暗殺教室ー月は何を見るかー   作:TKTK(2K2K)

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UAお気に入り感想などありがとうございます!

本日ウマ娘のライブなので楽しんでまいります!!


変装の時間

『皆さん、この上がテラスです。』

 

無事おじさんぬを倒し展望回廊をぬけて階段を登っていると、律のナビゲーションが挟まり一旦足を止める。

 

「バーフロア…問題の階ね。」

 

速水がポツリと呟くと、律がバーフロアの図面を表示しながらこのフロアにおける問題点の解説を始めた。

 

『はい、ここからVIPフロアへ通じる階段は店の奥にあります。ですが裏口には鍵がかかっているので室内から侵入し、鍵を開けるしかありません。』

 

「なるほどな…ここはアドリブで突破するしかないか。」

 

今まではスモッグとおじさんぬの妨害こそあったがほぼ一本道でここまでやって来れた…が、いよいよそうも行かないらしい。

 

潜入する際に烏間先生が言っていた『王様のように甘やかされて育った芸能人や金持ち連中のボンボン達』出会うことはなかったが、いるとすれば恐らくこのバーフロアだろう。

 

(そんなワル共の溜まり場に見張りがいないわけないだろうし…ホテル側もイザコザは避けたいだろうから警備も厳重だろうな。)

 

そんな所をこの人数で抜けるのは得策ではないし、なにより磯貝に肩を借りて歩いている烏間先生が目立ってしまい主犯に勘付かれる危険性もある。

 

「今考えられる中で最も可能性のある作戦は…少数で中に入って裏口の鍵を開けることだろうが…」

 

「それなら任せて、私達が店に潜入して中から裏口を開けるから。こういう所は女子だけの方が怪しまれないでしょ?」

 

白利が思案してる途中で溢した言葉に、片岡が自身たっぷりに返すとその他女子達も頷き男子達にここで待っているように促す。

確かに片岡の言うことには一理ある、が烏間先生は渋い顔をして口を開く。

 

「いや…女子だけでは危険だ…」

 

「烏間先生の言う通りだな、片岡とか岡野とかの近接に強い奴もいるが……こんな所に送り込むのは少し躊躇っちまう。」

 

烏間先生の不安もよく分かる、同じ年頃のボンボン共なら片岡達の相手にもならないだろうがワルの溜まり場である以上裏社会に通じている大人がいないとも限らない。

もし回避できない状況になった時男手がないのは少々心細いだろう。

 

「あ〜なら良い方法があるじゃん。」

 

「ん?」

 

何か他の手がないかと首を捻っていると、カルマが何か思いついたのか手を打ち付け近くに並んで立っていた白利と渚に目を向けるとなぜだか白利の背筋に冷たいものが走った。

 

「……一応言ってみろ。」

 

「いや〜渚君と月乃君ってジャンルは違うけど女の子っぽい顔してんじゃん?なら女装させれば怪しまれずに戦力アップできるんじゃないかってさ?」

 

「何言ってんのさカルマ君!?」

 

「寝言は寝て言え!!」

 

カルマの思わぬ提案に2人は声を張り上げるが、女子達も男子達も2人の顔をマジマジと見て何やら勝手に納得したような表情を浮かべる。

女装方面へと進み始めている状況に冷や汗を流す中、カルマはスマホをイジると少し驚いたような顔をしてニヤニヤと口角を上げながら白利にその画面を見せつけた。

 

「月乃君、これな〜んだ?」

 

そこには…

 

「んがッ!?」

 

かつて殺せんせーにお手入れされ、スカートを履かされた白利が写っていた。

この写真をカルマが手に入れる手段は無いはずだが……白利は首をギギギと鳴らしながらカルマに写真を渡した主犯に視線を送る。

 

「律〜?お前何してんだ〜?」

 

『だってだって!!このチャンスを逃したら月乃さんの女装なんて一生見られないじゃないですか!!』

 

「だってもクソもねぇよ!!一生見られなくて良いんだよ!!」

 

『やだやだ〜!!月乃さんが女装してくれなきゃや〜だ〜!!』

 

