いよいよ暗殺旅行開幕でございます!
ロヴロの指導からあっという間に1週間が経ち、いよいよやって来た暗殺旅行当日。
この1週間白利はロヴロからのアドバイスに頭を悩ませつつも、こうして当日を迎えてみると内心ウキウキが止まらない。
「………」
大海原を突き進む船の上でひとり心地の良い潮風を浴びながら水平線を見つめていると、ふとすぐ横に人の気配が現れた。
「どうした速水?」
「別に、デッキの方にいなかったから探してただけ。」
「そっか。」
顔は動かさず視線だけを声がする方向に動かすと、濃い赤のノースリーブと青白の縦縞が入ったスカート姿の速水が目に入った。
瞬間、突風が吹き荒び服をバタバタと揺らす。
「月乃はやっぱりオーバーサイズなんだね。」
「結局これが1番楽なんだよ、暗殺にも支障は出ない範囲だと思うし。」
白利の格好は相変わらずオーバーサイズ気味で白色のTシャツにネイビーのワイドパンツを纏い、上にはカーキのシアーテーラードジャケットを羽織っている。
「暗殺…今回で絶対成功させよう、皆で計画散々詰めたんだし。」
「そうだな、触手7本と今回の計画…多分今まで仕掛けた暗殺の中で1番殺せる確率は高いだろうな。」
「殺せんせー殺して、次の日遊んでさっさと帰ろう。」
「…あぁ。」
返事こそしたが白利の心中にはどうにも迷いが生じていた、内容は雪村先生のこと。
イトナがやって来た時には濁していた動機だが、雪村先生が関わっていることは何となく目星がついている。
(『暗殺で聞くしかない』殺せんせーはそう言ってたけど…やっぱ本人の口から聞きたいよな。)
そんなことを考えていると肩が揺らされた。
「そろそろ着くんじゃない?皆のところ行こ。」
「ん、そうか。行くか。」
先を行く速水の背を追いながら、『もし失敗したら聞けばいいか』と思考を打ち切るのだった。
「にゅやァ…船はヤバい…船はマジでヤバい…先生、頭の中身が全部まとめて飛び出そうです…」
殺せんせーの弱点
乗り物で酔う
デッキの方へ着くと何やら船酔いしたのか、殺せんせーが顔を真っ青にしながら手すりに寄りかかり随分グロッキーな様子だった。
「マッハで反復横跳びしても酔わないのになんで乗り物で酔うんだ?」
殺せんせーのあるのかわからない三半規管に疑問を覚えているとついに目的の場所が見えて来て、全員のテンションが上がっていく。
「東京から6時間!!殺せんせーを殺す場所だぜ!!」
「あそこが…」
「「「島だぁーーーっ!!」」」
船に揺られること数時間、ついにE組は決戦の舞台へと足を踏み入れた。
「ようこそ、普久間島リゾートホテルへ。こちら、サービスのトロピカルジュースでございます。」
「ありがとうございます。」
一旦ホテルへのチェックインを済ませ荷物を置いた後にフロントへ戻ると、ウェイターがホテルのサービスだとトロピカルジュースを差し出される。
『そういえば殺せんせー、ジュース買うためにだけにハワイまで飛んでったことあったなぁ。』と思いつつ、せっかくなので受け取って口をつけると太陽の火照りを冷ましてくれるような爽やかさが口内に広がった。
「いやー最高!!」
「景色全部が鮮やかで明るいな〜」
椅子に座って白利と同じくトロピカルジュースを飲みながら満喫している三村と木村に内心同意しつつ、辺りを見渡す。
(流石リゾート、人が多いな。……バレるなよ国家機密。)
人の多さに
(まぁ、烏間先生がここら一帯を貸し切るって言ってたから平気か?)
