暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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UAお気に入り感想などありがとうございます!

カルマ君メイン回なので白利の活躍は次回送りです。ゴメンネ


カルマの時間・2時間目

現在白利達がいるのは3階だが、殺せんせーは完全防御形態、烏間先生は麻酔ガスでダウン、ビッチ先生は注意を引いていて既にこちら側の大人達に頼ることはできなくなっている。

 

先の毒使いにも思ったが白利達と大人(プロ)達では経験と知識の差は火を見るよりも明らかであり、恐らくはそんな大人(プロ)がこの先にも待ち構えていることだろう。

 

(やれるか…?俺達の力だけで…)

 

「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ。」

 

「「「………」」」

 

皆が緊張感で冷や汗を流す中、殺せんせーのお気楽すぎる言葉が響き一瞬沈黙が流れた後すぐさまブーイングが飛ぶ。

 

「何をお気楽な!!」

 

「発言に責任を持て!!責任を!!」

 

「ひとりだけ絶対安全な形態のくせに!!」

 

「渚、振り回して酔わせろ!!」

 

「にゅやぁぁぁ!?」

 

「よし寺坂、これねじこむからパンツ下ろしてケツ開いて。」

 

「死ぬわ!!」

 

渚はヒュンヒュンと風切音を鳴らしながら殺せんせーを振り回す腕を止め、中でゲンナリしている殺せんせーに問いかける。

 

「殺せんせー、なんでこれが夏休み?」

 

「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります。大丈夫、普段の体育で学んだ事をしっかりやればそうそう恐れる敵はいない。」

 

殺せんせーは通常の授業を教えるのは滅法上手いが、唯一の欠点として体育を教えるのが途轍もなく下手くそだ。

 

身体を動かすことになると自身の身体スペックを基準に無茶振りを課し、呆れさせてくれるのだが…今この瞬間、この状況に於いてはとても心強い言葉に感じる。

 

「君達ならクリアできます、この暗殺夏休みを。」

 

その言葉を胸に後戻りのできない道を進んだ。

 

 

 

 

 

階段を駆け上り辿り着いた5階の展望回廊、図面を見る限り見通しも良くほぼ一方通行なので前後にさえ気をつけていれば奇襲などに怯える必要もないだろう。

壁に沿いながら進んでいると、先行していた寺坂の動きが止まったので進行方向を見てみると展望ガラスに背中を預けて佇む男がひとり。

 

「お…おいおい、めちゃくちゃ堂々と立ってやがる…」

 

「…あの雰囲気。」

 

「…あぁ、いい加減見分けがつくようになったわ。どう見ても()る側の人間だ。」

 

狭くて見通しの良い奇襲のできない通路、こちらに有利が働くように敵にもまたその有利が働いてしまい地形が裏目に出てしまっている。

 

地形の都合上こちらの数の有利すらも働かせることもできず、武器になるものもない状況に歯噛みしていると佇む男がガラスに手を添えて『ビシッ!!』とヒビを創り出した。

 

「「「…ッ!?」」」

 

「強化ガラスだぞ……?」

 

「…つまらぬ。」

 

男が呆れたような声を出し、掌のガラス片を払い落とすとこちらに顔を向ける。

 

「足音を聞く限り…『手強い』と思える者が1人もおらぬ、精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ…だ。」

 

(な、なんだぁ…?この雑なキャラ付けみたいな語尾…?)

 

「どうやら『スモッグ』のガスにやられたようだぬ。半ば相打ちぬといったところか、出てこい。」

 

男は指をこちらに向け出てくるように指示を飛ばし、白利達は恐る恐る警戒を解かずに身を晒す…が、もはや手でガラスにヒビを入れたとかはどうでも良くそれよりも気になるところが。

 

「手でガラスにヒビ入れたけど…」

 

「それよりもさぁ…」

 

「うん、怖くて誰も言えないけど…なんか…その…」

 

「『ぬ』多くね、おじさん?」

 

「「「言った!!良かったカルマがいて!!」」」

 

男の放つ雰囲気にも臆さないカルマがのほほんとした様子で全員の心を代弁してくれる。

相変わらずこういう所で雰囲気に流されないのはカルマの強みなのかもしれない。

 