「(この世のものとは思えない罵詈雑言)」

 

精神年齢ガキンチョアホアホAI()にとんでもない罵詈雑言を浴びせている最中、女子達はスマホに写るスカートを履いた白利と今の白利を見比べ顔を合わせて頷き合うと、

 

「じゃ、月乃はこっちね。」

 

速水が白利の首根っこを掴んでプールサイドへと引き摺っていく。

 

「速水さん!?待って!離して!俺は男としての尊厳は失いたくないんだ!!」

 

「そんなのいつかは失うんだから、今失っても変わらないでしょ。」

 

「変わるし失いませんよ!?」

 

「安心して、もし女装にハマっても私が責任取ってあげるから。」

 

「安心できないし嬉しくもない〜!!」

 

必死に抵抗しながらもズルズルと引き摺られ白利の姿が見えなくなると、片岡達も渚を拘束してプールサイドへと連行していく。

 

「じゃ、渚も行こっか。」

 

「結局僕も〜!?」

 

「行ってら〜」

 

ヘラヘラと笑うカルマが女子達を見送ると殺せんせーが少々困ったような声をあげた。

 

「2人とも…大丈夫でしょうか…?」

 

「渚君は問題ないでしょ、月乃君は…ダメだったら笑い飛ばせば良いんじゃない?」

 

「そういうわけではないんですがねぇ…」

 

時折聞こえてくる白利の乙女のような悲鳴を聞きながら男子達は待機するのだった。

 

 

 

数分後、片岡達は渚を連れて男子達の元へ先に戻っていた。

 

「お〜渚君似合ってんじゃん!」

 

「でしょ〜?ん〜でも違和感なさすぎて新鮮味がないかも。」

 

「そんな新鮮さいらないよぉ……って、月乃はまだ戻ってないんだ。」

 

渚が白利を探すように見渡していると物陰から頭を抱えた速水と矢田が現れ『ヤバイ…マズイ…』とブツブツ呟いていたので千葉は思わず声をかけてしまう。

 

「速水、月乃はどうなったんだ…?」

 

「私達はトンデモない怪物…いや、逸材を生み出してしまった…」

 

『幾度も月乃さんの女装をシュミレーションしていましたが…まさかそれを上回ってくるとは…』

 

「うん…正直毛先いじって服装変えるだけでここまで雰囲気変わるとはね…ほら、月乃君も出ておいで〜」

 

「やだぁ…」

 

速水達が現れた物陰の向こう側から白利の聞いたこともないナヨナヨしい声が響き、あまりにも情けない声に流石のカルマも困惑している様子で速水達に顔を向ける。

 

「……聞いたこともない声出してるけど…大丈夫そ?」

 

「大丈夫、ほら時間ないんだから早くいこ。」

 

速水に物陰のから引き摺り出された白利の姿は、髪は毛先をいじられるウルフカット風に、服装はヘソが隠れていない黒いキャミソールにデニム生地のショートパンツ、黒のロングブーツと上に黒い薄手のパーカーを羽織っている…

 

「なんと言うか…女食ってる女みたいな格好だね。」

 

「グゥッ!?」

 

カルマの言葉に白利は膝から崩れ落ちる、今の格好は地雷系……と言うか関わると碌なことが起こらなさそうな見た目をしているのだ。

 

全てプールサイドに脱ぎ捨ててあったものを組み合わせて速水達がコーディネートしたのだが、その最中『えぇ…ちょっと似合いすぎじゃない…?』『見るからに悪そうな女の子だよぉ…』と似合いすぎて引かれるという事象で白利のメンタルはボロボロである。

 

「…と言うか、目立たずに突破したいって話だろ!?この見た目だとめちゃくちゃ目立つし、俺は渚と違って声帯はちゃんと男だぞ!!?」

 

「僕の声帯が男じゃないって遠回しに言ってるよねそれ!!?」

 

「大丈夫だよ月乃君、マトモな男…てか女も見るからにヤバイ女になんか近づきたくないし。精々そういう性癖を持った……女の方が多いかな?が話しかけてくる位であとは虫除けになるよ。」

 