「ホテルから直行でビーチに行けるんですねぇ、様々なレジャーも用意してあるようですし。」
「例の
「ヌルフフフ、賛成です。よく遊び、よく殺す、それでこそ暗殺教室の夏休みです!」
ここまでは作戦通り。
修学旅行の時と同様の班で殺せんせーの注意を引き、それ以外の班がそれぞれ各所に暗殺の工作を行う。
どうやら早速倉橋率いる1班が殺せんせーをアクティビティーに誘っているようなので、白利達4班も集合し工作の確認をする。
「さーて、俺達も作業に取り掛かるか?」
「そうだね、とりあえず現地をチェックして勘付かれる前にチャペルの支柱に細工しよう。」
「…ていうか今更だがやっていいのか…これ?」
「烏間先生が良いって言ったんだから良いんじゃない?どうせ防衛省が払ってくれるでしょ。」
白利達が行うのは殺せんせーを殺す場所、水上チャペルの支柱の細工。
夜には満潮となるので支柱を短くし、殺せんせーの苦手な水を触手にたっぷり含ませる寸法だ。
「うまい事やってんな1班の陽動。」
「やるもんだね〜ちゃんと暗殺も混ぜて、他の班に目が行かないようにしてる。」
「…だからってめちゃくちゃな軌道しながら飛んで、人の注目だけは集めないで欲しいんだけどな。」
ダイビングスーツへ着替えた白利達の視線の先、1班が行なっているパラグライダーの内一機が妙に素早く垂直旋回左捻り込みという不可能な軌道をしている。
恐らく殺せんせーが搭乗しているのだろうが、国家機密であることを忘れてはしゃがないで欲しいものだ。
「はいこれ、工具借りて来たよ。」
「さんきゅ神崎さん。」
「ほらほら、次はうちの班に来る番だよ!!やる事やってすぐに着替えないと!!」
「タオルは用意してあるので安心してください!」
連絡係の茅野達に色々と用意をしてもらいつつ、白利達は海へと潜り早速工作へと着手する。
そして工作も終わり手早く着替え、今度は4班が殺せんせーの注意を引く番なのだが…当の殺せんせーの顔には妙な模様が浮かんでいた。
「なんだよ先生、その模様は。」
「日焼けしました…グライダーの先端部分だけ影になって。」
「殺せんせーって日焼けするんだな…よくわからん身体しやがって…」
皆も白利と同じ心情だったのか困惑した顔をしていると、殺せんせーが気を取り直すように声をあげる。
「さて、君達4班はイルカを見るそうですねぇ。」
「うん、船だけど大丈夫?」
茅野が指差す先には船があり、乗り物酔いが激しい殺せんせーの身を案じると先生は何やら懐をゴソゴソとし始め、
「大丈夫です、このような時の為にしっかりと持って来ていますから。」
「「「???」」」
とある物を取り出した。
「「「………」」」
船に乗り込み出発したが、甲板にいるのは白利達だけで殺せんせーの姿は無い。
では、殺せんせーはどこに行ったのかというと…
「いやっほぉ〜う!!」
イルカと共に謎の魚コスチュームを着て一緒に海を泳いでいた。
「なんだぁ…あれ…?」
「魚キングの時に着てた完全防水水着を持って来てたなんてね…」
「懐かしいね…魚魚…」
「う、うおうおぉ…?」
なにやら居酒屋のような名前を茅野が呟き、思わずそちらの方に顔を顰めながら向けると2人が苦笑いしながら話してくれた。
「詳しい事情は省くんだけど…片岡さんの知り合いに泳ぎを教えることになった時、正体を隠す為に片岡さんが名乗ったのが魚魚なんだよ。」
「渚が魚太、私が魚子、殺せんせーが魚キングになってね、その時着てたのがあの水着。マッハの水泳にも耐えられるらしいよ?」
「なんか…私達の知らない所で色々やってたんだね…」
「話題に事欠かねぇな…」
再び視線を海を泳いでいる殺せんせーに戻すと、イルカ達も一緒に泳いでいるのが同胞では無いと気がついたのか困惑の表情を浮かべている。
