皿を速水の前へとずらし、
「速水さんが食べさせてあげてよ。」
とんでもない事を口走った。
「はぁ!?な〜に言ってんだこのバカルマは…自分で食えるっちゅーに。速水皿を『はい』………はい?」
「『はい?』じゃなくて口開けて。」
「速水さん、人間には腕と手があるんですよ?なんなら俺今スプーンも手に持ってんすよ?皿さえ寄せてもらえれば自分で食えるんすけど…」
「口。」
「あの…」
「開けて。」
「………」
無言でオムライスの皿を取ろうとすると速水に腕を掴まれ凄まじい圧をかけられる。
解決策を探そうと視線を動かすと、男子どもはニヤニヤとしながら『食えば終わりだぞ〜?』『早くしろ〜!』と野次を飛ばしており、女子に助けを求めようとすると『オムライス美味し〜!』『唐揚げもサクサクでジューシーだね。』と料理をシェアしていた。
「料理が好評で良かったよちくしょう!!」
半ば自棄っぱちになりながら速水の持つスプーンに向き合うと口を開いて、
「はいあーん。」
「あ……ん。」
オムライスを口に含んだ。
「「「おぉ〜!」」」
(コイツら…)
カルマ達を睨みつけつつ咀嚼を繰り返す、薄味で作った覚えはないがどうにも口に含んだオムライスからは味を感じなかった。
「月乃君どうだった?」
「…カルマとの間接キスが最悪だと思った。ほらお前らもさっさと食え、勉強会続きやるんだろ?…ったく、速水も乗らなくて良いんだぞ?カルマを増長させるだけなんだからさ。」
「ホンット月乃君ってさぁ……まぁいいや、実は今日月乃君にお土産持ってきたんだ〜流石にいきなりお邪魔するのに手ぶらは失礼だと思ってね。」
「お土産ぇ…?」
不安げな表情をしている白利を尻目にカルマはバッグの中をゴソゴソと漁り、大きめの袋を3つ取り出して見せた。
「じゃじゃ〜ん、花火〜!」
「夏といえば花火だけど…カルマ君、どうしてお土産に花火を?」
「月乃君ってさ、前まで友達少なかったし夏休みも俺と…話聞く限り渚君ともそこまで遊んでたわけじゃないじゃん?それに…過去のこともあるからさ。だから、E組にいる内に今までやれなかったこと色々やってみない?ってこと。」
「カルマ…」
サボり癖やイタズラ、煽りなど相変わらず変わらない所もあるが、カルマなりに白利を友達として気遣ってくれていることに思わず表情が綻んでしまう。
「……まさかカルマがそんなこと言うなんて…天変地異か?」
「…千葉に同じく。」
「千葉ぁ、杉野ぉ、ちょっと向こうでお話ししようか?」
「で…でもでも!カルマ君の提案は良いんじゃないかな!」
カルマに誰かを思いやる気持ちがあることに驚愕している千葉と杉野をシメようするカルマを宥めながら渚は声をあげると、女子達も頷きながら賛同する。
「さんせ〜い!」
「私も茅野っちと同じく!夏休みらしくて良いじゃん!」
「うん、暗殺で繋がった友達と過ごす夏休みなんて2度とないだろうしね。」
「月乃はどう?せっかくの夏休みだし、皆で花火やってみない?」
速水の言葉と共に向けられた全員の視線に、少し困ったように後頭部を掻きながら白利は口を開く。
「じゃあ……お願いしても良いか?実はやってみたいとは思ってたんだが…中3にもなって花火やりたいって言うのも…なぁ?」
「笑う奴なんてE組にはいないって、むしろ担任のあのタコが喜んで準備しそうだし。」
「…てか、カルマもやりたいだけなんじゃねぇか?」
「別にぃ?やりたくなったらひとりでやるし。」
「そうか…ま、何はともあれ先に勉強会してからな。親御さんにも連絡しとけよ?」
「「「はーい!」」」
昼食を終えて白利達は再び問題集へと向かい合う、夜のお楽しみの時間に向けて心を躍らせながら。