「嬉しくない評価ありがとうございますぅ!!」

 

額に青筋を浮かべながら怒りを撒き散らす中、

 

「月乃君、渚君、まぁ…その…なんだ、尊厳含めて諸々申し訳ないがどうか頼めないだろうか?」

 

烏間先生の真っ直ぐな瞳に色々と湧き上がってくる感情を飲み込んで、渋々…ほんとーーーーに渋々頷いた。

 

「……………わかりました。」

 

「月乃…早く終わらせて着替えよう……」

 

こうして女子達と変装もとい女装した白利と渚を加え、裏口の鍵を解錠すべくバーフロアへと足を踏み入れた。

 

 

 

店に入った瞬間、耳がおかしくなるんじゃないかと思ってしまうほど轟音のBGMが出迎える。

怪しまれない程度に視線を動かし店内を見渡すと大人もいるにはいるがやはり白利達と同年代と思われる若者達が多く、酒やタバコ片手にダベっているようだ。

 

「うわぁ…まさしく悪の温床だな…」

 

三日(ミカ)、しゃべらない。」

 

「………ッス。」

 

速水に嗜められ黒いマスクを直す三日…もとい白利。

作戦開始前に『渚は男女で違和感ないけど白利は男っぽいから名前決めようか』という流れになぜかなってしまい、速水によって付けられた名が『三日』である。

 

もちろん白利も『苗字で良いだろ!?』と抵抗はしたのだが数の暴力に屈し、声が男すぎる問題はカルマから渡されたマスクを付けてしゃべらず筆談するという荒技によって強行させられた。

 

「ホラ渚君、三日ちゃん!!男なんだから、ちゃんと前に立って守らないと!!」

 

「無理…前に立つとか絶対無理…」

 

【俺達の心の傷は不破が思ってるよりずっと深いんだぞ、あと三日って呼ぶな】

 

傷ついた男心を知らずか楽しそうな声をあげる不破にサラサラとメモ帳にツッコミを書いて不破に提示する。

 

「三日の文字って女の子みたいだね。」

 

【茅野さん!?】

 

「はいはい2人とも諦めなって、男手は欲しいけど男にはチェック厳しいんだもん。」

 

「うぅ…」

 

結果として流石に白利達の心の傷を汲んでくれたのか先頭は片岡と岡野、最後尾を白利と渚が担当することになりギラギラと光り輝くバーフロアを進んでいくと、

 

「ね、どっから来たの君ら?そっちで俺と酒飲まね〜?金あるから何でも奢ってやンよ。」

 

金持ちのボンボンだろうか、鼻の下を伸ばし軽薄な声を出しながら…渚の肩を叩いた。

よりにもよってこの中で2人しかいない女装男子の片翼を選ぶとは、何とも業の深い男である。

 

(視線、渚にしか向いてねぇな……)

 

男は『君ら』とは言っていたが視線は渚にしか向いていないので狙いは渚だけなのだと思われ、さらに業の深さを加速させていく。

そんな男の様子に女性陣の纏う空気が冷ややかになったのを感じて居た堪れなくなっていると片岡が口を開いた。

 

「………はい渚、相手しといて!!」

 

「え、えぇ!?」

 

「あんたなら1人でも大丈夫でしょ?『作戦』の下見が終わったら呼ぶからさ。」

 

片岡に男…ユウジとやらの相手をするように押し付けられ、渚はなにか言いたげに白利のことをチラチラと見ていたが白利は気づかぬフリをしながら見送るのだった。

 

(すまん渚、俺にはどうもできん。)

 

ユウジの相手を渚に一任しつつ再びミッションの為に歩を進めるのだが、今度は2人組の男が行先に立ちはだかる。

ここにいる時点で真っ当な堅気ではないだろう、最悪を考えていつでも動けるよう警戒していると矢田が男達の前に進み出た。

 

(矢田…?)