「『ぬ』をつけるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ、カッコよさそうだから試してみたぬ。」

 

「…あぁ、なるほどね。」

 

男の外見は見るからに外国人なのだが日本語が流暢なだけに、日本かぶれな『ぬ』に思わず気が抜けてしまう。

かつて殺せんせーの正体に迫った時に『日本語はトップクラスでわかりにくい言語』と言ったがまさに今の男のような状況だろう。

 

(まぁ一人称が複数あるとか語尾とかなんだよって話だよな…)

 

そう思うと人間だった殺せんせーの出身地は日本なのだろうか、生まれも育ちも地球であることしか聞いていないし今度聞いてみようと腑抜けたことを考えていると、

 

「間違ってるのならそれでも良いぬ、この場の全員殺してから『ぬ』を取れば恥にもならぬ。」

 

男が威嚇をするように両手の骨をゴキゴキ鳴らすと殺せんせーが口を開く。

 

「素手…それがあなたの暗殺道具ですか。」

 

「こう見えて需要があるぬ、身体検査に引っかからぬ利点は大きい。近付きざま頸椎をひとひねり、その気になれば頭蓋骨も握り潰せる。」

 

(……ん?)

 

ふと、男の言葉に引っかかりを覚える。

 

暗殺でのし上がってきたであろうこの男なら自身の強みなど知り尽くしているはずだ、現に『近付きざまにひとひねり』奴はそう言っていた。

スモッグと呼ばれていた毒使いの男もそうだ、両者共に強みを活かすなら白利達と正面から対峙するのではなく背後を取るのが最も効果的なはず。

 

(それなのに…どちらも俺達の進行方向から道を塞ぐようにやって来た。もしかして主犯は暗殺者じゃないのか?あまりにも暗殺者の使い方がおざなりすぎる…)

 

「だが面白いものでぬ、人殺しの為の力を鍛えるほど…暗殺以外にも試してみたくなる。すなわち闘い、強い敵との殺し合いだぬ。だががっかりぬ、お目当てがこのザマでは試す気も失せたぬ。雑魚ばかり1人で()るのも面倒だぬ、ボスと仲間呼んで皆殺しぬ。」

 

思考を巡らせる中、男は携帯を取り出し仲間を呼ぼうと操作し始めたのを見て一瞬カルマと目線が合うとすぐさま互いに行動に移す。

 

白利は後ろ回し蹴りで男が手に持った携帯を展望ガラスに叩きつけ、カルマは通路に置いてあった観葉植物を手に持ち鉢を男の頭部へと振り下ろすがこちらは男が幹を掴んで防がれる。

 

「ねぇ、おじさんぬ。」

 

「お、おじさんぬぅ?」

 

あまりにも相手を舐め腐りすぎてる呼び名に思わず困惑の声が漏れてしまうがカルマは気にも止めずに言葉を続ける。

 

「意外とプロってフツーなんだね、ガラスとか頭蓋骨なら俺でも割れるよ。…ねぇ月乃君。」

 

「…ん?」

 

名を呼ばれ横目で見るとカルマの目には『やらせてくれ』と明確な意志が宿っていて、その余裕そうな表情からはかつてのような傲慢さが消え失せているのがわかる。

 

「……はぁ〜…マジかお前。」

 

覚悟とその意志の裏側に宿った何か悪いものを感じ、白利はため息を吐きつつカルマの肩を軽く叩くと踵を返して皆の元へと戻っていく。

 

「……2人がかりでも俺は構わぬが、良いのかぬ?」

 

「別に、ていうか逆におじさんぬは中坊とタイマン張るのも怖い人?速攻仲間呼ぼうとしてたしさ?」

 

「よせ!無謀…『ストップです烏間先生。』」

 

今にも戦闘が始まりそうなカルマの雰囲気に烏間先生が声をあげようとするが、殺せんせーがそれを制し、

 

「アゴが引けている。」

 

「…!?」

 

冷静にカルマの分析を始めた。

 