…動物があそこまで表情を露わにしているのを初めて見た。
「ねぇ、渚君が魚太の時の写真撮ってないの?今の話聞いてめちゃくちゃ見てみたくなったんだけど。」
「撮ってないよ!?」
「え〜?なんだったら売店で色々買って再現を…」
「しないよ!!どうして僕を辱めたがるのさ!!」
カルマが魚太の話を聞きつけ渚を弄ってるのを見ていると杉野が白利の横に移動して耳打ちする。
「…なぁ、カルマって
「どうだろうな…事あるごとに『玉』を取らせようとしてるから、男色家ではないけど渚のビジュはドストライクとか…?」
「あ〜確かにありえるな。でも、だからって性転換させようとするのは流石に業が深いな……カルマだけに。」
「クックク、性癖の業が深いカルマ…面白いな。」
「ねぇ〜?中々面白い事言うじゃん杉野。」
「だよなぁ、カルマもそう思う……カルマァ!?」
渚を弄り終えていたらしいカルマが白利と杉野の肩を抱き、ふたりは抜け出そうと試みるがカルマの膂力の前にはまるで歯が立たず拘束され肩にかかる力が徐々に強くなっていく。
「本人が目の前にいるのに弄るなんていい度胸してんじゃん?」
「あっ…ちょっ…強い!力強い!首、首締まってるから!!」
「大体カルマはいつも人のこと弄ってるんだからたまには弄られる側にまわれ!!」
「ありもしないことで弄られるのは心外だな〜、大体弄られるような隙見せるそっちが悪くない?」
この前千葉が同じことを言ってたのを思い出し『千葉のやつカルマに影響されたな…』と思っていると
「ほーら、そんなことやってないで私達も楽しむよ!」
「そうだね、せっかくE組皆での暗殺旅行なんだから楽しまないと。」
茅野と神崎の嗜める声が響き大人しく従う様子を見ていた奥田が、ふと何かに気づいたように手をあげる。
「…あれ?そういえば、あの水着あったら夜の暗殺頓挫しちゃいませんか?」
「え?…あ、確かに。」
奥田の疑問に思わず固まってしまう、水を吸わせる作戦なのに完全防水水着なんて着られたら前提が大きく崩れてしまうだろう。
「作戦の前に一回殺せんせーのボディチェックした方が良いかもね。」
「いくら周囲が水に囲まれてるとはいえ、あの水着と脱皮がありゃ逃げ道なんて幾らでも湧いてくるだろうしな。」
「でもその逃げ道を潰す為に特訓とか仕込みとかして来たんでしょ?今日こそ殺せんせーに刃を届かせよう!」
茅野の声と共に全員の視線が殺せんせーを向く、その目には殺せんせーへの確かな殺意と親愛を含んでいた。
「いやぁ遊んだ遊んだ、おかげで真っ黒に焼けました。」
「「「黒すぎだろ!!」」」
各班仕込みと殺せんせーとの遊びも終わり、日が暮れ始め空は夕焼け色に染まっている。
白利達の視線の先でビーチチェアに座る殺せんせーは、一緒にいた時よりもさらに日に焼けたようですっかり全身が黒一色に変わっていた。
「歯まで黒く焼けやがって…」
「もう表情が読み取れないよ…」
「よくこんな短時間で全身真っ黒になるもんだよ…」
もはや『どんな身体してんだよ!!』とツッコミ気力すらなく木村と岡野と共に呆れることしかできなくなっていると、我らが委員長磯貝が殺せんせーに声をかける。
「じゃ殺せんせーメシの後暗殺なんで、まずはレストランに行きましょう。」
『はーい!』と元気な声を出しながら磯貝の後を着いていく殺せんせーに寺坂達が見送りながら呆れた声を出す。
「どんだけ満喫してんだあのタコ。」
「こちとら楽しむフリして準備すんの大変だったのによ…」
「ま、今日殺せりゃ明日は何も考えずに楽しめるじゃん。」
「まーな、今回ぐらい気合入れて
そう言って殺せんせーの後を追う寺坂達の背中を見送ると、なにやら神妙な面持ちなビッチ先生が目に入った。