 

「お兄さん達カッコいいから遊びたいけど、あいにく今日はパパ同伴なの私達。うちのパパちょっと怖いからやめとこ?」

 

「ひゃひゃひゃ!パパが怖くてナンパできッか…」

 

「じゃ、パパに紹介する?」

 

矢田は何かを取り出し男達にそれを見せつける、手の中に収まっているのは小さなバッヂなのだが『凶』の文字と紋様が彫られているヤクザの代紋だった。

その代紋に見覚えがあったのか男達の顔が一瞬で引き攣る。

 

「ねだったらくれちゃって、スクバのチャームにしよっかなって。」

 

「し…失礼しました…」

 

男達が背を向けて去っていくのを見届けると矢田は代紋を宙放って再び手の中に収めた。

 

「いくじなし、借り物に決まってるのにね。」

 

【もし相手が詰め寄って来てたらどうしてたんだよ】

 

「その時は三日ちゃんの出番でしょ?」

 

もちろんそのつもりではあったが矢田思わぬ強かさにため息を漏らしてしまう。

E組(ウチ)の女子達はそこら辺の男達よりもはるかに頼りになるようで『俺要らなかったんじゃ…?』と思っていると、

 

「お姉さん少しいいですか?」

 

今度は背後から声をかけられ『またか…』とうんざりしつつ睨みつけるような目で振り向いた。

……聞こえたその声が女性のものだと気付かずに。

 

「もし良かったら私達とあっちでお話しませんか?」

 

「わぁ…お姉さんすっごくカッコいいぃ…」

 

振り向いた先にいたのは150cmから160cmの間くらいの同年代の思われる女子2人組で、2人の目には少し熱を帯びている。

『お姉さん』『カッコいい』の言葉から片岡に向けられたものだと思い…否、思い込みたくて片岡の方を振り向くが『諦めろ』と言わんばかりの呆れ顔を向けられ絶望した。

 

「ダメ…ですか?」

 

断ろうとメモ帳に書き込もうとするが、

 

「ううん、大丈夫。ほら、三日も少し飽きて来てたでしょ?行ってきていいよ。」

 

(片岡!?)

 

勝手に決められ思わず声が出そうになるが、片岡は白利に耳打ちする。

 

「…カルマに言われたでしょ?声かけてくるならそういう(ヘキ)の人間だって。同じ女として教えてあげるけど、今の月乃君の見た目が好きな女の子は粘着質なところあるの。軽く構ってあげるだけで良いから話してあげて?手を借りたくなったら助けに来るから。」

 

確かにミッションの為には人目につかないのは大事だが…まさかカルマの言っていた『もしも』が起きてしまうとは。

女子達が早く助けに来てくれることを祈って白利は2人組に向かって頷いた。

 

【いいよ】

 

「やった!」

 

書いた文字を見て嬉しそうに声をあげると、2人は人気のないテラスのテーブルへと白利を導いた。

 

 

 

席に着くと2人は近くにいたウエイターを捕まえて酒を注文するとこちらに視線を向ける。

 

「お姉さんはどうします?」

 

【タメ口でいいし、私のことはお姉さんじゃなくて三日でいい】

 

ウエイターに【水で】と書いたメモを渡すと、ウエイターは仰々しくお辞儀をして盆を片手にバーカウンターへと戻っていく。

改めて視線を2人に戻すとなにやら不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「あのぉ…お姉さん……じゃなくて三日さんは…その…どうして筆談を…?」

 

2人組の片方、かなり気弱そうな雰囲気を纏う女の子が申し訳なさそうな顔をしながら筆談についた聞いてくるので素早くペンを走らせる。

 

【喉の調子が良くなくてね、上手く声が出せないから】

 

「あぅ…ごめんなさい……」

 

【気にしないで】

 

「ほらほら、三日さんも気にしないでって言ってるんだからこれでお終い!ところで三日さんはどうしてここに?」

 

2人組のもう片方、見るからな元気が有り余っているのがわかる女の子が気弱な子を慰め明るくしようと手を打ち鳴らし話題を変える。

 

【旅行で】

 

「そうなんですか〜もしかしてココ初めてです?」

 

【うん、2人は?親と来てるの?】

 

「いえ…私達の親はそんな暇ないので……2人だけで来てます。」

 

「私達小さい頃から仲良しなので良くここに一緒に来てるんです!」

 