「今までの彼なら余裕をひけらかしてアゴを突き出し、相手を見下す構えをしていた。でも今は違う、口の悪さは変わりませんが目は真っ直ぐ油断なく正面から相手の姿を観察している。…月乃君も彼の成長に気づいたから託したのでしょう?」

 

「…どうだか。」

 

「ヌルフフフ、友達をことをよく見ている君のことです。もし無茶なようなら意地でも首を突っ込むなり止めるなりしていたはず。先ほども呆れたような顔をしながらもカルマ君への信頼を感じる、そんな顔をしていましたよ。」

 

「………あっそ。」

 

殺せんせーの言葉が無性にむず痒く感じるが、実際白利はカルマの実力を信頼しているからあの場を託した。

無論、いつでも参戦できるように身構えてはいるが。

 

「テスト以来少々鳴りを潜めていましたが、どうやら敗北からしっかり学んだようですね。さぁ存分にぶつけなさい、高い大人の壁を相手に!!」

 

「…いいだろう、試してやるぬ。」

 

その言葉と共におじさんぬは掴んだままの幹を握りつぶし破片を投げ捨てる、掴まれた瞬間即アウトであろうことは一目瞭然だ。

 

「柔い、もっと良い武器を探すべきだぬ。」

 

「必要ないね。」

 

カルマも観葉植物を投げ捨てるといよいよ接近戦が開幕する。

おじさんぬはカルマを掴まんと腕を伸ばすが、対するカルマは冷や汗を流しながらも避けて、腕を弾き、伸び切る前に抑えるなど素早く、そして的確に対応していく。

 

「お…おぉ…」

 

「すごい…全部避けるか捌いてる。」

 

「烏間先生の防御テクニック、ですねぇ。」

 

「ん……確かにそうか。」

 

『殺し屋にとって防御技術は優先度が低い』と授業では教えられていなかったのだが、どうやらカルマは授業で烏間先生がナイフを避ける動きを見て覚えていたらしい。

 

「はぁ〜羨ましいねぇ才能マンは…」

 

「「は…?」」

 

思わず溢れてしまった声に速水と矢田が反応し、なにやら『マジかコイツ』と言いたそうな冷たい視線を送ってくる。

 

「…え?いや『は…?』ってなんだよ、俺何か変なこと言ったか?」

 

「月乃君、前の体育のテストで私達の練習に付き合ってもらった時防御に回ってしっかり防いでたのにそれ言っちゃうの?って思って。」

 

「あの時は最後に足取られて倒されたから…」

 

「でもあの後教えても無いのにすぐに私達の攻めを利用して戦ってたし、月乃って赤羽以上に体育の点数取ってるし。月乃が才能マンじゃなかったら私達はなんなの?ってちょっとムカついて。」

 

2人に指を差されながら文句を言われていると、なぜか同調した他の奴らも声を揃えて文句を浴びせかける。

 

「近接戦闘のセンスがあって頭良くて料理も上手いって前世どれだけ徳積んだんだ〜!」

 

E組(ウチ)のツートップは人を煽らないといけない決まりでもあるのか〜!」

 

「クソエイム〜!」

 

「銃の腕前は今関係ないだろ!誰だ言った奴シバいてやるよ!!」

 

ガイガイしていると烏間先生がひとつため息を吐いて白利達を諌めるように口を開く。

 

「君達落ち着け、皆も確かな実力がついているのは俺が保証する。…だが月乃君、君はカルマ君と並んで戦闘の才能はE組の中でも頭ひとつ抜けている。あまり卑下するものじゃないぞ。」

 

「…………ッス。」

 

烏間先生の言葉に嬉しさを感じつつ改めてカルマの方に視線を戻すと、おじさんぬは攻め入る足を止めて怪訝そうな顔をしていた。

 

「…どうした?攻撃しなくては永久にここを抜けられぬぞ。」

 

「どうかな〜?あんたを引きつけるだけ引きつけといて、その隙に皆がちょっとずつ抜けるってのもアリかと思って。」

 

「………」

 

親指をクイクイとこちらに向けて余裕そうな態度をとるカルマをおじさんぬは無言で睨みつけると、カルマもスイッチを切り替えたのか拳を鳴らしながら構えを取る。

 