「イリーナ先生どうかしたのか?」
「…別に、どうもしないわよ。」
「どうもしないって…明らかにいつもと違う顔してたぞ?」
白利はさらに切り込もうとするがビッチ先生は一切話そうとせず白利を突っぱねて顔すら合わすことなく、何かに気がついたように殺せんせー達が入った船上レストランの方向を指差す。
「ほら、お迎え来てるわよ。アンタもさっさと行きなさい。」
「お迎え?」
ビッチ先生が指差した先を見ると、船上レストランから茅野が手を振ってこちらにやって来ていた。
「月乃ここにいたんだ。」
「茅野?なんでお前が。」
「そろそろ船出るのに点呼に月乃いないんだもん、だから4班を代表して探しに来たの。」
「あ…悪かった、ありがとうな。」
どうやらそろそろ出港の時間のようで、点呼で不在だった白利を探しに来てくれたらしい。
茅野に感謝しつつビッチ先生をチラリと見ると、特に何か話すわけでもなく手を『シッシッ』と追い払うように雑に振られたので大人しく茅野と先にレストランへ行くことにする。
「…お姉ちゃんのこと、秘密にしてくれてありがとう。」
2人並んで夕暮れの砂浜を歩いていると、茅野がこの前のことについて口を開いた。
「気にするなって、あの日にも言ったろ?全部茅野に任せるって。だから俺が誰かに話したり、茅野に聞いたりすることもねぇよ。」
「でも…私に聞きたいこととかあるんじゃないの?」
「そりゃまぁあるにはあるが…じゃあ一つだけ。雪村先生の妹さんは元気か?」
「え…?」
雪村先生と過ごした時間は限りなく短かったが、そんな中で『君達と同い年の妹がいる』とよく言っていたのを思い出し口にする。
写真は持たないようにしていたようで雪村先生曰くそこまで似てないらしく、気にしてはいなかったが亡くなってると聞いた今、ふと頭をよぎってしまった。
「俺達と同年代の妹さんがいるって聞いててさ、家族を無くした者として…ちょっと気になってな。」
「そっか…うん、大丈夫だよ。連絡取り合ってるけど生活自体はいつも通り送れてるらしい。」
「そうか…なら良い。」
ただ一言そう告げると、白利はそれ以上口を開かず歩み続ける。
「ちょっと待ってよ!」
だが茅野は足を止め、白利の背に向けて叫んだ。
「もっと他に聞きたい『あるさ』…ッ」
「聞きたいことはまだまだあるし、茅野と雪村先生の関係とか正直色々察してる所もある。だけど今ここで暴いたとしても、俺にとっても茅野にとっても良い結果にはきっとならない。」
「………」
「茅野が話すべきだと思うなら話して、秘密にすべきなら話さず、秘密にしたいけどどうしても苦しくて誰かを頼りたいなら俺を頼ってくれれば良い。だから俺は待つさ、たとえ何も知らされずE組を卒業することになってもな。」
そこまで言って白利は沈みつつある日に目を向けると、ふと殺せんせーの顔が脳裏をよぎった。
(俺…殺せんせーに悪いことしてたか?)
茅野にここまで言っておいて、前に殺せんせーに対して正体を突き詰めたことに罪悪感が湧き始める。
元より興味本位で始まった殺せんせーの正体暴きだが、気づけば地球を破壊する怪物は元人間であることを知り、今はその動機にまで迫っている。
(正体だって幾らでも誤魔化せたのにしっかりと答えたのは殺せんせーなりに元人間であるということがバレる可能性を加味してたと思うが…動機の方はどうだ?)
宿題こそ出されたが、濁していたことを思えば本人的には話したくないことなのだろう。
それを生徒とはいえ自分が紐解いて良いものなのかと思案してしまう。
正直凄まじいペースで殺せんせーの正体及び動機についてのピースが集まっているのをヒシヒシと感じている、故に本当に
(これ以上…殺せんせーの過去に踏み込むのはやめた方がいいのか…?)