「切ったスイカここに置いておくから好きに食べてね。」
「「「ありがとうございます!」」」
やがて日が暮れ、月乃家の縁側には勉強会を終えた白利達と切ったスイカを乗せた盆を置く暦が集っていた。
「渚〜花火の先端のやつって何〜?」
「確か火薬を保護する為の紙だっけ、千切っても千切らなくても大丈夫なはずだよ。」
「まだ火すらつけてないのにここまでウキウキしてくれるとはねぇ。」
「開封する時からあの調子だもんな、おもちゃ買ってもらった子供か…?」
「月乃〜まだ種類あるんだからリアクション残しとけよな〜!」
初めての花火に珍しく目の色を変えてはしゃいでいる白利を中心に男子が着々と準備を進めている中、女子は男子に声が届かないよう離れて速水を取り囲んでいた。
「それで速水さん、そろそろ聞かせてもらいたいんだけど〜?」
「聞かせてもらいたいって…何を?」
「そりゃもう、速水っちと月乃の関係でしょ。」
「やっぱり気になっちゃうよね、今日だってあーんってしてたし。」
茅野達の言葉に『修学旅行の時の延長戦か…』と察した速水は腕を組み白利を見て少し思案した後、頬を赤く染めながら口を開く。
「………まぁ…好き…なのかな。」
「「「………」」」
普段の教室での姿からは想像もできない、恋する乙女の表情を見せた速水に茅野達は思わず黙りこくってその顔を凝視してしまう。
そんな視線に気づいたのか速水は茅野達を睨むように視線を向けると何故か茅野達も頬を染めていた。
「……何?」
「その…速水さんの表情に思わず私もドキドキしちゃって…」
「「うんうん!!」」
神崎の言葉に同意するように茅野と岡野は首が取れるのではと思ってしまうほどの速さで首を縦に振っている。
そんな3人に呆れながらスマホを取り出し画面をつけると、現時刻を刻む時計と白利と2人で写る写真が表示された。
(そっか…好きなんだ、月乃のこと…)
暴力沙汰を起こしてE組に堕ちてきた無表情の怖い奴、こんな自分に友達になろうと言ってきた変な奴、色んなものを失っていた友達、それでも一緒にいたいと思った人。
「ちなみに…月乃のどんなところを好きになったの?」
「…………顔?」
「初手顔!?」
確かに白利の顔は整っているが、普段の2人の関係性からお出しされた最初の答えが顔だとは思わず茅野達は驚いて声をあげてしまう。
流石に冗談なのだが、ここまで驚かれるのは速水にとっても想定外だった。
「流石に冗談……いやまぁ顔も好きだけど、でもやっぱり最初に惹かれたのは……こんな私のことを理解しようとしてくれた最初の人ってところ…なのかな?」
「最初に理解してくれた人かぁ…確かにそれは惹かれちゃうかも。」
「それから一緒にいるようになって、色んな顔を見て知るようになって、…倉橋とか岡野とかと一緒にいるのを見るとモヤつくようになって……好きなんだって。」
言葉に出してみてまさか自分が誰かに独占欲のようなものを抱く日が来るとは、その独占欲を向ける対象に視線を送るとこちらの感情などいざ知らずはしゃいでいるようだ。
(本当、ここ数ヶ月で色んな月乃の顔を見てきたけど…まだ見たことない顔あるんだ。)
「速水達〜!準備できたから花火やろ〜ぜ〜!」
「わかった、すぐ行く。」
目をキラキラと輝かせて呼んでいる白利に手を振りつつ足を進めようとすると、
「速水さん、私達応援してるから!!」
茅野達の速水の恋を応援する言葉に微笑みを返しつつ、男子と合流し白利の手から花火を受け取り火を灯す。
暗がりに煌めく9つの火花は、永遠に忘れぬ思い出として刻まれた。
ご覧頂きありがとうございました!
【月乃白利の秘密】
友達に手料理を振る舞うのは初めて