『ね〜!』と顔を見合わせて笑顔で頷きあう2人、どちらもどこにでもいるような普通の女の子なのにさも当然のように運ばれてきた酒を飲んでいるのを見て何とも言えない複雑な気持ちが湧いてくる。

 

「………」

 

無言でその姿を見ていると、気弱な子が懐からピンク色の小さい缶ケースを取り出し蓋を開けると中には色とりどりのラムネのような粒が入っていた。

2人はそれを一粒つまむと当たり前のように口に含む。

 

「…あ、これ気になっちゃいます?」

 

【ラムネじゃないよね?】

 

「はい…でも安心してください、これは()()日本では違法になってないのでへっちゃら…です。」

 

【そう】

 

ただ一言、それだけしか言え(書け)なかった。

きっと街中で見かければ普通の女の子としか認識できないような対面の相手は、白利とは住む世界があまりにも違くて。

 

「ところでぇ…三日さんってこの後用事とかあります?」

 

「もし良かったら…私達の部屋で……その…3人でどうでしょう?」

 

熱を帯びていた瞳はまるで獲物を狙う獣のような瞳へと色を変える。

『逆ナン……彼女達からすると同性だからこういう時は何というのだろうか』と現実から逃避しつつ水を飲みながら思考を巡らせていると、

 

「お嬢ちゃん達、女の子だけじゃつまんなくない?」

 

空気を読まない5人のチャラ男が声をかけてきたのでとりあえず露骨に嫌そうな顔をしておくがどこ吹く風で受け流される。

 

「そんな顔しないでさ〜いいじゃん8人で仲良くヤろうよ?」

 

「そうそう、こいつ場数だけは一丁前に積んでっからさ!!」

 

「「「ギャハハ!!」」」

 

……どうやらだいぶ面倒くさいのに絡まれたようだ、適当に追い払おうとするが先に元気な子が席を立ち、

 

「ふざけないで、ほら2人ともあっちに行こう。」

 

男達から逃げ出すように白利達に声をかけるがその進行方向に2人が立ち塞がるように移動する。

その行動にムカついたのか男達は2人の腕を乱暴に掴んだ。

 

「俺達は仲良くしたいだけなのにさ〜それはちょっと違うんじゃないの?」

 

「いや…!話してください…!」

 

「ちょっと触らないでよ!!その子は…!!」

 

「おぉ?コイツ結構いいサイズしてんじゃん、スキンシップも仲良しの秘訣ってなぁ?」

 

「イケイケなお姉さんも遊ぼうぜ?大量の女抱いてるからテクあるし満足させやんよ。」

 

……流石に見過ごせなくなった。

 

「……そうだな、満足させてくれよ。」

 

「は?」

 

瞬間、背後から白利の肩に触ろうとしていた男の腹部にノールックで肘打ちを放ち続けざまに後ろ蹴りを喰らわせると大きく吹っ飛び地面に転がった。

 

その光景に驚愕し男達が動きを止めた隙に2人の腕を掴む男達の顔に拳を放ち、すぐさま2人の腕を攫うように引いて自身の後ろに待機させる。

 

「三日さん…声が……ッもしかして…!」

 

「話は後だ、今は…」

 

「…このッ!テメェ男か!!女装なんかしやがって!!」

 

白利の声を聞いてこのテラスにいる全員が『三日』が男であることに気づいたようで、白利は呆れながら口元を覆う黒いマスクを外し蹴り飛ばされ気絶している男を除いた4人を見据える。

 

「…ッたく、ただでさえ今は体調悪いんだから穏便に抜けたかったんだけどな、本当めんどくさいことをしてくれる。ま、お前達くらいなら…今のコンディションで充分だ。」

 

「おい、コイツノして晒してやんぞ。ついでにあの女共もカメラの前でマワしてやる…!!」

 

「出来もしねぇこと口にしてる暇あんならさっさとかかってきたらどうだ?」

 

挑発するように人差し指をクイクイと折り曲げると男達は顔を真っ赤にして、

 

「…ッ殺す!!」

 