殺せんせーとの『問答の時間』は本当に正しいのか、その先にどんな結末が待つのか、…殺せんせーを傷つけてしまわないか。
思考を巡らせ夕日を見ていると、茅野が自分の顔を覗き込んでいるのに気がついた。
「月乃…?」
「あぁすまん。少しぼーっとしてたみたいだ。」
「そっか。」
茅野は白利の先を行き、少し進んだ後こちらに振り返る。
「待つって言ってたけど…具体的にはどれくらい?」
「ん〜?まぁ、E組にいる間はいつでも受け付けてるよ。」
「……うん、わかった。じゃあ、もしも頼りたくなったら頼るから!その時はちゃんと助けてよね?」
「おうよ、任せとけ。」
明るい表情に戻った茅野の顔を見て満足そうに頷く白利、だが当の茅野は何か思い出したような顔をして、
「…あっ!?時間かけ過ぎちゃった!そろそろ行こう月乃!」
「え?ちょ、おい!」
白利の手を取り共に駆け出した。
船上レストランに乗り込みやがて出港すると、白利達はそれぞれ卓につき磯貝が代表して殺せんせーの前に躍り出る。
「夕飯はこの貸し切り船上レストランで、夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう。」
「な、なるほどねぇ…まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか…」
「当然です、これも暗殺の基本のひとつですから。」
しかし…
「実に正しい、ですがそう上手く行くでしょうか?」
黒い…
「暗殺を前に気合の乗った先生にとって、船酔いなど恐るに…」
「「「黒いわ!!」」」
幾らなんでも黒すぎる殺せんせーは、身振り手振りでなんとなくはわかるがいかんせん表情を読み取るどころか表裏すらわからない状態に全員がツッコむ。
「そ、そんなに黒いですか?」
「マンガのベタ塗りかってくらい黒い…」
「ややこしいからなんとかしてよ…」
白利と片岡の呆れた声に殺せんせーはピースしながら帽子を取り、
「ヌルフフ、お忘れですか皆さん。先生には脱皮があることを、黒い皮を脱ぎ捨てれば…」
頭頂部から一筋の亀裂が入ると黒い皮は脱ぎ捨てられ、いつもの黄色い殺せんせーが帰ってきた。
「ホラ元通り。」
「あ、月一回の脱皮だ。」
「…そうだな、
「こんな使い方もあるんですよ。本来は
手に持った皮と己の発言でやっと気がついたのか、月一回の奥の手を無駄に消費したことで顔を触手で覆い隠し情けなくプルプルと震える姿に思わずため息が出る。
「バッカで〜…暗殺前に自分で戦力減らしてやんの…」
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ…」
呆れながらも予想外だが脱皮が無くなったことはチャンスだと割り切る。
今回は皆が確かな自信を持ちこの場にいる、来るべきその時の為に悟られぬよう今は出された料理に舌鼓を打つ。
白利もまた渚達と共に料理を食べていると、手に取ったグラスを滑らせ床に落として甲高い音と共に割ってしまった。
「いっけね…!」
「大丈夫?」
「ヘーキヘーキ、掃除道具ないか探してくるわ。」
席を立ち大広間から出て掃除道具を探しに行く途中、先ほどグラスを落とした左手を見やる。
(なんだか上手く力が入らなかったな…はしゃぎすぎて疲れたのか?小学生かっての…)
自身のはしゃぎっぷりに自嘲しつつ掃除道具を見つけ割ったグラスを処理をした後、少し落ち着こうとひとり外へ出て夜の海を楽しんでいると背後に人の気配を感じた。
「どうした速……茅野か。」
「今誰と勘違いしたの〜?」
振り返ると背後にいたのは速水ではなく茅野で、誰と間違えたのかと茅野はニヤニヤしながら白利の横に立つ。
「ちげーよ、こういう時大体速水だったからその感覚で言っちまっただけだ。」