「…安心しなよ、そんなコスい事は無しだ。今度は俺から行くからさ、あんたに合わせて正々堂々素手のタイマンで決着つけるよ。」

 

(正々堂々…かぁ…)

 

「ど、どうしたの月乃?すんごい微妙な顔してるけど…」

 

「いや…到底カルマの口から聞くことのない言葉が出たもんで…」

 

「あぁ…確かにカルマ君らしくはないね…」

 

カルマが正々堂々なんてタイプじゃないことも分かりきっているが、ならばどうするつもりなのかが見当もつかず、この狭い通路で使えそう且つ不意打ちに向いてそうな武器も見当たらない。

 

(カルマは無手だし…なにするつもりだ?)

 

一方カルマの正々堂々発言になにやら嬉しそうに微笑むおじさんぬはゆっくりと警戒を怠らずに構え直す。

 

「良い顔だぬ、少年戦士よ。お前とならやれそうぬ、暗殺家業では味わえないフェアな闘いが。」

 

言葉を聞き届けると同時にカルマは駆け出しおじさんぬの上体に飛び蹴りを浴びせ、おじさんぬは腕で蹴りをガードすると肉体がぶつかり合う鈍い音が響きその威力を伝えてくる。

 

カルマは体育の授業でさらに磨かれた得意の喧嘩殺法を繰り出しつつ、パンチをガードさせたと思えば反対の手で目潰しを仕掛けるなどダーティーな戦法も織り交ぜて攻めの姿勢を崩さない。

 

そして一瞬の隙を突き、おじさんぬの右足に鋭いローキックを突き刺すとその威力からか蹴られた足を庇うように背を向けて屈み込む。

 

カルマはその隙を逃さず一気に仕掛けるが…

 

(あれは…ロヴロさんの時と同じ…!!)

 

暗殺旅行前の練習の時に味わったプロの『隙すらも利用する』技術、白利は一度仕掛けられたからわかる『プロが痛み程度で簡単に隙を作るわけがない』という確信。

 

もし隙を晒したならそれは……次の一撃でケリをつけるという覚悟であると。

 

「ダメだカルマッ!!」

 

白利が叫びをあげた時、既にカルマは紫色の煙に巻かれていた。

 

「一丁あがりぬ。」

 

おじさんぬは紫色の煙…毒使いスモッグの麻酔ガスを吸い崩れ落ちたカルマの頭部を掴み、まるで白利達に見せつけるかのように軽々と持ち上げてみせる。

 

「………遅かったか。」

 

「長引きそうだったんでスモッグの麻酔ガスを試してみる事にしたぬ。」

 

「き…汚ねぇ、そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ!」

 

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ。拘る事に拘り過ぎない、それもまたこの仕事を長くやってく秘訣だぬ。」

 

吉田の批難の声におじさんぬは悪びれもせず答える。

 

確かにおじさんぬはフェアとは言ったが素手だけとは一言も言っていない、こんな初歩的な心理戦にカルマが負けるとは…

 

(ん?こんな初歩的な心理戦…?)

 

あのズル賢いカルマがこんな簡単な罠に引っかかるだろうか?そう考えたらカルマの目に宿っていた悪いものが何なのか白利の中で形を帯び始めてきた。

 

(悪口とイタズラのレパートリーが一丁前なカルマが舌戦でまず負けるわけがない、それにスモッグとやらが現れた時点で次の刺客達が毒を持っている可能性も加味していたはず。)

 

こちらは相手を知らない、ならば逆に相手もまたこちらを詳しくは知らないはず。

あのカルマが口走った『正々堂々』という言葉、これは恐らく相手に正々堂々と闘う真っ直ぐな人間…に見せる為のブラフ。

 

ふと頭部を掴まれているカルマを見ると、顔を覆う指の隙間から怪しく光り輝く瞳と視線が合った。

 

(……そういう奴だよな…お前は。)

 

「至近距離のガス噴射、予期してなければ絶対に防げ…ぬぅ!?」

 