変わらず出来もしないことを口に出しながら襲いかかってくる。

 

(お粗末…)

 

駆け足で近寄ってきて右腕の大振りなパンチのモーション、目的も位置も全てがわかりやす過ぎる動きに思わず口角を吊り上げながら、

 

「ッらぁ!!」

 

「…ガッ!?」

 

拳を避けてカウンターの右拳を腹部に気合を込めて突き刺し、苦痛に悶え前傾姿勢になったところを再び右の拳を今度は頭部目掛けて振り抜く。

 

「……ッしゃらァ!!」

 

断末魔すらあげることなく地面に倒れ込み気絶した男を尻目に、残った連中に聞かせるように呟く。

 

「まず1人…!」

 

「コイツッ!!」

 

多少動揺こそしてるものの勇敢に突っ込んでくる2人目、その度胸は評価するが勇気と蛮勇を勘違いしてるのは減点対象だ。

 

冷静に男を採点しつつ、どうやら左足での蹴りを放つようなので踏み込んでいる軸足である右足にローキックを放ってやると支えを失った男の身体は宙に浮き。

 

「フンッ!!」

 

地面に叩きつけるが如く、その頭部に掌底を喰らわせてやると床と頭部がぶつかり合う嫌な音が響き男の意識はブラックアウトする。

 

「2人目ぇ…!」

 

「な、なんなんだよお前は!!?」

 

「ク…クソがぁ…!!」

 

残った2人の男達は懐から鈍色に輝く物……ナイフを取り出す。

 

「ヒッ…ナイフ…!?」

 

「三日さん危ないよ!逃げよう!」

 

まさかナイフを持ち出すとは思わなかったのか、背後にいる2人が小さな悲鳴をあげて白利に逃げるように進言してくるが男達の後ろに店内へ繋がる扉があるので逃げようにも逃げられない。

 

ならば白利がやることは変わらずひとつ。

 

「安心しろ、絶対に君達を傷つけさせない。」

 

「「………ッ!!」」

 

「こんのぉぉぉ…野郎ぉぉ!!」

 

痺れを切らし2人揃って襲いかかってくるが、かつて速水と矢田とのテスト練習の時のように連携が取れているわけでもなくナイフに意識を割き過ぎているため簡単に捌くことができる。

 

突き出された腕を弾いて腹部に前蹴りを叩き込み、もう片方にはナイフを持った腕を掴んで空いた脇に肘打ちを放つことでナイフを手放させ、すかさず頭部に回し蹴りを喰らわせる。

 

「しゃあァ!!3人目ぇ!!」

 

「ハァ…ハァ…!?」

 

「ふぅ〜……さぁどうする…2度と俺達と関わらないか、ここで仲良く俺に倒されるか!!」

 

「う……うぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

最後に残された男はあまりの恐怖心からか呼吸を浅くし、情けない悲鳴をあげながら逃げていく背を見届けると白利は張り詰めた糸が切れたように膝から崩れ落ちてしまう。

 

「…あ〜クソッ……こういうパワー系の戦い方はガラじゃないんだけどな……」

 

頭痛や節々の痛み、身体の麻痺によりいつものノーモーションによる攻撃ではなくスピードのみの真っ向から殴り合うスタイルでなんとか退けられたのを安堵しつつ、なんとか立ちあがろうとするが上手く身体に力が入らない。

 

「三日さん大丈夫ですか…って熱ッ!?」

 

「身体…すごく熱いです……こんな熱があったのに守ってくれたんですか…?」

 

立ちあがろうにも足が震えて上手く立てない白利を支えようと2人が身体に触れるが、その身体から発されている熱に驚愕した。

2人の肩を借りつつ立ち上がり、ひとまず状況の確認を行う。

 

「2人とも怪我はないか?」

 

「無いですけど…それよりも三日さんの方が危険ですよ!?」

 

「立てなくなるほどの熱なんて……命に関わっちゃいます…!早く病院に…!」

 

「大…丈夫…だ。喧嘩して疲れただけで…少し休めば普通に歩けるようになるから…このまま…肩だけ貸してくれないか?」

 