「へぇ〜そういう感覚が根付くくらい一緒にいるんだ〜」
「なんだよ一体…急にカルマみたいなこと言いやがって…」
「だって月乃わかりやすいんだもん、学力で勝てない分こういうところで優位に立たなきゃ。」
白利は心底面倒くさそうな顔をしながら茅野の横顔を見ると、穏やかな表情で海を見ていたので白利も矛を収めて同じ方に視線を向ける。
満点の星空と優しい月の光が水面に反射し輝くその美しさに思わず目が奪われてしまう。
「綺麗…」
「あぁ、本当に綺麗だ………本当に…E組に残れて良かった。失った15年を一気に取り戻してる感覚がする。」
「……そういうことは
「お、お前なぁ…」
茅野の言葉に口角をピクピクと震わせつつ、もしも速水がやって来ていたらと想像してしまった。
もしあの夕日に染まった砂浜で速水と共にいたら…もしこの瞬間速水と共に月明かりに照らされた海を見ていたら…
だが不思議と思い浮かぶのは『どんな会話をした』とかそういうのではなく、夕日や月明かりに照らされた速水の横顔ばかりだった。
(あぁそっか…俺って…)
「どうどう?想像してみてやっぱり速水さんが良かった?」
「エスパーかよ…かもな。ほら、そろそろ良い時間だろ?さっさと戻ろうぜ。」
思いもよらぬ答えにポカンと気の抜けた表情をした茅野の肩を軽く叩いて踵を返すと、
「え…?えっ…!?えぇぇぇぇぇ!!?つ、月乃…今の本当!?」
「はいはい、帰ったらプリン奢ってやるから黙ってるんだぞ。」
「ワンッ!!」
驚愕の声をあげる茅野をプリンで買収し忠犬に仕立て上げつつ、白利達は船内へと戻った。
船内へ戻るとどうやら千葉と速水が探していたらしく、白利の姿を見るなり駆け寄ってくる。
「月乃お前どこいたんだよ、飯諸々来て一緒に食おうとしたら席にもいなくて探したんだぞ?」
「渚達に聞いたら割ったグラスを片付けてから帰って来てないって言われたし結構心配したんだから。」
「悪い悪い、少し外で風浴びててな。」
白利の謝罪の言葉を受けつつ、だが2人の視線は白利には向いておらずその目に映っているのは共に帰って来ていた茅野だ。
「風を浴びてたって…茅野と2人きりで?」
「元はひとりだったんだが、その後に茅野が来てな。」
「そうそう速水さ『プリン』ヘッヘッヘッ!ワンッワンッ!」
恐らく茅野を速水と勘違いしたことを話そうとしたのを感知し、ただ一言『プリン』と呟くと忠犬が如く舌を出して鳴き声をあげる様に速水と千葉はなんとも言えない顔をする。
「なんで茅野は犬みたいになってんだ…?」
「クゥーン…」
「ま、色々あってな。ほらお前もさっさと元に戻れ。」
「アババババッ」
茅野の頭に手を置き軽く揺らしてやると、どうやら犬から人へと戻ったようで辺りをキョロキョロしている。
「はっ!私は何を…!」
「プリンで人間性を失ってたんだよ、さっさと飯食おうぜ。」
バゲットや牡蠣、肉にロブスターなどを口いっぱいに詰め込んでいる殺せんせーを尻目に席に戻り料理を再び口に運び、やがて楽しい食事の時間は終わりを迎え…
「さぁて殺せんせー、メシの後は
「会場はこちらですぜ。」
結局船酔いし、グロッキーになり杖をつきながらヨタヨタと歩く殺せんせーを前原と菅谷が先導する。
目的地は白利達が細工をしたホテルの離れにある水上チャペル。
「ここなら…逃げ場はありません。」
磯貝達と共に白利も足を踏み入れると、先にチャペルで待機していた岡島と三村が一台のテレビと共に殺せんせーを出迎えた。
「さ…席につけよ殺せんせー。」
「楽しい暗殺。」
「まずは映画鑑賞から始めようぜ。」
E組が仕掛ける一世一代の暗殺が幕を開ける。
ご覧頂きありがとうございました!
【月乃白利の秘密】
自身の心のナニカに気がついた