おじさんぬが余裕綽々と語っている最中、カルマの手の中から紫色の煙が噴き出しおじさんぬの顔を覆った。

 

「な…なんだと…」

 

「奇遇だねぇ、2人とも同じ事考えてたぁ」

 

麻酔ガスを吸って崩れ落ちるおじさんぬを見ながら、カルマは過去一素敵な『ニチャア…』と聞こえてきそうなほどの笑顔を見せた。

やっぱ心理戦でコイツに勝てる奴なんてそうそういねぇや。

 

「なぜ…お前がそれを持っているぬ…!?しかも…なぜお前は俺のガスを吸ってないぬ…!?ぬぬぬうぅぅぅ!!」

 

子鹿のように震える足を必死に堪えつつおじさんぬはなんとか立ち上がり、胸元から取り出したナイフを手にカルマへ突き出すが既に決着はついている。

ナイフを避けると共に伸びた腕を掴み、関節を固めつつ勢いよく床へと押さえ込んだ。

 

どうせタイマンの約束も守るつもりなかったのだろうと、呆れながら白利もおじさんぬの背中に飛び乗り身体を起こされないようにより強く押さえ込む。

 

「さっすが月乃君わかってる〜!ほら寺坂も早く早く、ガムテと人数使わないとこんな化けモン勝てないって!」

 

「へーへー、テメーが素手で1対1(タイマン)とか()()()無いわな。」

 

「ふぎゃッ!!?」

 

寺坂達が白利に続きおじさんぬの背中に飛び乗り、総体重300kgは優に超えるであろう負荷がかかりおじさんぬとカルマに固められている肩が悲鳴をあげる。

 

「縛る時気をつけろ、そいつの怪力は麻痺してても要注意だ。特に掌は掴まれるから絶対触れるな。」

 

「「「はーい!」」」

 

烏間先生の注意喚起を受けつつ、おじさんぬの肩、腕、足をガムテープで簀巻きにし地面に転がす。

そんなおじさんぬを見ながらカルマは手の中にあるものを投げたり掴んだりして遊びながら種明かしを始めた。

 

「毒使いのおっさんが未使用だったのくすねたんだよ、使い捨てなのがもったいないくらい便利だね。」

 

「使い捨てじゃなかったらどうするつもりだったんだよ…」

 

「そりゃもう、クックック…」

 

「使い捨てでありがとう毒使いのおっさん!!」

 

十中八九碌でもない答えが返ってくるのは分かりきっていたのに聞いてしまい、案の定悪い顔をしながらニチャつくカルマの姿に背筋が凍るような感覚が走り思わずスモッグに感謝を述べてしまう。

 

一方、簀巻きにされたおじさんぬはガスが回って上手く動かない身体を何とか動かしながらカルマに顔を向けて問いかける。

 

「なぜだ…俺のガス攻撃…お前は読んでいたから吸わなかったぬ…俺は素手しか見せてないのに…なぜ…」

 

「とーぜんっしょ、()()()()の全てを警戒してたよ。あんたが素手の闘いをしたかったのは本トだろうけど、この状況で素手に固執し続けるようじゃプロじゃない。俺等をここで止める為にはどんな手段でも使うべきだし、俺もそっちの立場ならそうしてる。あんたのプロ意識を信じたんだよ、信じたから警戒してた。」

 

そう言っておじさんぬの前に胡座をかいて座り込むカルマの姿に不思議な気持ちが湧いてくる。

あのカルマが誰かの立場を考え敬意を持って相対した、尚且つカルマらしさは消す事なく自身の強みを押し付け勝利を掴んで見せたのだ。

 

「変わったな、カルマも。」

 

「…そう?月乃君の方が変わったでしょ?」

 

乳繰り合う2人を渚は少し離れた位置で見守っていると手に持っていた殺せんせーが口を開く。

 

「変化に大小あれど2人とも当初と変わりましたねぇ。特に大きな敗北を知らなかったカルマ君は、期末テストで敗者となり身をもって知ったでしょう。敗者だって自分と同じ、色々考えて生きている人間なんだと。それに気づいた者は必然的に…勝負の場で相手の事を見くびらないようになる。自分と同じように敵も考えていないか、頑張っていないか、敵の能力や事情をちゃんと見るようになる。敵に対し敬意を持って警戒できる人、戦場ではそういう人を…『隙が無い』と言うのです。」