かなり何かを言いたげにしていた2人だが、白利の意志を汲んでくれたのか何も言わずに白利の身体を支えつつ先行している女子達の元まで歩いていく。

その途中、気弱な子が口を開いた。

 

「あの…さっきのことありがとうございました…私、男の人が…その……怖くて…」

 

「この子、昔男にイジメられて男性恐怖症になっちゃって……ナンパ男達のこともかなり怖かったと思うから…私からも助けてくれてありがとうございます。」

 

「いや、俺もお前達を騙してたんだ…感謝なんかしなくていい。むしろ俺が謝らないと……男が怖いなら手を離しても大丈夫だぞ?」

 

「あっ…いえ…なんだか三日さんは平気なんです…!あの…だから…恩返しさせてください…!」

 

本人が平気と言っているのだからありがたくその好意を受け取り歩いていると、やがて見覚えのある背中が見えてきたので肩を借りるのをやめ2人に向かい合う。

 

「助かった、俺はもう行くから……お前達も早くここから離れた方が良い。さっきのナンパ野郎共がもう来ないとも限らないからな。」

 

「わかりました。……その、三日さんって偽名…ですよね?その本当の名前を…」

 

「アレ…?というか私達名乗ってない…?」

 

自分達が名乗っていないことに気づき、急いで名乗ろうとするが白利は右手を持ち上げて止めるように促し代わりに口を開く。

 

「『名も知らない者同士がここで出会った』今日はそういうことにしよう。でも、もしもまた…今度は酒も薬も無しで、普通の人間として会うことがあったら……次は友達になろう。」

 

「「………はい!!」」

 

いつかきっと、今度は同じ世界の住人として出会えることを願って白利はマスクを付け直し2人の元から去っていった。

……2人の瞳に宿った別の熱に気づかぬまま。

 

 

 

「こっちは用事終わったぞ、そっちは?」

 

「あ、三日ナイスタイミング!ほら、あそこ見て、あの裏口を開けて男子を中に入れたいんだけど扉開けるのも階段登るのもあそこにいる見張りが邪魔なの。」

 

物陰で固まっている女子達と合流し状況を聞くと片岡が答えつつ指を差す、その方向を見ると扉と上に続く階段が視認できるがその前に見張りがひとり立っている。

 

「なるほどねぇ、どう出るかによるが男手が欲しかったってところか。」

 

「今茅野っちが渚を呼びに行ってるから動くなら合流してからかな。」

 

「強行突破は避けたいよね、ホテルの従業員だから倒したらすぐバレちゃう。……と、いうか三日普通にしゃべってるし。」

 

速水の指摘に他の女子達が今更気づいたような顔をして白利も『そういえばそんな設定だった』と思いながらメモ帳を取り出そうと服を弄るが見当たらない。

どこで落としたかと記憶を辿っていると、

 

「あ、いた三日さ〜ん!」

 

先ほど別れたばかりの声が聞こえた。

 

「よかった…です…あの、これ…メモ帳落としてて…」

 

「あ、悪い助かった。ちょうど探してたんだ。」

 

「帰ろうと思ったらさっきのテラス席の近くに落ちてて…守ってくれた時に落としちゃってたみたいですね?」

 

「結構激し目に動いたからな、そん時に落としたか。」

 

入り口近くで白利に話しかけた女子2人組に対して白利が普通に話しているのを見て、片岡が声をあげてしまう。

 

「ちょちょちょ!?月乃君何普通に話してるの!?」

 

「ん?あ〜あの2人は良いんだよ、もう俺が男だってバレてるから。あと声落とせ。」

 

「バレてるって……」

 

白利の言葉に女子達は2人組に視線を向けると、2人は笑顔でその言葉を肯定するように頷いてみせた。

 

「三日さんは…ナンパから私達を助けてくれて……その…」

 

「女装にも理由(ワケ)があるんだってわかってますから。」

 

「ほらな?」

 

特に悪びれる様子のない白利の事など女子達の中ではどうでも良くなっていて、今彼女達の思考を支配しているのは目の前にいる2人組の白利に対する表情が明らかに『女』である事だった。