 

成長したカルマの事を一頻り絶賛した後、殺せんせーは渚に白利の方に近づくように頼み渚は白利の横まで移動すると殺せんせーが再び口を開いた。

 

「時に月乃君、空き瓶を蹴り飛ばした時も携帯を蹴りつけた時も思いましたがいつの間にそんな足技を?体術の一環として使っているのは見ていましたが単体で運用することはなかったでしょう?」

 

「ん?あぁ、殺せんせーがエベレストに避暑中に色々と学ぶ機会が会ってな。手数と速度特化の腕、一撃火力特化の足って感じで使い分けてみようとしてんだ。」

 

軽く右足を持ち上げて見せると殺せんせーは◯を浮かべて口角を吊り上げる。

 

「それは素晴らしい!現時点の自分に満足せず新たな境地に踏み込み、しっかりとモノにして自分の中で昇華しているとは…やはり月乃君の近接戦闘のセンスは随一ですねぇ。」

 

殺せんせーの嬉しい評価を表情に出さないように噛み締めつつおじさんぬの方に向き直ると、カルマの戦闘に対する姿勢を評価してか満足そうな表情を浮かべる。

 

「……大した奴だ少年戦士よ、敗けはしたが楽しい時間を過ごせたぬ。」

 

おじさんぬの言葉にポカンとした顔をするカルマ、彼なりに本職からの高評価に思うところがあるのか…と考えていたのだが、

 

「え、何言ってんの?楽しいのこれからじゃん。」

 

「……は?」

 

どこからともなく現れた巾着袋からわさびとからしのチューブを取り出し陽気で楽しそうな声をあげた。

おじさんぬもカルマのこの反応は予想外だったのかヌメーンとした顔をしている。

 

「…なんだぬ、それは?」

 

「わさび&からし、おじさんぬの鼻の穴にねじ込むの。」

 

「なにぬ!?」

 

やっぱ変わってねぇやコイツ。

 

「さっきまではきっちり警戒してたけど、こんだけ拘束したら警戒もクソもないよね?」

 

先ほどまでの成長っぷりは何処へやら、四次元ポケットかと錯覚するほどの荷物を巾着袋からウキウキで取り出しておじさんぬへと処置を施していく。

 

「鼻フックかけてわさびとからし鼻にねじ込んで専用クリップで鼻塞いでぇ…」

 

うわぁ…

 

「口の中に唐辛子の1000倍辛いブート・ジョロキアぶち込んでぇ…」

 

うわわぁ…

 

「その上から猿轡して処置完了〜!」

 

うわわわぁ…

 

「さぁおじさんぬ、今こそプロの意地の見せ所ぬ?」

 

「モガアァァァァァァァァ!!」

 

おじさんぬの悲鳴を聞きながら白利は後ろにいる速水達に『俺をコイツと同列に語るな!!』と抗議の目線を送ると、速水達は申し訳なさそうに視線を逸らしたのだった。

 

 

 

(しかし……マズイな……)

 

おじさんぬがカルマの拷問……お楽しみ会で疲れ果てて眠ってしまったので一行は次のフロアへと進んでいるのだが、ついに白利の身体に回っていたウイルスが活性化し始めたのか頭痛に眩暈、寒気や節々の痛みが襲ってくる。

 

ウイルスの耐性がありそうだと思っていたが、あくまで発症を遅らせる程度だったようでなんとも情けない話だ。

ただでさえ身体の麻痺があるというのに、さらなる追い討ちに思わず座り込みたくなるが皆の迷惑になってしまう。

 

幸いにも今は大きな痺れは左手にしか無いが、これがいつ悪化し足にまで及ぶかはわからない。

その最悪が訪れる前にミッションを終わらせるべく、足早に6階テラス・ラウンジ、バーフロアへと足を踏み入れた。

 




ご覧頂きありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

流石におじさんぬに同情した
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