 

岡野がチラリと速水の様子を伺うと、凄まじい怒気を纏い今にも食ってかかるのではと錯覚してしまうほど敵意は剥き出しで『どう止めたものか…』と悩んでいると丁度よく渚と茅野が帰還した。

 

「ほ、ほら茅野っち達も帰ってきたし私達もそろそろ行かなきゃ…ね?」

 

「そうだな、2人ともありがとう。気をつけて帰れよ。」

 

と、さり気なくこの場を収めようとした時。

 

「おう待てって彼女等!大サービスだ、俺の十八番(オハコ)のダンスを見せてやるよ!」

 

渚の後を追ってきたのかユウジがドッタンバッタンと本人曰く十八番(オハコ)らしいダンスを披露しているが、ダンスをやっていた速水と矢田の視線は大変冷ややかなものになっている。

 

(((邪魔…)))

 

そんな白利達の思いもいざ知らず、ユウジは大きな身振り手振りで踊っていると…『ガシャッ!』と近くに通りかかった強面の男が手に持っていたグラスに手を当てて服を汚してしまい、見事に詰められ始めた。

 

白利は毛頭助ける気はないので、取り敢えず戦闘力のない2人に飛び火しないよう前に進み出て守るように手を伸ばす。

 

(とは言っても…騒ぎ起こされても面倒だしなぁ…)

 

騒ぎを起こされて人が集まったら裏口を開けるどころではなくなってしまうのでどうしたものかと悩んでいると、矢田が何かを思いついたようで岡野に耳打ちする。

 

矢田の考えを聞き届けた岡野はユウジを詰めている男に近づくと顎に1発綺麗な蹴りを入れて気絶させ、倒れた男を速水と片岡が物陰に運ぶと矢田がすかさず裏口前に居座る見張りに声をかけた。

 

「すいませ〜ん、店の人〜あの人急に倒れたみたいで…運び出して看てあげてよ。」

 

「は…はい、ドラッグのキメすぎか?まったく…」

 

恐るべしビッチ先生の愛弟子とも言うべき手腕で見事に見張りを退かしてみせると、片岡が素早く裏口の鍵を解錠し待機していた男子達に階段を登らせていく。

いよいよこのバーフロアともお別れのようだ。

 

「じゃ、今度こそお別れだ。」

 

「はい…三日さんも体調には気をつけて……くださいね?」

 

「三日さんの名前を聞いて、私達の名前も教えなきゃいけないんですから。……約束ですよ?」

 

「…あぁ、約束するよ。俺の名前も教えるし、お前等の名前も呼んでやる。」

 

白利が右手の小指を立てて2人に向けると、2人もまた小指を立てて白利の小指に絡め約束を結ぶ。

指を解くと、特に言葉を発することもなく白利は急いで階段を駆け上っていった。

 

 

 

「危険な場所へ潜入させてしまいましたね、危ない目に遭いませんでしたか?」

 

「んーん、ちっとも!!」

 

殺せんせーが謝罪の言葉を送るが、女子達は至って平気といった様子の笑顔を返すが白利と渚の顔には笑顔が浮かんでいない。

2人はそれぞれ元の服を託していた千葉とカルマから服を受け取るが、かなりナーバスな表情をしていた。

 

「どうしたんだよ月乃?」

 

「…いや、今回見張りの排除とか諸々全部女子達がやってたから俺達いる意味あったのかなって。」

 

「本当だよ…僕達がこんな格好した意味…」

 

「面白いからに決まってんじゃん。」

 

「「撮るんじゃねぇカルマ!!/撮らないでよカルマ君!!」」

 

いつの間に構えていたのかスマホを片手にカメラレンズを2人に向けシャッターを切りまくるカルマに食ってかかる。

だが、そんな様子の2人を見た茅野は告げた。

 

「そんなことないと思うよ、きっと誰かの為になってるって!」

 

「……だと、良いんだがな。」

 

あの2人のことを思い出しながら白利と渚は着替える為に身を隠すのだった。




ご覧頂きありがとうございました!

【月乃白利の秘密】

現状細かい動きができない
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